藁にもすがる獣たち
誰だってお金は欲しいもの。
大金があれば、好きなものや食べ物、旅行に豪邸に車と、これまで出来なかった買い物や遊びを好きなだけできるんですから。
あとはもう仕事なんてしなくていい。
お金を得るために働いてたわけですから、大金がある以上働かなくていいんですよ。
今まで働いていた時間を、自分のしたいことに充てられる。
僕なら映画鑑賞に使いたいですね~。
ただね、お金って人を狂わせるんですよ。
欲望って底がないんです。
あればあるだけ使って、また欲しがるの繰り返しなんですよ。
いやいや、金に目がくらむとロクなことがないってのは、きっと皆さん頭の中では理解してるはず。
理性がストップさせてるんでしょう。
私はそんなことない、僕は浪費なんてしない。なんて。
でも、実際大金を手に入れたら、多分、制止できないと僕は思うんですよね…。
今回鑑賞する映画は、借金まみれの大人たちの前に突如飛び込んだ大金をめぐって展開される「欲望むき出し」のサスペンス。
金が欲しいと藁にも縋る思いの登場人物たちが、どんなぶつかり合いをするのか。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
曽根圭介の同名犯罪小説を、短編映画やドキュメンタリーでキャリアを積んだ監督の手によって映画化。
多額の借金を背負ってしまったことで身も心も人生も貧しい男女らが、金に取りつかれることで欲望をむき出しにし、藁にも縋る思いで地獄から抜け出そうともがき、激しくぶつかり合う姿を映し出す。
初の長編映画に挑む監督のもとに、カンヌ国際映画祭受賞女優、国内賞レースを総なめにする国民的俳優といった豪華俳優陣が集結。
金に目がくらみ、欲望に駆られていく姿をリアルに演じ、観衆を魅了させる。
本国で興行収入ランキング1位を獲得した、話題のクライムサスペンス。
最後に笑う獣はいったい誰か!?
あらすじ
失踪した恋人が残した多額の借金を抱えて金融業者からの取り立てに追われるテヨン(チョン・ウソン)、暗い過去を清算して新たな人生を歩もうとするヨンヒ(チョン・ドヨン)、事業に失敗してアルバイトで必死に生計を立てているジュンマン(ペ・ソンウ)、借金のために家庭が崩壊したミラン(シン・ヒョンビン)。
ある日、ジュンマンが勤め先のロッカーの中に忘れ物のバッグを発見する。
その中には10億ウォンもの大金が入っていた。
地獄から抜け出すために藁にもすがりたい、欲望に駆られた獣たちの運命は――。
果たして最後に笑うのは誰だ!?(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、キム・ヨンフン。
本作で初の長編映画を監督するそうです。
原作の曽根さん曰く、このお話は小説だからこそできる仕掛けが施されているために、映画化すると大幅に改変せざるを得ないというデメリットがでてしまうんだとか。
ですが監督は、原作の良さを保てるような解決策で、見事に娯楽作品に仕上げたとのこと。
多少のリップサービスはあるでしょうが、曽根さんも太鼓判を押したということでしょう。
また監督自身も本作を通じて、悪魔たちの行いから現代社会の断片図を見せたいと語っており、映画の中でほとんどといっていいほど社会の縮図を見せる韓国映画ならではの視点に期待です。
キャスト
失踪した恋人が残した借金を抱える出入国審査官テヨンを演じるのは、チョン・ウソン。
あまり韓国映画を見ない僕でも彼の名前と顔はわかります。
それくらい超有名韓国俳優ですよね。
本作に関して「テヨンは、最も優柔不断で受け身、弱いのに強がる人物」とのこと。
自分というものがない感じに聞こえますね。
普段あまり演じたことがない役柄だそうですが、新たな彼を見ることができる貴重な作品になりそうです。
そんなチョン・ウソンの代表作をサクっとご紹介。
1994年に「千年愛 クミホ」で俳優デビューした彼は、「ビート」という作品で注目を浴びていきます。
明と友好関係を築こうとする高麗の使節団が、救ったを姫をめぐって壮絶な戦いを繰り広げる「MUSAー武士ー」、若年性アルツハイマーに冒され、愛する人でさえ記憶を失っていく運命のヒロインと、まっすぐな気持ちで受け止め支える夫の愛を描いた「私の頭の中の消しゴム」、オランダを舞台に、女性と彼女を愛する刑事、暗殺者の3者が翻弄されていくサスペンスラブストーリー「デイジー」など、2000年代を代表する俳優としてキャリアを積んでいきます。
近年は、架空の暗黒都市を舞台に、腐敗した市長と悪徳検事の板挟みにあう汚職刑事の運命をスリリングに描く「アシュラ」、殺人事件の唯一の目撃者である自閉症の女の子と心を通わせる弁護士を映した「無垢なる証人」など、様々な役柄を演じ魅了しています。
他のキャストはこんな感じ。
暗い過去を捨て、新たな人生を始めることを夢見る女ヨンヒ役に、「ハウスメイド」、「シークレット・サンシャイン」のチョン・ドヨン。
家業を廃業させ、アルバイトで生計を立てる男ジョンマン役に、「スウィンダラーズ」、「ビューティー・インサイド」のペ・ソンウ。
築いてきたものを失い、認知症を患ったジュンマンの母スンジャ役に、「チャンシルさんには福が多いね」、「ミナリ」のユン・ヨジョン。
家計のやりくりで頭を悩ませるジュンマンの妻ヨンソン役に、「ベテラン」、「MASTER/マスター」のチン・ギョン。
株式投資の失敗により、家庭が崩壊した主婦ミラン役に、「コンフィデンシャル/共助」、「クローゼット」のシン・ヒョンビン。
ミランと暮らすことを夢見る不法滞在者ジンテ役に、「チョ・ピロ/怒りの逆襲」のチョン・ガラム。
債権者たちを絶望の底に落とす金融業者ドゥマン役に、「哀しき獣」、「金の亡者たち」のチョン・マンシクなどが出演します。
10億ウォンもの大金をめぐる熾烈な争いの様子。
金のためなら何でもやっちゃうように見えますが、一体どれほどのバイオレンスなのかも見所ですね。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
おぉ!なるほど!そう繋がってくるか!
でも兼ねに群がるケモノ感と疾走感が足りないかなぁ。
以下、ネタバレします。
パルプ・フィクションみたいだ。
借金の保証人、母の介護に苦しみながらも懸命に働く男、夫からDVに耐えながらも水商売して借金を返す妻。
金に苦しむ3人が大金欲しさに他人を欺き出し抜きながら奔走をしていく姿を、6つのエピソードで構成した物語。
「大金を手にした者を信じてはいけない」という教訓を下地に、ノワール感漂う映像美に軽妙なBGMを加えることで、怖さと可笑しさを程よく演出し、登場人物全員が無関係と思いきや、話が進むにつれて少しずつ点と点が線で結ばれていく心地よさ、獣たちの切迫した心境からの大胆不敵な行動から見える「欲望の怖さ」など、人物描写と構成が非常によくできた物語でした。
見終わった後に思い出した映画がタランティーノ監督の代表作「パルプ・フィクション」。
強盗を企てるカップルや、金を回収しようとするギャング二人組、ボクシングの八百長を裏切り恋人と逃走しようとするボクサーらを中心に、ただでさえ込み合ったエピソードを物語の時制を動かすことで面白みを増してくれた傑作です。
パルプ・フィクションほど時系列をシャッフルしてないものの、この「藁にもすがる獣たち」は、物語の順序をずらすことで、10億ウォンという大金の入ったバッグが一体誰の手から誰の手に渡っていくのかという謎を解くような仕掛けになってるんですよね。
また、パルプフィクションでも、一見無関係に思えた登場人物たちがどこでどう繋がっていくのかという楽しさがあったように、本作も無関係に思えた人たちが、話が進むにつれて接点ができていく楽しさがありました。
とはいえ、どうでもよさげな与太話を連発することで面白いを増していくパルプフィクションとは違い、借金に苦しむ人物たちの切迫した現状から、どう金を工面するかまでの行動を軸に描いているのが印象的。
例えば出入国審査員のテヨンは、金の工面をする計画が彼の優柔不断な性格によって上手くいかない様子だったり、真面目に働くジョンマンが金を手にするも報われない刹那、夫を殺害して保険金を手にしようとするミランに訪れる顛末など、「大金を手にしたい」が故に、金欲しさに冷静さを欠いている姿が滑稽に見えます。
あくまでタランティーノそのものを模倣したわけではないでしょうし、監督自身が意識したかどうかの真相はわかりません。
とにかく見終わった後、連想してしまったという名作と比較してみたまでです。
切り離して考えたとしても、構成をいじったことで「なるほど!」と思わせてくれる物語の流れが爽快でした。
6つのエピソード
非常にざっくりではありますが、物語を追っていくとしましょう。
- 第1章
冒頭、ルイヴィトンのバッグをサウナのロッカーに保管する誰かの姿が映ってます。
それをサウナで働くジョンマンが見つける所から物語は始まっていきます。
ここでTVのニュースが流れてるんですが、非常に大事な部分なので聞き逃しなく。
ジョンマンは保管室へバッグを隠し、若干焦り顔で自宅へ帰宅。
認知症の母の汚物処理を淡々と片づける妻をしり目に、母に説教するも聞く耳を持たない母。
事業に失敗したジョンマンは、妻と共働きしながら生計を立てており、娘の学費も支払えない始末。
とにかく金が欲しい存在でした。
一方、夜の仕事をしている人妻ミラン。
ひたすらチェンジを繰り返す客に見初められた彼女は、中国から不法滞在してきた男ジンテと仲を深めていきます。
自らダマされて作ってしまった借金を、夫と共に返済しているようですが、帰宅して転寝してれば夫から暴力を受ける日々。
一体誰のせいでこんな生活を送ってるんだ!すべてお前のせいだ!
なのに何くつろいでるんだ!と罵声を浴びせられる日々。
そして出入国審査員のテヨンは、一緒に住んでいた恋人の借金の保証人になったせいで、取り立て屋のパク社長に執拗に返済を迫られる日々。
何とか1週間時間を作ってもらい、恋人の行方探しと並行して金の工面を企てます。
ここでは主要人物たちがなぜ借金を作ってしまったのか、またどうやって工面しようか悩む姿が色濃く描かれています。
- 第2章
テヨンは、詐欺で10億ウォンを手にした高校の同級生の国外逃亡を手伝う代わりに、2割をもらう仕事を用立て、それを借金返済に充てようと画策。
パク社長の下で働く旧友デメキンを上手く言いくるめ、計画に加えます。
一方ミランは、ジンテに呼び出され体を交わします。
彼女の背中に残っているあざを見たジンテが、暴力を受け続けることが「慣れ」になってしまっているミランを見かねて、今の生活から抜け出そうと提案。
夫にかけられた保険金5億ウォンを手にするために、ジンテを使って殺害しようと計画を立てていきます。
ジョンマンは母の介護と妻のケガにより、仕事を遅刻。
上司から次やったらクビだと宣告を受けたり、飲み物の在庫数と販売数が合わないことを疑われるも、黙々と仕事に打ち込みつつ、保管室に置いてあるバッグを気にかけています。
- 第3章
テヨンは「カモ」を見つけ計画を実行しますが、時間通りになっても現れないことに苛立っていました。
するとそこへ一人の刑事が。
どうやらテヨンが待ち合わせしていた男を探しており、既に高校の同級生であることを調べていた刑事は、テヨンを共犯だと睨み疑いをかけていました。
降りしきる雨もあって、勝手に助手席に乗り込み、寿司屋へ連れていかれます。
何とか待っていた男との関係を知られたくないテヨンは潔白を主張しますが、通話履歴も見透かされており、関係があことを白状。
ですが、ここで刑事の電話から事件の進展があったようで、その場は何とか事なきを得ます。
一方ミランは、ジンテに夫を殺害してもらうために、仕事に訪れるバーで待ち伏せさせます。
ジンテは夫と思わしき男性をバーの帰り道を狙って車でひき殺します。
山へ埋めた帰り道でミランに電話。
計画は成功だ!これで君も晴れて自由の身だ!俺と暮らそうと興奮気味。
ですが、事故死に見せかけないと保険金が降りないため、山へ死体を埋めてしまうとかえって不都合なミランは、あまりにもバカなジンテに呆れるも、ジンテの携帯の電池残量が残りわずかのために通話不能に。
すると部屋のチャイムが鳴り、息を飲むミラン。
何と夫が帰宅してきたのです。
ジンテは別の男性を惹き殺していたことが判明します。
- 第4章
夫による暴力を受けながらも夜のお店に出勤したミラン。
強引な客に引き留められる姿を、女社長によって助けられた彼女は、社長室に呼び出され、治療をしっかり受けなさいと言われます。
間違った人物を惹き殺してしまったジンテは、被害者の男性の声が耳から離れず眠れない症状に陥っており、警察に自首すると弱音を吐きます。
自首されると全て計画が水の泡になるため、ミランはなんとか彼に正常になってもらおうと死体を埋めた山へ行き、供養しようと提案。
これで心が晴れたと思っていたジンテですが、症状がさらに悪化。
見るに見かねたミランは、警察へ行くと山を下りていくジンテを車でひき殺してしまいます。
すると社長から出勤時間が過ぎていると電話が。
ミランは社長に事情を話し、事件の隠ぺいを手伝ってもらうことに。
解体屋で車を処分し、風呂で汗を流す二人。
社長の太ももには「シロサメ」の刺青が入っていました。
社長曰く、「シロサメは一度に50もの卵を身ごもるけど、子たちは胎内で誰が一番の捕食者になるか争い生まれてくる」という旨の話をしだします。
ミランの事情を見透かした社長は、私の計画通りやれば、あなたは自由の身になれると促し、夫を事故死に見せかけ保険金をだまし取る作戦をレクチャー。
彼女と同じ刺青を太ももにいれ、見事事故死に見せかけ大金を手にしたミランは、社長にお礼と謝礼を渡しに向かいますが・・・。
一方テヨン。
返済日まであとわずかの中、デメキンによって計画がパク社長にバレてしまう。
ひたすら謝り続けるデメキンですが、テヨンは見事に手のひらを返し、そんな計画は知らないとシラを切る始末。
ですが全てわかっているパク社長は、真実を吐かせるためにデメキンの手を切ろうと手下の前に蹴とばしますが、ここでようやくテヨンが白状。
なす術ナシのテヨンとデメキン。
かつて不法滞在の取り締まりをしていたテヨンは、たまたま切れたラッキーストライクを買いに店に立ち寄ったところ、自分が乗っていた車にダンプカーが突っ込んだ事故に遭遇した過去を話し出します。
自分が底でタバコを買いに行かなければ死んでいたことから、ラッキーストライクは自分を救ってくれるアイテムだと豪語。
まだ望みがあることを信じながらも、どうやって金を工面しようか悩んでいました。
ジュンマンは妻が入院してしまったがために母の世話をしなくてはならず、2度目の遅刻をしてしまったことで仕事をクビにされてしまいます。
仕事場に行けなくなると大金の入ったバッグを自分の手にすることができないと考えたジュンマンは、急いで職場へ向かいバッグを回収します。
受付には新人のアルバイトの子が座っており、保管室の鍵を借りてバッグの回収に成功しますが、聞き込みをしていた刑事に遭遇。
刑事が持っていたのは、テヨンを疑う刑事の写真。
知らないと言って後をたつジュンマンでしたが、今度は自分をクビにした上司に遭遇。
私物を取りに来たと嘘をつくジュンマンでしたが、バッグの中身を見せろとしきりに言われてしまいます。
絶対に見せられないジュンマンは、これまでの鬱憤を晴らすかのように上司に怒鳴りつけ事なきを得ます。
部屋の奥にしまってある貴重品の中に大金をしまったジュンマン。
この金をどう使うか悩む姿が映し出されていきます。
残り2章あるんですが、核心に触れてしまうのでここまでということで。
このままジュンマンが大金を手にして終わるのか。
いや待て待て、あの女社長は一体誰だ!?
ミランは夫を始末して大金を手にしてハッピーエンドなのか?
テヨンの顛末もこの後怒涛の展開になります。
続きは是非ご自身でお確かめください。
最後に
「大金を手にした者を信じてはいけない」。
藁にもすがる思いで金を工面しようとする彼らの姿から見えるのは、一般人がそう簡単に大金など手にすることができない難しさや、如何にずる賢く金を手にしたとしても代償は大きいということ。
とはいうものの、人生何が起こるかわからない面白さや神様はちゃんと見ているという一面など、多様に富んだ描き方をしてました。
彼らを通じて、金が如何に人を狂わせるのかという醜さや、必死で取り繕う様や大金を手にしたときの有頂天な姿は滑稽です。
また本編では、ある人物の常軌を逸したバイオレンスぶりも面白く、この悪魔に目を付けられたら命がいくらあっても足りないなぁなんて思ってしまうほど。
ただ各エピソードに貼られた伏線を回収するスピード感が弱く、一定のテンポで描いてしまった辺りはものすごく残念。
この部分を上手く編集すれば爽快感がさらに上回るのに…と、惜しさが悔やまれますが、物語の構成の妙もあってきっと誰もが「なるほど!」とうなづける結末だと思います。
ジュンマンの母が言うように、「生きてさえいればいつでもやり直せる」わけですから、僕らは一攫千金など狙わずに地道に生きていきましょうw
彼らを見てるとロクなことなさそうですからw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10