悪い夏
貧困ビジネスってのを御存じでしょうか。
生活困窮者や生活保護費を受けている人に対して劣悪な環境や食事等のサービスを提供する代わりに,明らかに見合ってない額を請求、 それを生活保護費などから支払わせて利益を得るんだそうです。
自分の周りで起きていないから無関係なんて言わず、こうして弱者から搾取する「悪い奴」が実在している現状を知っておきたいですね。
今回鑑賞する映画は、そんな弱者や一般人の弱みに付け込み。食い扶持にする奴らに目をつけられてしまった、公務員の物語。
彼以外にも色んな「クズとワル」が登場し、欲望と愛情が渦巻くサスペンスだそう。
自分の知らないところでクズたちがどんな悪さをしているのか、対策も含めて鑑賞してまいりました!!
作品情報
日本アカデミー賞でも受賞を席巻した「正体」の原作者・染井為人が、第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した小説を、数多くの若手俳優を起用して日本映画を盛り上げてきた職人監督がメガホンをとった、ある公務員の破滅と転落を描いたサスペンス。
市役所に勤める公務員が訳アリのシングルマザーに情を抱いたことにより、その裏に潜むクズとワルから弱みを握られてしまい悪夢のようなひと夏を過ごす羽目になる姿を、貧困ビジネスや生活保護における公助の限界といった社会問題にも言及しながら、人間たちを滑稽且つエネルギッシュに活写していく。
監督は「女子高生に殺されたい」や「ビリーバーズ」、「夜、鳥たちが啼く」、「アルプススタンドのはしの方」など、数多くの若手俳優を積極的に起用し、インディーズ映画界から上り詰めてきた城定秀夫。
脚本には「ある男」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した向井康介が担当した。
市役所の生活福祉課に勤める主人公・佐々木役を北村匠海が担当。
「東京リベンジャーズ」やNetflixシリーズ「幽遊白書」の熱いキャラや、「君の膵臓を食べたい」でのピュアな少年、「ディストラクション・ベイビーズ」での欠落した男、さらには連続テレビ小説「あんぱん」では「やなせたかし」をモデルにした役を演じるなど、これまで様々な役柄を内面から引き出してきた彼が、絶望に追いやられていく闇堕ちっぷりを熱演する。
他にも、佐々木が惹かれていくシングルマザー・愛美役に、「あんのこと」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した河合優実、佐々木の同僚・宮田役に「サマーフィルムにのって」の伊藤万理華、佐々木の先輩・高野役に「世界の終わりから」の毎熊克哉、裏社会の住人・金本役に「Cloud/クラウド」の窪田正孝、その愛人・莉華役に「バイオレンスアクション」の箭内夢菜、金本の手下・山田役に「ファーストキス」の竹原ピストル、生活困窮者・佳澄役に「アンダーニンジャ」の木南晴夏といった、監督作に出演経験のある俳優ばかりが脇を固める。
真面目な公務員が転がっていく様と彼を落とし込もうとする奴らの軽薄ぶりに、辛さと笑いが同居することだろう。
あらすじ
市役所の生活福祉課に勤める佐々木守(北村匠海)は「職場の先輩・高野(毎熊克哉)が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要しているらしい」と同僚の宮田(伊藤万理華)から相談を受け、真相究明の手伝いを頼まれる。
気弱な佐々木は、正義感に燃える宮田の頼みを面倒くさいと思いながらも断ることができず、その女性、育児放棄寸前のシングルマザー・愛美(河合優実)のもとを訪ねる。
愛美は高野との関係を否定するが、実は裏社会の住人・金本(窪田正孝)、その愛人の莉華(箭内夢菜)、手下の山田(竹原ピストル)と共に、ある犯罪計画の片棒を担ごうとしていた。
そうとは知らず、徐々に愛美へと惹かれてゆく佐々木。
ふとしたきっかけで万引きを繰り返すようになってしまった生活困窮者・佳澄(木南晴夏)らを巻き込み、佐々木にとって悪夢のようなひと夏が始まろうとしていた……。(FassionPressより抜粋)
感想
#悪い夏 観賞。貧困ビジネスに巻き込まれた弱者たちによる負の連鎖しかない辛さ。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) March 20, 2025
まだ愛があっただけマシかもしれないが、木南晴夏のことも忘れてはいけない。
しかし窪田正孝が怖いって…
左腕のタトゥーが寿司屋の湯呑みみたいな文字で一瞬耳なし芳一かよってなった。 pic.twitter.com/YfRHeSNa3p
生活保護の不正受給ビジネスってそういうことよね。
むっちゃ怖いし巻き込まれたくない。
でも時に愛は弱者を救う、のかもしれない。
城定監督映画って前フリが長いよね・・・。
以下、ネタバレします。
場内が蒸し暑くさえ感じた。
生活福祉課の公務員が貧困ビジネスに巻き込まれて自暴自棄になっていく姿を、夏の蒸し暑さに任せたかのようなジトっとした湿り気漂う弱者たちの悲哀と辛さと、なぜかバカバカしさ、そして愛。
一度目をつけられたら逃げ出すことができないって時代劇かよって思ったりするけど、今も昔も構造は同じなんだなと痛感させられたと同時に、愛だけでは乗り越えられないけど時に愛はめちゃめちゃ強いとも思えた、中々の佳作でした。
上でも書いたけど、本筋に入るまでがどうしても長いなと思いつつも、弱者から搾取連発していく悪意的弱肉強食感と、それでも想いと貫こうとする主人公の一途な思い、台風真っただ中の夏の夜に鉢合わせてしまう総キャスト陣の取っ組み合いが無茶苦茶最高で、なぜか気持ちよく映画館を出てこられました。
事の発端は生活福祉課の佐々木の同僚・高野が「生活保護を受けておきながら風俗店で働いている愛美に肉体関係を強要していた」こと。
彼に疑惑を向ける正義感丸出しの佐々木の先輩・宮田からの頼みで愛美の家を訪れた佐々木だったが、子供想いから彼女を見捨てることができず、徐々に恋愛感情を抱くように。
一方佐々木がケースワーカーとして担当している山田は、裏でプッシャーをやりつつヘルニアと嘘をついて生活保護を受けており、受給された金とヤクを捌いた金で金本の店でおっパブ三昧。
店のスタッフで宮本の愛人・莉華は、愛美と繋がっており、高野から体を強要されていることを知り宮本に相談。
そして宮本は、高野と愛美が寝ているところを取り押え、高野を強請るという流れ。
宮本は生活福祉課の窓口として高野を使い、許可された生活保護者を安アパートに住ませて金を掠め取っていくというビジネスを思いつく。
しかし、高野がしていたことが宮田と佐々木に勘付かれたことでビジネス失敗・・・と思ったら、今度は佐々木が愛美と繋がることを知り好機を得るというのが、前半の流れです。
見ていて何が辛かったって、愛美ですよ。
彼女がどうしてシングルマザーになり、生活保護を受けてるのか具体的なことはわかりませんが、「あんのこと」や「ナミビアの砂漠」よろしく、気だるいイマドキ女子を演じたら今や右に出る者はいないであろう河合優美らしさ全開の「何考えてるかよくわからないって言われる」女子を熱演してるんですね。
要するに、結局何も考えないで生きてるようにみられてるせいで、悪い男に引っかかってずるずる貧困生活を送ってるということ。
だから高野に関係を迫られても成すすべなくされるがままの状態だったってことですよ。
こうすることでしか生きていけないって負の連鎖を、一体どうやったら断ち切れるのか。
一体何を考えてるかわからない気だるい愛美の前に現れるのが佐々木だったわけです。
佐々木は特に真面目に仕事をしてる陽でもないんですけど、愛美との出会いを境に仕事に精を出す姿が印象的。
守りたいモノができると男はやる気を出すっていう典型的なキャラクターなんでしょうか。
逆に愛美はようやく自分を地獄の生活から救ってくれる存在に巡り合えたことで、こちらも表情が一変していくのが印象的。
この辺の河合優美の絶妙な変化はさすがだと思いました。
だけど当初の愛美は、金本に黙って山田かと裏で佐々木を騙そうとしており、佐々木に対してこれといった恋愛感情はなかったわけです。
でもそこは佐々木の真剣な子供への思いに胸打たれて惹かれていったのが窺えます。
だからこそ、彼女は隠しカメラのない場所で彼に抱かれるようエスコートしたわけですよ。
きっと誰もが、このままバレることなく二人が上手く行くようにと願ったことでしょう。
そこはクズ中のクズ金本。
しっかり金の臭いを嗅ぎつけ、愛美を再び脅し、愛美が子供を守るために仕方なく佐々木を闇に引きずろうとするわけです。
こうして愛を裏切られたと勘違いした佐々木の態度は一変。
金本が送り込んだホームレスを片っ端から生活保護を許可させ、全く無関係である佳澄に悪態をついて追い込んでしまい、結果彼女は練炭自殺を図ってしまうまでに至ります。
劇中宮田が語ってましたが、生活保護はあくまで税金から支払われるお金。
楽して金をもらいたい奴らのために我々は税金を払ってるわけではないし、市役所の人間は弱者を救うためにいるのではなく、あくまで寄り添うために存在する。
だから、何をどうやっても生活費を稼ぐことができない人のための措置であり、宮田や佐々木の仕事は、市役所を騙して不正受給しようと考えてる人たちを暴くのが仕事だと語ってました。
貧困ビジネスが横行したこともあって今では申請が非常に難しい様子。
悪用したやり口が減れば受給をしやすくなるんでしょうけど、こんな格差社会じゃそうはいかないですよね。
そこに漬け込む半グレも半グレで、よくもまぁ法の抜け穴をみつけるもんです。
悪知恵働くほど賢いなら、人を騙すとかせずに普通に稼げる気がするんですけど、そこは結局半分グレてるから無理なんでしょうね。
お話はスマートにできたよね。
なんでもかんでもここはこうすべきじゃない?と文句を言う俺ですが、本作もまたそうした「ここはこうしたほうが」という体質改善的な提案をしてしまいたくなる作品でした。
とにかく高野のエピソードが長い。
恐らく彼のエピソードをしっかり描かないと、なぜ宮田が執拗に彼を身辺を調査したいのかがわからなくなってくるわけです。
それは宮田と高野が不倫関係にあったからというオチが後々訪れることで、結局正義感丸出しの宮田もクズなのかって笑いになるんですが、俺としては佐々木と愛美にのみフォーカスを当てても成立する話だよなぁと思えて仕方なかったわけです。
というのも、結局高野も佐々木も同じパターンで金本の術中にハマってしまうので、佐々木が闇落ちする瞬間に面白みが欠けるんですよ。
要はテンドンなんですよね。
だったら潔く宮田と高野のキャラクターを出さずにやった方が、佐々木と愛美が徐々に距離を近づけていく描写に尺を使えるし、闇落ちした佐々木にも尺を使える。
例えば佐々木がどんどん自暴自棄になっていくエピソードに肉付けをしていくとか、関係が崩れた愛美とのエピソードも色々見せることができるわけですよ。
どうしても前半に高野のエピソードに尺を使ってるせいで、佐々木と愛美が盛り上がって盛り下がっていく描写が足らないんですよね。
特に闇落ちしてから佐々木は愛美の家に帰ってることもあって、愛美とはまったく口を利かなくなったけど、その間愛美の娘とはどうだったんだろうって描写がないわけですよ。
娘とのやり取りがどんなものかはわかりませんが、もし仮に闇落ちしたとしても子供への思いは変わってないのなら、見てるこっちは「まだ佐々木は救えるかもしれない」みたいな淡い期待がもてるわけで、物語を追いたい気持ちが持続する気がするんですね。
終盤で佐々木が愛美に一緒に死のうといってるので、もはやそれどころじゃなかったくらい墜ちてたんでしょうけど、娘に関してどんな思いだったのかは描写として入れるべきだったと思います。
またどうでもいいことですが、金本に弱みを握られた佐々木は、どうして受け入れざるを得なかったのか不思議で仕方ありません。
ケースワーカーと担当ではない生活保護者が真剣交際をしていた場合、愛美は生活保護から外れる対象になると思うので、その辺はまずい状況になるのかもしれませんが、別に金本に脅されたとしても、仕事を辞めれば問題ないんじゃない?と思っちゃったんですよね。
多分俺の想像力が足らないからそういうことが言えちゃうのかもしれない。
それが市役所全体に影響を及ぼすようなことなのかもしれないし、今後の生活保護受給に影響されるかもしれない。
それは色々考えてみないとわからないんですが、要は「真剣交際」してると言い切ってしまえば、金本が録画した映像もそこまで効果を持たないんじゃないかと。
仕事辞めてしまえば、彼の言うとおりにならずに済むんじゃないかと。
そこはやっぱあれですかね、俺も半グレに弱み握られないと理解できないんかな・・・。考えたくないけどw
最後に
いやぁやっぱり北村匠海の闇墜ちっぷりは様になってましたね。
うっすら髭を生やして髪の毛もボサボサで、無表情を貫きながら仕事をする姿。
宮田に色々高野の事を言われても「いいかげんにしろよ」と言い切ってしまうほどイライラしている佐々木、最高です。
もちろん河合優美も城定監督作だからでしょうか、絡みにもしっかり応じる度胸。
毎熊克哉に思いっきり首筋や胸をなめられながらも無表情を貫けるってなかなかですよ。
そこだけでなく、微妙な表情の変化も我々が色々読み取ることができる芝居をしてるので、ホントお上手だなと。
そして窪田正孝ですよ。
半グレキャラがドはまりでしたね。マジで怖いって・・・。
竹原ピストルの顔めがけて思いっきりフライパン振るシーンとか、河合優美の腹に思いっきり蹴り入れたり、素っ裸の毎熊克哉にもまわし蹴りいれたりと、クラウドの時以上に怖い存在でした。
終盤の総キャストのせめぎ合いもかなり面白かった。
まさか風俗店のポリスの格好で電マぶら下げて、あんな悪天候の中やってくるって相当切羽詰まってたんでしょうねw
そこに宮田もやってくることで、板挟みの山田がテンパるのもかなり笑えました。
そんな中佐々木と愛美は放心状態で、今一体何が起こってるのかよりも、二人とも本当に死にたかった位追い込まれてたんだなぁ、そして我に返った愛美が娘の命だけはスクな湧く手はいけないと母親を取り戻す姿も印象的。
ラストは土砂降りの豪雨の中、金本の暴行に耐えながらも必死で逃げたり守ろうとする愛美や佐々木の姿はかっこよかったなぁ。
ラストは「悪い夏」から「良い冬」になったって解釈でいいですよね。
足をびっこひいて歩く佐々木が帰った部屋の外には、小さい傘が置いてあり、「ただいま」と言える相手がいる。
色々あったけど、佐々木は愛美を救えたんでしょう。
時に愛は弱者を救える、そんな救いも感じた映画でした。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10