モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「Winny」感想ネタバレあり解説 誰かのせいにして終わらせるのが正しいのか。

Winny

ファイル共有ソフトっての、流行りましたよね。

僕が知ってるのだと「カボス」とか「ライムワイア」とかでしょうか。

大体ダウンロードするとウィルスも一緒に付いてきちゃってパソコンダメになっちゃうっていう。

 

当時僕はPCを持ってなかったので、友人にあれ落としてこれ落としてとか頼んでました。

特に音楽は映像と違って時間もかからずにダウンロードできましたし、助かってましたね。

今でこそ映画館に行けばしょっちゅう盗撮、ダウンロード禁止のCMが流れてますけど、やっぱり当時は違法だという認識が皆低かったですよね。

 

やはり「バビロン」でも感じましたけど、急な祭りが生まれると規制するのに時間がかかって、無法地帯になりがちなんだなぁと。

今ではちゃんと法整備されてよかったなぁと。

 

今回鑑賞する映画は、そんなファイル共有ソフト「Winny」を作り、違法ダウンロードが蔓延したことが原因で逮捕されてしまった開発者が、不当逮捕から無罪を勝ち取るまでの7年間の記録を映画化したもの。

 

ネット史上最大の事件と呼ばれたそうですが、僕自身この事件を全く把握しておらず、今回の映画化に関して色々情報収集して臨もうと思っております。

 

それでもボクはやってない」、「理由」といったものから、「逃亡者」のようなアクション系に至るまで、冤罪モノ、不当逮捕系の映画は様々ありますが、一体どんな真実を描いてくれるのでしょうか。

早速鑑賞してまいりました。

 

 

作品情報

ソフトエンジニアだった金子勇が開発したファイル共有ソフト「Winny」。

ネット上でつながった複数のパソコンで共有するファイルシステム技術を使用したソフトであり、現在ビットコインやといった仮想通過で使われるブロックチェーン技術の先駆けとも言われているほど画期的なものであった。

 

しかしその匿名性の高さ故、ゲームや音楽、映画などの著作物が違法で流通、またそれにウィルスを忍ばせ流通させるなどの悪質なモノも増え、情報漏えいなどの被害も多発、大きな社会問題となった。

 

これにより「著作権侵害幇助」の疑いで逮捕されてしまう。

 

包丁で人を指したら、包丁を作った職人が逮捕されるのか。

YouTubeに違法アップロードしたら、運営が逮捕されてしまうのか。

世界を変えた新しい技術を開発したにもかかわらず、出る杭は打たれるかのように警察に理解されぬまま逮捕されてしまった男が、いかにして無罪を勝ち取ったのか。

 

そんな若き天才を、「BLUE/ブルー」「コンフィデンスマンJP」の東出昌大が演じ、「もっと超越した所へ」の三浦貴大、「Dr.コト―診療所」、「川っぺりムコリッタ」の吉岡秀隆らが脇を固める。

 

多くのイノベイタ―が不当な扱いを受けないために、そして事件によって委縮しないようにという願いと、日本社会の大きな損失とまで言われた今回の事件を風化させないために、今真実が明かされていく。

 

あらすじ

 

2002年、開発者・金子勇(東出昌大)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開をする。

 

彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。

しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出、次第に社会問題へ発展していく。

 

次々に違法コピーした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまう。

 

サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していた矢先、開発者金子氏逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることになり、弁護団を結成。

金子と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張するも、第一審では有罪判決を下されてしまう…。

 

しかし、運命の糸が交差し、世界をも揺るがす事件へと発展する——。
なぜ、一人の天才開発者が日本の国家組織に潰されてしまったのか。

 

本作は、開発者の未来と権利を守るために、権力やメディアと戦った男たちの真実を基にした物語である。(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

 

感想

難しいことは正直わからない。

しかしWinnyというソフトが当時自分が抱いてたようなものでは、全くもってなかったということ、完全にメディアに扇動されたんだなぁと。

記録映画として秀逸でした。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

新しいこと真っ先に潰す日本、怖っ。

匿名性に特化したファイル共有ソフト「Winny」の開発者の不当逮捕の全容を忠実に実写化した本作は、技術者としての探求心に人生を注ぐあまり、他の事には無頓着で人当たりの良い金子勇という人物像を見事に体現した東出昌大の芝居に改めて感銘を受けたと同時に、愛媛県警の裏金問題と同時進行させることで、如何にこの国が出る杭を打ち臭い物に蓋をするのかを浮き彫りにし、次の世代が全うに開発したり正義の名のものとに行動できるために身を粉にして戦った姿を記録した、意義のある映画でした。

 

いきなりエンドロールの話をしますが、最後に金子さんが無罪を勝ち取った時の記録映像が流れます。

その時に金子さんが言った言葉「こういうことが起きた時、誰かのせいにして終わらせることが果たして正しいのかどうか、今回の件でよく分かったと思う」と仰っていたんですよね。

もうこれが本作の全てだったのではないかと。

 

新しいことやモノの開発によって、様々な問題が起きた時、解決するためにことを起こした人物を逮捕すればそれでいいのかと。

そうすれば丸く収まるのかと。

 

著作権団体からこの「Winny」による違法ダウンロードをどうにかしてほしいという依頼を受けた警察が、だったら開発者逮捕しちゃえばよくね?っていう非常に単純な理屈で金子さんを逮捕しちゃうという始まり。

 

しかも色々騙して金子さんに「誓約書」と偽り「申述書」を書かせてしまうという汚いやり口。

書類にサインしちゃえばこっちのもんてことですよ、ホントこういう時言われた通りにサインしちゃダメですね。勉強になった。

 

劇中でも言ってましたけど、「包丁で人を刺した人は逮捕されるが、では包丁を作った人まで逮捕されるのか」という例えは非常にわかりやすいもので、それをOKにしちゃったらこの先の未来何も生まれえねえよって話です。

 

違法に使った人が裁かれるべきであり、作った人は裁く対象ではない。

そうしないと、技術者が何も生み出せなくなってしまうと。

 

警察が如何に無能だってのが本作を見てよ~くわかったし、司法においても本件をきっかけに前例ができたから良いモノの、いかにも理解しがたい判決を下すよなぁと。

 

これイメージですけど、アメリカって色々新たなことが起きて問題が起きた時に、すぐ法改正したり法整備するじゃないですか。

なぜ日本も柔軟に対応できないのかねとつくづく感じます。

僕の知らないところで色々動いてるかもしれないから間違ってるかもしれないけど、でもこのイメージは強いです。

 

日本は色々動くのが、遅い!!

 

弁護士たちの物語でもある

そういえば本作を見る前に抱いていたのは「ソーシャル・ネットワーク」というデヴィッド・フィンチャー監督の作品でした。

 

フェイスブックの開発者マーク・ザッカーバーグを主人公に、開発者と関わった周囲の人たちとの裁判の模様を中心に、ザッカーバーグという男がどんな人物だったのかをフィンチャー流の演出と構成で見せた物語でした。

 

要は映画的な技法を用いて「そうだったかもしれない」というフィクションとしてエンタメ映画に仕上げた作品だったわけですが、本作はこれとは違うまっとうな記録映画でした。

 

決して金子勇という男の姿を裁判を通して描くのではなく、彼と彼を弁護する者たちが、日本の技術者の未来のために奮闘した「記録」だったと。

 

なので主人公は金子演じる東出昌大であるものの、僕の中では彼を弁護する弁護士・壇の視点で描いた物語だったのではと。

ネットの知識に強い弁護士として依頼された金子さんの事件は、彼だからこそ戦い抜いたのではないかと思う部分が多々あったように思えます。

 

それこそ冒頭P2Pとは何ぞや?という弁護士同士の講義の時間で、わからない人たちに懸命に教える壇さんの姿が印象的。

違法アップロードを繰り返していた者たちが続々逮捕されるニュースを見た時の返しから、とにかく技術者ファーストな人なんだなと。

 

そんな彼が目の当たりにした金子さん逮捕のニュースは、彼にとってさぞ驚いたことでしょう。

 

そして、一般常識がどこか抜け落ちてしまってるかのような金子さんが、いざソフトや開発の事となると熱を持って喋ってしまい、周囲から引かれるてしまうような場面でも、ノリノリで対応してしまう姿。

彼でなければ金子さんをコントロールできなかったろうし、彼でなければ金子さんも心が折れてしまったんではないかというほど、互いが信用し合っていた作品でもありました。

 

彼以外にも印象的な人物として秋田弁護士(実在の人物とのこと)が登場します。

どうやら無罪を取ることが難しい刑事事件で、10件もの無罪を勝ち取ったという凄腕の弁護士だそうで、壇はじめとする弁護士事務所は彼の力を借りて裁判を勝とうと奮闘するんですね。

 

いきなりみんなのいる前で喫煙しちゃうのは当時の事ってことで良いとして、とにかく語り口が冷静。

「出る杭を打つこともあれば、出たままの杭もあるってことですね」という言葉に対し、「杭を打ったことはあるか」という話を始めたシーンは印象的。

 

秋田弁護士曰く、杭はを打つ時は、杭を打つ人、杭を持つ人、そしてそれを指示する人がいるということだと語るんです。

要は今回金子さんを逮捕した経緯には、逮捕する人、それを補佐する人、逮捕を指示する人がいるはずだと。

その観点から、当時金子さんを逮捕した刑事の中で「リーダーは誰か」という部分に焦点を当てて、次の裁判で戦おうと方針を決めるわけです。

 

また、渡辺いっけい演じる「キタムラ刑事」に尋問する林弁護士が、あと一歩のところで言葉を引き出せなかったことに苛立つ壇だったんですが、ここで秋田弁護士が林弁護士に「尋問は練習です」と諭すんですね。

 

例えとして「恋愛をするときあなたはどうしますか?」と問う。

もちろん自分の気持ちを使えることが優先だと語る林弁護士でしたが、秋田弁護士は「では尋問はその逆をやりましょう」と説明。

要は、相手に好きになってもらうように仕向けることが尋問のやり方であると。

中々真相を喋らない証人に真相を言わせるように、何度も何度も繰り返して尋問することが良い弁護士になるための秘訣だと語るんでんすね。

 

で、この後、大事な尋問の時間に秋田弁護士が登場。

金子さんは実際にキタムラ刑事が書いた「誓約書」の写しをそのまま書いただけでしたが、これを有耶無耶にされ「著作権侵害を蔓延させるためにWinnyを作った」とされてしまった。

これを覆すために秋田弁護士は刑事を上手く誘導し、文章的にあまり相応しくない文言「蔓延」という言葉を、刑事が事前に頻繁に聞いていたこと言う事実を突きつけ形勢逆転することに成功します。

 

その日の打ち上げで秋田弁護士はこんなことを言います。

「嘘をつかせてピン止め、その後に矛盾を突き付け試合終了」と。

 

秋田弁護士が活躍するこの一連のシーンは、吹越満という優れた役者の巧さと、裁判での緊張、そして打ち上げでの緩和といった抑揚の効いた印象的なシーンでしたね。

 

 

東出昌大はやっぱりすごい

そして忘れてはいけない東出君の演技。

以前このブログでも語りましたが、彼を生かすも殺すも監督次第なところがあります。

 

よくネットでは彼の代表酒匂の一つにされてしまっている「コンフィデンスマンJP」の演技から、大根役者のレッテルを貼られてしまってる東出君ですが、俺からしたらあれわざとやってるからね!とw

本来の東出君は黒沢清作品だったら全てヒット性の高い当たりですし、忘れちゃいけない寄生獣の東出君も素晴らしい。

 

そして何より僕が余り手を出さない小規模映画での演技こそ、東出君の真骨頂であると。

 

そんな彼が今回一体どれだけ凄いのかと。

冒頭金子さんがひたすらPCにコードを打ち込むシーンがあるんですが、この時彼をアップで収めるんでんすね。

もうこの時点で東出君でなく金子さんだって表情になってるわけです。

 

それからというもの、自分が作ったソフトを説明する際、一機に熱を帯びた口調で喋り出す姿や、被疑者になってるにもかかわらず開発や星の事で頭一杯なのか他の事には無頓着で、悪く言えば能天気なくらい明るく振る舞う姿、裁判での大事な尋問で覚えたての言葉をたどたどしく語る姿、食べづらいから嫌だと語るサンマを壇弁護士のマネをして骨ごとがっつり頬張る姿。

 

時には誰とも連絡してはいけない、PCに触ってもいけないという制約の中、それを破りたくて仕方ないほど苦悩する姿や、でたらめなことばかり言う刑事や検事たちの言動に、腕を組んで蹲り頭を振る姿。

 

この真剣な表情と能天気なくらい人当たりの良い姿を使い分けながら金子勇という男を体現していたのと同時に、誰かがしゃべっている時の受けの姿勢時も意識を忘れない細かい所作など、彼を通じて金子さんを知ることができる、寧ろ彼の魂が宿ってるのかとさえ疑ってしまうほど豹変した演技でした。

 

 

最後に

愛媛県警に務める巡査部長(吉岡秀隆)のエピソードは、最初本編とどう絡むのかよくわかっていませんでした。

警察署の皆が偽の領収書を書かされる「裏金問題」と、金子さんの「Winny事件」がどう絡むのか、もしかしたら警察による裏の意図に結び付くのかなぁと思ってましたが、そういうことではなかったわけです。

 

結果的に領収書がWinnyで流出されたことが決め手になった問題でしたが、要はこのエピソードを挿入することで、Winnyを作りたかった経緯である「匿名性」の良さを発揮した部分であること、また、出る杭を打たれてしまった「Winny事件」と並行して「臭い物に蓋をする」といった警察の腐敗や慢心な姿を見せたかったのかなと。

 

そして何より金子さんが有罪判決を受けても尚戦ったのは、これで負けたら次世代の技術者が脅えてしまうことだと。

巡査部長も、一生懸命働く若い警察官たちのために告発をしたわけで、どちらも未来のために戦ったんだなぁと。

 

またこのWinny事件により、天才と言われた金子さんの人生を奪ったということ。

終盤ではアメリカでYouTubeが大人気という記事を壇が見るんですけど、こんな不当逮捕がなければYouTubeは金子さんが作ったかもしれないとさえ思わせるシーンだったのでは。

 

これを映画にしたことは非常に大きな爪痕を残せたのではないでしょうか。

金子さんの意志が今後も続きますように。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10