屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ
「なんて醜い顔なんだ・・・」
暗い森の中で火を放った瞬間、プレデターの仮面の奥に潜んだ素顔をみた主人公演じるシュワちゃんが放った痛烈な一言は、今でもネタにされるほどの有名なセリフですが、現実でもそのセリフを引用したくなるような人物が出てきましたよ、はい。
しかも殺人鬼ですって。
もろプレデターじゃないですか。
一体どんな奴なんでしょうね・・・。
「ソウル・キッチン」や「女は二度決断する」などで世界に名をとどろかせたファッティ・アキン監督の最新作は、70年代のドイツ・ハンブルグに実在した殺人鬼の5年間に及ぶ殺害の記録を淡々と描くお話だそう。
これまでポップな作品もあれば、バリバリ社会的な映画も作る監督。
なぜ今回こんな男のスリラーモノを手掛けようと思ったんでしょうか。
監督の事だからそれなりに痛烈なメッセージでも込めてるのか?
そんな予想をしながら早速鑑賞してきました。
あらすじはというと、アパートの屋根裏に住むフリッツが、どう見てもババァな売春婦を家に呼び込んで酒を煽り性行為を無理強いするも、拒否されてキレてぶん殴ったり首絞めたりと、暴力の限りを尽くして何人もの売春婦を屋根裏送りにしてしまう愚行の数々を、時にグロく時におかしみを与えるふり幅で描いたお話。
冒頭からいきなり撲殺したのはいいものの、どうやって処理しようか考えた結果バラバラに切り刻むんだけど、まぁ初めてことだからここは酒を煽って気合い入れねえとやってられないってんで、のこぎりでゴリゴリ切り刻むシーンを、フリッツお気に入りの軽快な音楽をバックに後始末しちゃうってのが既にグロテスクとユーモアが一挙に押し寄せる楽しさ。
しかも思い立った行動ってことで、後先なんも考えない低能ぶりも笑いを誘う。
要は切り刻んだとしても既に1つの質量が軽くなるわけではないことを理解してなくて、結局ヒーコラヒーコラバヒンバヒンてな具合でトランク詰めて外へ抛り捨てるんだけど、もう体力ありませんて事で半分は屋根裏へ隠すという大雑把な処理。
もちろんこの後どんどん腐臭が蔓延して、2度目の殺人の際にも同じ手口で片づけようと屋根裏部屋開けたらそりゃあ吐くよねってわかり切ってはいるものの、いざ見ると爆笑っていうw
一体なぜこいつはそんな凶暴な男になったのか、とか、どうしてそんなに女を抱きたいのよ、ってのは一切説明がありません。
ゴールデングローブで一人飲みながら好みのババァを探すんだけど、大体みんな「アナタブサイクだから無理」とお断りされてしまうんですね。
普通ここまでこき下ろされたら心ぽっきり折れて早々と撤退するのがセオリーだと思うんですけど、肉体労働で培ったゲルマン魂なのか、そもそも相手のクオリティが低いから下手な鉄砲数撃ちゃ当たるシステムを導入したのか、それ以前にフラれていることを理解してないのかわかりませんが、とにかくチャレンジするんですね。
おまえどんだけヤりたいんだよ。
また面白いのが、このゴールデングローブというお店、ジジイがババァを買うお店として利用されていて、カウンターにはジジイどもが、客席には行き場のない酒浸りがワンサカ。
フリッツ自身見た目こそ醜いものの、年齢的にはそんなに上の女性好みなの?と思うほど若い。
どうやら彼は下のお口でしてもらうのが好みだと公式にリンクされていた記事に書いてありまして、歯がない女でないと興奮しないだとか。
だから最初に引っ掛けた女性にハンドルジョブをしていたのかと。
で、彼はその最初に引っ掛けた女性に娘がいることを知り、その娘がたまたま別の店で火をつけてあげた少女に見惚れてしまった記憶があるから、その子だとばかりに妄想をはじめ、娘を俺に提供しなさいという念書まで作って自分のオンナにしようとかくさくするんですね~。
いやぁバカだなぁw
とはいえそんなの上手くいきっこないので、その女性は救世軍の女性に連れられ無事寝床と食事を確保できました、ちゃんちゃん、でフェードアウト。
せっかく家政婦兼売春婦をゲットできたのに、まんまと逃げられたフリッツは、今度は酒をおごるという名目で3人を上手く家に招くことに成功したものの、一人は道端で失神、一人はフリッツの暴力にビビリうまく逃げる。
3人目の女はただボーっとタバコを吸いながら酒を待つ。
はい、今回の餌食はこの女性でした。
ガンガンテーブルに頭をぶつけられて死亡です。
3人目の被害者も4人目も似たような手口で家に呼び、性行為拒否による撲殺というもの。
相変わらずの無計画ぶりと突発的な暴力に、こいつは学習能力というモノがないのか呆れてしまいます。
で、なぜこんな男になってしまうのかってのが、この後起きるわけです。
昼間に道を歩いてたら自動車にぶつかって事故に遭うんです。
これをきっかけに彼はお酒をやめて、夜の警備員に転職するんです。
するとどうでしょう、常に酒を浴びていたことで気持ちが強くなって女をボロぞうきんのように扱ったり、すぐ手が出てしまうような凶暴性はどこへやら。
見た目はいつも通りのキモさですが、心はすっかり好青年です。
清掃員として働いている女性にも優しく気遣いできる普通の大人です。
そうかやっぱりお酒は人を変えてしまうんですね。
その調子で今後も断酒を続けていきましょう、そうすれば生贄も増えることはないでしょうし。
・・・って元々こいつが持ってる性分だから酒のせいにしちゃいけないし、待て待てこいつ人殺しだぞ?何普通に社会に溶け込んでるんだよ、怖えよ!
人間てのは誰しも心にそういう凶暴な部分を持てると思うし、それをコントロールできる理性を持ってるから日常で何事もなく暮らせてるんだけど、それは見た目やファーストインプレッションでは見えない部分なわけだから、何をしてもわからないわけですよ。
今こうしてカフェでブログを書いてる籍の隣で怪しい勧誘してる人もどういう人かわからないわけですよ。
それが今作における一番の恐怖なのかなぁと見ていて感じた部分。
どれだけ無計画な殺害が滑稽に見えても、暴力された腹いせに局部にマスタード塗られ悶絶する姿がおかしくてもこいつは立派な殺人鬼なわけです。
格差社会が叫ばれる今ですが、こんな底辺の男は決して社会からの圧力によって生まれたわけではなく、他のシリアルキラーのような精神異常者でなく、賢い頭で完全犯罪をするような奴でもなく、たまたま醜い顔をしてるけど普通に仕事にありついてる、たまに買春しちゃうけど普通の男です。
酒で本性が出ちゃうだけ。
とはいえ、酒が飲めるとついていってしまう売春婦たちにも問題があり、フリッツやその他のバーの常連たちから醸し出される敗戦における負の空気、少年と少女の淡い恋模様がそんな大人たちによってむしり取られていく状況。
結局力の弱いモノは強いモノに抵抗すらできないのか、ということも強く描いてたように思えます。
またフリッツ自身は、子供がそのまま大人になったかのような、人との接し方なんですよね。
すぐ感情を表に出して、望みが叶わなければ力でねじ伏せる。
清掃員に告白するときも愛情と性欲がいっぺんに出ちゃってたし、女を自分より下に見てるし、いうこと聞かないと殴るとか、正に子供。
賢い殺人犯よりもある意味タチが悪い気がします。
幼少期に両親から愛情を注がれてないのが原因だったりするのでしょうか。
あとで記事を読み漁ってみようかな。
今回は手短に感想のみでお届けしましたが、なかなか面白い映画だと思いましたよ。
終始あの死臭が鼻にこびりつきそうな映画です。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10