湯道
子供の頃から「烏の行水」とオヤジに言われるほどお風呂に浸かるのが苦手なモンキーです。
今回鑑賞する映画は、日本の入浴行為を文化と捉え提唱した極意をもとに、「お風呂エンタメ」として映画になった作品。
今やサウナが空前のブームですし、数年前には「テルマエ・ロマエ」なんて映画もヒットさせたフジテレビ製作ですから、今回の映画によってふたたび銭湯ブームが来るのでしょうか。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」や、「くまモン」の生みの親、多数のTV番組などを手掛ける放送作家である小山薫堂が、日本特有の入浴行為を文化としてとらえ提唱する「湯道」を基に、オリジナル脚本で映画化。
亡き父が遺した銭湯で反目しあう兄弟、とある事情で銭湯で働く女性を中心に、多数の個性豊かな面々が銭湯に大集合し、揺れ動く彼らの人間模様を、笑いと涙の群像劇として描く「お風呂エンタメ」。
監督には、「マスカレード・ホテル」、「マスカレード・ナイト」や「HERO」など、木村拓哉主演作を皮切りに、フジテレビ製作の映画をけん引する鈴木雅之。
今回も「マスカレード~」シリーズ同様、舞台となる銭湯そのものを作って撮影に挑んだという気合の入れ様。
銭湯での複雑に絡む人間模様を緻密なカメラワークで映し出す。
キャストには、「土竜の唄」シリーズでコメディセンスを見せつけた生田斗真や、「大怪獣のあとしまつ」の濱田岳、「キングダム」シリーズの橋本環奈らを筆頭に、窪田正孝、ウエンツ瑛士、吉田鋼太郎、小日向文世、天童よしみ、クリス・ハート、厚切りジェイソン、朝日奈央など、普段映画やドラマでお目にかからないキャスティングが出そろった。
寒い冬、本作を見れば心も体もシットリ感動、ほっこり幸せになること間違いなし!
お風呂を愛する全ての人に贈るお風呂エンタメの誕生です!
あらすじ
亡き父が遺した実家の銭湯「まるきん温泉」に突然戻ってきた三浦史朗(生田斗真)。
帰省の理由は店を切り盛りする弟の悟朗(濱田岳)に、古びた銭湯をたたんでマンションに建て替えることを伝えるためだった。
実家を飛び出し都会で自由気ままに生きる史朗に反発し、冷たい態度をとる悟朗。
一方「お風呂について深く顧みる」という「湯道」の世界に魅せられた定年間近の郵便局員・横山(小日向文世)は、日々、湯道会館で家元から入浴の所作を学び、定年後は退職金で「家のお風呂を檜風呂にする」という夢を抱いてるが、家族には言い出せずにいた。
そんなある日、ボイラー室でボヤ騒ぎが起き、巻き込まれた悟朗が入院することに。
銭湯で働いてる看板娘・いづみ(橋本環奈)の助言もあり、史朗は仕方なく弟の代わりに「まるきん温泉」の店主として数日間を過ごす。
いつもと変わらず暖簾をくぐる常連客、夫婦や親子、分け隔てなく一人一人に訪れる笑いと幸せのドラマ。
そこには自宅のお風呂が工事中の横山の姿も。
不慣れながらも湯を沸かし、そこで様々な人間模様を目の当たりにした史朗の中で凝り固まった何かが徐々に解かされていくのであった。(HPより抜粋)
監督
本作を手がけるのは鈴木雅之。
「ショムニ」や「HERO」、「マスカレード・ホテル」などフジテレビ製作のTVドラマや映画を作るヒットメーカーです。
登場人物紹介
- 三浦史朗(生田斗真)…久しぶりに実家である「まるきん温泉」に帰省した建築家。都内で建築事務所を経営しているがうまくいかず、父親が遺した古びた銭湯をマンションに建て替える相談をしに来たのだが…。
- 三浦悟朗(濱田岳)…父の死後、地元の人に愛される銭湯「まるきん温泉」の店主となった史朗の弟。父親の葬儀にも顔を出さなかった兄・史朗に強く反発する。
- 秋山いづみ(橋本環奈)…悟朗とともに「まるきん温泉」を切り盛りする銭湯女子。明るく活発な性格で常連客からも看板娘として愛されている。
- 横山正(小日向文世)…定年間近の郵便局員。「お風呂」という勇逸の趣味が高じて、湯道会館で家元から「湯」の所作とすばらしさを学ぶ。退職金で自宅に檜風呂を作ることが夢。
- 梶斎秋(窪田正孝)…湯道の家元・薫明の内弟子。体調を崩した家元に代わり、弟子たちに湯の道を教える。
- DJフロウ(ウエンツ瑛士)…全国の風呂好きに知られるイケメンラジオDJ。人気ラジオ番組「今夜も浸からナイト!」で軽快なトークを披露する。
- 小林良子(天童よしみ)…「まるきん温泉」の常連客。誰もいないお風呂で思い切り歌うのが趣味。
- 竜太(クリス・ハート)…刑務所に収監されている受刑者。出所後のお風呂とコーヒー牛乳を夢みる。
- 堀井豊(笹野高史)…「まるきん温泉」の常連客。いつも妻・貴子と通っている。
- 堀井貴子(吉行和子)…「まるきん温泉」の常連客。豊の妻で仲がいい老夫婦。
- 二之湯薫明(角野卓造)…440年以上の歴史を持つ「湯道」の家元。湯を通じて、人生の豊かさや、そこに向かう精神を説く。自らの死期が近いことを悟る。
- 高橋大作(寺島進)…「まるきん温泉」の近所で料理屋「寿々屋」を営む。強面で頑固者だが、子供の頃から知る三浦兄弟を気に掛ける。
- 高橋瑛子(戸田恵子)…「寿々屋」の店主である大作の妻。大作とは正反対で気さくで穏やか。久しぶりに史朗と出会い、懐かしむ。
- 横山舞香(生見愛瑠)…横山の次女。母親と姉と一緒に横山の退職金の使い道を考えている。
- 夙子(夏木マリ)…人里離れた山奥にひっそりと暮らす老婆。その昔、旅人をもてなす茶屋を営んでたようだが…。
- 太田与一(吉田鋼太郎)…源泉かけ流し至上主義を公言する超辛口の温泉評論家。「温泉番付」の著者。業界では最も敵に回してはならない男。
- 植野悠希(朝日奈央)…温泉評論家の太田を担当する敏腕編集者。大谷「銭湯」をテーマにした次回作を提案する。
- 山岡照幸(浅野和之)…アドリアンのフィアンセの父親。「お風呂」についてはとにかく厳格。
- アドリアン(厚切りジェイソン)…日本語堪能な外国人。フィアンセの父親に認めてもらうため、「ハダカノツキアイ」に挑む。
- 風呂仙人(柄本明)…「まるきん温泉」の常連客。
(以上HPより)
見たら銭湯行きたくなること必至のお風呂エンタメ。
一体どんなドラマになっているのでしょうか。
ここから観賞後の感想です!!
感想
#湯道 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2023年2月23日
昭和の遺物と揶揄された銭湯を舞台に、和の精神を汲んだかのような静けさ漂うテンポで、それぞれのドラマを紡ぐ群像劇。レトロな舞台とシンメトリーのマッチ度が高く、これまでの鈴木雅之作品とは違う味わい深さがあった。
観賞後、ゆっくり風呂に浸かりたくなる。 pic.twitter.com/LDEYbMSouQ
その道を極めてこそ、人生が豊かになる。
日本の和の精神をオフビートなユーモアを交えながら描く、心温まるドラマ。
銭湯も人情喜劇も昭和の遺物なんかじゃないよ。
以下、ネタバレします。
ウェス・アンダーソンみたい。
独立後仕事がうまくいかない主人公が実家の銭湯に帰省、弟や住み込みバイト、毎日足しげく通う人たちを通じて、小さな町の人たちとの絆、そして湯につかる行為への感謝と多幸感を伝える人情喜劇でございました。
正直言うとこの手の作品を真面目に語れば語るほど「俺何言ってんだろう」な気持ちになるんですが、ちょっと予想していたテイストとは違う作品だったのは驚きでした。
というのも、全編物静かな佇まいでゆっくり丁寧にドラマを紡いでく手法で製作されてたんですよね。
予告編やCMを見る限り、都会色に染まりながらも負け犬として帰ってくる兄と、親父の仕事を継いで淡々と仕事をこなす弟との対立を、周囲の人たちも交えつつ、面白おかしく描くハチャメチャなコメディだとばかり思ってましたが、そうではない。
古びた町並みや何十年続いたのだろうと思わせるまるきん温泉など、レトロ感あふれる舞台を、全編通してどこか物静かな雰囲気で演出することで、昭和の遺物と揶揄されたこの風景に、品が溢れるかのような作品だったような気がします。
一方で、日米の和平交渉でも役立ったと言われるほど敷居の高さが窺える「湯道」のパートでは、それこそ京都のお寺か!?と思わせるような和の精神を汲んだセットとなっており、そこで師範たちが披露する入浴様式に、弟子たちが頷くといった一連のシーンが、その物静かな雰囲気の中で大真面目なことをやることで少しずつ笑いを生んでいくセンスが秀逸。
残念ながら生田斗真ら銭湯組と、この「湯道」が直接絡むような構成になってないんですが、下町風情で庶民的な銭湯も、規律と精神を重んじる「湯道」の教えも、見た目的なコントラストはあるモノの、根底にある「湯に浸かることの素晴らしさと大切さ」は同じであることを、ラストシーンによって集約された作品だったのではと。
個人的に特に際立っていたのは、その舞台風景です。
鈴木雅之監督と言えば、カメラに向かってリアクションをさせる演出と、きっちり計算されたシンメトリーな構図が代名詞。
TVドラマなどでもしょっちゅう見た光景から、正直映画的ではない思考を持ってましたが、今回それがいい方向に反映された気がします。
例えばまるきん温泉の外観は、古びたせいで黒ずんだ肌色の壁に丸みを帯びた造形の建物になっており、パッと見大きいようでどこか作り物、ミニチュア感すら感じる建物になってました。
それをシンメトリーに見せることで、ウェス・アンダーソン監督のグランドブダペストホテルにも負けない、日本家屋ならではの美を感じました。
また内観に関しては、男湯女湯と別れていることから、番台に座る演者の視点でキレイに対照的な空間を生み出していたり、風呂場に関しても真ん中に風呂、周囲に洗い場を置き、浴場の奥から見せる入浴の光景も整頓された配置で見せていました。
目を見張ったのは生田斗真が湯の張ってない風呂に寝そべってるシーン。
敷き詰められた水色の桶タイルと、幾何学模様の床タイルが画面いっぱいに並んでおり、妙な美しさを感じました。
それこそマスカレードホテルではホテルのロビーをそのまま再現したなんて逸話がありましたが、恐らくこれもセットなんだと思います。
今の銭湯で浴場の真ん中に風呂がある場所なんてめったに見かけないですし、このタイルにしても恐らく作られたものだと思います。
でも、ただ作っただけではない美的センスのようなものがこの映画には多々感じられたんですよね。
内観の話に戻りますが、番台から見た視点も暖色系の照明を使ってることで趣が感じられたし、それが対照的な構図を示してることで、色彩感覚美的感覚に萌えるシーンだったなと。
また横スクロールで見せるカメラワークも監督の特徴の一つで、湯道会館でのシーンは師範が左へ動けば弟子たちも左へ動き、師範が右へ動けば弟子たちも右へ動くというシーンを何度もやることで小さな笑いを生んでましたね。
また、定年を控えた横山が、郵便局で同僚から花をもらうシーンでは、カメラが右に移動すると場面が変わり、夕陽に照らされながらひとり愛用のヘルメットを見つめるという、最後の仕事を終えた男の哀愁漂うシーンへと変化。
冒頭での入り組んだ登場人物シーンでもこうしたカメラワークが施されており、今までの彼の作品の中で一番「映画」たらしめていた気がします。
どこか胡散臭い「湯道」
さて、肝心の物語ですが、銭湯での物語と、横山が通う湯道会館が主な物語の軸となっています。
銭湯では仕事がうまくいかず実家のまるきん温泉をマンションにしてしまおうと画策する主人公・史朗と、親父の葬式に顔も出さずのこのこ帰ってきた兄への不満を露わにする弟・悟朗の諍いから雪解けに至るまでのドラマを、住み込みバイトの看板娘や、毎日足しげく通うお客さんらとの小さなドラマをスムーズに構成し、豊かな人情劇へと昇華させていました。
僕が非常に気になったのは、そっちではなく「湯道会館」。
凄くお金のかかってそうな佇まいの家屋で、弟子たちが作法を教わる広間では、おおきな檜風呂がひとつ。
奥には中庭があり紅葉色づくモミジの木によって、美しいコントラストを見せていました。
そこで湯道の作法として、師範が入浴様式なるものを披露するんですね。
まず合掌。
湯に浸かることへの行為、自然から生まれた水と恵みへの感謝と称して手を合わせる。
次に潤し水。
要は水分補給です。これから長く浸かることで体の水分を失うわけですから非常に大切な行為。
因みに湯呑は家元の家紋が入ったモノを使ってます。
そして衣隠し。
キチンと畳んで脱衣しましょうというもの。
そして湯合わせ。
まぁいきなり浸かると体に悪いってんで、湯を体にかけると同時に、体の汚れを洗い流すってやつです。
そして入湯。
どうやら湯道は波を立てずに静かに入るのが決まりのようです。
そして極め付けが、縁留(ふちどめ)。
風呂のお湯を外に出さないために、縁でとどめる行為。
と、このように、普段我々が当たり前のようにしてる行為を、精神誠意感謝を込めて行動することで、湯の道を極め、さらには仁成をも豊かにさせていくっていうわけです。
もうまさに藤岡弘の領域ですよ。
全ての自然に感謝、私たちよりも長く生きている大先輩にえええ~い!です。
まぁハンターハンターのネテロ会長もただの正拳突きから、感謝の突きを続けることで強さを極めていきましたから、なんでもかんでもそういう感謝の姿勢を抱くことで、道を突き進めると。
しかしこんな程度の所作をですよ、弟子たちから一体いくら会費もらってやってるんでしょうね~w
それともあれか、日米和平交渉の手伝いまでしたって言ってたくらいだから、国から助成金とかもらってやってるんですかね?
とにかく会館がキレイな日本家屋でして、一流の旅館の佇まいというか。
整備費とかかなり金かけてるんだろうなぁとか、何人もの弟子をどうやって食わせてるんだろうなぁとか、そういった雑念を多々抱いてしまいましたねw
銭湯パートの方は、様々な人間模様が描かれてましたね。
まさかクリスハートがオヤジ刺して刑務所に入ってる役ってのが意外w
しかも母ちゃん役が天童よしみw
これは二人とも歌手ってことで、風呂の天然エコーを駆使した歌唱を披露するって目論みの抜擢だと思われますが、これがエンディングでもうまく活かされてましたね。
他にも厚切りジェイソンは、どうしたもんか外国人の悪いお手本みたいに描かれた気がするというか…
それこそ日本人の彼女と結婚するために、お父さんに認めてもらいたい一心で風呂の作法を学ぶって役柄なんですが、いくらなんでも脱衣所で体を洗うってのは、さすがの外国人でもやらんんだろうと。
そこはさ、風呂の中で体を洗おうとするって方がありそうじゃない?
どうも屈折し過ぎなシーンでしたかねぇ。
他にも老夫婦や食堂を営む夫婦が、一緒にタイミングよく出るために桶を鳴らしてサインを出し合うってのは銭湯ならではの微笑ましい光景でしたね。
しかも老夫婦に至っては、妻を亡くしてからも銭湯に通う男性を描いていて、妻の分の牛乳も購入してしまったり、壁の向こうで妻が風呂に入ってる気がするというエピソードはホロッとしました。
また源泉かけ流し主義の温泉評論家を登場させることで銭湯を目の敵にし、先頭に通う人たちと対立構造を生んでいくというのも、最後の大団円へと向かう布石として効果的でしたね。
風呂に浸かることそのものが素晴らしいのに、そうやって隔たりを作ってホントに楽しいのかっていう。
肝心の兄弟ですけど、まぁベタな展開ですw
弟がケガした代わりに店を手伝う羽目になる兄が、何故稼げないのに親父はずっとこの仕事をつづけたのか、弟はそれを守ったのかってのを知っていく。
弟も弟で親父の作った店を守ることにばかりこだわっていた、しかも親父からの遺書で畳んでくれと言われていたのに。
そうした兄弟の考えの変化によってわだかまりが解け、一つの答えが導き出されるんだけど、今度は住み込みバイトの女の子が、それでは困ると失踪。
3人が今後まるきん温泉をどうしたいかという問題に正面から向き合い、大団円へと繋がっていくというものでした。
最後に
今住んでる場所の近くにも銭湯があって、たまに通っていたこともあったんだけど、毎日通うってほどではなかったんですよね。
だって普通に家に風呂があるわけだから。
でも気が付いたら無くなってマンションに変わってしまったのはショックでしたね。
当たり前にあるものが失われていく時の切なさってのを改めて知ったし、いつまでも当たり前にあると思うなよ、だからいま当たり前にあることへの感謝の気持ちも知ったというか。
大袈裟かもですが、そんな当時の事を思い出させてくれた映画でもありましたね。
烏の行水ですけど、やっぱり風呂は良いんですよw
とはいえ、映画としての満足度となると話は別でこれだけの登場人物をまとめ上げた物語の構成はさすがだとは思いつつ、それもうわべだけのエピソードで繋げてしまうあたりは、やはりTV局主導だからかぁとも。
雰囲気は頑張ったけど中身がついていけてないというところでしょうか。
まぁそこまでの期待度ではなかったのである意味期待通りの映画ではありましたが、美術に関しては好感触でした。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10