モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「パティ・ケイクス」感想ネタバレあり解説 もうダンボなんて言わせないんだから!

パティ・ケイク$

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音楽は大好きで色々なジャンルを聴くわけですが、どうにもラップというものが苦手です。

 

おそらく家で音楽を聴く機会が減る一方で、移動中や運動中に聞くことが増え、あのかったるいリズムがどうにも合わないからです。

 

 速いテンポの曲なら聞くんでしょうが、もうこれはラップ=ヒップホップ=テンポが遅い、という固定概念が積極性を欠いているのでしょう。

 

 とはいえ、彼らのようなラッパーが主人公の成り上がり映画、あるいは青春映画は大好物でございます。

言葉を武器にして感情をぶつけるのは見ていて清々しいですから。

 

8マイル」、「ハッスル&ブロウ」、「ストレイト・アウタ・コンプトン」そしてNetflixドラマ「ゲット・ダウン」。

僕の中のお気に入りラッパー映画にもう一つ加わりそうなのが、今回の映画。

 

白人で女性。

ただ巨漢で生活が苦しいといった世間一般でいう負け犬がラップでのし上がっていくサクセスストーリー。

 

なんだこれおもしろそうじゃねえか!

 

しかも配給は僕が大好きなFOXサーチライトピクチャーズ!!!

スリー・ビルボード」と「シェイプ・オブ・ウォーター」を配給した会社ですよ?

これは期待できるでしょう!

 

 

www.monkey1119.com

 

そんな期待をこめて早速観賞してまいりました!!

  

作品情報

そこで賞を取れば間口が広がるインディペンデント映画の登竜門、サンダンス映画祭でかつてない激しい争奪戦となった今作。

 

主人公が歌うラップシーンと、サクセスストーリーに観客総立ちの熱狂、興奮、喝采。

 

その波は続き、全米監督協会賞(DGA)や、ナショナルボードオブレビューといった賞でもノミネートし、話題を呼んだ。

 

監督として初の長編映画であり、劇中の楽曲も彼がオリジナルで作ったとのこと。

果たしてどんなクライマックスが待ち受けているのだろうか。

 

Patti Cake$ (Original Motion Picture Soundtrack) [Explicit]

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あらすじ

 

主人公のパティ(ダニエル・マクドナルド)は、掃き溜めのような地元ニュージャージーで、呑んだくれの元ロック歌手だった母バーブ(ブリジット・エヴァレット)と、車椅子の祖母ナナ(キャシー・モリアーティ)と3人暮らし。

 

23歳の彼女は、憧れのラップの神様O-Zのように名声を手に入れ、地元を出ることを夢みていた。

 

金ナシ、職ナシ、その見た目からダンボ!と嘲笑されるパティにとって、ヒップホップ音楽は魂の叫びであり、観るものすべての感情を揺さぶる奇跡の秘密兵器だった。

 

パティはある日、フリースタイルラップ・バトルで因縁の相手を渾身のライムで打ち負かし、諦めかけていたスターになる夢に再び挑戦する勇気を手に入れる。

 

そんな彼女のもとに、正式なオーディションに出場するチャンスが舞い込んでくる    。 (HPより抜粋)

 

youtu.be

 

 

 

 

監督

 今作を手がけたのはジェレミー・ギャスパー

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今回が初の長編映画だそうです。

それまではミュージックビデオや短編映画などを手がけてきたそうですが、短編映画ではあのデヴィッド・ベッカム主演のもあるとか。

今作を機にステップアップして欲しいですね。

 

 

 

キャスト

主人公のパトリシア・ドンブロウスキー(パティ・ケイク$/キラーP)を演じるのはダニエル・マクドナルド。

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女性でダニエルって名前ですか。めずらしいなぁ。

はじめて見る方なんですが、今後注目しておくべき女優さんになるかもしれませんね。

 

そんな彼女のこれまでの出演作をサクッとご紹介。

大企業の依頼でエコテロリスト集団に潜入取材したヒロインの衝撃の運命を描いたサスペンス「ザ・イースト」で初めて映画に出演します。

 

その後、幼くして少女を殺害した二人の出所後の人間模様と周囲の人間、そして再び起きる殺害事件から予想だにしない結末へと進んでいくサスペンスドラマ「シークレット・デイズ」などに出演しています。

 

他にも女優グレタ・ガーウィグ初監督にしてオスカーノミネートの快挙を遂げた「レディ・バード」に出演しています。

 

 

他のキャストはこんな感じ。

パティの母バーブ役に、「セックス・アンド・ザ・シティ」、「エイミー、エイミー、 エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方」に出演したブリジット・エヴァレット。

パティの祖母ナナ役に、「キャスパー」、「レイジング・ブル」のキャシー・モリアーティ

パティの親友&音楽仲間ジェリ役に、ネットを通じて監督と知り合出演にまで至ったシッダルタ・ダナンジェイ

パティの音楽仲間バスタード役に、Netflixドラマ「ゲット・ダウン」でDJグランドマスター・フラッシュを演じ脚光を浴びたママドゥ・アティエなどが出演します。

 

 

 

 

 

 

 

ダメなヤツがチャンスをつかみ成長する映画なのでしょう、おそらく。

それをどう見せるのか、音楽でどうアゲさせてくれるのか。非常に楽しみです。

ここから観賞後の感想です!!!

 

 

感想

この街から絶対出てやる!

負のスパイラルから抜け出そうともがくダンボの熱いリリックが心に突き刺さる!

小規模映画ならではの上手くまとめた佳作映画!

以下、核心に触れずネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自信のない私

ニューヨークからさほど遠くない場所ニュージャージー州で、一人の女性がもがき苦しみ挫折、そして葛藤しながらも夢を掴もうと前に進んでいく姿を描くと同時に、家族間の愛憎や、共に夢に向かって歩もうとする仲間との絆、負の塊である自分を全てさらけ出して思いをこめたリリックが心揺さぶる作品でございました。

 

アメリカでは白人はマジョリティとして認知されていますが、主人公のパトリシアはそんな人種でありながらも、子供の頃からダンボといじられるような巨漢の体格であり、バーテンダーの仕事で生計をたてるも、病気を患っている祖母の医療費も払えない、キチンと仕事してるかわからない酒びたりの母を支えなければならない苦しい状況にあり、いわゆる貧困層にして見た目もイケてないマイノリティな女性なのです。

 

そんな彼女の唯一の楽しみは、下ネタ全開でおちょくるようなリリックを書き、おばあちゃんのナナや、親友ジェロミオに聞かせ、いつかラッパーとして売れて金を稼いで、この街を抜け出そうと夢を見ること。

 

毎日ノートに日頃の思いを詰め込んでいただけあり、今まで私に嫌な思いをさせた全てのものに向けて鬱憤を晴らしぶつけるかのような、攻撃的且つ下品なワード。

見てみなこんなアタシ最高だろ!的な言葉が並んでおり、子供は絶対聞いちゃダメ!なワードを韻を踏んでまくし立てるキレのよさ。

 

お、こいつ才能あんじゃん!と気持ちをノらせてくれる序盤でありました。

 

しかしながらそんな素晴らしいリリックをきいてくれるのはナナおばあちゃんと親友のジェロミオだけ。

人々の前で披露するにはまだまだ先の話。

 

ジェロミオのおかげもあって、初披露、初音源、初ライブとステップアップしていきますが、どうにも失敗したり挫折してしまう始末。

なぜならば今まで日影の存在だったため、常にマイナス思考が脳内にべったり張り付いていたのです。

こんな私がステージの上に立ったって笑い者にされるだけ、どうせ私の言葉なんて誰も聞いてくれない、だってアタシブスだから!!(By石橋貴明)

 

そんなポジティヴシンキングできない彼女を立て続けに不幸が襲い、夢を諦める自暴自棄に陥っていく。

 

彼女は夢をつかみこの街を抜け出すことができるのか、というお話。

 

ヒップホップわかんないけど

普段聞きもしないヒップホップ。

なのになぜここまでして胸を打つのか。

 

きっと彼女の言葉に魂が宿っているだからだ。

 

一見言葉遊びのようなボキャブラリー溢れる様々な言葉で韻を踏んでいるだけかと思いきや、社会や自分の今の状況、クソみたいな奴らを憂い、嘆き、罵り、蔑む。

それをオーディエンスに吐き出すことで共感を呼び一体感が生まれる。

 

クライマックスでのライブはそんな空気が生まれるのと同時に、家族としてもそのステージで和解し互いを称えあうという奇跡のような場面になっていて、それはそれは熱くなれる瞬間なのです。

 

しかしモンキーはそこよりも根暗で誰も寄せ付けない空気を持ち、ドメスティックなメタル系の音楽を一人で演奏していたバスタードの家に乗り込み、曲を作って欲しいと頼む場面が大好きで。

 

彼が作った既存の曲を、リズムだけ残しテンポを下げ、簡単なギターリフを乗せた即興音源にあわせて、ジェロミオのノリで作ったサビ、ナナおばあちゃんのタバコでしゃがれた低い声のサンプリング、そして満を持して掃きだすパティの言葉が重なってできた「PBNJ」が流れたときのあの高揚感!

 

ヒップホップってマジでこんな即興でいつも作るの!?といつも疑問に思うんだけど、それでも荒削りだけど一つの曲として完成させてしまう説得力はもちろんのこと、まだお互い素性も知らないようなやつと、センスと感性とフィーリングと勢いだけでグルーヴを生み出し、同じリズムで揺れ、今いるこの世界この場所この時間だけは俺らが最強!と誰も寄せ付けない無敵の状態へと突入していくあの感じ。

 

僕はアメコミ映画が好きなんですけど、中でも好きなのが、彼らの誕生となる1作目で。

しかも彼らがどうやって誕生するかみたいな工程というかきっかけの部分が好きで。

 

なんかこの初めて曲を作ってみてそれが最高じゃん!みたいなこのシーンが、これに当てはまるんですよね。

気持ち的にも場面的にも。

 

 

まぁあとはこのブログで何度も話してる通り元バンドマンだった経歴を持つモンキーですから、

新曲を作りました、

とりあえず音出してみようか、

頭こんな感じで、そこキメで、

Bメロでドラムタムで回して、

ベースそこスラップで、と簡単に指示して、いっせいに音出して一曲通したときのあの「あ、これ名曲できんじゃね?」みたいな感覚を何度も味わってきたこともあり、バンドではこうだけどラッパー達が曲作るのもこんな感じなんだと思うと誰かと音楽やるときってやっぱ最高だよね!と改めて感じたのであります。

 

夢を捨てられない母

パティのお下品なリリックはナナおばあちゃん譲りのようで、毎日考えたリリックをばあちゃんに聞かせるほど仲のよい関係。

外へ連れ出したり、オムツ替えたり、その他もろもろ全てパティが介護するほど。

 

じゃあおかあちゃんは何やってるかというと、滞納しているおばあちゃんの医療費を娘に支払わせ、自分と言えば知らない男を連れ込んだり、夜毎パティが働くバーへ行き、タダ酒を喰らい、カラオケを歌い、そしてリバース。

一応美容師らしく、劇中でもパティの髪の毛をセットしたりカットしたりするシーンがありますが、めっちゃ大雑把w

ほんとに美容師かよwと思いたくなる手際の悪さ。

しかもタバコ加えて酒飲みながらですから。

見た目もプロレスラーみたいだしw

 

こんな母親では家に帰っても嫌になるパティの気持ちが痛いほどわかります。

 

ではなぜこんな母親になってしまったのか。

実はこの母親が当時抱いていた夢が、この物語のサイドストーリーとして描かれています。

 

お母さんは当時歌手として夢を追いかけていました。

しかし妊娠してしまい夢をあきらめてしまったのです。

たまたま掃除をしてたらその頃作った音源が出てきてそれを聞きながら懐かしみ酒の肴にしていたのですが、その時を思い出し悔やんでいる表情を娘の前で見せています。

 

だから彼女にとって娘が働くバーで酒を飲みカラオケで歌うことは今できる唯一の楽しみであり、生きがいになっていたのです。

 

ある日パティは地元で人気のあるラッパーとストリートでフリースタイルラップバトルを繰り広げたことにより警察の厄介になります。

そこに現れた警察官は母親と同級生で、彼女の歌のうまさを知っていました。

警察官はバンドもやっていてちょうどバックコーラスシンガーを探していたということで、二人は自宅でギター一本で練習したりして仲を育んでいき、やがてちゃんとしたバンドを従えついにお披露目をするまでになります。

 

しかしながら、娘と同時に不幸が訪れることでこの先の生活を考えたときの絶望感が押し寄せ、歌どころではなくなっていく羽目になっていくのです。

 

夢を追いかけるがそううまくはいかない娘と、夢を捨てられず置かれた現状を嘆いている母親という対照的な二人は、もちろんあらゆることにおいていがみ合う関係。

娘はこんな母親になんてなりたくないと思い、母は夢ばかり追いかけてるとこうなるんだから今のうちしっかりカネ稼ぎな!と張り合う。

 

この関係を序盤で見せることで伏線となり、クライマックスで披露されるライブステージで歓喜と感動が生まれます。

 

二人しかいない家族。

自分を認めてもらいしかも母親を立ち直らせるにはどうすればいいか。

パティはその悩みを解消するアイディアを、チャンスかもしれない大舞台でやることを決意していくんです。

そうすることで生まれるカタルシス。

見てる間は心震えておりました。

 

 

最後に

憧れていたOZというラッパーに偽者と言われ心打ち砕かれながらも、なぜ自分の歌を偽者と呼ぶのか本当の私はどんな存在なのか、立ち止まり考えたパティは、スターの片鱗を見せ、その才能を最後に爆発させていくんですね。

 

その瞬間は本物でしたが、この映画は現実はそう簡単に行かないこともちゃんと教えてくれます。

とはいえ、その先の未来に明るい希望も見せてくれます。

 

単純にスターになることを夢見る女の子が、最後スターになる、という映画ではないのがまたこの映画のいいところなのです。

 

川を挟んで見えるエンパイアステートビルを指で計ったときの彼女は、正にその程度のちっぽけな存在でしかなかった。

いつか指で計れないほど大きな存在に、川を挟まなくても間近で眺められる存在になる日を夢見てパティは今日もリリックを書いていく。

 

 

ものすごく素晴らしいとは言い切れないのは「ハッスル&ブロウ」と比較してしまったせいで、衝撃度はそっちのほうが上だったため。

 

控えめな満足度ではありますが、今テレビで再燃しているラップバトルで好きになった人は是非見ていただきたい1本でした。

と言うわけで以上!あざっした!!

満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10