彼女の人生は間違いじゃない
今回の作品は予告を見て久々に見たい!という興味がわいたので、見ることにしました。
監督自身が執筆した小説を映画化にしたほどなので、相当熱意のある作品になっていると思います。
というわけで早速見てまいりました。
作品情報
自分の居場所を捜し求める大人たちの衝突やさまざまな愛を数々描いてきた監督が、東日本大震災をきっかけに、初めて作家として手掛けた小説を自ら映画化。
福島と東京を行き来する女性を中心に、戻る場所もない、進む未来も見えないものたちが、もがきぶつかり合いながら光を探していくヒューマンドラマです。
あらすじ
まだ薄暗い早朝のいわき駅。東京行きの高速バスに乗る金沢みゆき(瀧内公美)。
渋谷に向かい、たどり着いたマンションの一室が彼女のバイト先。
三浦(高良健吾)が運転する車に乗って訪れたのはラブホテル。
彼女のアルバイトはデリヘル嬢だ。
週末はこうして東京でアルバイトをし、暗くなる前に福島へと帰る生活を、父親の修(光石研)には英会話教室とウソをつき続けている。
月曜からは普段働いている市役所での日々が続く。
だがこの日は昔付き合っていた山本(篠原篤)からあいたいとメールが来てはやり直したいと復縁を迫られ、帰れば父が、亡くなった母との思い出に浸りながら酒を飲む。
汚染された田んぼでは農業が出来ず、生きる目的を失い、保証金をパチンコにつぎ込む父を見て腹が立ち家を飛び出す始末。
だが飛び出しても気の晴れる場所なんてどこにもなかった。
居場所のない、行き場のない彼女が東京と福島を行き来していく中で見たものとは。(HPより引用)
監督
監督は廣木隆一。
恐らく監督の作品を見るのは「さよなら歌舞伎町」以来でしょうか。
最近では「ストロボ・エッジ」や「PとJK」、「オオカミ少女と黒王子」といった、いわゆるスイーツ映画ばかり手掛けてたので、自分としてはしばらく監督作品から離れていたわけですが。
今回の作品は、福島県出身の監督が帰郷の際、新幹線の中で震災の被害にあったことがきっかけだそうです。
それをいきなり映画にしようと派したものの自身の中で、気持ちの整理がつかず、まずは小説として書き上げたとのこと。
どんな作品に仕上がっているのか楽しみです。
キャスト
主人公の金沢みゆきを演じるのは瀧内公美。
いやぁ~キレイ。キレイっす。
なのに何の作品に出てたか全く覚えてない。
もしくは今回初めて見る出演作なのか。
というわけで、彼女の出演作を調べてみました。
大学生時代にエキストラ出演したのを機に芸能界入りしたようで、真木よう子主演の「さよなら渓谷」や、特撮人気シリーズの第3弾「牙狼外伝 桃幻の笛」に出演した後、孤独な娘と孤独死寸前の老人の壮絶なバトルを描いたバイオレンスブラックコメディ「グレイトフルデッド」で主演を果たします。
他にも現役警察官によるあらゆる悪事をシニカルに描いた「日本で一番悪い奴ら」で主人公と体の関係を持つ婦警の役を演じています。
濡れ場もこなす女優さんのようで、初主演作は笹野高史と絡むことで話題になったようです。
そんな作品があったことすら知らなかった・・・。
今回もデリヘル嬢ということで、体の張った演技に期待です。
いやいや、心の機微をどうみせていくか、細かい表情に注目です。
父、金沢修を演じるのは光石研。
日本が誇る名バイプレイヤーでございます。
時に良きパパ、時にバイオレンスなパパ、時に男気溢れる上司、時になさけな~い中年、などなどありとあらゆる役をこなす、日本映画に欠かせない男。
それが光石研!逆から読んでもみついしけん!違うかっ!w
そんな名脇役を集めたTVドラマ「バイプレイヤーズ」にも出演。
主要キャストが本人役として出演したのが話題となり、オジサン6人が共同生活を送るというなんとも萌え~なTVドラマに私もくぎ付けになったほどw。
光石さんは家庭を持ちながらも浮気癖を持つ設定で、山口沙也加とイケナイ関係になってましたw
また是非やってほしいなぁ。
バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~ Blu-ray BOX(5枚組)
- 出版社/メーカー: 東宝
- 発売日: 2017/06/21
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログを見る
他のキャストはこんな感じ。
みゆきのバイト先の運転手、三浦秀明役に、「横道世之介」、「きみはいい子」、「シン・ゴジラ」の高良健吾。
みゆきの市役所の同僚で広報担当の新田勇人役に、「聖の青春」、「愛の渦」他数々の作品に出演する柄本時生。
みゆきの元彼、山本健太役に、「恋人たち」の篠原篤らが出演します。
タイトルが既にこの映画の答えにも聞こえる今作。監督が描いた福島の人々から、どう観衆に伝わっていくのか。何を見せてくれるのか。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
誰にだって目を背けたい現実はある、それでも生きていかなければいけないと投げかけるドキュメンタリーのようなヒューマンドラマ!!
以下、核心に触れずネタバレします。
あれから6年。
東日本大震災によって生活を一変させられ、生きる目的を見失いつつある様々な登場人物たちが、現実逃避しながらも少しづつ前を向いていこうとする様を捉えながら、未だ復興への道が遠い現状や様々な問題を取り入れた、物静かな空気でつづったヒューマンドラマでございました。
この日、3本はしごして鑑賞したわけですが、一番言葉にしにくい、いや、簡単に語ってはいけない、いや、自分のようなやつが感想を言っていいのか、など色々考えながら帰路に着きました。
きっと誰だって今置かれている現状に満足できなくて、人生を投げやりにしたくなる出来事がたくさんある。
毎日遅くまで働いて、少ないお給料でやりくりして、感謝のされない家事を毎日こなして、それが当たり前だと思われて、それを周りのせいにして、それを社会のせいにして、それを自分以外の何かのせいにして。
たくさんの不満を抱えた人たちの中で、誰が一番苦しい立場にあるか。
それは天災にまきこまれ、しかも近くに原発があって、それが漏れて、住む場所を奪われて、家族や知人を失った人たちで。
あれから6年たってもまだまだ救われない人たちがいる。
正直いろんなニュースが舞い込んで風化されつつある。まだ6年しかたってないのに。
そんなことを危惧した監督が、故郷の今をようやく映画として形にし、発信できた監督の気持ちが詰まった作品だったように思えます。
スクリーン越しで登場人物たちを見ていると、どこか他人事に思えてしまう自分もいる反面、他人事には思えない自分もいて、じゃあ同情すればいいのかってなるとそれもどこか違って。
どんな形であれ、どんな状況であれ、どんな環境であれ、我々はこの世界で生きていかなければいけない、だから前を向いて生きていこう、そう監督は言っているような気がします。
みゆきの心情
優しさと厳しさを現したピアノを基調としたBGMに乗せながら淡々と描かれた物語は、ストレートに震災をテーマにした内容で、登場人物はそれぞれギリギリのところで地に足をつけていて生きている様子がうかがえました。
しかしながら目はどこか遠くの方を見つめていて、心ここにあらずといった表情。
ヒロインであるみゆきの顔がクローズアップされる瞬間が多々ありましたが、彼女が一番心ここにあらずといった感じで。
バスの中、車の中といった狭い空間では特に感じます。
時折涙をこらえてるようにもみえ、なぜ彼女が東京まで出てデリヘル嬢をやっているのか読み取るのに時間がかかりました。
彼女の人生は間違いじゃない。
正しくもなければ、間違ってもいない。
微妙なニュアンスのタイトルですが、なぜ正しいと言い切れないのか。
きっとそれは週末東京まで出てきてデリヘル嬢をやっている点が大きいのかと思います。
はっきり言って違和感ありありです。
どうやったって結びつかない。
人間の心も体も裸にして描く監督だからこそできる設定だとは思うんだけど、観てる最中は中々読み取れなかったわけで。
私が思うに、現実の福島の生活だけでは耐えられず、誰も知らない街で予想もつかないことをすることで、生きていることを実感したかったのかなと。
しかも自分を体を売る仕事をすることで、自身を傷つけることで、母や周りの亡くなった人に対しての詫びのような感覚に浸ってるのかなと。
で、自分だけそういうことで必死に生きようとしているのに、父は母の事だったり、農業の事を忘れられずうじうじしているし、急に元彼が出てきて元サヤに戻りたいと言ってくるし。
みんな勝手!と言って飛び出す彼女がなんとも切なくて。
それでも三浦とのやり取りから、彼女が彼を信頼している様子がうかがえたり、将来のこと考えなきゃだめだよ、と言われ、あんなにこの仕事好きだとか言っといておきながら前を向いている彼を見て、自分もそうならなくてはと考えてるような表情する一面も見られ、この物語の中で微かに前を向いて生きようとする心情がうかがえました。
父の心情
農業を営んでいた父は、最愛の母を亡くし、土地も汚染されたことから、農業以外出来るかよ、と頑なに再就職をしない。
だから毎日補償金をパチンコに費やし、日々の生活に何も見いだせないでいることが分かります。
何かすることといえば、仮設住宅に住む子供にキャッチボールの相手をしたり、地域説明会でいつ農業が再開できるか現状報告を聞きながら待つばかり。
母が育てた枝豆の味が忘れられず、娘に出会ったころの思い出話を何十回も繰り返してる件から、大きな存在を失ったことが読み取れます。
でも彼の中で、少しづつ前を向く兆しが見えます。
それは、自分に嫌気が指したことで娘は家を飛び出したこと、隣人の奥さんが自殺未遂を図ったこと、被災地の住人に対し詐欺を働くやつに腹を立てたこと、そういう小さな出来事が彼を変えていきます。
毎晩飲んでいた酒を止め、毎日通っていたパチンコも止め、帰宅困難区域にある実家に妻の衣服を取りに行き、海へ投げ捨て供養していきます。
ここは涙でした。
寒いだろ~!これ着てあったまれよ~!!と泣きながら叫ぶ父を見て、今まできっとこういう感情を吐き出せなかったくらい、虚ろな毎日を送っていたんだなぁと。
新田の心情
みゆきが務める市役所で、広報担当している新田は、家族は無事だったものの、父が務めていた会社が津波で流されたことで、夜は遊びほおけてばかり、母はおばあちゃんとうさん臭い宗教にはまり、夜は誰もいない。
年の離れた弟はいつも一人家でゲームばかりしていた。
弟の夕飯を用意するべく、近くのスナックのママに作ってもらう時、東京からアルバイトをしに来た女子大生を紹介され、数日後、彼女が震災の事を卒論のテーマにしようということで新田に根掘り葉掘り質問をするんですが、この時、新田は何も答えられないでいました。
津波はどれくらいのものだったのか、その時の心境は、周りの状況は、市役所の職員として今後どのように復興しようと考えてるのか。
数年たってもあの時の記憶は焼き付いていて、未だに整理できてない新田の心情がうかがえる場面でした。
その後、道で吐き、頑張れ福島!のチラシを見て、がんばってんだよ!と言葉を吐き捨てる姿もまた何とも言えないシーンでした。
その後、両親が福島に住んでいたことから消えてしまった景色を写真に収めることをきっかけに、カメラマンとなった女性と写真展を開いたり、老夫婦のお墓を親身になって探したりと、彼なりに人の役に立つことで前向きになっていく様子が描かれています。
最後に
他にも、汚染水を運ぶ仕事をする夫と、そのことで鬱になっていく妻の隣人夫婦や、あんたらだって保証金でのうのうパチンコ生活してるんだから何しようと自由だろ!と詐欺を働くツボ売り、といった人たちなど、それそれの背負ったもの、それぞれの人生が描かれていて、福島の現状やそこにいる人たちがそれでも懸命に生きている姿を映し出してます。
最近の作品で震災をこれだけリアルに描いた作品はなかったと思います。
帰宅困難区域のシーンは開いた口がふさがりません。
決してハッピーエンドではない話だと思います。
彼らはようやくスタートラインに立てたような、そんな締め方です。
今もこの登場人物のように生きている人がすぐ近くにいる、こんな映画のように前を向いて生きてほしい、監督の願いが詰まった映画でした。
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10