ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ
続編をやる映画ってのは、なんとなくですが娯楽大作モノが多い、というのが僕のイメージ。
アカデミー賞の主要部門にノミネートするような作品で、シリーズモノつったらゴッドファーザーくらいしか思いつかない。
だから同じようにアカデミー賞ノミネート作品である「ボーダーライン」の続きを描くってことが、僕は今でも不思議でしょうがない。
だってアレ完結したじゃないか。
強い正義心をもった女性主人公が翻弄され、正義って何ぞや!?みたいなのを突きつけられて、結果おっさん達のやり方に抵抗できない、自分のやり方が通用しないことに落胆して。
ただあくまで前作は「彼女」の物語だったってことだよね。
麻薬戦争はアレだけじゃ終わることなどない。
まだまだ戦いは続くわけだと。
てなわけで、前作からドゥニドゥニことドゥニ・ヴィルヌーヴが退き、エミリー・ブラントもいなくなり、撮影もロジャーディーキンスではなく、音楽もヨハン・ヨハンソンでない。
このようにキャストも製作陣も変わってしまってますが、核となるおっさん二人と脚本のテイラー・シェリダンは続投ということで一安心。
今度は一体あの場所でどんな衝撃が起こるのか。
というわけで早速観賞してまいりました!!
作品情報
アメリカとメキシコの国境を舞台に、全てにおいてルールやモラルなど通用しない麻薬戦争の現実や知られざる実態を、重々しいBGMや内容とは反比例するほど美しい映像、そして監督の力によってじっくりと物語をあぶりだし、重厚且つ衝撃な作品へと完成させた「ボーダーライン」。
今作では、前作で作戦を指揮したCIAのマットと、家族を殺されたことで暗殺者へと変貌を遂げたアレハンドロが、新たなミッションのために再びコンビを組んで、麻薬カルテルの内戦を仕掛けていく。
緊迫状態が続く境界線での麻薬戦争。
彼らは終わらせることができるのか。
それとも再び境界線を作ってしまうだけなのか。
私達はあの生々しい現実を再び目の当たりにする。
Sicario: Day Of The Soldado (Original Motion Picture Soundtrack)
- アーティスト: Hildur Gudnadottir
- 出版社/メーカー: Varese Sarabande Records
- 発売日: 2018/06/29
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あらすじ
アメリカ国内の商業施設で市民15人の命が奪われる自爆テロ事件が発生。
犯人一味がメキシコ経由で不法入国したと睨んだ政府は、 国境地帯で密入国ビジネスを仕切る麻薬カルテルを混乱に陥れる任務を、 CIA工作員のマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)に命じる。
それを受けてマットは、 カルテルへの復讐に燃える旧知の暗殺者アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)に協力を要請。
麻薬王の娘イサベル(イザベラ・モナー)を誘拐し、 カルテル同士の戦争を誘発しようと企てる。
しかしその極秘作戦は、 敵の奇襲やアメリカ政府の無慈悲な方針変更によって想定外の事態を招いてしまう。
メキシコの地で孤立を余儀なくされたアレハンドロは、 兵士としての任務と復讐心、そして人質として保護する少女の命の狭間で、 過酷なジレンマに直面していく……。(HPより抜粋)
監督
今作の監督を務めたのは、ステファノ・ソッリマ。
全く存じ上げないのも当たり前。
今作でハリウッドデビューしたイタリア人の監督さん、とのこと。
これまではTVドラマなどをイタリアで制作、カジノ法案の成立をめぐって繰り広げられる利権争い、血で血を洗う悲惨な状況を描いたノワールアクション「暗黒街」が、イタリアのアカデミー賞と称されるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で5部門ノミネートする快挙を成し遂げています。
これがきっかけで、Netflixでリメイクすることが決まったようで、加えて本作の抜擢。
現在はAmazon製作のドラマを製作中とのこと。
しかもこれも麻薬取引を題材にしたドラマなんだとか。
あれか、この監督はこの手のテーマ得意なんだな。
キャスト
謎多き殺し屋で元検察官。過去に家族を皆殺しにされた男アレハンドロを演じるのは、ベニチオ・デル・トロ。
きっとほかにもいると思うんですけど、ベニチオとギレルモ、同じデル・トロだけにたまに間違えないですか?
僕だけですか?
ああそうですか。
キャリアが長いからたくさんの作品に出ていますが、基本あまりいい人の役やってないですよね・・・。
もう目がさ、コワいってw。
とりあえず僕は「21g」の彼が好きですね。一番印象的。
そんな彼の代表作をサクッとご紹介。
彼のデビュー作はなんと「007消されたライセンス」。
組織の部下役として出演していました。
その後、銃器強奪事件の面通しで集められた前科者たちを主人公に、一味の生き残りの尋問から伝説のギャングが誰なのかを明かしていくミステリー「ユージュアル・サスペクツ」。
強盗コンビの片割れフェンスター役で脚光を浴びます。
そしてメキシコとアメリカを結ぶ麻薬ルートをめぐる人々を描いた「トラフィック」でアカデミー賞助演男優賞を受賞し、転機を迎えます。
ほかにも、一個の大粒ダイヤをめぐってワルなタフガイたちが騒動を巻き起こす「スナッチ」、人は死ぬと21g軽くなるという言葉を、魂の重さに例えて描かれる、一つの心臓をめぐって工作する、人の運命を綴ったヒューマンドラマ「21g」、伝説の革命家チェ・ゲバラの人物像と半生を描いた壮大なドラマを前後編で綴った「チェ/28歳の革命」、「チェ/39歳別れの手紙」などでキャリアを積んでいきます。
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最近ではMCU映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」や「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」でインフィニティストーンを始め珍しいものを集める男コレクター役や、「スターウォーズ/最後のジェダイ」では、フィンとローズの手助けをするも結果裏切るコードブレイカーDJ役など、いわゆるブロックバスター作品にも出演する幅の広さを見せています。
他のキャストはこんな感じ。
アレハンドロと旧知の仲であるCIA特別捜査官マット・グレイヴァー役に、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」、「ノー・カントリー」のジョシュ・ブローリン。
巨大カルテルの支配者の娘イザベル・レイエス役に、「トランスフォーマー/最後の騎士王」のイザベラ・モナー。
アメリカ合衆国国防長官ジェームズ・ライリー役に、「フルメタル・ジャケット」、「ダークナイト・ライジング」のマシュー・モディーン。
マットの上官でCIA副長官シンシア・フォード役に、「カポーティ」、「ゲットアウト」のキャサリン・キーナー。
マットの戦友スティーヴ・フォーシング役に、「チェンジリング」、TVドラマ「バーンノーティス」で主人公を演じ脚光を浴びたジェフリー・ドノヴァンなどが出演します。
前作を劇場で観た当初、音の不快さと物語によって生まれた圧力に、そこまで楽しめなかったんですが、Netflixで配信に伴い再度観賞したところ、映画館で感じた部分が軽減されたことで、女捜査官が翻弄されていく姿を観て物語の本質を感じ取れ、続編も観ようと。
ただ彼女はいない。
これからがこの映画の本番、のような気がします。
恐らくフォーカスされるのはアレハンドロなんでしょう。
彼の過酷なジレンマとは。
ここから観賞後の感想です!!!
感想
アレハンドロとマットの見えない絆を下地に、再びアメリカ地方の闇に迫る!
でもなぁ、う~ん・・・前作の方が面白かったかなぁ・・・。
以下、核心に触れずネタバレします。
物語の軸が変わった?
メキシコからアメリカへ密入国し、自爆テロを行う麻薬カルテルグループの内紛を誘発しようと企むアメリカ国防省の命を受け、マットとアレハンドロが麻薬王の娘を誘拐し作戦を実行するも、思わぬ展開へと舵が切られていき、互いが互いの任務をせざるを得ない状況へと陥っていく姿を、重々しく突きつける音楽や、砂漠の乾いた環境と同様の無慈悲な殺戮描写で観衆を惹きつけ、ひたすら漂う緊張感によって登場人物の顛末を見届けていき、前作から引き継がれた空気感を見事に続編でも表現した作品でございました。
前作では、いかにアメリカとメキシコの国境で凄まじい麻薬戦争が起きていたか、また対抗するために汚い手口で作戦を行うかという厳しい現実を、エミリーブラントが演じた女捜査官によって過酷な環境へナビゲートされ、全く通用しない彼女の正義感に我々はため息をつく作品だったわけですが、今作はカルテルとCIAのがっつりドンパチ!ラウンド2!という内容ではありませんでした。
ざっくりいえば麻薬カルテルの話は二の次で、内紛を誘発するために麻薬王の娘を誘拐してメキシコへ連れてこうとするも敵襲に。
仕方なく対処したが、国同士でややこしいことになったから、やっぱり作戦中止!
おいおいそりゃないぜ!
どうすりゃいいのよ!
はぐれちゃったアレハンドロと娘は!?
は?始末!?
バカ言っちゃいけないよ、あんたアレハンドロに殺されるぜ?(あれ?全然ざっくりじゃねえ!)
と、上の命令によってどうにもならない歯がゆい思いをしながらも、なんとかアレハンドロと娘を救出しようと画策するマットの、苦虫を噛むような顔をひたすら拝むのと、マットたちとまさかの離れ離れにどうしようこうしよう、アメリカへ戻って始末されないようにしようと、娘を連れて引き返そうとするアレハンドロとの二人旅の末路が今回のお話。
あれ?地方の闇をあぶりだすテイラーシェリダンの脚本なのに、前作とはまた違ったアプローチ。
一体マットのジレンマとアレハンドロの単独行動から一体何を読み取ればいいのかシェリダン先生、僕にはちょっと理解できません。
これはあくまで僕の推測ですが、やはりアメリカ政府の対応を言いたかったのではないかと。
冒頭アメリカへ密入国しようとするメキシコ移民を捕らえるも,逃げた奴がいきなり自爆。
続いてスーパーマーケットになだれ込んだ複数の成人男性が次々と自爆。
入口の前で怯えながら逃げようとする母娘の危機と、事の顛末をジワジワ見せるやり口は、中々見てられないシーンではありましたが、これに対してアメリカ国防長官は、カメラを通じて堂々とお前らなんか怖くねえ!俺らの力見せてやるぜ!と宣戦布告。
これぞアメリカ!
力の尽くす限り戦う姿勢を見せる徹底攻勢を見せるわけですが、中盤で起きてしまうメキシコ連邦警察との攻防をしてしまったせいで、計画はおじゃん。
国防長官いわく、だってさぁ、お前ら警察殺しちゃうんだもん、大統領がが命令したってことにしないでね!関与してませんよ!だからちゅーし!!CHU-SI!
あとはシンシアちゃんよろしくぅ~、と、やむを得ずとったマットの行動によって作戦は中止。
しかもその一部始終を見ていた麻薬王の娘イザベルを始末しろと、シンシアから命令されます。
ついでにアレハンドロも。
相変わらず汚いことをさせられるマット、そして汚いこと全部やりますCIA.
どれもこれも大統領のためってことを、この映画を通じて言いたかったのでしょうか。
一度掲げた旗を降ろさず、徹底攻勢すりゃあ麻薬戦争なんてなくなるのかもしれませんが、中々一筋縄ではいかないってことでしょうか。
おっさんたちの葛藤。
まぁ何を言いたかったのか、とりあえず僕の考えは不正解な気がするので、ここまでにいておいて、今作の一番の見どころは、別々に行動せざるを得なくなり、追う者と追われるものになってしまったマットとアレハンドロの姿であります。
マットはやはり上の命令には逆らえない立場。
とはいえ数々の修羅場を共にした戦友が殺されないために、何とかできないものかを試行錯誤していく姿が描かれています。
ただマットのシーンてそこまで多くなく,やはり映画としては追われる身であるアレハンドロの動向を主軸にした方が面白いってことで、そっち中心になっていくんですね。
メキシコ連邦警察との激しい攻防のさなか、一人逃げてしまったイザベルを追うため単独で行動することになったアレハンドロ。
彼女を保護し、道中立ち寄った民家でアレハンドロの過去が少しだけわかるシーンに。
民家の主人は口が利けず手話でアレハンドロに語りかけます。
すると、アレハンドロは何の躊躇もなく手話で話し始めます。
前作で語られたようにアレハンドロの家族は殺されてしまっていて、その娘は実は聾唖だったことが今作で明かされています。
しかも殺したはイザベルの父の手下。
敵を討とうと思えば討てるのに、彼女を守ることを選んだアレハンドロ。
娘を重ねたのか?
テレビで大々的に誘拐のニュースが報道されているため、イザベルの顔は立ち寄った民家の主人でさえも一発でわかってしまう。
そこでアレハンドロが考えた作戦は、変装してアメリカへ密入国すること。
どうだいイザベル、俺、いかにも地方の農業やってる感じの一般ピーポーに見えるだろ?
バーで瓶ビール片手に野球観てる感じのおっさんだろ?
どっからどう見たって暗殺者に見えねえだろ?
イザベルも長い髪をざっくり切ってパッと見少年のような容姿へ。
これがうまくいけば自分もイザベルも助かる。
靴に仕込んだGPSによってマットが迎えに来てくれる。
そう考えたアレハンドロでしたが、事はそう簡単にうまくいかないのであります。
少年は悪の道へ。
今作はマットとアレハンドロの物語のほかに、ある少年が悪に染まっていく姿が描かれ、二つの物語は終盤に向かっていくにつれて交わっていくというものでした。
アメリカに住む少年は、朝学校へ行くためにスクールバスに乗ると思いきや、バスに乗らず、その後やってきた従兄の車に乗ってどこかへいくことに。
ビールとハッパで大人の仲間入り!みたいな光景で、従兄の仕事を手伝うことになる少年。
それは密入国者を運ぶお手伝いでした。
世の中金。
従兄に教えられ、従うままに悪の道へ染まっていく少年。
その過程で彼は、アレハンドロとマットが乗った車にぶつかりそうになる事態に遭遇。
ここでアレハンドロの渋くも死んだ目に、吸い込まれるように彼を見つめることで彼の顔を焼き付けるんですね。
この出会いが終盤で全く違う立場で出会うという流れになっていくのであります。
全体を通して。
単刀直入に今作の感想を述べるのであれば、前作の方が話に入りやすかった、という比較から、この映画一体どこへ向かうのさ、ってのが率直な感想。
正義と悪のボーダーラインなんてここにはねえんだよ、食うか食われるかだぜ?みたいな表情で、ガンガンカルテルの下っ端連中を殺していくマットとアレハンドロでしたが、今作は一転、窮地に立たされた二人の人間臭さが全面的に出されていて、それもまぁ楽しかったっちゃあ楽しかったんだけど、俺が求めていたボーダーラインじゃねんだよなぁと、どうしても思ってしまう次第であります。
あとは緊張感アリアリのマシマシだったわけですが、国境を越えるために何台もの車両でメキシコへ向かう際のメキシコ連邦警察との攻防は、ぶっちゃけ前作でも似たような件があり、明らかにそっちの方が緊迫感があったため、ここはもっと工夫してほしかったなぁってのが本音。
しかもこの映画の本題がアレハンドロとイザベルの逃亡劇にあたると思うんですけど、そこまでの導線が長い、もしくは逃亡劇自体が短すぎる。
2人が心を通わせる描写がもうちょっとあった方が良いというか、なぜ彼女はアレハンドロについていくのか色々明確な部分が無くて、どうもしっくりこなくて。
この辺りをじっくり描くことで、ドラマ性がもっと映えると思うんですが、いかがなものか。
上にも書いた通り、あのヒリヒリした緊張感は製作陣が変わっても健在だったし、そういう意味ではきちんと継承された続編ではあるんですが、麻薬戦争ほったらかしですからね~。
密入国ってワードが入ったことでまた違ったボーダーラ・・・あ、テイラーシェリダンが言いたかったのは密入国の現状ってことか!?
今カルテルは密入国してテロを起こすってのがやり口なのか?
まぁこの辺は他の方の感想を覗いてかみ砕こう。
とりあえず結末は触れずに言いますが、明らかに続編を思わせるような終わり方をしているため、え、これまだ続くの?という疑惑を抱きながら退席したわけですが、あとで調べたらやっぱりやるみたいで。
どうやら3部作になるんですか?これ。
邦題はボーダーラインですが、原題はシカリオ(暗殺者)ですからね、アレハンドロと最後に出て来た人物の物語へと変貌していくのかな。
最後に
段々愚痴っぽくなってきたので全体の感想はこれくらいにして、3部作の2作目ということで、1作目の世界観を継承しながら全く別の物語へと向かった今作。
シカリオの系譜はあの人物が担っていくのか、次は何をターゲットにするのか。
もしかしてマットと対決?
それともカルテルの撲滅?
答えはシェリダン先生の頭の中ってことで、完結編を期待しながら別の映画を楽しむことになりそうです。
エンドロールでヨハン・ヨハンソンへ捧ぐって言葉が出た時、急に何かがこみ上げました・・・。
早すぎるって。
R.I.P.。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10