デトロイト
「デトロイト」と聞いて思い出すもの。
ロックシティ。
メタルシティ。
野球チーム。
自動車産業。
そしてモータウンサウンド。
そんなところでしょうか。
そんな音楽か車くらいしか連想できないこの街で、かつてとてつもなく大きな暴動が起きたという事実を、ここ最近重苦しい内容の作品ばかり撮り続ける、ジェームズ・キャメロン監督の元妻が手がけた作品です。
作品情報
昨今の作風が戦場を舞台にしたものが多く、その内容と明かされる真実、緊張高まるシーンの連続に批評家達をうならせ、ついには女性初のアカデミー賞監督賞を受賞したキャスリン・ビグロー。
彼女が最新作に選んだのは、アメリカ最大級の暴動といわれる「デトロイト暴動」の最中に起きた戦慄の一夜を描く。
白人警官による黒人への不当な尋問からエスカレートしていく恐怖の一夜を綴る本作は、事件から50年がたった今もなお続く人種差別に対して、監督が訴えたいことがこの映画に詰め込まれている。
あらすじ
1967年、米史上最大級の暴動勃発。
街が戦場と化すなかで起きた“戦慄の一夜”
1967年7月、暴動発生から3日目の夜、若い黒人客たちで賑わうアルジェ・モーテルに、銃声を聞いたとの通報を受けた大勢の警官と州兵が殺到した。
そこで警官たちが、偶然モーテルに居合わせた若者へ暴力的な尋問を開始。やがて、それは異常な“死のゲーム”へと発展し、新たな惨劇を招き寄せていくのだった…。(HPより抜粋)
監督
今作を手がけたのはキャスリン・ビグロー。
アカデミー賞作品「ハートロッカー」以降、戦地での内情を抉り出し、センセーショナルで臨場感溢れる映像を突きつけてきた監督。
今回もまた戦争をテーマにした内容なのかと思ったら、暴動と来ました。
いわんとしていることはわかります。
今のアメリカはこの暴動のギリギリの所まで来ているというのですね。
一体どんな作品を作り出したのか楽しみです。
というわけで簡単に監督作品代表作をご紹介。
81年に「ラブレス」で長編映画監督デビューを果たした彼女。
バイオレンスアクションに特化した作品を作り続けた後、新人のFBI捜査官が潜入捜査をしていくうちにボスとの友情が芽生え葛藤していくポリスアクション「ハートブルー」を製作。
ただその後の作品が大赤字を記録し低迷期を迎えてしまっていたが、テロの脅威が続くイラクを舞台に、死と隣りあわせを生きる爆発物処理班の男達を力強く描いた「ハートロッカー」でアカデミー賞作品賞を含む6部門を受賞し、その名を轟かせた。
オサマ・ビンラディン暗殺を巡る驚愕の舞台裏を、CIAの女性分析官中心に描いた問題作「ゼロ・ダーク・サーティ」も話題となりました。
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キャスト
黒人警備員ディスミュークスを演じるのはジョン・ボイエガ。
はい!「スターウォーズ」のフィン役でも世界的に有名となった彼。
一躍スターダムにのし上がったこの男は、今年も要注目作品が控えているほど引っ張りだこです。
そんな彼の出演作を簡単にご紹介。
ロンドンの低所得向けの公団住宅を舞台に、不良集団とエイリアンが死闘を繰り広げていく「アタック・ザ・ブロック」で映画初主演。
この出演が決め手となったのか、人気映画の新たなる3部作となった「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」で元ストームトルーパー兵・フィン役として主要キャストに大抜擢。
昨年は、巨大IT企業の行き過ぎた会社戦略を背景に、匿名からもたらされ加熱するネット社会の闇を描いたサスペンス「ザ・サークル」、「スターウォーズ/最後のジェダイ」、「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」に出演しています。
彼に関してはこちらもどうぞ。
ホテルに残された黒人達を不当に暴力的に尋問する白人警官クラウスを演じるのは、ウィル・ポールター。
「タンタンの冒険」のタンタンが悪い顔になったらこんな顔じゃないですかねw
それか昔のミスドのマスコットの男の子が大きくなったら。
ここ最近映画でよく見かけるまでになりましたが、実は彼は少年時代から映画に出演しています。
その辺も混ぜて簡単に出演作を紹介したいと思います。
厳しい家庭で育った少年が悪ガキと共に、S・スタローンの代表作「ランボー」を模倣した映画作りをしていく中で友情を育んでいく青春物語「リトル・ランボーズ」で映画デビュー。
その後世界的ベストセラーの児童文学を実写化したシリーズ第3弾「ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島」、
トラブルに巻き込まれたマリファナの売人が、仕事を成功させるため偽装家族を作り、危険な密輸の旅へと繰り出すコメディドラマ「なんちゃって家族」、
巨大な迷路に巻き込まれた若者たちの過酷なサバイバルを描いたヤングアダルト小説の映画化「メイズ・ランナー」、
開拓時代のアメリカを舞台に、過酷な大自然の中で一人の男が息子の命を奪った男を復讐する姿を壮大なスケールで描いた「レヴェナント:蘇えりし者」に出演しています。
これにも出演。
なかなかのくそ野郎でしたねw
他の出演者はこんな感じ。
デメンズ役に、「シング・ストリート 未来へのうた」、「フリー・ファイヤー」のジャック・レイナー。
フリン役に、「ハクソー・リッジ」、「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」のベン・オトゥール。
ロバーツ准尉役に、「ジャック・リーチャー NEVER GO BACK」に出演したオースティン・エベール。
アウアーバッハ弁護士役に、「かけひきは、恋のはじまり」、「恋するベーカリー」のジョン・クラシンスキー。
グリーン役に、「ハート・ロッカー」、「キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー」のファルコン役でお馴染み、アンソニー・マッキー。
カール役に、「ストレイト・アウタ・コンプトン」、「キングコング/髑髏島の巨神」のジェイソン・ミッチェルなどが出演します。
一夜の出来事がどれだけ驚愕でおぞましいものなのか。その描写を監督がどう映し出すのか。しっかり目に焼き付けたいと思います。
ここから観賞後の感想です!!!
感想
目を背けたくなる映像の連続!!
冷酷無慈悲な白人警官の尋問、怯える黒人たち。
歴史が繰り返されようとしている今へ送る痛烈な社会派ドラマでした!!
以下、核心に触れずネタバレします。
胃に胸に心にズシっと重くのしかかる。
無免許の深夜酒場の摘発が発端となり、計5日間もの間、黒人たちによって行われた通称「デトロイト暴動」。
国境警備隊や州兵、軍隊まで送り込まれるほど過熱してしまった暴動の中、些細な出来事がきっかけで起きてしまったモーテルでの一夜を、歌手、警備員、そして白人警官の視点から描いた作品。
正直言って映画的に面白いのかといわれると素直にYesと返答はできないが、見て損はない作品でした。
日本では肌の色からくる差別が行われていないこともあり、いま世界で起きていることを中々知る機会がないわけですが、そういった意味でも非常に価値のある作品だったと思います。
上でも書いたように、白人がとにかく悪い!という描写ではなく、中には白人が黒人を助けるようなシーンもあったり、モーテルでの一連の騒動は、黒人の悪ふざけから起きたことを考えると、白人が絶対的な悪とは言い切れない気はします。
しかしながら、その後の白人警官たちの極悪非道な尋問があまりにもひどすぎて観てられません。
証拠もないのにひたすら脅して暴行を加えて、挙句の果てには銃で人を殺してしまう。
それを仕方のないことで片づけようとする。
誰かに話したらただではおかない。
自分たちに、非は、ない。
事件のあと描かれる裁判のシーンも決して気持ちが晴れやかになるような流れにはならず、最後まで重く釈然としないまま終わるので、スッキリすることはないかと思いますが、今現実で再び起きるかもしれない状況を考えると、避けて通れない映画だなぁと。
ダムが決壊するとき、一つの小さい穴から水が漏れたことで、その穴が大きくなりやがてせき止めていたものが壊され、歯止めが効かなくなるんですよね。
止め方がわからないわけです。
全部流れるまで待つしかない。
この映画で描かれている暴動も尋問も一緒で、一つの些細なきっかけが大きな騒動へと拡大していってとんでもないことになってしまう。
そんな事の顛末をあらゆる視点から描き、徹底的にリアルを追求したことで緊張感を生み出した監督の手腕が光る作品だったのではないでしょうか。
本筋までの経緯
黒人たちが北部への移動を開始した20世紀初めから、事件直前までのデトロイトでの歴史をアニメーション形式で語られる冒頭。
これから描かれるお祭り騒ぎのような暴動がどれだけ見るに堪えないものか、この時はまだ想像もできなかった。
劇中では黒人たちが腹いせに白人たちを傷つけるようなことはしない。
ひたすら店の中を荒らし、モノを盗み、火炎瓶を投げて火事を起こし束になって喚いている。
今まで溜まった鬱憤を晴らすかのように、とにかくやりたい放題だ。
そんな彼らを暴力で鎮めようとする警察官たち。
力には力で抑えることが近道なのは承知だが、あまりの大事に見境が無くなり、無抵抗な黒人にまで手を下す画があちこちで描かれている。
しかも窓から覗く少女を狙撃者と勘違いし一斉射撃をする。
どこから狙われてもおかしくない状況から漂う緊張感が、大きな悲劇を招いたとされる象徴的なシーンに感じた。
それを横目にパトロールを続ける3人の白人警官。
今回問題を起こすクラウス、フリン、デメンズだ。
彼らは僕らに頼っている、僕らでないとできないことがあると強い正義感を持っている様子が言葉から読み取れるが、その正義感が歪んだものというのも、ここではまだ想像できていなかった。
店から食材を盗んだ黒人を見つけ現行犯逮捕しようと車から降り、走って追いかけるクラウスとフリン。
足の速い黒人に追いつくことができず、発砲禁止令が出ているというのにもかかわらず、クラウスは無抵抗の黒人を背後から狙撃。
脇腹に命中するも結局捕らえることはできない。
後に彼は病院に運ばれるも命は持たなかった。
その報告はデトロイト警察に届きクラウスは上司に呼び出される。
なぜ銃で撃ったのか。
それは彼の過大解釈からの選択だった。
略奪者は犯罪者だ。
盗みに入った時にもしかしたら殺人を犯していたかもしれない。
そんな奴かもしれない黒人を警察は取り逃がすようなことをしたら、住民からどんな目で見られるか。
だから発砲しないわけにはいかない。
こんなことを真顔で平然と自分が正しいかのように喋るクラウス。
実際相手はモノは盗んだかもしれないが武器を持っていない、ただ逃げているだけ。
捕まえられないのは警官の足が遅いせい。
そして無抵抗な市民に向かって銃を向け傷を負わせ、結果死んでしまったのである。
いくら警官とはいえ立派な殺人だ。
こんな権力を盾に差別的行為を平気で行うクラウスの本性がこれから暴かれるわけです。
ウィルポールターが魅せる狂気。
この映画で抜群に僕らを怖がらせるのがクラウス演じるウィル・ポールターです。
決して怖い顔つきではなく、どこか温和で若干幼さの残る、笑顔の似合う青年の顔つきですが、その人懐っこさとのギャップが観る者をすくみ上らせるわけです。
序盤での「え?俺悪いことしてないよ?」みたいな善悪の分別もつかない態度なんて序の口。
モーテルに突入するや否や逃げる男を銃で瞬殺。
おい、さっきそれやって怒られたばかりだろ。
またやっちまった!って顔すらもしない。
平然と正当防衛だったという証拠を作り、モーテル内にいる男女を壁に手を付けさせ尋問開始。
この中に犯人がいるのはわかっている。
いったい誰が撃ったんだ!
もう決めつけです。
この中に犯人がいるていで尋問しています。
そしてここから白人警官たちによる「死のゲーム」が始まるわけです。
一人ずつ個室へ呼び、喋らないと撃つぞ!と脅し、耳元で銃声を聞かせ、ビビらせたのちに黙ってひざまずいていろと命令。
こうすることで、仲間が死んだものと思わせ、他の誰かが自供するだろうと画策するんですね~。
ちなみにこの間、クラウスのへの字眉毛は、もはや反りあがり過ぎて定位置を見失っている蛯原友里の笑顔と同じ状態。
歌舞伎役者も顔負けの眉毛っぷり。
もう怒っているんだか笑っているんだか、感情がごっちゃになっています。
全員あれこれ尋問しても犯人が出てこないことや、口答えする奴も出てきて苛立ちが隠せないのか、額は油汗をかき、徐々に焦り出してくるクラウス。
これも狂気に拍車をかける感じで、緊迫状態はさらに高まってきます。
この白人警官たち、すごく決めつけるんですよね。
こいつらの誰かが銃を持っていて俺たちに発砲してきたこととか、美容師の女の子が黒人と部屋にいたからというだけで売春婦と決めつけ、その黒人のグリーンも戦争帰りで仕事探しているっていってんのに、違うとか言ってひたすら殴る蹴る。
どうしてそうなっちまうのか。
この一夜の後裁判に突入するんですが、その時のクラウスの顔も嫌味な顔をしています。
頬杖をついて早く終われみたいな態度だし、とにかく自分がやらかしたことに、早く銃を出さないからこうなるんだと、全く非がない、自分に落ち度がないと思っているのがマジで怖い。
どこか腑に落ちない。
見終わってふと思ったのは、尋問の時、なぜ黒人たちは「あれはオモチャの銃だったんだよ!誤解だよ!」と誰一人言わなかったのか。
そして、なぜ警官たちは殺してしまった男の遺体から銃を探そうとしなかったのか。
どこかお互いがお互いを信用しなさ過ぎて、肝心の事をスルーして事が運ばれているように思えました。
確かに序盤モーテル内でポールたちが、黒人たちはちょっとのことで警官に職質されて、何かの拍子で逮捕させられるような理不尽なことばかりだっていうのを冗談半分でやっていて、実際なんか言っても聞いてくれない、何か言ったら殺される、というのが条件反射になってるとすると、本当のことを言えなかったというのは理解できるんだけど。
警察側も最初こそ躍起になって銃を探していたのかもしれないけど、途中から言うことを聞かない黒人たちに、ただただ怒りをぶつけていただけのようにも見える。
実際脅して吐かせる「死のゲーム」だって言ってるくらいだし、クラウスに関しては一度無抵抗の黒人を撃ったことできついお灸をすえられてるから、それの鬱憤晴らしだったのかもしれないし。
まとめ
色々切り取っての感想になりましたが、無抵抗の黒人を白人警官が射殺するという事件は今も起きています。
近年は事件が多発しているそうで、かつてアメリカではこんな哀しい出来事があったのに、あなたたちはまだ繰り返すつもりですか?という監督の痛烈なメッセージとも取れる作品でした。
この事件を機に、心にしこりを残したまま暮らしている人物を配置していることから、どれだけ悲惨な事件だったのかが理解できるかと思います。
しかし、終わり方もどこかしっくりきません。
ジョン・ボイエガ演じるディスミュークスは、黒人でありながら警官側にも立てる中立的立場で、事のすべてを目撃しています。
このモーテルでの非人道的な事件で黒人を救えるのは彼しかいないのに、彼は何もできません。
しかもその後起きる事に軽く衝撃で。
何が言いたいかって、一夜での出来事はどう見たってクラウスたちが悪いので、こいつらに怒りの鉄槌を食らわせられるのは彼しかいないはずなんです。
なのに、全然予想してない事態が起きて、結果何もできずに終わってしまう。
結局彼の立ち位置は何だったのか?って話です。
事実に基づく話なので、なんでもかんでも結末をキレイにできるわけではないのですが、このモヤモヤを何かしらキレイに締めてくれるような流れが欲しかったというのは本音です。
納得できないことがいくつかありましたが、それ以上に劇中の黒人たちは警察のやり方に、裁判の判決に、納得がいかなかったでしょう。
そう考えたら俺のこの映画に対する納得できなかったって感想なんてかわいいもんです。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10