ディック・ロングはなぜ死んだのか?
なかなかのタイトルだと思いません?
一見ミステリーを思わせる作品名、いや邦題だと思うんですけど、名前がさ、
ディック・ロングですよ?
察しの良い方は、このタイトルを見て、あ~そういう映画ね!w
と思う方も多い、いや、むしろこれ見に行く人、この名前の意味わかってるから見に行くんですよね?
そうに決まってるのを承知の上で説明しますと。
デッィクというのは、いわゆるスラングにあたるんですね。
元々は「リチャード」さんの略称「リック」が「ディック」と呼ばれるのが定説だったそうなんですが、80年代以降「突きさす棒」という意味の「prick」に発音が似ていることから、「dick」と呼ばれるようになったんだそうです(諸説あり)。
え?何が?
はい、ナニです。
女性のみなさんすみません…この「ディック・ロング」という名前。
まぁ直訳すると、デカいナニってことになります。
あ~あ、言っちゃった…。
一体なぜ彼は死んでしまったんでんしょうね・・・、ってことよりも、お前はこの名前で良く生きてこれたな!
日本で言ったらあれだ、「うんこたれぞう」レベルの名前だぞこれ?
そういうイジリは劇中にあったりするのかな?
まぁこれを手掛けた監督の前作がね、下ネタ満載のハートフルヒューマンドラマだったんで、今回もがっつり下ネタ満載なんでしょうね。
いやはや楽しみw
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
オナラばかりしまくる死体との無人島生活と現実への帰還を、優しい筆致と中二病感満載の下ネタ、さらに斬新な構成と演出で、映画ファンの心を掴んだ「スイス・アーミー・マン」の監督が手掛けた新たな作品は、またもや不謹慎ギャグ連発のダーク・コメディ。
アメリカの片田舎で起きた男性の怪死事件を発端に、死の真相を知る友人がなんとかひた隠そうとするも、あまりにも雑な隠ぺい工作故にバカバカしいさまが繰り広げられていく。
実際に起きた事件から着想を得た本作。
狭い地域だからこそ錯綜する情報に慌てふためく彼らに、誰もが名作「ファーゴ」を思い出すに違いない。
死の真相はネタバレ厳禁と謳う本作。
ディックロングはなぜ死んでしまったのか?
あらすじ
ジーク(マイケル・アボット・Jr.)、アール(アンドレ・ハイランド)、ディック(ダニエル・シャイナート)の3人は売れないバンド仲間。
ある晩、練習と称しガレージに集まりバカ騒ぎをしていたが、あることが原因でディックが突然死んでしまう。
やがて殺人事件として警察の捜査が進む中、唯一真相を知っているジークとアールは彼の死因をひた隠しにし、自分たちの痕跡を揉み消そうとする。
誰もが知り合いの小さな田舎町で、徐々に明らかになる驚きの“ディックの死の真相”とは…?(HPより抜粋)
監督
今作を手がけるのは、ダニエル・シャイナート。
「スイス・アーミー・マン」の監督であるダニエルズの片割れでございます。
よくわからないんですけど、今作は「ダニエルズ」名義でない事から、相方のダニエル・クワンは参加してないでしょうか。
その辺が探しても見つからないので、ちょっとモヤモヤしているところですが、仮に彼だけだとしても期待値は変わりません。
前作「スイス・アーミー・マン」では、中学生、いや小学生並みの下ネタで劇場を大爆笑にさせたにもかかわらず、弱者ならではの悲哀と彼らに向けた優しさを丁寧に抽出し、終盤に向ってハートフルなドラマへと転換させた脚本には驚かされました。
今作もミステリーを予兆させる内容に見えますが、きっと前作のように可笑しみと優しさを上手く描いてる事でしょう。
今作について監督は「ファーゴ」から強く影響を受けたと語っており、狭い町の小さなコミュニティで起きた混乱をシニカルに描いた点や、キャラ設定、大真面目な人物のやりたいことが真逆に進んでいく点、さらにはコーエン兄弟が「ファーゴ」で故郷を舞台にしたことにも触れ、自身の故郷であるアラバマ州を舞台にしたことも解説しています。
また、「ブレイキング・バッド」やクエンティン・タランティーノ監督作品、「ハングオーバー」へのアンサーとして製作したとも語っています。
写真の通り、監督は今作で謎の死を遂げてしまうディック・ロング役としても出演。
初めて見るであろう演技にも注目です。
キャスト
友人の死の真相を知る男、ジークを演じるのはマイケル・アボット・Jr.。
すいません、全く存じ上げない俳優さんです…。
もしかして初主演作なのでしょうか。
調べてみると、森の中で謎めいた危険な男と出会った少年二人組の、ほろ苦いひと夏の経験を描いた「MUD-マッド‐」や、アメリカで異人種間の結婚が犯罪だった頃の時代を舞台に、純粋に愛を貫き、やがて法律を変えていった一組の夫婦の実話を描いた感動作「ラビング 愛という名前のふたり」に端役で出演してるそうです。
いやぁ~覚えてない・・・
そしてどちらもジェフ・ニコルズ監督。
他のキャストはこんな感じ。
ジークと同じく友人の死の真相を知る男、アール役に、「俺たちポップスター」のアンドレ・ハイランド。
他、バージニア・ニューコム、サラ・ベイカーなどが出演します。
ダーク・コメディと銘打ってますが、笑ってはいけないギリギリのところを突いてくるギャグなんでしょうか。
集中して観賞しようと思います。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
冒頭からネタバレ書いてたわw
嘘に嘘を重ねてドツボにハマる男の滑稽さと悲哀が、なんとも言えない空気を生む。
しかし死因は・・・・さすがに引く。
以下、ネタバレします。
日本版ポスターが既にネタバレ。
夜な夜なバンド練習をしながらバカ騒ぎをした結果、友人を死なせてしまった男2人組が、隠ぺいに隠ぺい、嘘に嘘を重ねていくまでの馬鹿馬鹿しいやりとりと、バレてしまった時のやるせない空気感、さらに事件を追う女性警官二人組のエピソードを挟むことで、アンジャッシュのコント並のすれ違いでユーモアを生み、さらにはどぶろっくの歌のような下ネタをぶっこんで来るあたりの不謹慎ジョークに、笑っていいのか笑っちゃいけないのかのギリギリを突いてくる、ある意味観たことのない作品でございました。
スイスアーミーマンの監督がどんな下ネタをぶっこんで来るのかが一番の楽しみだった今作。
中盤でデッィクの死因が明かされた時、大いに笑えるものだと思ってましたが、まさかそんな死因だったとは…と開いた口が塞がりませんでした。
男ってのはいくつになっても集えばくだらない話をしたりバカ騒ぎをしたり、時には羽目を外すようなことしちゃう生涯ガキンチョな生物だと認識してはいるものの、さすがにこれは笑えない・・・。
しかもそれが原因を命を落としてしまうわけですから、ジークとアールは何やってんの!?と。
どういう経緯があったにしろ、まずは命優先だろう、それからどうにだってなる。
命が助かればいつか笑い話になる、そうは思わなかったのだろうか。
とはいってもいざ自分が当事者だったら、なかったことにしようとなるんでしょうね。
今作はそんな真実を言う勇気のない男が、頭の悪い隠ぺい工作を繰り返す姿を滑稽に描きながら、やってしまったことの代償の大きさ、取り返しのつかない事態に、どう決着を付けるかということろまで描いています。
監督は映画「ハングオーバー」に対し、自身としてのアンサーを投げかけたと仰ってましたが、なるほど、ハメを外しても結果オーライってなるのは一握りで、ほとんどはデカいツケが回ってくるものだということを言いたかったのでしょう。
彼らがしでかしたことは、都会でならまだすぐ鎮火するようなボヤ騒ぎで済んだでしょうが、これだけ狭い町でやらかしたのでれば、例え命が助かったとしても白い目で見られてしまうでしょうし、暮らしていても生きた心地がせず、一生後ろ指刺されるだけでしょうから、最後に下した決断は僕としてはある意味正解なのかなと感じました。
で、見終わった後改めて日本版ポスターをよく見たら、「死因はネタバレ厳禁!」とか言っておきながら、なかなかのヒントを映してるじゃないですか!
ダメだろこれw
しかも僕冒頭で、「ディック」のスラングの語源に触れてるんですが、これも結構核心をついてしまってて、あ、しまった!と。
でも「ディック」の意味を理解してる者と、理解していない者との「すれ違い」が今作では一つのユーモアを生んでいるので、是非知ってる人と知らない人とで見に行ったら、案外おもしろい感想戦ができるのではないでしょうかw
すれ違いと気まずさが生み出すユーモア
今作で一番笑えたのは、登場人物たちが織りなす「すれ違い」と「気まずさ」の小気味良さ。
デッィクを病院に置きっぱなしにした際、身分を隠すために財布を盗んだことがそもそもの始まり。
家に持ち帰り、妻に5ドル札を渡すんですが、なぜかディックの財布からお札を抜いて渡してしまい、それを娘がモロに観ていたせいでまず一つ目の大きな嘘をついてしまう。
財布変えたの?
いや、拾ったんだ
じゃあ警察に届けなくちゃね。
後部座席にこびりついた血をシーツで隠すも、娘を学校へ送る際、見事に後部座席に座ってしまったせいで、背中は血だらけ。
しかも道中寄ったコンビニで保安官とばったり遭遇。
保安官に娘の背中にこびりついた血を見られたらとんでもない事態になってしまうので、ひた隠そうとするジーク。
これに加えて娘が「パパが財布を拾った」と報告してしまうので、結果友人であるディックの財布を渡してしまうという事態に。
ここまででかなりの気まずさが生まれ、小さな波のような笑いが生まれます。
ことはどんどん大きくなっていく。
娘に一日を洗い落とすために一度帰宅、風呂に入れて衣服を処分、アールに送迎を頼み、ジークは後部座席の血を落とそうと躍起になりますが、アールのアドバイスで、車を盗まれたことにしようという案を採用、湖に車を鎮めに行きます。
妻からの連絡で、誰かが殺されたらしいと、ディックが死んだことを初めて知るジーク。
妻の帰宅後、どこか落ち着かないジーク。
車を盗まれたことを打ち明けると、警察に通報する妻。
思い描いてた計画でしたが、良かれと思って着いた嘘がどんどん真実へと近づいていく、いや~な展開に。
前日の夜に車を盗まれた、とジークは話したが、じゃあ娘はどうやって学校へ?と疑問を浮かべる妻。
アールが送っていったんだとジークはある意味真実を離しましたが、ここで娘がいらんこといってしまい、朝には車があったことを知られてしまう。
観てるこっちは、あ~やばいやばい、なんでもっとうまくごまかせないんだ!と、歯がゆくなること必至です。
とうとうジークはディックが死んだことを妻に告げ、なぜ死んだのかを明かすのですが、妻は気が気じゃない状態に。
あんたアタシの知らないところでなんてことしてんの!?バカじゃないの!?
そんな人と今まで暮らしてたの!?
あり得ない!出ていってちょうだい!
当然の報いです。
幾らバカ騒ぎしてもいいけど、明らかに倫理を越えている。下品極まりない。
男の自分が思うわけですから、妻の心理状態はもっと混乱したことでしょう。
この後、なかなか帰らない夫ディックを不安に思う彼の妻も登場。
車の盗難に関して質問を聞きにやってきた女性保安官に、ジークの妻、ディックの妻がテーブルを囲み、ジークは空前絶後のピンチに陥ります。
警察にもディックの妻にもバレたくない。
自分の妻にも嘘を懇願するという情けなさも加わり、ジークのビンボーゆすりは止まりません。
この気まずさを笑えるか笑えないかのギリギリを突いてくる楽しさが、今作にはありました。
ジーク視点のエピソードと交互に挟まれるのが、女性保安官二人の捜査のエピソード。
病院から連絡を受けたおばあちゃん保安官。
松葉づえをつきとぼとぼと歩く彼女に、果たして公務が務まるのか疑問でしたが、アメリカではよくある光景なのでしょうか。
しかも酒を水筒に入れてジュースで割って飲んでらっしゃる。
被害者は直腸から出血していて、さらに後頭部にも打撲の痕。
強姦された疑いがあることを知らされます。
のどかな狭い町で、こんな卑劣な殺人事件が勃発するなんて、と女性保安官は思ったのでしょう。
大きな事態にひとりでは解決できる自信がないためか、もう一人の女性保安官をパートナーに、事件の行方を追うことに。
その後病院からの連絡で、体内から採取した体液のDNAを調べた結果、人間の体液ではないことが判明。
彼は一体誰で、なぜこんなことが起きたのか、捜査はさらに謎を深めていくのであります。
そして車の盗難の一報が入り、事件現場と盗難に遭ったジークの家が1本の道で結ばれていることに驚愕。
事件が進展した可能性に、やる気になる後輩女性保安官。
また、保安官二人は「セオドア」の愛称についてやり取りした会話をしており、彼をテッドと呼ぶおばあちゃん保安官に対し、後輩保安官はエドでしょうと。
このやりとりが、やがてジークから預かった財布の持ち主リチャードの愛称がディックだということを知る手がかりへと繋がっていくのであります。
最後に
公式がネタバレ厳禁と謳っているので、今回死因については言及しないよう感想と解説をしてみました。
田舎という狭い地域だからこそ知られたくない真実。
知られれば死んだまま生きていくようなもの。
真実を告白できない弱さが招いたドロ沼の悲劇を、笑えるか笑えないかのギリギリで描いた今作は、僕としては笑えることができないオチになってしまいました。
さらに皮肉なのが、最後にニッケルバックの名曲「How You Remind Me」で締めるというもの。
あれ確かボーカルがなかなか売れることができず、自分のせいで別れてしまった恋人に対して向けた歌だってのを、ブレイク当時に何かの記事で読んだ記憶があるんですけど、まさか今作で聞くことになるとは。
君に謝罪の言葉なんて似合わない、全て俺の責任、墜ちるところまで墜ちた。
いやぁ笑えないw
男性陣の皆さん、バカ騒ぎする際は是非、常識の範囲内で節度を持って行動していきましょう。
あとで取り返しのつかないことにならないように。
あとで人生を終わらせるようなことにならないように。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10