グリーンブック
冒頭からで恐縮ですが、予告編を見るたび、私、泣きそうです!!
「最強のふたり」とか「スケアクロウ」とか「最高の人生のみつけ方」とかヒューマンものもそうだし、「リーサル・ウェポン」とか「48時間」とか「明日に向かって撃て!」とか「ミッドナイト・ラン」とか、おっさん二人がいがみ合いながらも仲を深めていく過程で、めっちゃ良い笑顔を浮かべ合うシーンなんかあったらそりゃあもう!!!!
多分こんな人生に憧れてるんですよw
いい歳した二人がね、子供じみたようなことでじゃれあったり喧嘩したり仲直りしたり。
女性二人の物語もいいけど、男はね、バカなとこがいいんですよ。
不器用なトコがいいんですよ。
そして舞台が60年代という人種差別が色濃くあった時代に、白人と黒人がどう絆を深めていくのか。
深めていくってこと。
もちろん二人の間に偏見がなくなっていくことになるんだろうけど、今再び昔の時のような時代になるかもしれないって時に、この映画が答えを導いてくれると思うんですよ。
それが何なのか、この目で確かめるべく鑑賞してまいりました!!!
作品情報
1962年の公民権運動が盛んなアメリカを舞台に、白人の用心棒兼運転手と黒人の有名ジャズピアニストがアメリカ南部でのツアーを共に行動していくことで、人種差別や偏見を下地にし、それを逆手に取りユーモアに変え、二人の関係性に胸を熱くさせる、ロードムービーにしてバディムービーなドラマ。
本作はトロント国際映画祭で観客賞に選ばれたのを皮切りに、ゴールデングローブ賞3部門受賞、そしてアカデミー賞作品賞はじめ5部門にノミネートされ,、見事アカデミー賞作品賞を受賞した。
タイトルになっているグリーンブックとは、黒人が利用可能な施設が記載されたガイドブックのこと。
黒人が一般公共施設の利用を禁止または制限した法律=ジム・クロウ法が、群や州によって異なる南部では非常に重宝されたものである。
これを旅のお供にしながら、保守的な家庭に育ったイタリア系白人のトニーは、有名黒人ジャズピアニストのシャーリーを通じて、どう偏見を無くし絆を深めていくのか。
ツアーの本当の目的に胸を熱くし、極上のラストにスタンディングオベーションを贈らずにいられない、痛快で爽快、驚きと感動の実話!
あらすじ
時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。
ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。
彼の名前はドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。
二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。 (HPより抜粋)
監督
今作を手がけたのはピーター・ファレリー。
名前こそピンとこないかもしれませんが、下ネタやギリギリのブラックジョークなどをふんだんに入れたコメディ映画「メリーに首ったけ」や「愛しのローズマリー」の監督であります。
ただ僕の中で疑問なのは、これまでファレリー兄弟として共同で監督してきたのに、なぜ弟のボビーを抜きにして単独でやろうとしたんだろうと。
記事がどこにも見当たらないのですが、不仲とかではないですよね・・・。
そんな監督の代表作をサクッとご紹介。
基本的にはコメディやロマコメを得意とする監督は、一目ぼれした女を追いかける男二人の珍道中を描いた「ジム・キャリーはMr.ダマー」で監督デビュー。
その後、一人の女性を忘れられず追い求める男と世の男性を虜にしてしまう女性とのエッチ満載なロマンティックコメディ「メリーに首ったけ」が大ヒットし、キャメロンディアスの人気を決定付けた作品としても知られるように。
他にも、心は美しいが体重がものすごく重い女性と、催眠術で彼女に好意を寄せてしまう中年男性の恋の行方を描いた「愛しのローズマリー」、お互いが腰の部分でくっついている結合性双生児のドタバタ劇と心の絆を、ブラックジョーク満載で描いた「ふたりにクギづけ」、レッドソックスの熱狂的ファンを彼に持つ女性の苦悩と戸惑いをユーモラスに描いた「2番目のキス」など、一貫してバカバカしくも愛すべきコメディを作り続けてきた。
そんな彼が作風を一転して描いた今作は、白人の用心棒トニーの実の息子さんであるニック・バレロンガも共同脚本で携わっているそうで、今回の映画化も父が残してあった手紙やテープに吹き込んだエピソードをつないで物語にしたとのこと。
果たしてどんな作品に仕上がっているのでしょうか。
キャスト
ガサツで無学、でも頼りがいのあるイタリア系白人トニー・“リップ”・バロレンガを演じるのはヴィゴ・モーテンセン。
彼もうキャリアだいぶ長いと思うんですけど、彼の作品1本も見たことないんですよねぇ・・・。
映画好きの道は長くて深いですなぁ・・・。
元レンタルビデオ屋なんでね、何に出てたとか情報は持ってるんですけど、いかんせん返却作業中に見た気になっちゃうっていう残念な思考でしてw
とりあえず彼の代表作なんかを!
殺人事件の目撃者になってしまったアーミッシュの少年と母親を守る刑事のサスペンス映画「刑事ジョン・ブック 目撃者」で映画デビューした彼は、様々な作品で存在感を出しキャリアを重ねていきます。
転機となったのは、絶大な力を秘めた指輪を巡って繰り広げる冒険を描いた壮大なファンタジー映画「ロード・オブ・ザ・リング」で旅の仲間のリーダー的存在アラゴルンを演じ、一躍人気になります。
さらにはロンドンの裏社会を舞台に、マフィアの敵になってしまった女と、マフィアでありながら優しさと怖さを持ったなぞめいた男の心の交流を描いた「イースタン・プロミス」でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。
他の映画賞でもたくさんの受賞を獲得しています。
近年では、文明社会に隔離された山奥で生活する父親と子供たちが、亡くなった母親の願いを叶えるために都会へ旅に出るロードムービー「はじまりへの旅」で2度目のアカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たしています。
他のキャストはこんな感じ。
ホワイトハウスでも演奏経験のある天才ピアニスト・ドクター・ドナルド・シャーリー役に、「ムーンライト」、「アリータ:バトルエンジェル」のマハーシャラ・アリ。
トニーの妻・ドロレス役に、「ブロークバック・マウンテン」、「ファウンダー/ハンバーガー帝国の秘密」のリンダ・カーデリーニなどが出演します。
ドクターのツアーの本当の目的は何なのか。
最強のふたりの旅を見終えた後、どんな気持ちになるんだろうか。
楽しみで仕方ないです!!
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
期待通りの面白さ!!
共に旅をすれば偏見や差別意識などフライドチキンの骨と共にポイっと捨て去ってしまうのだ!!
以下、核心に触れずネタバレします。
普通のバディ映画とはちょっと違う。
60年代のNYブロンクスに住むイタリア系用心棒が、ひょんなことからソ連で育った黒人ピアニストの運転手としてディープサウスのツアーに同行する中で、白人はこうだ、黒人はこうだ、貧乏はこうだ、金持ちはこうだ、という決めつけや偏見から少しづつ解放され、共に人間の中身を理解し絆を深めていく二人の旅路を、容赦ない現実を見せながらもユーモアで彩った、「最強のふたり」をいつまでも観ていたいステキな、ステキな!映画でございました!!
「抜群に面白い!」とは言えないんだけど、優しさに包まれながら笑顔になれるこの感じ。
ぶっちゃけて言うと、期待値を超えるほどの面白さではなかったんです。
だけど二人のその後の物語をまだ見ていたい、8週間の旅路で終わりにしてほしくない、そんな名残惜しさを抱いた映画でした。
やはりバディムービーは、何もかも正反対の2人が感情をぶつけたり意見を交わしながらも、互いを理解していく関係性が肝なわけでして、この映画もそういった教科書通りの内容でした。
ですが、見終えた時の気持ちはそれまでのバディムービーとはちょっと違う感覚です。
一体どこが違うんだろうと考えた結果、それはどちらもバカなことをしない、ってのが一つあると思います。
普通どちらかの無茶な行動にしょうがなく付き合うシーンなんてのがバディムービーにはよくあるんですね。
で、実際やってみると、おいなんだこれ楽しいな!みたいな描写があるんですよ。
もちろん本作にもありまして。
ケンタッキーフライドチキンを見つけてバケツごと購入し、ドクに強引に「食えよ!うめえぞ!ほれ!」と、ドクが嫌がっているのに食べさせるトニーというシーンがありまして。
ドクは本当に嫌がるんです。
手に油が!とか毛布に衣が!そもそも黒人は皆フライドチキン食うとかちげえから!みたいにとにかく拒否をする。
そうときたら意地でも食わせたいトニーは、「おい!俺今片手運転なんだよ、10時と2時の方向にハンドル持たなきゃいけねえんだよ、ほれ持て!」と強引に渡す。
すると、初めて食べるフライドチキンが案外イケる!ってなるんですね、ドクが。
これが、いわゆる相手に無理矢理付き合ってみたら意外と楽しかった、っていうバディムービーのお決まりの場面にあたるんです。
で、普通ならここで次の場面に行くんです。
二人の絆が深まるってことで。
ただ、本作はここで切らないんです。
食べ終わった骨はどうするか、トニーは窓から放り投げます。
ハハハ、いいねこりゃ、みたいな感じでドクも放り投げます。
その後飲んだドリンクのカップもトニーは放り投げるんですが、ここでドクは真顔に。
そう、ポイ捨てはアカン!ということで、捨てたドリンクをバックして取りに行くところまで映して次の場面へ行くんです。
骨は自然に還るけどカップは自然に還らない。
だからそれはやり過ぎ、ってことでボスの命令に従うトニー。
ちゃんちゃん。て感じで。
このようにムチャをするんだけど、ちゃんと許容範囲で出来るムチャで済ませる二人の関係になってるんですよね。
やり過ぎないムチャとでもいいますか。
で、ふと思ったのが、監督の作品、あまり見ていないけど基本ど下ネタが満載だったり不謹慎なネタを平気でコメディに持っていく手加減のない描写で笑いを作るお方でしたが、今作は過去作に比べてまぁ~マイルド。
そりゃアカデミー賞作品賞に輝くんですから、過去作のようにやり過ぎな部分はないだろうと予想していたとしてもマイルドだったんですね。
これ僕の妄想ですけど、監督はきっといつも通り突き抜けたユーモアにしたかったけど、脚本のニック・バレロンガによって制止したうえで、こういう笑いにしたのかなと。
実際ドクは高貴なタイプの人間。
彼をキャラクターを活かすために、トニーの愚行や暴走を止めるストッパー的な役割をすることでほのかな笑いに仕上げたんだなぁと。
単純にボケとツッコミですかね。
この感じが今までにないバディムービーになっているのかなぁ、だからちょっと違和感あったのかなぁ、というのが僕の感想です。
2人のキャラが濃ゆいw
いつまでも二人を見ていたい理由は、なんといっても二人のキャラクター性です。
どっちかが何かしでかしたらどっちかが庇い、その場をうまく切り抜ける。
バディ映画にはなくてはならない関係性ですが、どのエピソードもすごくいいんですよ。
簡単に二人の性格をいうとですね、トニーはイタリア系の白人で黒人差別主義者でもあります。
お掃除に来た黒人が飲んだレモネードのコップを指でつまんで捨てるほど嫌悪感を持つ人なんです。
まぁよくそれでドクの運転手引き受けたなぁという疑問はありますがw
旅の途中でも、ドクに対してお前黒人なのに、フライドチキン食わねえの!?お前黒人なのにアレサ・フランクリン聞かねえの!?と偏見持ちまくりだし、どれも直球で言ってしまうデリケートさの無い性格。
そしてとにかく食べます。
ホットドッグをどっちがたくさん食えるか50ドルで賭けようぜ!と持ち掛けた巨漢の男に2個差で勝ってしまうほどの胃袋の持ち主ですし、一人でLLサイズ級(あくまで日本基準)のピザを二つに折りたたんで頬張ったり、ケンタッキーフライドチキンをバケツで購入するくらいとにかく食べます。
そしてヘビースモーカー。
ドクが煙いって言ってるのに彼の前でガンガン吸うあたりから、彼は配慮するような男ではないってことです。
また、用心棒やっていただけあって、その腕っぷしと度胸からドクが雇いたくなるのもわかります。
高級クラブ・コパカパーナでも2,3発で騒ぎを起こした客をKOしちゃうし、スタインウェイを用意しないホールのスタッフをひっぱたく程度のパンチでヒーヒーさせる力、果ては警官も1発でKOさせちゃうくらいのパワーを持っているんですね。
そりゃあれだけ食えるわ。
やはり貧乏性が消えないせいか、休憩をとったスタンドで無人販売している石を見て、お金を払わずに盗んでしまうんですね。
正確には売り場から落ちていた石を拾ってきちゃうんですが、落ちていても売り物なわけです。
そしてハッタリで切り抜けてきた実績。
とにかくその場からうまく逃れるためにはどんな手も使うわけです。
ドクが南部で一人で外出し、バーに入ってしまったことで白人たちに暴行させられるシーンでは、拳銃を持っているふりをしてその場をしのいだり、ドクが白人男性と一緒に捕まってしまった時は、金で警官を買収したりと、あの手この手で切り抜けるキレの良さも持っています。
そして旅のパートナーであり、ボスであり、ピアニストであるドク。
登場からいかにもトニーとは住む世界が違う高貴な振る舞いに、ちょっと笑ってしまいます。
ソ連で幼少時に英才教育を受けアメリカへやってきたドクは、音信不通の兄弟がいたり、結婚を控えた女性がいたが、ピアニストと夫を両立することが難しいと考え破談になってしまったという過去をもっていました。
そして黒人にもかからわず、アメリカ人の黒人がどんな差別を受けているのかよく理解していない人物でした。
そのため黒人が好む音楽や食べ物を避けて通ってきたことで、トニーから驚かれてしまうほど。
要はお坊ちゃんてことですね。
上品で丁寧な口調、マナーにもうるさい。
なのでトニーのすることなすこと注意が絶えません。
しかも注意する際も直接言うのではなく、まずトニーの性格に敬意を表した後に注意するんですね。
例えば、トニーの言葉に「個性的で君らしい。だがここは上流階級が集まる場所だから君なら努力すればその言葉遣いも直る」みたいな。
ガサツなトニーに対し、ドクは上品という対照的な人物だったわけですね~。
しかしいざ南部まで入っていくと、自分が黒人であるにもかかわらずどういう待遇をされるか、まるで分っていません。
悪い言い方をすれば世間知らず、とでも言いましょうか。
黒人差別が色濃い南部を一人歩いてバーに入っちゃうし、トイレも宿も白人とは別なのも、わかっているのに入ろうとする。
ただ彼の素敵な所は、自分がそんな人間でもプライドを持っていること。
どんなに迫害を受けても彼は暴力を振るわないし、決して自分を曲げない。
トイレも黒人専用使ってくださいと言われれば、じゃあモーテルまで戻るからそれまで客を待たせろ、とか、黒人お断りのレストランでも、じゃあコンサートはやめだ!とか。
そしてちょっと寂しがり屋。
普段夜は一人で酒瓶抱えて考え事をしながら飲んでいる姿が確認できますが、ホテルで彼が見ていたのはバックバンドのメンバーが美女と楽しそうに飲んでいる風景だったり、トニーが旧友とばったり旅先で会った際、仕事やるよといった話を聞いてしまい、トニーが彼らと落ち合う前に、マネージャーとして昇格させてあげるから辞めないでほしいというのを遠回しに言ったり。
普段はツンケンした感じですが、こういう淋しい一面を見てしまうとキュンキュンしちゃいますね。
そして彼はロマンチストでもあります。
奥さんに手紙を書く際、あまりにもぐちゃぐちゃな言葉で書くトニーに、アドバイスをするドク。
「灰色と黄色の落ち葉が風に舞う今日この頃、君との距離が離れる度に、僕の君への思いは増していく」みたいな。
この正反対の二人が欠けている部分を補い、互いを尊重していく物語なのであります。
きっと見たら二人を愛してやまなくなることでしょう。
最後に
ピアニストとしては優遇されるし称賛される一方で、ステージを下りればただの黒人扱いとして差別を受けることに悩むドク。
ナット・キング・コールは白人たちの前で白人の歌を披露した際、暴行されたと、バンドメンバーが語りました。
そういう事実を知っていながらドクはなぜ南部という根強い差別がある場所でツアーを敢行したのか。
「天才という才能だけでは人々を変えることはできない、行動することが彼らに勇気を与えることだ」ということを、ドクはトニーに話します。
だからどんなに白人から差別を受けても手は出さないし、プライドは捨てないのです。
それを知ったトニーは彼を理解し、手を尽くすんですね。
またいわゆるステレオタイプな黒人として育ってこなかったことや、セクシャルマイノリティであることも加わり、ピアニスト以外の彼は、何者なのかわからず孤独そのものでした。
それが夜一人で酒を飲む彼だったんですよね。
そんな時に自分を理解してくれたトニーはかけがえのない友人だったのでしょう。
とにかく、この二人の関係をいつまでも観ていたい気分にさせる、小さなユーモアがたくさん散りばめられたステキな映画でした。
確かに白人が作ったこともあり、差別に関する部分はいささか生ぬるい部分がありますし、ニュースでも報じられた「まるで白人が説教している映画」と取られても仕方がないなというのが見受けられます。
僕はこの映画、黒人たちを白人は理解できる、というのが出てしまっていることが原因なのかなと。
それに対する黒人たちの言い分がニュースになってしまってるのかなぁ、と。
それにしても良い映画でしたよ。ええ。これだけは譲れません。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10