イン・ザ・ハイツ
「ハミルトン」というミュージカルをご存じでしょうか。
「メリー・ポピンズ・リターンズ」で出演したのも記憶に新しいリン=マニュエル・ミランダが脚本、作詞作曲、主演を演じたブロードウェイミュージカルでして。
どんな話かっつうと、アメリカ建国の父の一人であり、初代財務長官アレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いた内容で、ヒップホップを筆頭に様々なジャンルの音楽を融合、しかも歴史上の人物を有色人種に配役する斬新な設定や、アメリカの文化や歴史、教育に至るまで網羅した作品として非常に優れた話なんだとか。
批評的にも興行的にも大成功で、トニー賞やグラミー賞、ピューリッツアー賞まで獲ってしまうほど。
ディズニー+で視聴できるようなので、興味のある方は是非。
で、今回鑑賞する映画は、「ハミルトン」を手掛けたリン=マニュエル・ミランダがかつて手掛けたミュージカルを映画化した作品。
実在するにぎやかな街で、夢を追う若者たちの姿を圧倒的パフォーマンスで描くとのこと。
ミュージカル映画を見ると気持ちがブチ上がる僕にとっては、非常に期待の出来る作品。
期待通りになるかな~。
早速鑑賞してまいりました!
作品情報
トニー賞で4冠を受賞した傑作ミュージカルを、全編アジア人で構成された作品で3週連続1位を獲得し、これまでの前例を覆した監督の手によって映画化。
実在する賑やかな移民の街「ワシントンハイツ」に暮らす若者たちが、逆境に立ち向かいながら、夢を追い求める姿を、圧巻のスケールダンスと音楽で描く。
恋人の実家が大富豪だったことから、様々なトラブルや試練に見舞われる姿を、コミカルに描いた「クレイジー・リッチ!」を手掛けた監督が、映画だからこそできる演出とカラフルな配色、さらには社会情勢を組み込むアレンジにしたことで、今見るべき映画へと進化させた。
アリアナ・グランデやヒュー・ジャックマンも絶賛した本作。
彼らの歌が今、世界中に響き渡る!
あらすじ
“何度でも立ち上がる”――
逆境に立ち向かう人々と、夢に踏み出す若者たち。
NY、片隅の街から今の世界に響き渡る魂の歌!
感動のミュージカルニューヨーク・“ワシントン・ハイツ”は、いつも音楽が流れる、実在する移民の街。
その街で育ったウスナビ(アンソニー・ラモス)、ヴァネッサ(メリッサ・バレラ)、ニーナ(レスリー・グレイス)、ベニー(コーリー・ホーキンズ)はつまずきながらも自分の夢に踏み出そうとしていた。
ある時、街の住人たちに住む場所を追われる危機が訪れる。
これまでも様々な困難に見舞われてきた彼らは今回も立ち上がるが―。
突如起こった大停電の夜、街の住人達そしてウスナビたちの運命が大きく動き出す。(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、ジョン・M・チュウ。
作品情報でも書きましたが、「クレイジー・リッチ!」で大ヒットを収めた監督。
ロマコメでありながら、アジア系アメリカ人がアジアの地ではアメリカ人として扱われてしまう苦悩を盛り込んだお話でした。
監督は本作について、主人公が抱く想いと当時の自分が重なる部分があると語っています。
家族が切り拓いてくれたからこその夢や、窓の外を見つめる主人公が街を見下ろすことで憐れむことをせず、逆に大きな夢を持てと突き付けられ鼓舞する。
自分のバックグラウンドがどんなものだったとしても、人は望むものだけ夢を持っていいことを本作は教えているように感じます。
アジア系の監督がラテン系アメリカ人を描くわけですが、人種関係なく響く作品になってることも語ってます。
キャスト
本作の主人公ウスナビを演じるのは、アンソニー・ラモス。
初めて知るお方。
ミュージカル映画とあって、やはりミュージカル俳優さんでした。
リン=マニュエル・ミランダが手掛けた作品だけに、彼もまた「ハミルトン」で主人公の息子を演じてます。
映画では、「ゴジラ/キング・オブ・モンスターズ」や、リーアム・ニーソン主演の「ファイナル・プラン」に出演されてるそうです。
・・・ゴジラのどこに出てたか覚えてない・・・。
今後は「トランスフォーマー」の新作に出演予定とのことです。
歌とダンスは必見ですね。
他のキャストはこんな感じ。
仕事と恋を追い続けるペニー役に、「キングコング/髑髏島の巨神」、「ストレイト・アウタ・コンプトン」のコーリー・ホーキンズ。
名門大学への進学に悩むニーナ役に、歌手で女優のレスリー・グレイス。
デザイン―を夢見るヴァネッサ役に、こちらも歌手で女優のメリッサ・バレラ。
街のみんなの育ての親アブレラ役として、オルガ・メレディスなどが出演します。
きっとラテンサウンドで僕らの心を熱く胸振るわせてくれる作品なのでしょう。
そして若者たちの魂の叫びとはどんなものなのか。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
#インザハイツ
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2021年7月30日
真夏に起きた尊厳の映画でしたねー。
いやぁしかし長い。 pic.twitter.com/u79JdUctd9
真夏に起きた「移民たちの叫びと誇り」。
圧巻のパフォーマンスと演出は素晴らしいが、どうにも長い・・・。
以下、ネタバレします。
歌もダンスもノリノリです
祖国に帰りたい青年、スキルアップで上を目指したい青年、大学を退学してしまった秀才、デザイナーを目指す女性。
「忍耐と信仰」を掲げながら夢を追いかける若者たちに、移民の壁が行く手を阻む。
そんな彼らの苦悩と葛藤、それらをぶち破る圧倒的なパワーを、キレッキレのダンスとラテン音楽に乗せて歌い上げる歌唱力、彼らのパフォーマンスを舞台では実現できなかった演出で魅せる技巧に唸るも、あまりの歌のオンパレードに物語がだいぶ停滞してしまっており、後半は物語のように夏バテてしまった感覚になってしまった作品でございました。
ウスナビを中心に、中南米系の移民たちが暮らす街「ワシントンハイツ」。
大停電までのカウントダウンをしながら主要人物たちの苦悩を見せる序盤、実際起きてしまう大停電によって街の者たちがピンチをチャンスとハッピーに変えていく中盤の山場、そして街の移り変わりを含めて力尽きてしまった者たちを鼓舞するウスナビの末路という流れで描く移民の若者たちの物語、というのが全体的な構成。
「最高の日々だぜ」とウスナビが亡き父の写真に向けて語る一日の始まりのオープニングでのミュージカルシーンは、冒頭としてツカミ抜群。
ウスナビがどういう暮らしをしていて、彼の周りには一体どんな人物がどんな暮らしをしているのか、そして街から初めて一流大学に進学したニーナの帰郷を皮切りに、皆が動き出していくという流れを、自己紹介などを含めて歌で説明し、そんな俺たちが暮らす街「ワシントンハイツ」と高らかに歌いながら、街の中心地で一斉に踊り出すんですね。
ラテン音楽はリズム感もよくノリやすいですよね。
「ドン ドン ドン ドンドン」のリズムから始まり、時にヒップホップ調の緩やかなテンポで緩急をつけながら、ミュージカルはどんどん盛り上がりを見せ大団円で締めくくってのタイトルバック。
一体これからどんなパフォーマンスを見せるのだろう、一体彼らはどんな物語とメッセージを伝えてくれるのだろう、そんなワクワク感が詰まった始まりでした。
モンキー的にお気に入りだったのは、宝くじがウスナビの店から当選者が出たシーン。
あまりの猛暑に店を閉めてベニーたちと共にプールに行くんですが、出た瞬間になった電話をいとこのソニーが取ったことで発覚した幸せの通知。
ワシントンハイツの人たちは、私たちと同様日々重労働をしながら生活をしているわけですが、皆ウスナビの店で宝くじを買って大金を手にしたいという希望を抱いて生活してたんですね。
それを知ったプールにいた人たちは大興奮。
9万6000ドルという大金を当てたのが、もし自分だったらという妄想を、歌に乗せて皆が語り出すんですね。
ある者は店を出したい、車を買いたい、家を買いたい、またある者はパーッと派手にパーティーしたい、そしてソニーは移民がより良い暮らしができるように訴えるための活動資金として。
でも結局税金を払って無くなるだけさなんて現実的なやりとりをするんですが、それでもあるにこしたことはないわけですし、何よりこの暑さと労働でストレスマックスな彼らに届いた安らぎと希望の瞬間なわけで、皆が一斉に水しぶきをあげたり、浮き輪に乗って浮かぶヴァネッサを中心に輪になってフォーメーションを作って見せる場面、ダンスを合わせて豪快且つキレッキレに踊る面々の姿は大好きなシーンでした。
ここで明かされるのは、実はウスナビたちだけでなく、街のみんなが夢を持っていたこと。
夢を持つことは誰にでも許されることであり、その夢に向かって実現する者もいれば、気づけば現実に押しつぶされて毎日をこなすだけになってる人もいる。
でも、夢だけは常に心のどこかで眠っており、今回の宝くじ当選に一方は、再び彼らを突き動かしてくれるきっかけになった瞬間でもあったのです。
実際お金があれば、毎日重労働したりする必要もない。
何かを我慢して生きる必要もない。
気持ちにも時間にも余裕ができて、夢を実現する時間に充てることができる。
生まれた瞬間から金持ちの人にとっては、この宝くじ当選の一方は大したことないかもしれないけど、僕も含めた世間一般の人たち、そして何より移民としてNYにやってきた彼らにとって、もし当たればこの上ない喜びであることは、本作でのプールでの躍動感あふれる歌とダンスはいろんな人の記憶に残るシーンなんじゃないかなと思います。
他には、ペニーとニーナがマンションのベランダで、今後の2人について語りあうシーン。
夕暮れ時の街をバックに、ベランダに寄りかかってニーナに向けて今後の自分がどうありたいかを歌い出すペニーが、突如壁を登り始めるんですね。
ペニーにつられてニーナもまた壁に直立してペニーに寄り添う。
カメラは真横になって壁に立つ二人を徐々に角度を変えたり下から撮ったりして映し出すんです。
やがてカメラはマンションに住むよその家の食卓の中から彼らを捉える。
口をぽかんと開けて見つめる子供にふと笑ってしまうんですが、2人の愛は重力をコントロールしてしまうほど空間を支配しているかのような映像を見せてくれます。
他にも印象に残るミュージカルシーンがあるんですが、最初から最後まで3分の2がミュージカルパートなのでキリがないですw
大停電というハプニングの中で花火を上げる美しいシーンもあれば、キャンドルを灯して部屋でくつろぐシーンもありますし、クラブでの男女そろってのダンスも情熱的でした。
尊厳の物語
移民はなぜ故郷を離れて別の国で暮らそうとするのか。
我々が住む日本ではあまり想像しにくいことですが、単純に故郷で暮らしていても仕事がないから、仕事がある国にやってくるんですよね。
物心ついてからやってくる者もいれば、故郷の記憶がない者もいる。
ウスナビはお金を貯めて故郷に帰りたい。でも従弟のソニーは故郷はワシントンハイツだと語る。
移民であっても考えは様々なんですよね。
そんな彼らは今局面を迎えていることを本作は描いています。
賃金は上がらず物価は上昇。
ジェントリフィケ―ションによってワシントンハイツもかつての風景から徐々に変化しつつある。
ニーナのお父さんが経営するタクシー会社も、娘の大学費用にかなりの負担をかけており、おまけに経営に苦しみ物件の半分を1枚9ドルも取るクリーニング店に譲っている。
ヴァネッサも今の美容室の仕事でなくファッションデザイナーとして活躍したい夢があり、今の場所ではなくダウンタウンに引っ越して活動の場を変えたい。
ようやく見つけた物件なのに移民だから信用を得られず、様々な証明が必要であること告げられ落胆してしまう。
また幼いころから勉強熱心だったニーナは、念願のスタンフォード大学に進学したものの、同じ寮で暮らす生徒が真珠のネックレスを紛失したことで疑いを掛けられてしまったり、とあるパーティーにドレスを身に纏って参加したものの、同じプエルトリコ系である給仕から、一体彼女はこちら側の人間なのか向こう側の人間なのか区別されず、皿を突き付けられてしまう出来事に遭遇してしまったりと、見た目で嫌な思いをたくさんしてしまい、大学を退学してしまう。
ソニーも不法移民であるが故に、大学には行けても働くことを許されず、待遇を受けることができないでいる。
ワシントンハイツに住む誰もが「移民」であるが故に苦しい立場に追いやられているわけです。
「忍耐と信仰」を信念とするみんなのお母さんアブレラが一人で歌うシーンでは、夢と挫折と苦しみを歌うんですが、彼女の時代は今よりももっと過酷だったことが明らかになるし、今も変わってないよなぁと思わされる瞬間でもありました。
一体私は故郷に帰るべきか留まるべきかという岐路に立たされる彼女の心情を覗くことができる場面でした。
そもそも移民というだけで貧しいというだけで、全員が同じスタートラインに立つことができない社会は、やはり不平等だよなと思わされる物語でしたよね。
実際日本にも出稼ぎにやってくる人たちは一定数いて、貧しさゆえに犯罪を犯してしまうのだけど、あまりにも情状酌量の余地のない判決を言い渡されてしまう現実があります。
そんな苦しい環境の中で、自分はどこに行くべきか、どう在るべきか、何を成し遂げればいいのかを、皆が一体となって希望を見出していく姿は、移民はもちろんのこと、僕らにも通じるメッセージだったったのではないでしょうか。
最後に
ミュージカルというエンタメ要素をフルスロットルで見せながら、マイノリティに対する問題と光を与える美しい作品だったように感じます。
しかし、自分の好みになってくるんですが、どうにも長い。
140分あったようなんですが、大停電をピークに物語としては失速していくように感じました。
やはりミュージカルは物語の進行を止めてまで表現しなくてはいけなく、そこでいかに惹きつけるかが体感時間を感じさせないための工夫になってくるんですが、本作は歌のリズムはいいものの代表するようなキャッチーな楽曲が見当たらず、物語が進むにつれ「またミュージカルパートかよ・・・」と、気づけばしつこく感じてしまうほど嫌悪感を抱いてしまいました。
あとは基本的にリズムやテンポが一定な曲ばかりなせいで、物語の抑揚が見当たらなかったのも要因の一つだったように思えます。
やはり主要人物一人一人の歌のパートを序盤で長めの尺で描いたことで、後半詰まってしまったようにも思えます。
ペニーとニーナの苦示唆を描くのも大事なんですが、ここはウスナビとヴァネッサにフォーカスをあてて描いた方がコンパクトにまとまるし、余った尺を思い切り歌唱パートに充てるなどした脚色の方が、見てるこちら側としては見やすい気がします。
舞台の映画化なので仕方がないんでしょうけどね。
そういえばかき氷屋さん役でリン=マニュエル・ミランダが出演してましたね。
彼にもサイドストーリー的な箇所があったので気づきましたが、荒れなかったら気付かなかったよ…。
誰もが「小さな夢」を持っている。
誰にも奪うことのできないものであること、実現することの大事さを彼らから教わった作品だったのではないでしょうか。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10