パーフェクト・ケア
世の中良心だけでいい人生は送れるのか。
所詮、世の中金なんじゃないのか。
他人にどんな迷惑をかけてでも図太い神経と狡猾に生き抜くことが、実は必要なんじゃないのか。
何が正義で何が悪かの線引きが分からなくなりつつある現代に、とんでもない女が出てきました。
「ゴーン・ガール」で背筋がゾクッとするような妻を演じたロザムンド・パイクが、今度は合法的に高齢者から資産を搾り取る悪徳後見人を演じた本作。
どんな悪だくみを企むのか。
後見人のシステムってどんなもんなのか。
彼女に降りかかる身の危険とは。
早速鑑賞してまいりました。
あらすじ
法定後見人のマーラ(ロザムンド・パイク)は、判断力の衰えた高齢者を守り、ケアすることが仕事だ。
常にたくさんの顧客を抱え、裁判所からの信頼も厚いマーラだが、実は医師やケアホームと結託し高齢者たちから資産を搾り取る悪徳後見人だった。
パートナーのフラン(エイザ・ゴンザレス)とともにすべては順風満帆に思えたが、新たに獲物として狙いを定めた資産家の老女ジェニファー(ダイアン・ウィースト)をめぐり、次々と不穏な出来事が発生し始める。
そう、身寄りのないはずのジェニファーの背後にはなぜかロシアン・マフィア(ピーター・ディンクレイジ)の影が……。
迫りくる生命の危機、まさに絶体絶命、マーラの運命は果たして――⁉
感想
#パーフェクトケア 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2021年12月3日
これは面白い。
後見人の悪どさに顔を顰めながら観てたのにあら不思議。
絶対譲らない女の強さに感服。
ロザムンドパイクにぴったりな作品。 pic.twitter.com/Swghf29gOB
彼女の覚悟と勇気には頭が下がります・・・。
所詮男は女相手には脅すことしかできないのさ!
でも、まぁ因果応報だよなぁ…。
以下、ネタバレします。
物語が変化しまくる進行。
人間は「奪う者」か「奪われる者」の二つに分かれるというメッセージと共に始まる本作は、如何に合法的に金を搾取する姿を見せ、胸くその悪さを観る者に与えておきながら、別の悪者を登場させることで徐々に主人公自身が正義に見えてくる巧妙な演出で楽しませると共に、暴力と脅すことでしか権力を振りかざせない無能な男どもに、度胸と知恵と覚悟と勇気と運でのし上がっていくサクセス感、「歯には歯を」で対抗する犯罪すれすれのクライム感が後半でエッジを効かせてくる、掘り出し物の作品でございました。
もう何が言いたいかわからなくなってる出だしですが、簡潔に言うと非常に面白かったということですw
監督を調べてみると「アリス・クリードの失踪」ていうサスペンス映画で監督デビューしたJ・ブレイクソンという方。
この映画、富豪の娘と誘拐犯2人の3人しか登場人物がおらず、どうやって物語が進行していくの?って見てたら、どんどん新情報が放り出されて、あれよあれよと話が変わっていくスリリングな密室劇でして。
あ、この人が本作やるんだったら、今回も話がどんどん違う方向に行くよね~って思いました。
そもそも最初は「あなたを守る」と高齢者を騙して(といっても合法なのよ)施設にぶち込み、金をむしり取って、さぞご満悦って姿を見せるもんだから、見てるこっちはそりゃもう胸糞悪いわけです。
そのお金で自分はフィットネスクラブで汗を流してVAPEふかして優雅な生活。
こんな悪徳商売をずっと見せられるのか、天罰落ちねえかなぁなんて邪な気持ちが芽生えてしまうほど。
もちろんババを引いてしまうわけですよ。
せっかく見つけたSクラス級の獲物だと思ったのに、実は経歴詐称の謎のばあさんで、裏でマフィアと繋がってる危険人物だと。
だから後見人の狡猾な商売が物語が進んでいくことで霞んでいってしまうんですよ。
絶対自分の信念を曲げない女VSどんな手を使ってでも目的を果たそうとするマフィアのボスという構図になってくんですね。
途中から「これはちょっとどうなのよ」みたいな気持ちになっていくんですが、恐らく根幹にあるとされる「強い女性像」てのは全くぶれてなくて。
もう主人公が絶対引かないんですよ。
きっと法に守られてるからって後ろ盾があるのと、きっとこれまで男に散々な目に遭ったのでしょう。
とにかく自分が正しいし脅しに屈しない。
寧ろてめえが頭下げて頼むのが筋ってもんだろうくらいの勢い。
ここまでくると清々しいのです。
だから、男相手に知恵と勇気と度胸さえあればここまで成り上がれるぜ!ってのを見せる構成としては、十分に効果を発揮してたのではないかと。
最後にしっかり後見人ビジネスで成功を成し遂げる姿も出てくるので、物語としてしっかりできていたように感じます。
狡猾すぎるよ後見人。
一体主人公がやってる法廷後見人ってどんななの?って話。
あくまで彼女が劇中でやってる事なので、日本でこれが通用するかどうかは知りませんので悪しからず。
まず病院の先生、そして老人ホームのトップと結託してないとこのビジネスは成立しない。
ドクターから「この患者は自分の判断で物事を決められないから自治体から要請するよう促して保護した方がいい」って審理を出すんですね。
家庭裁判所で裁判を行い、裁判官の許可が下りれば、後見人は介護者を施設に入れることができるというもの。
何が凄いって緊急を要する場合は、別に本人や弁護士、家族なんかいなくても裁判できちゃうこと。
主人公がターゲットにしたジェニファーは、知らない間に勝手に話が進んでることに驚き、抵抗しようとも裁判所が出した書類と警察車両を見てどうしようもできないと悟り、渋々ケアホームへ連れてかれてしまうんですよ。
しかもスマホを没収、電話をかけるには後見人の許可が必要で、外に出ることさえも許されない、厳しい管理下に置かれてしまうわけです。
別の患者の場合、血のつながった息子でさえ面会するには後見人の許可が必要で、おkのパターンにハマってしまったら後見人次第でどうにでもできてしまうとんでもねえシステムなんですわ。
後見人は施設にぶち込んだ後、施設での費用を賄うために、高齢者の住居や家財道具を金に換えて支払うことでもできてしまうんですね~。
その中から自分たちの取り分をもらう仕組みなんでしょうが、きっと歩合だよなぁ。
何がすげえって裁判で費やした時間の料金まで当事者に請求できてしまうんだからすごい。
「それもこれもあなたを守るため」と言えばなんだってできてしまう後見人。
序盤でこんなの見せられたら、見てる人は良心が働いて仕方ないでしょうね。
こんなの可哀想だよ!
家族が会えないってどういうことだよ!
何で勝手に資産を売りさばいちゃうんだよ!
でも本作でこう訴える息子は、親の介護を蔑ろにしていたのであります。
主人公はそんな息子に、所詮あんたが心配してんのは親の命とか合いたい気持ち以前に、どこの馬の骨かも知らねえ女に実験握られて、もらうであろう遺産だとか保険金だとかが減っていくことなんじゃねえの?
今更しゃしゃり出てきて親を返せ、親に合わせろじゃねえよ!
自分の親ならちゃんと守れや!と、正論を振りかざすんですね~。
しかも裁判所で正式に依頼されたお仕事。
法律には敵いません。
しかしまぁよくこんなビジネスを考えたもんです。
その内日本でも流行るんじゃねえのこれ。
詐欺っぽいけど詐欺じゃねんだよなぁ。
ちゃんと親を守らないといけませんね。
後半はスリリングな展開に
さて、今回ターゲットにした人物は、医者からのリークによって見つけたお宝。
金融業に40年勤め、引退後優雅な独り暮らしを送るお婆ちゃん。
納税も良好、犯罪歴もなし、身寄りもない。
何だ完璧な獲物じゃねえか。
巧妙な手口で彼女の施設にぶち込み、さぞご満悦だった主人公ですが、急に「彼女の弁護人です」と名乗る男が出てきて雲行きが怪しくなります。
しかも相棒が調べると、彼女の経歴は全部嘘。
売家となったジェニファーを家に訪ねてきたタクシー運転手は、どうやら訳あり。
ビジネスに欠かすことのできない医者はなぜか自殺。
少しづつ主人公に暗い影が押し寄せてくるんですね。
黒幕はピーター・ディンクレイジ演じるマフィアのボス。
ジェニファーをママと慕う彼はロシア系の男で、どんな商売をしてるかはよくわかりませんが、ダイヤを売りさばいたり裏で人を始末しちゃうような怖い人であることは間違いありません。
当初は合法的に奪い返すということで弁護士を送り込んだりしてますが、法で守られてる彼女を真正面から奪い返すことは不可能。
ならばと力づくで奪ってやろうと画策していくんですね。
それでも上手くいかなくなったボスは、主人公マーラを周囲の人物に危険を及ぼしたり脅迫したりと精神的に追い詰めていきます。
普通なら今まで築き上げたステータスやら大切にしてきた仲間を守るために折れるもんなんですが、マーラは違います。
断固として相手の脅迫に屈しないし、絶対に意見を曲げないんですね。
寧ろこれを好機と思って、金を要求する始末。
心理学でも学んでるのかってくらい、マフィアたちは知恵でも知識でも敵わないんですよ。
だから男たちは力の弱い女だと思って脅迫したり暴力でしか解決に導けない間抜けな存在として描かれています。
実際隠密に人を殺めたりすることができる脅威を見せてるわけですから、マーラがどんなに吠えようとしても手を下してしまえばいいんですよ。
でもマーラには切り札があるんですね。
それがジェニファーが貸金庫に大切に保管していたダイヤモンド。
彼女の所有物には保険が帰られてるのに、ダイヤモンドには保険がかけられてないことを知ったマーラは、これが無くなったらジェニファーもその背後にいるマフィアも命取りになることを解ってたわけです。
切り札って持ってるだけで武器になるっていいますけど、ホント良い武器だなぁとw
何をやっても上手くいかないボスはとうとう業を煮やして実力行使。
マーラを拉致して椅子に縛り、脅しという名の交渉をしだします。
ビニール袋をかぶされ窒息死寸前まで追い込み、精神を不安定にさせた後で泣き落とし。
命が欲しければいうことを聞けと。
なのに屈しないマーラ!
金を出しなさい、そうすれば帰してあげる。
すごいですよ。
主導権はボス側にあるのに、ほぼマーラの負けは確定してるのに勝機があるように見せるやりとり。
しかも何とか命を保てたマーラの逆襲が用意周到。
物語は後見人ビジネスを一気に離れ、マフィアへの復讐劇へとスライドしていくのです。
最後に
大オチは伏せますが、完璧なお世話をする後見人マーラの底意地を堪能できる面白さが詰まった映画でした。
正直自分が当事者になったら、絶対世話になりたくないし、関わりたくもない。
仮に後見人でなくても搾取するような奴とは仲良くなりたくないし、自分もそっち側に回って「正義」を盾になりふり構わず搾取したくない。
「奪う者」と「奪われる者」という資本主義は本当に正しいのかという疑問に繋がる作品であっただけに色々考えてしまう内容でもありましたが、何せ誰も共感できないし不快だし、居心地のいい映画ではないですねw
しかし痛快であることは事実。
マーラの行動を見て反面教師と捉えるか、それとも憧れとなるかは人それぞれです。
とにかく非常に楽しかったです!
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10