ギレルモ・デル・トロのピノッキオ
ディズニー映画でお馴染み「ピノキオ」。
嘘をつくと鼻が伸びてしまう木彫りの人形と、ピノキオを作ったおじいさんとの親子の物語として有名な作品です。
これまでロベルト・ペニーニ監督や、マッテオ・ガローネ監督、さらにはロバート・ゼメキス監督らによって実写映画化されたっピノキオですが、デルトロ監督が描くピノキオはどんな物語になってるのでしょう。
僕と言えばピノキオに全く持って興味なく育ってしまった人間で、それこそ嘘をつくと鼻が伸びてしまうとか、クジラに飲まれてしまうとか知ってはいるんですけど、全体的な話はほとんど知りません。
そんな僕が本作を鑑賞してどんな感想を持ったか。
あまりあてにしないでくださいw
早速観賞してまいりました!
作品情報
カルロ・コッローディ原作の児童文学を、『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞作品賞・監督賞など4 部門を受賞した鬼才デル・トロの渾身作。
アニメ映画の巨匠マーク・グスタフソンとタッグを組んで作られた本作はストップモーションアニメを駆使したことや、資金繰りの悪化などにより、14年もの製作期間を経て完成したとのこと。
ピノッキオ役には、新人のグレゴリー・マンが抜擢され、少々やんちゃで身勝手で小生意気ながらも、ゼペットじいさんを本当の父親と思いたい一心で接するピュアなキャラクターを見事に表現した。
コオロギのセバスチャン・J・クリケット役には、『トレインスポッティング』、『スター・ウォーズ』シリーズなどのユアン・マクレガー。
本作はアレクサンドル・デスプラの音楽のせて描かれたミュージカルとなっており、劇中やエンディングではセバスチャンが歌を披露する演出があり、ユアンの伸びのある歌声が物語をよりふくよかなモノにさせています。
ゼペットじいさん役は『ハリー・ポッター』シリーズ、「ゲーム・オブ・スローンズ」のデヴィッド・ブラッドリー。
しゃがれた声で時jに喜び時に管を撒くような喋り方で様々な感情を押し殺すことなく表現しており、本作が魅せるウェットな場面では、より劇的なモノに仕上がっていました。
他にも『ドクター・ストレンジ』のティルダ・スウィントンが精霊の役を、『イングロリアス・バスターズ』のクリストフ・ヴァルツが興行師を、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」、『ゴーストバスターズ』のフィン・ヴォルフハルト、『ブルージャスミン』、『オーシャンズ8』のケイト・ブランシェットが興行師のお付きの猿シュプレッツァトゥーラの声を、『ドント・ルック・アップ』のロン・パールマンなどデルトロ監督作品常連の面々や今回新たに加わった者など豪華布陣で声を担当しています。
感想
#ギレルモ・デル・トロのピノッキオ
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2022年11月25日
デルトロっぽさのあるダークファンタジー。
ユーモアやエンタメ感もちゃんとありながらしっかり「何に従うべきか」も描く。
ラストわかってるのに泣く。 pic.twitter.com/H6QF2LVTc0
ちょっとだけ不気味だけど可愛らしさもあるデルトロチックなアニメ。
最初こそやんちゃなピノキオにどんどん感情移入して最後には涙…。
以下、ネタバレします。
ざっくりあらすじ
舞台は1930年代のイタリア。
旅する小説家であるコオロギのセバスチャンの語りで始まる本作は、ゼペットじいさんと息子のカルロの仲睦まじい姿を回想しながら進んでいく。
行儀よく誰にも出優しいカルロを愛するゼペットじいさんは、教会の十字架の修復を生業に、少ない稼ぎながらもカルロとの毎日を楽しんでいた。
しかしムッソリーニ政権下のイタリアはやがて第一次世界大戦を始めていき、カルロは期待を軽くしたい爆撃機の爆弾によって命を落としてしまう。
最愛の息子を失ったことで仕事をやめ、飲んだくれの毎日を送るゼペットじいさん。
世界は戦争を終え前に進むも、ゼペットじいさんだけは未だ前に進めずにいた。
木で掘ったカルロの墓の前には松の木が映え、セバスチャンはそこを住処に執筆活動を始めようとしていた。
しかしゼペットじいさんは酔った勢いで木を伐採し始め、セバスチャンの住処ごと切り株を家に持ち帰り、せめて息子の姿だけでもと木彫りの人形を作り始める。
セバスチャンはひたすら悲しみに暮れるゼペットじいさんの辺りを彷徨う精霊を姿を見る。
すると精霊はゼペットじいさんが作った木彫りの人形に命を与えるのでした。
精霊は「与えられえば与えよう」と、セバスチャンにこの人形をしっかり導けば願いを一つだけ叶えると語り、セバスチャンは人形を行く末を見守ることに。
翌朝未だ酒の抜けないゼペットじいさんの前に、歪ながらもしっかりと動く人形を見て驚く。
パパと呼ぶその人形をカルロの身代わりとして「ピノキオ」と名付けるのであった。
行儀よく優しい心を持っていたカルロとは違い、ピノキオはなんでもかんでも興味を持つ反面、学校や誰かの言うことに耳を傾けず自分本位で行動を繰り返していた。
家に閉じこめたかったのに勝手に教会にやってきてしまい民衆をざわつかせたり、うだつのあがらない興行師に目を付けられ、勝手にショーの主役をやったりと、自分勝手なピノキオにゼペットじいさんは頭を悩ませていた。
興行師の勝手な契約書によってショーを主役となってしまったピノキオは、法外な違約金を請求され困惑してるゼペットじいさんの事を思い、興行師のショー行脚に同行することに。
ピノキオの本心を知らないゼペットじいさんは、セバスチャンと共に彼を探し出す旅に出るのでした。
果たしてピノキオはゼペットじいさんと再会し、和解するのでしょうか。
・・・というのが序盤のあらすじ。
心温まるアニメ
冒頭でも語った通り、ほとんどピノキオの話を知らない僕でしたが、おおむね楽しめたというのが率直な感想。
1コマ1コマ動きを作って撮影するストップモーションアニメということで、普段好んでみるアニメとは全然違う動きだったり、やたら掘りの深いじいさんの姿や、少々不気味さ漂うキャラデザ、何よりディズニーアニメのピノキオが脳裏にあることで、木彫りのままの状態の不格好なピノキオの姿など、当初は全体的になかなかなじめなかった部分がありました。
それこそピノキオのキャラデザが、片方は耳があって片方がないとか、後頭部に若干枝が残ってるあたりとか、マリオネットかのようなぎこちなく歪な動きをするあたりが「なんか違う」ように思えてしまったんですが、徐々にキャラが抱く心情の変化によって受け入れ始め、やがて感情移入していくほど没頭できました。
このピノキオ、ぶっちゃけ長谷川町子版のサザエさんみたいな顔してて愛嬌はあるんですよねw
しかしながら最初はホントにめんどくせえガキだな!と少々イライラw
家の中のモノガンガン散らかしたり、じいさんやセバスチャンの言うことに一切耳を傾けない自分本位な性格が、まだ子供だなぁという印象だったんですよね。
一応永遠の命を持つ設定のため、何度も死んでは精霊によって蘇生してもらうんだけど、段々命のありがたみだったり、自分以外の生物には永遠の命がないことから、大切なことに気付いていくわけです。
やんちゃながらも様々な人たちから教えられ、ゼペットじいさんと本当の親子になっていく姿は涙なしでは見られません。
また本作はそんな身勝手なピノキオが誰にも服従せずに自分の意志で判断していくドラマでもありました。
劇中には市長の息子や興行師のお付きの猿であるシュプレッツァトゥーラなどが登場します。
ピノキオ自身、興行師の下で働くことでじいさんにお金を送れるとばかり信じていたものの、結局は曲芸の出来る操り人形という客寄せパンダとして使われており、契約というルールによって搾取され続けていたのであります。
またそんな悪い男の下でピノキオ同様働かされている猿も、最初こそ拾ってもらったご恩を感じながら働いていたものの、不当な扱いを受けたり不憫なピノキオに同情したりすることで心境に変化が訪れ、不服従なる者として反旗を翻すんですよね。
また市長の息子も、少年兵を取り仕切る親父に認めてもらいたくて戦争に志願するんだけど、やはりまだ子供。
命を失うかもしれない怖さに苛まれ、本当にお父さんの言うとおりにすればいいのか苦悩し始めていきます。
猿も市長の息子も誰にも服従しないピノキオの精神に影響され反発心を抱く描写が印象的なんですが、それもこれも本作の舞台が独裁政権をしていたムッソリーニが登場するからだってことなんですよね。
実際彼の言う通りにしなければ命すら危ぶまれる独裁ぶりでしたでしょうから、自分の意志なんてないも同然。
ピノキオがショーで演じていたような操り人形だったわけです。
そんな中で操り人形でありながら、ゼペットじいさんの子供でいたい、人間でありたいと願うピノキオの姿を描くから物語が生きてくるという仕組みだったんですよね。
デルトロの作家性ってクリーチャー愛もひとつありますけど、こうした純粋な思いを大事にしたいって思いがあったりしますよね。
もちろん大人たちの言うことも大事だけど、そのままでいいというか、ありのままでいいとか。
それこそ「パンズ・ラビリンス」でもこうした戦争のさなかの話だったりしたわけで、本作も何かしら反戦を込めた内容だったと思います。
もうムッソリーニを茶化したピノキオに銃を向けるムッソリーニとか、戦争の現実を教えるために仮想ゲームで引き分けを選んだピノキオと息子に腹が立って、息子に本物の銃を渡す市長とか、とにかく思考を止まらせる大人や権力者たちの姿が目に焼き付く映画でしたね。
原作もそういう内容なんですかね?
最後に
一応ミュージカルなので、ピノキオがショーの最中歌を歌ったり、カルロに子守唄を謳うゼペットじいさんだったり、劇中で何度も歌い出しの寸止めを喰らうセバスチャンだったりと、しっかり歌で楽しませたり切なくさせたりする演出も際立ってましたし、終盤でクジラに飲まれた一行がどうやって脱出するか、しっかりアクションで魅せるエンタメ感もありました。
最愛の息子を失い喪失の海に飲まれたゼペットじいさんが、限りある命を知ったピノキオによって救われていく物語でしたが、ラストはベタでしたけど泣けましたよ…。
最初こそ「ただの人形だ!」と心にもない言葉で感情的にぶつかってしまう2人でしたけど、こうして互いが存在の大きさに気付いて大事にしたいって思いを吐露するんですから、そりゃもう涙でしょw
それもこれも「限りある命」だからこそ尊く感じるんですよね。
アニメーションなんで普段のクリーチャーぶりは発揮されてませんでしたけど、そもそも「ナイトメア・アリー」でそういう見た目異形のキャラよりも人間の方がクリーチャー―だぜってことを見せた作品だったので、もうそういう映画は作らないかなと。
短い感想ですが、この辺で失礼します。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10