シン・仮面ライダー
最速上映にて観賞した「シン・仮面ライダー」は、「ウルトラマン」ほどのファンではないという気持ちの問題と、「シン・ゴジラ」から感じるテーマ性やあらゆる部分での衝撃の弱さ、何より個人が持つ映画的観点の面から感じた「果たしてこれは映画なのか」といった点から、非常に残念な作品と捉えました。
ただ垂れ流した感想だけではよくないと思い、もう少し具体的に本作を紐解いてみようと思い、駄文ではありますが書き記していこうと思います。
ショッカーは何をしたかったのか。
劇中で描かれる非営利団体の秘密組織「SHOCKER」は、「Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling」=「計算機的知識を組み込んだ改造による持続可能な幸福の組織」の略称という設定。
相変わらず庵野監督のややこしいネーミングですが、要はショッカーに属していた緑川博士が開発した「プラーナシステム」を人間に与えることで、幸福の持続可能が実現できるということを提唱する組織であることが窺えます。
しかしながら劇中でのショッカーは、ハチオーグが進めている「奴隷計画」や、クモオーグが開発した「バットヴィールス」などの実用をしておらず、テスト段階の状態でした。
当時のTV版ではガンガン人間を襲って日本を壊滅させようとするショッカーの姿が描かれており、侵略に必死であることが映し出されてますが、本作では市井の人たちがショッカーに襲われ、プラーナシステムを装着されるような描写は一切ありません。
そもそも庵野監督自身、敵の侵略に関してはさほど興味が無いようで、そこを描いてしまうと主人公と相対的にならないと発言しています。
結果、ショッカーはまだ発展途上の段階の秘密組織だったわけです。
また緑川イチローの発言から、プラーナシステムの普及よりもハビタット計画(生息地を意味する言葉で、エヴァでいう人類補完計画のようなもの)のほうを進めているような描き方でした。
いったいどれだけの人物がその計画の犠牲者になったのかは全く描かれていませんが、すべてにおいて実験段階のように感じました。
そして何より本作で描かれているショッカーが面白いのは、ピラミッド型のような組織系統であるものの、個々の上級戦闘員たちが担うプロジェクトを独自で進行しているという点。
何か大きなプロジェクトを組織全体で動かし、実行するか否かを首領が決断するというような構図になってないのが現代的に思えました。
そう、本作のショッカーには首領がいないんですよね。
創設者はめちゃめちゃ金持ちで、人工知能アイを作ったのち「人類最大の幸福を実現するための命令」を下して自死したと明かされており、彼にとってその決断は幸福だったのかどうかがよく理解できませんでした。
そんな彼が残したこの団体から想起するのは、やはり新興宗教のような怪しいものです。
創設者の代わりに演算する人工知能アイは、ジェイという人工知能から外の情報を受け、人類の幸福とは何かを模索するという仕組みでした。
またショッカーのうたい文句も「幸せから一本抜くと辛いになる」というもの。
これまで幸せだった人が何かの拍子で絶望のどん底に落ちた瞬間を、漢字の一本で表現するという分かり易い表現で信者を募っていたわけです。
人は絶望を抱いたときどう乗り越えるかは人それぞれだと、劇中で政府の男(竹野内豊)が語っていました。
しかし自分で乗り越える者もいれば、何かに縋ったり崇めたりしないと乗り越えられない人もいます。
そんな時、簡単に入会できて簡単に幸せを手に入れることができるとつけこみ、相手の心を掌握し、高額な上納金をおさめさせ、結果、家族や子供たち、近しい人物までをも巻き込み、「幸せ」のすべてをむしり取っていく、それが新興宗教の正体です。
ただ本当に信じている人にとっては、それが幸せの終着地であり外部の人間の手によって宗教と引き離すのは容易ではありません。
近年でもかつて名の知れた団体が再び日本を騒がせていますが、「幸せ」になれると謡い絶望に打ちひしがれている人を勧誘する手口は、まさにショッカーのやっていることと変わりありません。
イチローも本郷も親を無残に殺された過去を持つ存在でしたが、乗り越え方は違います。
イチローはショッカーという組織に身を投じ、人類を巻き込むことで皆の幸せの基準を統率しようと企む人物になり、本郷はたとえ大切な人を失ったとしても与えられた力を駆使し、誰かのために自分を犠牲にしてまで幸せを与えようともがく存在。
見せかけの幸せで皆を辛くさせるか、自分が辛い状況になることで誰かの幸せを与えるか。
本郷猛は、正義の味方ではなく、あくまで「人類の自由のため」に戦う男。
こうした対比をみせることで、人類が求める幸せとは、真の安らぎとは何かを見せたかったのではないでしょうか。
この辺に関してはスピンオフとなっているコミック「真の安らぎはこの世になく」を読むと、より一層ショッカーの掲げるものを理解できるかもしれません。
TV版や原作からのオマージュについて
本作は当時のTV版全98話から選りすぐりの回を抽出し、「シン・ウルトラマン」のように一つの物語としてつなぎ合わせた作品でした。
まずオーグメンテーションを受け上級戦闘員となった、いわゆる改造人間たちについて語ろうと思います。
まず仮面ライダーについて。
ベルトについたプラーナシステムにより、大気中で圧縮された他生命のエネルギーを吸収し、自らの生命エネルギーに変換、胸のコンバーターへと行き渡り、すさまじい力を発揮するという仕組みでした。
しかしこれには副作用のようなものがあり、変身中の体はまるでバッタが擬人化したかのような見た目で、顔にも大きな傷のような模様が浮かび上がるという、醜いものでした。
それを仮面と防護服で覆い隠すというものでしたが、この顔にあざのようなものが浮かぶ設定は原作版で使われていたそうです。
また本郷の設定は、TV版では城南大学の科学者でオートレーサーという文武両道なキャラクターでしたが、本作では知性も体力も優れているものの、バイクが趣味の無職という設定でした。
さらにTV版の本郷よりもメンタル面は屈強ではなく、弱弱しさを見せるキャラに。
仮面をつけて戦わなくてはならないという本来理想とした自分とはかけ離れてた存在になてしまったことや、暴力を行使すること、その威力への戸惑いなど、ヒーローとしての悲哀が濃く表面化されたキャラでした。
アクションは、もともとの設定から打撃中心ですが、本作はその破壊力を表現するために打撃を食らった戦闘員が血しぶきを上げるほどに。
またプラーナを吸収しながら戦わなくてはならない設定のため、空中戦を多用したアクションでした。
対して緑川ルリ子は、TV版とはかなりかけ離れた存在。
劇中でのルリ子は、葛藤してばかりの本郷を引っ張るような存在で、「用意周到」であることを口癖のように語るほど計画を重んじる完ぺき主義ともとれる存在。
緑川博士の娘ではあるものの、人工子宮から生まれた人物で、イチローとは異母兄妹という設定になっています。
また、高性能の演算機としての一面も持っており、生身の人間でありながらアンドロイドのような存在として、ライダーのバックアップを務めていました。
そもそもTV版の緑川ルリ子は、父である緑川博士を殺したのは本郷だという思い込みから、本郷に恨みを持っている存在でした。
誤解が解けて以降は、本郷のために尽力するも、何度もショッカーにつかまってしまうというキャラでした。
そう考えると男性に助けてもらう女性という昔の設定をしっかりアップデートしたキャラになってるのは素晴らしいと思います。
そして一文字隼人扮する仮面ライダー2号。
風を受けないとエネルギーを蓄えられない本郷に対して、風を受けずともエネルギーを吸収できる改良型のプラーナシステムをもつライダー。
登場したての頃は、オーグメンテーションを受け、洗脳された状態でした。
強制的ではなくショッカーを受け入れての洗脳ということでしたが、ルリ子が洗脳を解くためのプログラムをヘルメットに送ったことで、ジャーナリストだったころに受けた多くの悲しみを一気に受け止める羽目になり、泣き崩れる瞬間が描かれておりました。
TV版では女性を被写体にしないフリーのカメラマンという設定でしたが、ジャーナリストにすることで、より多くのつらい現状を目の当たりにしたことが窺えます。
劇中では孤独を愛し、誰とも蒸れない一匹狼な性分でしたが、ルリ子の死と本郷のやさしさに感化され、本郷と共にイチローとの対決に挑む姿が描かれております。
また、本郷のようなセンチメンタルな性格とは違い、どこかひょうひょうとした態度が見て取れました。
イチローのあまりの強さに歯が立たず、ダメージを受けてばかりの一文字でしたが、弱音を吐かず「まいったね」といったような力の抜けたセリフが印象的でした。
ここからはショッカーたちについて。
まずクモオーグ(CV:大森南朋)について。
冒頭から登場する最初の強化オーグメントですが、赤いジャケットのような上着にいくつもファスナーがついていましたが、そこから残り4本の手足を出し、相手を羽交い絞めにするというキャラ設定でした。
人を殺すことが彼にとっての幸せという残虐性を持つクモオーグは、TV版同様緑川博士を殺害し、プラーナシステムも矯正解除した本郷を蜘蛛の巣で貼り付けにし、アジトにしていたセーフハウスに爆弾を仕掛けるなど、卑怯な手で本郷を苦しめます。
TV版と同様ダムをロケ地にしたアクションシーンは、構図やルックもTV版さながらの拘り。
ルリ子をさらったクモオーグを中心に整列する戦闘員、手前に仮面ライダーという構図は、まさにTV版の同じでしたね。
続いてコウモリオーグ。
TV版では超音波に反応するヴィールスを使って人間を操り、本郷に襲い掛かる設定でしたが、本作ではショッカーの研究員という設定でした。
アジトに単独でやってきたルリ子にヴィールスを感染させ、立ちながら気絶する状態にさせましたが、プラーナシステムのおかげで難を逃れ、左羽に被弾、逃亡を図るコウモリオーグでしたが、後からやってきた仮面ライダーにライダーキックでやられてしまうという流れでした。
見た目はTV版よりも人間らしい表情で、白タキシードとハットを着こなす紳士的な姿だったのが印象的。
ルリ子もコウモリおじさんと呼ぶほどの親しい間柄でした。
続いてサソリオーグ(長澤まさみ)。
TV版では「サソリ男」でしたが、コミック「真の安らぎはこの世になく」では女性として描かれており、少年時代のイチローとも親しく生活や訓練を受けていました。
ただ劇中では、単独で政府の男が用意した自衛隊員たちとの攻防のみしか描かれておらず、女性たちのみで構成された手下を盾にしても、無数の銃弾によって殺されてしまうという短いシーンでした。
キャラとしては「シン・ゴジラ」の石原さとみのような少々オーバーアクトなセリフを話し、容姿についてもエキゾチックな衣装と半分覆面マスク状態、脳天には動くサソリがついているという何とも不思議で妖艶な姿でしたね。
個人的にはもっと見たかった…まさみを…
そしてハチオーグ。
六角形の形をしたアジトで、壁にはお気に入りの日本刀を飾った和風スタイルのアジトで、本郷たちを待ち構えるハチオーグ。
TV版では「蜂女」として描かれており、催眠音波で人間を操り、毒針のついたサーベルで仮面ライダーに襲い掛かるという設定。
劇中ではより人間らしい姿となっており、着物をアレンジした動きやすい恰好でした。
手下からプラーナを吸い取りエネルギーを蓄えるハチオーグは、人間たちをテスト段階で洗脳し、奴隷として本郷たちを監視。
変身時は黄色い八のようなヘルメットを装着し、電光石火の速さで刀を振り回して戦うスタイルでした。
仮面ライダーもこの速さにはついていけず、防護服を切り裂く日本刀に苦戦していました。
また上級構成員になる前は、ルリ子と親しい仲で、ヒロミと呼ばれていたことが明かされます。
これはTV版でルリ子と友達だったヒロミからとったものと推測。
最後はとどめを刺さずに幸福を促す本郷のおかげで生長られたかと思いきや、情報機関の男の発砲(銃弾にサソリオーグの毒が仕込んである)により命を落とすことに。
そしてK-Kオーグ(本郷奏多)。
これまでのオーグメントは人間と昆虫の合成でしたが、KKオーグは、カメレオンとカマキリ、そして人間の3種合成によって生まれたオーグメント。
TV版では怪人カマキリ男と死神カメレオン単体で登場していますが、本作ではクモオーグを尊敬してやまないキャラとしてルリ子を殺害します。
ステルス機能の付いたマントで姿を隠し近づく残忍性、カメレオンとカマキリが半分ずつになったマスクを着けていたのが印象的。
マスクの中身は緑色の肌をした男でしたね。
TV版ではショッカーを壊滅し新たな秘密組織として仮面ライダーを苦しめるゲルショッカーが登場します。
ショッカーよりもパワーアップしたゲルショッカーは、ヒルカメレオンやガニコウモルを代表とする怪人が特徴的ですが、名前からもわかる通り二つの生き物をかけ合わせて生まれた改造人間なんですよね。
KKオーグはおそらく、それを意識したキャラとして登場させたと推測します。
そして緑川イチローは、仮面ライダー0号/チョウオーグとしてライダーの前に立ちはだかります。
プラーナの絶対値がライダーよりもはるかに多いイチローは、やがて訪れるルリ子がもつプログラムを使って「ハビタット計画」を実行しようと画策するキャラでした。
彼の少年時代は「真の安らぎはこの世になく」で詳しく描かれています。
どのようにして今の存在となったのか気になる方は是非。
彼に関して特筆したいのは、0号/チョウオーグに関して。
変身ベルトはV3のようなダブルタイフーンを思わせるベルトで、形としてはBLACK RXのサンライザーのようにも見えました。
イチローは椅子に座ってる間はプラグとつながっており、計画を進行させていたんですが、どうやらこの状態はサナギだそう。
そして蝶の羽を広げ変身するんですが、ボディは水色で構成されてるんですよね。
となると、これ「イナズマン」を意識したデザインになってるのではないかと。
また戦い方についてですが、森山未來を起用した時点でコンテンポラリーダンスを主とした動きの柔軟性と創造性豊かなバトルになるだろうと予想していましたが、それがまさに蝶の如く舞うような動きとなっていて斬新でしたね。
ただカメラワークはその動きを生かせていなかったのが非常にもったいなかったと思います。
他にも政府の男(竹野内豊)に関しては、「シン・ゴジラ」の赤坂、「シン・ウルトラマン」の政府の男に通じる役柄。
本郷とルリ子のバックアップをしながらも、あくまで監視対象という中立的立場を崩さない姿勢で見守っていました。
のちに彼は「立花」と名乗ることから、TV版で長きにわたってライダーたちを支えた立花藤兵衛を連想させる名前でした。
また政府の男とともに行動する情報機関の男(斎藤工)。
彼もまた「シン・ウルトラマン」での禍特対の神永を思わせるドライなキャラでしたが、ハチオーグを躊躇なく発砲する姿はまさに冷静かつ冷酷でもありました。
のちに彼は「滝」と名乗ることから、TV版で本郷や一文字の相棒として活躍したFBI捜査官滝和也を連想させる役柄でした。
シークレット俳優として伏せられていた二人だったので、少ない時間での登場かと思いきや、結構長い尺で活躍しており、いったいそこまで本郷らを見守るのにはどういう理由があるのだろうと思いましたが、最後に名を明かすことで納得した活躍ぶりでしたね。
他にも、イチローやショッカーの動きを情報収集したり監視する人工知能ケイ(CV:松坂桃李)は、石ノ森章太郎原作の「ロボット刑事」のキャラクターに寄せたデザインであり、イチローのハビタット計画も制止せず、脱走した本郷とルリ子にも分け隔てなく接するあたりは、見た目と声質含め愛されそうなキャラでした。
そしてケイになる前の人工知能ジェイですが、車いすに乗った状態の回路が半分六だしの状態の顔をしたアンドロイドでした。
これはおそらくですが「人造人間キカイダー」のビジュアルを拝借したのではないかと予想されます。
キカイダーは赤と青色を基調とした人体模型をモチーフにした人造人間で、不完全な良心回路を搭載したヒーロー。
主人公の名前が「ジロー」であることから、ジェイという名称を付けたのだと推測します。
人工知能アイからジェイ、ケイとアルファベット順になっているわけです。
そして大量発生型総変異バッタオーグですが、これはショッカーライダーですね。
TV版でも登場しますが、指から銃弾が飛びえるタイプではなく、機関銃を持っていることから原作版を意識した設定と思われます。
原作版ではこのショッカーライダーの中に一文字もおり、本郷を倒すために現れるのですが、洗脳が解けたことで残りのライダーを一掃するんでんすね。
劇中では彼らとのバイクチェイスが繰り広げられます。
トンネル内で走行しながら戦うこともあり、正直何をやってるのかさっぱりわからないのですが、8体相手に二人で一気に仕留める姿は胸アツでした。
最後に
孤立しながらも高い志で行動するルリ子の「孤高」。
弱さを見せながらも優しさと強さで守る本郷に寄せる「信頼」。
これまで積み上げてきた思いを次のヒーローに託す「継承」。
庵野秀明が孤独ながら高い志で続けてきた仕事、それを託せる仲間たちとの信頼、そして自分の意思を次の世代へとバトンタッチするという意思表明ともとれる作品のように思えます。
イチローとの死闘によって命を失った本郷は、事前に立花達に自分とルリ子の思いを詰め込んだマスクをお願いしていました。
リニューアルされたマスクは一文字のもとへ渡され、「新2号」に近いカラーリングのマスクへと変化していました。
これまで孤独だった一文字も、たとえ二人が亡くなったとしても孤独ではなく、これから始まる長い道のりは険しくとも厳しくはないことでしょう。
原作版では本郷の脳を保存し、別の体に移植して新しい仮面ライダーとして復活するという流れですが、もし続編が作られるとすれば、そんな物語でもいいのではないでしょうか。
肝心のショッカーも壊滅したわけではないですし、それこそ大幹部クラスは一人も登場してません。
コブラオーグの登場も明かされていることですから、ぜひ首領登場までやってほしいですね。
というわけで以上っ!あざっしたっ!!