真実
日本人の映画監督。
かつては黒澤明や小津安二郎、溝口健二に大島渚、今村昌平などのレジェンドたちが世界で多大な評価を得る時代がありましたが、当時と比べると今の日本人映画監督は中々世界に羽ばたく逸材は少ない気がします。
とはいえ、北野武や黒沢清、三池崇史に塚本晋也など、現役の監督陣が活躍していることも事実で、今後もジャパニーズムービーが世界で羽ばたくことを願うばかりであります。
でも日本人映画監督作品で、世界を股にかけるような国際的スター、しかも日本人以外の俳優を起用して製作する作品て、あまり聞いたことが無い。
今回鑑賞する作品は、あの「万引き家族」の監督が、全員海外の俳優、しかもめっちゃ著名な人たちでキャスティングした映画です。
普通にすごくないですか?
こんなチャンス滅多にないですよね。
これをきっかけにさらに世界での知名度を上げることでしょう。
そんな映画を今のこの時代に見られる幸せ。
しっかり噛みしめようと、早速鑑賞してまいりました。
作品情報
万引きで生計を立てて暮らす家族を中心に、貧しくも幸せな日常とあることを境にバラバラになっていく姿を描いた「万引き家族」で、カンヌ国際映画祭最高栄誉のパルムドールを受賞した監督の新たな作品は、映画界の至宝やアカデミー賞経験者など、世界的に著名なキャスト陣を迎えて製作された、初の国際共同制作作品。
国民的女優が出版した自伝に書かれた「嘘」によって、母と娘に渦巻く愛憎を描く。
スタッフとの言語や文化の違いを楽しみながら乗り越えたという刺激的な挑戦をした監督。
今作はその甲斐もあって、ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品に選出される快挙を成し遂げた。
更なる国際的な活躍が期待される監督の世界デビュー作が、いよいよお披露目となる。
あらすじ
世界中にその名を知られる、国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、自伝本「真実」を出版。
海外で脚本家として活躍している娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優として人気の娘婿、そのふたりの娘シャルロット(クレモンティーヌ・グルミエ)、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、彼女の公私にわたるすべてを把握する長年の秘書─。
“出版祝い”を口実に、ファビエンヌを取り巻く“家族”が集まるが、全員の気がかりはただ一つ。
「いったい彼女は何を綴ったのか?」
そしてこの自伝に綴られた<嘘>と、綴られなかった<真実>が、次第に母と娘の間に隠された、愛憎うず巻く心の影を露わにしていき―。(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのは、是枝裕和。
先日行われた「第24回釜山国際映画祭」で「今年のアジア映画人賞」を受賞されました。
そのインタビューの中で今作の制作秘話を語られていたんですが、実は「万引き家族」がパルムドールを取る前から製作を進めていたそう。
かつて起用したペ・ドゥナとのコミュニケーションを引き合いに、言語の違いに苦しみながらも言葉を越えた場所に映画を作る面白さがあったことを今回改めて感じたこと、ジュリエット・ビノシュとは前から親交があり、ともに映画を作ろうとオファーを受けていたことや、カトリーヌ・ドヌーヴという大女優を多面的に撮りたかったこと、イーサン・ホークの出演は受賞の恩恵があったからこそ実現できたことへの喜びなど、今作の生みの苦しみとそれを乗り越えた時の喜びを語られていました。
僕の中では監督のここ数年の作品て、賞を取るための作品を制作し続けていたように思えます。
それが実現した今、もう目指すところは世界なんだなと。
日本の映画産業に苦言を呈しつつも、しっかり興行と賞レースで実力を見せた監督は、今後外から日本の映画を変えていく試みをするのではないか、と勝手ながら予想しています。
監督に関してはこちらをどうぞ。
キャスト
今作の主人公。ファビエンヌを演じるのはカトリーヌ・ドヌーヴ。
ご存じフランスの大女優でございます。
僕は恥ずかしながら、2,3作しか出演作見てないんですけど、全盛期の頃はホントキレイでしたよねぇ。
彼女に関してこれ以上の話題が見つからんw
とりあえず彼女の代表作をサクッとご紹介。
戦争によって引き裂かれた若い男女の悲恋を、全編セリフなしの歌曲方式で描いたジャック・ドゥミの代表作「シェルブールの雨傘」で決定的な人気を得た彼女。
その後、大きな祭りを控えた南仏の海辺の町を舞台に様々な男女の恋愛模様を、陽気なジャズと踊りを交えて描いた「ロシュフォールの恋人たち」や、若妻の内面に渦巻く情欲に駆られ昼間の娼婦として欲望の限りを尽くす姿を描く「昼顔」などの作品で存在感を発揮しています。
賞レース作品で言えば、ナチス占領下のパリを舞台に、劇場を守る一人の女優の愛を描いた「終電車」で、フランスのアカデミー賞と称されるセザール賞で主演女優賞を受賞、激動の独立運動渦巻くフランス領インドシナを舞台に、懸命に生きた母娘のメロドラマ「インドシナ」で米アカデミー賞主演女優賞にノミネート、フランスの新旧大女優が集結し、豪華絢爛に歌と踊りで楽しいミュージカルに仕上げたミステリー「8人の女たち」で、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞するなど、華々しいキャリアを重ねています。
他のキャストはこんな感じ。
リュミール役に、「ポンヌフの恋人」、「イングリッシュ・ペイシェント」、「ショコラ」のジュリエット・ビノシュ。
ハンク・クーパー役に、「6才のボクが、大人になるまで」、「ブルーに生まれついて」、「魂のゆくえ」のイーサン・ホーク。
アンナ・ルロワ役に、「スイミング・プール」、「パリ、ジュテーム」のリュディヴィーヌ・サニエ。
シャルロット役に、今作のオーディションによってえらばれたクレモンティーヌ・グルニエ。
マノン・ルノワール役に、舞台や短編映画でキャリアを積み、本作で長編映画初挑戦となるマノン・クラヴェルなどが出演します。
嘘にまみれた自伝本、母と娘は真実に近づくことができるのか。
是枝監督らしい家族の物語になっていることでしょう。
今回も読み解くの難しいだろうなぁ…w
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
これが真実で、どれが虚構なのか。
フランスで映画を撮っても是枝的映画でした!!
以下、核心に触れずネタバレします。
是枝的フランス映画。
今回短めで。
見終わった後の感想として一番感じたのは、監督がどこで誰を使って映画を作ろうとも、彼のスタイルや作家性は全くぶれないんだなぁと。
一応テーマはこれまで母と息子というのが多かったですが今作は母と娘であり、だらしがないのは母の方で娘はしっかりしている。
そんな些細な違いはあれど家族をネタにした物語だったこと、その中で確かに存在する愛と憎しみ、大女優の家の裏が刑務所だとか、劇中劇との実生活とのリンク、紅茶を入れる所作や、庭の木の葉が落ちていくことで感じる時間の経過といったセリフ以外の演出の巧さ、などなど照明からカメラアングル、構図、話の複雑さに至るまで、どれも是枝色満載の映画でした。
家族も海外ならではの関係性で、大女優に娘夫婦、執事大女優のパートナーにたまに元夫が一つの食卓で食事を摂る辺りは、日本では決してできない関係性。
海外だから理解できるってやつですよね。
また母と娘の渦巻く愛憎って部分と、真実と嘘、という部分から、どうしてもドロドロした家族劇になるかと思ったら普通にホームドラマで、イガイガするところはあれど劇伴やほのかに灯る照明の妙もあって、ほっこりする部分が大半を占めていて、これも是枝的だなぁと。
で、ただでさえ監督の映画はじっくり考えなくてはいけないおまけもついていて、深みを与える映画なんですけど、僕今回日本語字幕で見たってのもあって、いつも以上に解釈とか理解が追い付かない部分が多々ありまして…。
すごくいい映画だというのは感覚的にあるんですけど、いかんせん頭の悪さが露呈して満足度で言うと前作とかよりかは劣ってしまったのが僕の不徳の致すところといいますか。
とはいえ、見て損はない作品でありました。
具体的な内容ですが、ファビエンヌが書いた自伝の中には、娘リュミールの実質育ての母でもある女優サラという人物について書かれていなかったことが、一番大きな嘘。
これによって娘は憤慨し、それに対しファビエンヌは堂々と振る舞うことで、確執が浮き彫りになるのであります。
さらにそこには執事も書かれておらず、彼は悲しくなって家に帰ってしまう。
というわけで撮影の付き添いをしばらくの間娘であるリュミールが担当する羽目に。
ファビエンヌが現在撮影しているのはSF劇(タイトル忘れたw)。
地球にいると2年しか生きられない母親が、宇宙へ行ってしまうというもので、度々地球へ戻る度に娘は歳を取っていしまっていて途中から年齢が逆転していってしまうんだけれども、そこには確かに母娘の愛が存在していた、というお話。
この劇中劇がファビエンヌの娘への想いとリンクしているような構造になっておりまして。
そもそも彼女、大女優であるが故に傲慢で我儘で、女優になるためならどんな犠牲も厭わない非常にプライドの高い人物として描かれてるんですね。
リュミールが子供の頃には学芸会にも見に行ってないし、浮気をしても決して謝らないくらい自我の強い女性。
しかしこの撮影をしていくうちに、演技に自信を無くしたり何度もテイクを重ねたりと不安定な様子が見て取れます。
その理由として、この劇中劇の主人公を演じる女優が、死んでしまったリュミールの育ての親的存在のサラに非常に似ていること、その彼女の演技に圧倒されてしまうこと、彼女を通じて女優でなくファビエンヌ自身が出てしまうこと、さらには母としての部分まで見え隠れしてしまうわけであります。
それを間近で見ているリュミールも、あれだけ母を嫌っているのに、彼女と同じ視点を持っていたり、できるだけ協力したりする姿もあって、そこまで深く嫌い合ってないんだなってのが、母と娘の間に微かに空気として在るわけです。
その中で、ファビエンヌもリュミールも「演技」しているのか「素」なのかわからない描写によって我々にこの母娘は本当に仲がいいのか悪いのか曖昧に見せてるんだなぁと。
で、思うのは家族って仲の良い関係を築き上げるにあたって、時に演技することも大事だなぁってのが、この映画でぼんやりと感じた部分で。
序盤ではリュミールは「許さない」って啖呵きってるのに、許すとか許さないとかじゃなくて私は私でしかないっていうファビエンヌの譲れない部分を見せてるせいで、この溝は深いなぁって感じるんですけど、話が進むうちにどこか歩み寄ってるなぁってのが見て取れるんですよね。
ここ最近の是枝作品は血縁主義に異を唱えたような作品が続いてましたけど、今作は血縁だからこそ分かり合えるところがあって、それって赦すことができればたとえそれが演技であっても、真に受けてしまえば今後も良い関係を続けられるよなぁと。
で、結局自伝の中身は嘘だらけなんですけど、いつかはファビエンヌも本当の事を書いてくれると思うんですよ。
サラに女優としてもリュミールの親としても嫉妬していた彼女の本音が書ける時が来るんだろうなぁ、でもその時は女優を引退してからか、天国へ行った後か。
最後で撮影の撮り直しを要求するくらいのストイックさが見えたので、まだまだ先の話ではあると思うんですけど。
またイーサンホークの良きパパぶりも見事で、彼がいるからこそリュミールは自分の仕事や母と向き合えるんだなぁってのを感じたし、娘を演じた子もなかなかのお芝居。
食卓での空気読む辺りや、撮影の合間に子役女優とタメを張る余裕の表情、パパやおじいちゃん、執事との自然な触れあいなど、大女優を祖母に持ち、女優を目指した脚本家の娘だけあって、その遺伝子は受け継がれてるんだなぁ!と思わせる演技はお見事でした。
もちろんカトリーヌ・ドヌーヴの貫禄は作品の大黒柱になっていて、どんなことにも動じない部分もあれば、時折見せる不安げな表情もビシビシ出てる。孫の前では親しき魔女になり代わって良きおばあちゃんを見せる。
またタバコも酒も似合うんだよなぁ。
最後に
なんか詳しいこと追求できない感想になってしまいましたが、母と娘の演技合戦をしていくことで親子の愛を見せてくれる映画だったのではないでしょうか。
ただどこかテンポが緩やかだったり、最後の方はちょっとくどいシーンが続いてしまって、そこで終われば気持ちいいのに!ってのが何度かありました。
それこそ最後はファビエンヌとリュミールの本音かウソかわからないけど二人が晴れて気持ちを共有できたところで終わるのがベストだったのかなぁと。
これ吹替えで見たらまた印象や深みが変わるのかなぁ。
時が来たらもう一度それで見直そうかなと思います。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10