ステップ
カメレオン俳優、山田孝之。
かつてはアイドルチックな二枚目俳優として実績を重ねてきた彼がたどり着いたのは、マンが実写化のキャラになり切るというモノ。
クローズの芹沢に、ウシジマくん、ジョジョのアンジェロなど、とにかく自分が好きなコミックの実写化には積極的に参加し、ファンの熱い期待に応えてきた。
また、「全裸監督」のような濃ゆいキャラも見事に演じ切る度量は、中堅俳優の中でも群を抜いている ポジションだとも思う。
とにかく、どの役も彼らしいなりきりぶりと芝居のセンスが光っており、マンが実写化に彼アリという人も多いだろう。
しかし、僕が見たい山田孝之は、ごくごく普通の等身大の人間を演じた山田孝之だ。
苦虫を噛むような思いをしながら取材をする「凶悪」の主人公であり、好きになった人のためなら同じことを何度も繰り返して愛を注ぐ「50回目のファーストキス」の青年であり、社会に逆らってでも自分の意志を曲げずに生きる「ハードコア」のお兄ちゃんのような、血の通った人間の役を演じる山田孝之が見たいのです。
だから今回鑑賞する「ステップ」は、実は期待しているんです、「キャラでない普通の山田孝之」が見られることに。
皆が自粛している時に夜の街でうろついてたり、沖縄旅行に行ってはしゃいでた彼は、一旦忘れて、俳優・山田孝之を堪能しようじゃありませんか。
というわけで早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「とんび」や「流星ワゴン」など、家族の再生をテーマを描き続けてきた小説家、重松清の同名小説を映画化。
妻に先立たれ、娘との人生の再出発をスタートさせるも、仕事と家庭の両立に悪戦苦闘し、思い通りにいかない毎日を過ごす父親が、彼を温かく見守る周囲の人の支えに助けられながら、ゆっくりと家族を築いていく10年間を綴ったハートフルヒューマンドラマです。
この物語に、シンガーソングライターの秦基博が楽曲を書き下ろし提供。
独特なハスキーボイスと、柔らかなアコギの奏でる音、そして物語の余韻に浸らせてくれる優しい言葉が、観る人の心の琴線を刺激します。
慌ただしく忙しい毎日を送る現代人に、大切な人との関わりや温もりの素晴らしさ、大切さを教え、気持ちよく人生のステップを踏み出すことができる力を持った作品です。
あらすじ
健一(山田孝之)はカレンダーに“再出発”と書き込んだ。
始まったのは、2歳半になる娘・美紀の子育てと仕事の両立の生活だ。
結婚3年目、30歳という若さで妻を亡くした健一はトップセールスマンのプライドも捨て、時短勤務が許される部署へ異動。
何もかも予定外の、うまくいかないことだらけの毎日に揉まれていた。
そんな姿を見て、義理の父母が娘を引き取ろうかと提案してくれたが、男手一つで育てることを決める。
妻と夢見た幸せな家庭を、きっと天国から見ていてくれる彼女と一緒に作っていきたいと心に誓い、前に進み始めるのだ。
保育園から小学校卒業までの10年間―――。
子供の成長に、妻と死別してからの時間を噛みしめる健一。
そんな時、誰よりも健一と美紀を見守り続けてくれていた義父が倒れたと連絡を受ける。
誰もが「こんなはずじゃなかったのに」と思って生きてきた。
いろんな経験をして、いろんな人に出会って、少しずつ一歩一歩前へと踏み出してきた。
健一は成長を振り返りながら、美紀とともに義父の元に向かう。
そこには、妻が残してくれた「大切な絆」があった―――。(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのは、飯塚健。
おそらく彼の作品は今回が初。
ディスコグラフィを見ると、青春系を得意とする監督さんなのかなと思います。
そんな監督の作品をサクッとご紹介。
石垣島を舞台にした群像劇「Summer Nude」で、若干24歳にして監督デビューを果たした彼は、荒川河川敷を舞台に奇想天外な登場人物たちによる中村光のギャグマンガを映像化した作品の劇場版「荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE」を製作。
彼の代表作となります。
その後も、2ちゃんねるで話題となった、風俗嬢に一目ぼれした男の奮闘記「風俗行ったら人生変わったwww」や、高校生の男女を中心に描くほろ苦い青春の1ページを綴った「大人ドロップ」、仲良し男子高校生4人の友情と、それぞれに訪れた恋の成り行きを描いた青春映画「虹色デイズ」などがあります。
待機作として、長野五輪のスキージャンプのテストジャンパーたちに焦点を絞った物語「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」が控えています。
キャスト
主人公、武田健一を演じるのは、山田孝之。
冒頭でも触れました通り、中堅俳優の中では、群を抜いて素晴らしい演技をされる方だと思っています。
盟友・小栗旬が海外進出へ挑む一方で、彼は役者としてではなく、裏方とされる製作に力を入れてきています。
2019年公開された映画「デイアンドナイト」ではプロデューサーとして製作に携わったことも話題になりましたし、山下敦弘監督との蜜月関係は作品でも表れており、「山田孝之の東京都北区赤羽」や「山田孝之のカンヌ映画祭」といったドキュメンタリータッチのTVドラマなども製作するなど、近年の彼は、自分のやりたい仕事を自由気ままにやられている印象が見受けられます。
そんな彼は今作について、これまで演じてこなかった親子の物語に惹かれたことや、3度目のタッグとなった監督に絶大な信頼を向けていること、今作の役を演じたことで、実生活で自分を支えてくれている奥さんへの感謝を、インタビューで語られていました。
他のキャストはこんな感じ。
義理の父・明役に、「ちはやふる」、「ミッドウェイ」の國村隼。
義理の母・美千代役に、「ディア・ドクター」、「Red」の余貴美子。
義理の兄・良彦役に、「笑う招き猫」、「ポンチョに夜明けの風はらませて」の東京03・角田晃弘。
義兄の妻・翠役に、「愛がなんだ」、「閉鎖病棟」の片岡礼子。
健一の同僚・斎藤奈々恵役に、「ミックス」、「秘密」の広末涼子。
保育士・ケロ先生役に、「榎田貿易堂」、「寝ても覚めても」の伊藤沙莉。
行きつけのカフェ店員・成瀬舞役に、「亜人」、「恋のしずく」の川栄李奈。
健一の娘・美紀役を、中野翠咲、白鳥玉季、田中里念らが年齢毎に演じます。
シングルファーザーの悲哀と、それでも愛おしい娘への想い、健一を支える周囲の人たちの温もりと愛に、ハンカチ必須な予感の今作。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
いやぁ泣いた。泣いた。
目が腫れるくらい。
子を持つ方はもちろん、独身でも片親じゃなくても、きっと刺さる映画だったと思います。
以下、ネタバレします。
終始片隅にある「悲しさ」
妻の死から1周忌を迎えた父娘の再出発を皮切りに、辛く哀しくも周囲の人たちに支えられながら懸命に生きていく成長の記録を、6つのエピソードを軸に描いたヒューマンドラマは、終始潜む悲哀さを醸し出しながらも人生の一歩一歩を噛みしめるようにゆっくりと描かれ、主人公の心情吐露や無音状態の演出など一貫して淡々と映し出すことが逆に観衆の感情を煽り涙なしでは観ることができない作品であったと共に、「命のある場所」や「思い通りにいかないのが人生、設計図なんていつでも書き換えればいい」といった名言が映画をさらに盛り立ててくれた作品でございました。
最初に何を語ろうか。
とりあえず僕の鑑賞時の体感から語らせてもらうと、再出発の朝の準備から始まるんですけど、妻がいないことで醸し出される哀しさってのが冒頭から溢れてまして、パパが気合を入れて臨むんですけど、あ~これ前途多難なんだろうなぁきっと、って予兆と、父娘のさりげない掛け合い、さりげなくこぼれてしまうパパの心情が描かれてまして、もう開始10分足らずで、涙がね、ツーッと頬を伝ってしまいまして…。
おいおいおいおい、俺!
もうここで泣いちゃうのか!
これからあと2時間あるのに、もう感動ピーク越えかよ!
と、もう一人の自分を抑え込もうとしたんですけど、その後も保育園でのケロ先生との娘へのアドバイスのやりとりや、
営業部での上司からのねぎらいと激励と期待の言葉とか、
娘の迎えのために退社しようとするもギリギリで舞い込む仕事にあたふたするんだけど、同僚に優しく「やっとく」と言われて恐縮になりながらも急いで会社を後にするパパ、
帰って娘にご飯食べさせて絵本読んで寝かしつけて、一杯やりながら妻の写真見て安らぎのひと時を得るのに、洗濯機のピー音によって現実が押し寄せてくる辛さをまじまじと見せつけられて、さらに号泣してしまいまして…。
もうね、序盤はずっとシングルファーザーとして頑張ってやってます、と表向きは気張ってるんですけど、一人になった途端ほつれた糸のようにポロッと溜息とか辛いという本音がスクリーンいっぱいに溢れてまして。
これが非常に涙を誘うと言いますか、闇雲に「父さん頑張れ!」みたいな奮闘記になってないですし、何より「妻の死」によって欠けてしまったモノを一生懸命埋めようとしても埋められないどうしようもなさがずーっと根底にあるんですよ。
俺ね、独身だし、子供いないし、親も片親じゃなくちゃんと両方いるっていう恵まれた家庭環境だったから、果たして感情移入できるんだろうかとか、ちょっと不安な面も予想してたんですけど、とんでもない!むっちゃ刺さるなぁって。
なんでだろうって落ち着いて考えてみたら、身近にいる人の死を経験してるからだと思うんです。
祖父と祖母はもうさすがに亡くなってるんでんすけど、いなくなってしまった人の辛さ哀しさってのを今回の映画を観て改めてその時のことを思い出したというか。
もうここにはいないんだけど、それでも僕らは生きていかなければいけないわけで、現実という時間がどんどん当時の哀しさを打ち消すかのように押し寄せてくるんだけど、ふと気が抜けた瞬間に綻びのようにこぼれてくるわけですよ。
あの何とも言えない辛さってのを今作は惜しみなく出していたし、だからといってずっと辛いわけじゃなくて、周りの人たちの支えがあって喜びを感じたり一歩踏み出せるわけで、もっと言えば「いないけどいる」という意識が気持ちを強くさせてくれるっていうか、生きていく糧にもなるというか。
ええ、いつものように出口を見失ってますが、失った人への悲しみがずっとあるんだけど、あの家に姿形はないけど父娘の成長を見守っている人が「在る」ことが二人の支えになっていて、これって今の自分にもこれからの自分にも関わってくるんだろうなぁという思いを抱くことができた作品だったように思えます。
ひたすら泣けてしまうドラマ。
こういう感動系のドラマって、涙流すポイントに重きを置くのってクライマックスが相場じゃないですか。
積んで積んで溜めて溜めて最後ドバーッ!みたいな。
この映画は違うんですよ、もうずっと泣きポイント!
1章では、まだシャカリキに働ける体力がありながらも2歳半の娘の子育てに翻弄する健一の頑張りと疲労具合、そして「父親」ではできないことに直面したり、チャンと娘と向き合ってるつもりが「忙しい」ことを理由にキチンと向き合えていなかったことを知らされるエピソード。
2章では、子育てのピークを越えるも、一丁前に生意気なことを言うようになった娘の成長に、喜びと更なる課題が押し寄せる父、そして小学1年生になった娘に訪れた「母の日」の母親の似顔絵の宿題で、母の生きている姿を記憶していないことで悩む姿と、そんな娘にどうしたら母親の似顔絵を上手く描けるようにできるかに悩む父の姿を綴ったエピソード。
3章では、3年生になった娘と母方の祖母の家に帰省する話を中心に、健一がいつまでも母方の家族に甘えていていいのだろうかと悩みを見せつつも、娘・美紀の成長した姿に母方の家族が面影を見てしまうことや、まだ子供ながら子供であることを見せずに振る舞う美紀の強さと優しさが溢れていたエピソード。
4章では、子育てに余裕の出来たことと、お世話になった営業部の部長の計らいによる人事異動で営業部へ戻った健一が、妻の死から8年を経てようやく心を許せる人との出会い、美紀の運動会のリレーの練習、鬼の村松と呼ばれた義父の会社での勇退などを経て、健一も美紀も周囲の人たちにも大きな動きが見えたエピソード。
5章では、健一の恋人となった奈々恵との関係に、頭では理解するものの身体や気持ちが追い付いていけないことにより拒絶、そして隔たりが生まれてしまうことに再び大きな悩みを抱えてしまう健一、というエピソード。
最終章は、病によって倒れてしまい死期が近いことを感じる義父を中心に、小学校卒業間近に控えた美紀が、奈々恵との関係や祖父の最後の姿を目に焼き付けることで、より成長を見せていくエピソード。
ザックリこんな感じで6章で綴った物語なんですが、どのエピソードもあくまで健一視点で語られているのが特徴です。
序盤ではシングルファーザーとしてスタートするも、時間を言い訳にしっかり向き合えていなかったことの辛さを淡々と描き、
2章では、早くに失った母の姿をどうしたら見せてあげることができるだろうと悩んだり、娘の性格が「負けず嫌い」であることや、一丁前なことを言ったりするも、1年生とは思えない大人じみた言動や心の持ち様に成長を遂げた娘に感慨深く感じる健一の姿、
3章では、その大人びた性格が逆に娘を無理に成長させ過ぎてやしないか、本当なら母親がいればもっと子供らしく振舞えたりできたのにといった後悔や、義父母にばかり負担をかけすぎるかもという疑問を抱きながらも、彼らには娘の成長がいきがいであることを思い知らされる場面、
4章では、少し余裕の出来た自分の前に現れた素敵な女性との馴れ初めや、お互い近しい人を失った境遇がさらに距離を縮めていくことで、ずっと過去と共存してきた健一の人生に分岐点が生まれると同時に、周囲の家族もそんな健一の背中をそっと押してあげる優しさが溢れ、
5章では、奈々恵との関係に苦しむ美紀をどう説得しようかに悩み苦しむも、それは自分の苦しみであることを義父から「どうにもいかないのが人生なんだから、また新しい設計図を引けばいい」と悟られ、妻を失って8年にしてようやく次のステップを踏み出す覚悟をしていくシーン、
そして最後に義父の病によって、再び訪れてるであろう悲しみに、健一と美紀がどう向き合っていくかを語り、辛いことをしっかり目に焼き付けることで人は優しくなれることを衰弱していく義父を通じて経験させていく、という物語になっていました。
苦労に苦労を重ね、辛い経験と共に成長してきた健一と美紀。
もちろん妻がいないことで、2倍分動かなくてはいけなかった疲労もあったでしょうし、片親では力不足な面もあったけど、その分気づかされることがたくさんあったり得たモノも大きく、健一としては喜びもひとしおだったことでしょう。
また家庭とは「命のある場所」であることが劇中で語られており、例え命が失われたとしても家庭の中で消えてしまうことはなく、常に在り続ける存在として残された家族に宿り、その残された家族もまた「在る人」によって成長することで変わり続けていくものであるということも今作には描かれていたように思えます。
軸としては健一の環境面や精神面での成長の過程に重きを置いた物語でしたが、タイトルである「ステップ」の通り、妻を失ったことによる再出発としてのホップ、娘である美紀と共に歩むために歩幅を合わせることや、人生の次のステージへ進むための段階であること、そしてステップマザーとして現れる奈々恵との関係を築いていく過程としてのステップを本題にし、エンディングで大きくジャンプしていく物語だったのではないかと。
10年間という長い助走は、健一にとても美紀にとっても遠くへジャンプするための険しくもステキな時間だったと感じられた映画だったと思います
最後に
健一の良心が一向に出てこないのは原作でも同じなのでしょうか?
どうも母方の家族ばかりが健一の周囲にいるばかりで、その辺りにリアリティが感じられなかった面もあったんですが、血の繋がった者だけが家族だけではないという時代性も手伝っての判断とテーマなのかなと。
実際美紀も奈々恵と親子になっていくわけですし、あくまで映画としての排除だったのかなと。
そして普通のシングルファーザーを演じた山田孝之の素晴らしさよ!
誇張した芝居ばかりやってるもんだから、色々感情露わにしたオーバーな演技をしてしまうのではないかと心配してましたが、なるべく感情を抑えることで本当に辛い状況や心情ってのはこういう時にポロッと出てしまうモノなんだってのを見事に演じていましたし、母方の家族に対し義理の息子としての微妙な距離感てのも、いい塩梅で出してましたよね。
やっぱりああいうときってなんとなく遠慮しがちでよそよそしくなりがちですよね~w
うちの妹の旦那も会う度そんな感じに見えることがありますw
また壁のカレンダーからはみ出てしまった赤いペンの線から生えた家族の樹の画も見事。
時代が変わるごとに、美紀が絵を付け足してるんですけど、徐々に幹が太く長くなり枝が生え、その上に家族が笑って立ってるんですけど、エンドロール後に出る壁の画がさらに涙を誘います。
最後まで見逃さずに!
いやぁ~しかし泣いたなぁ。
今マスクつけて来場しなきゃいけないでしょ?
だからマスク付けて見てたんですけど、涙がマスクまで到達しちゃって、しかもずっと泣きっぱなしだったから、びしょ濡れで使いもんになんなくなっちゃいましたww
淡々と描くのに涙が溢れちゃう映画って、そんなにない気がするので是非見ていただきたい作品です。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10