TENET テネット
クリストファー・ノーランという男は、つくづくロマンチストだと思う。
本作の謳い文句で「時間の魔術師」などと紹介されていることに関しては異論はない。
「メメント」で記憶を遡る物語を見事に生み出し、
「プレステージ」では手品と科学の両方で瞬間移動を描き、
「インセプション」で夢の階層構造による可動域の拡大をし、
「インターステラー」では重力による時間の歪みを、
そして「ダンケルク」では3つの時間軸を絡めて戦争映画を描くという手法で観衆を楽しませてきた。
現実世界で時間操作をすることは不可能に近いが、彼は四角いスクリーンの中で「時間」を巧みに使い、誰も見たことのない虚構の世界を構築し、作品を手掛けるごとにその虚構の世界を「進化」させてきている。
しかし、それ以前に「時間」というツールを使って彼が描いてきたのは、いわゆる「男の子」が憧れるような職業や夢中になれるキャラ、親しんできたジャンルばかりだと思う。
手品師、産業スパイ、ダークヒーロー、兵士、そして宇宙飛行士。
きっと彼が子供の頃なりたかった者や職業なのではないか。
それを大人になった今、「映画」という媒体で夢を叶えているのではないだろうか。
これらの点において、僕は彼のことをロマンチストだと言いたい。
「時間の魔術師」という謳い文句の前に。
そんなノーランが、どうしても自分自身で「007」をやりたいのではないかと思える作品が「TENET」です。
今回「時間の逆行」をテーマに、第三次世界大戦を阻止するために活動するエージェントを描くそうで。
いわゆるスパイアクションなんだけど、ノーランらしい「時間」のマジックがさく裂してるとのことで、これまで以上に理解不能、謎だらけの予感。
そして男の子なら一度は憧れる「諜報員」が主人公ってことで、またしてもノーラン・イズ・ロマンチスト節が出まくりでございます。
というわけで早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「インセプション」「ダークナイト」シリーズのクリストファー・ノーランが仕掛ける最新作は「時間の逆行」。
人類がずっと信じ続けてきた「時間の流れ」についての常識を一瞬で吹き飛ばし、誰も見たことのない世界を、7か国を舞台にIMAXカメラで撮影、ほとんどCGを使わずに描く。
突然ミッションを言い渡された主人公が、時間に隠された衝撃の秘密を解き明かし、第三次世界大戦の勃発を阻止していく。
ミッションのキーワードは「TENET」。
「その使い方次第で、未来が決まる。」
教義、信条という意味を持つこの言葉の真意は?
主人公は死後の世界へ行ってしまったのか?
「インセプション」と親せきのようなもの、という意味は?
果たして主人公は、人類の滅亡を阻止し、ミッションを遂行できるのか。
謎が謎を呼び、誰もが「難解」と口をそろえ頭を抱えてしまうと評判の本作。
一体ノーランは、我々にどんなパズルを用意したのだろうか。
彼の挑戦を受けて立とうではないか。
あらすじ
満席の観客で賑わうウクライナのオペラハウスで、テロ事件が勃発。
罪もない人々の大量虐殺を阻止するべく、特殊部隊が館内に突入する。
部隊に参加していた名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)は、仲間を救うために身代わりとなって捕らえられ、毒薬を飲まされてしまう…。
しかし、その薬は何故か鎮痛剤にすり替えられていた。
昏睡状態から目覚めた名もなき男は、フェイと名乗る男から、❝あるミッション❞を命じられる。
それは、未来からやってきた敵と戦い、世界を救うというもの。
未来では、❝時間の逆行❞と呼ばれる装置が開発され、人や物が過去へと移動できるようになっていた。
ミッションのキーワードは【TENET】。
「その言葉の使い方次第で、未来が決まる。」
謎のキーワード、TENETを使い、第三次世界大戦を防ぐのだ。
突然、巨大な任務に巻き込まれた名もなき男。
彼は任務を遂行することができるのか?
そして、彼の名前が明らかになるとき、大いなる謎が解き明かされる——。(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのはご存じ、クリストファー・ノーラン。
今回のプロモーションで、ガリットチュウ福島がモノマネしてくれるんだろうな…と思ったらやってくれませんでした。
そりゃ無理か…。
え~冒頭でも書いた通り彼はロマンチストだと思ってます。
手の込んだ撮影と脚本をやってのけてしまう変人奇人狂人でありますが、心の中はきっと「時間の魅力に取りつかれた少年」であり、「カッコいい映画の登場人物に憧れる男の子」だと思います。
そんな彼は本作について、自分が見たいものじゃないと作りたくない、そして自分が見たいと思った映画を楽しんでくれる人がいるに違いない、と確固たる信念を語っています。
いったいどんな映画が見たいのか。
それはワクワクするもの、現実逃避するもの、今まで見たことのない世界であり、世界に対する見方が変わるもの、あれこれ考えたくなるもの、だそう。
そんな「世界の見方を変える」意味合いを持つ本作は、物理学の法則が多用されているそうで、結果、時間を物理的に見せなくてはいけない障害にぶつかり、撮影面や演出面、技術面でも相当な苦労を要したんだとか。
また本作は、これまでの人生において収れんされた結果から生まれたコンセプトだそうで、「時間」をテーマに描き続けてきた彼が年齢を重ねるにつれてたどり着いたことが伺えます。
そういう意味では本作は彼の集大成的作品といってもいいのではないでしょうか。
今回も「インターステラー」に続き、物理学者のキップ・ソーンに協力を依頼したそう。
「世の中のあまねく物理の法則はシンメトリーだけど、唯一の例外がエントロピーの法則だ」
いったいどういう意味の言葉なんでしょうか…。
果たしてバカな僕に理解できるだろうか…。
登場人物紹介
- 名もなき男(ジョン・デイビッド・ワシントン)・・・ある偽装テロ事件に特殊部隊として潜入したことから、第三次世界大戦を防ぐための謎のキーワード「TENET」をめぐるミッションに巻き込まれる。
- ニール(ロバート・パティンソン)・・・名もなき男の任務遂行を手助けする優秀なエージェント。相棒として、世界各国を旅する。
- キャット(エリザベス・デビッキ)・・・セイターの妻で一児の母。イギリスの貴族階級の生まれ。美術品の鑑定士。セイターの秘密を知るものの、彼から離れられない秘密がある。
- セイター(ケネス・ブラナー)・・・ロシアの新興財閥。天然ガスで富を築いたとされているが裏の顔は武器商人。未来と現在をつなぐ役割を持つ謎の悪人。
- プリヤ(ディンプル・カパディア)・・・❝TENET❞を知る、秘密組織の一員。何者かの指示で動いている。
- アイヴス(アーロン・テイラー=ジョンソン)・・・プリヤが指揮する部隊のリーダー。名もなき男を導く。
- マヒア(ヒメーシュ・パテル)・・・名もなき男と、ニールを手伝う、工作員。
- バーバラ(クレマンス・ポエジー)・・・科学者。逆行する弾丸の仕組みを教える。
- クロスビー(マイケル・ケイン)・・・名もなき男に、セイターの情報を教え援助する。イギリス情報部とのパイプがある。
(以上、HPより)
ノーラン作品をこよなく愛してしまう理由は、何度見ても完璧に理解できない構造であるにもかかわらず、絶対に驚かされてしまうカラクリではないでしょうか。
だから彼の新作を楽しみにしてしまうんですよね。
きっと思いをぶちまけるだけの感想になると思いますが、いったいどんな謎が描かれているのでしょうか。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
偏頭痛がする…
時間の逆行をほぼCGなしで描いた力作は、難解であることはもちろんのこと、純粋なスパイアクションとしても楽しめる超娯楽大作でした!!
以下、ネタバレします。
2020年で生まれた希望
世界中で蔓延している新型コロナの影響により、2020年公開予定の大作映画が次々と延期をアナウンスされることに、映画業界同様映画ファンの心にも暗い影が落とされている。
天下のディズニーはつぎ込んだ制作費を何としてでも回収するために、自社の配信サービス「ディズニープラス」での独占配信をしたり、ユニバーサルピクチャーズはアメリカの映画館チェーンである「AMC」と契約し、劇場公開から3か月で配信する契約を結んだ。
企業の利益を優先させるために配信に切り替える。
外出することが難しくなってしまった状況だからと言って、映画を見る場所の気持ちを蔑ろにしてるかのようなこの流れを何とかして止めたい思うのは、我々映画ファン以上にクリストファー・ノーランなのではないだろうか。
CGに頼ることなく「実写」にこだわり、フィルムとIMAXカメラでの撮影にこだわってきた彼にとって、家で見るよりスマホで見るより、何としてでも映画館で見てほしい、「劇場」という大きなハコの中で他者と共有しながら作品を「体感」してほしいに違いない。
それは我々映画ファンにとっても同じ。
やっぱり大スケールで描かれる作品は映画館でなければ、作品の良さを最大限に受け止めることは不可能だと、僕は思う。
だから少ない給料の中からほかの代金を削ってまで、映画館へ足しげく通うのだ。
彼の作品を配給するワーナーブラザーズには、今のところ、配信サービスに切り替えるようなニュースはまだない。
もしかしたら状況を見て切り替えるかもしれないが、ワーナーが「映画は劇場で見てこそ」の精神をまだ胸に秘めている分、今回の「TENET」を劇場公開に踏み切ってくれたことは、お世辞抜きで「称賛」したい。
また、今回複数鑑賞して感じたのは、物語の主人公「名もなき男」が、劇場の客を助け、キャットを助け、そして世界を助けるという命に代えても守りたいものがある信念を武器に進んでいくわけだが、これが我々の住む現実とシンクロしているようにも思えたこと。
おそらく映画という媒体は、この先の未来のどこかで、劇場で公開するよりも配信で公開する方にシフトしていくだろう。
だが、その未来が今回の新型コロナの影響で、我々のいる現実に早く到達しつつある。
正に「配信での公開」という未来が「逆行」してきたのだ。
それに対し、「映画は劇場で体験してこそ」の精神を持つノーランが、逆行してきた未来に抗うかのように強行して公開した本作は、名もなき男の行動とイコールにならないだろうか。
あくまでコロナの影響を想定して作られた作品ではないが、僕の中では現実での状況と映画の中で起きていることがシンクロしているように思え、この答えにたどり着いたときは身震いさえした。
そして本作が劇場公開されたことで、来るべき「未来」が変わるのではないか、とさえ期待してしまう。
実際問題難題かもしれないが、やはり映画は劇場で観たい。
ノーランは、本当に映画館を、興行問題を救ってくれるのかもしれない。
とりあえず本作が公開したことで、国内の映画館も、この大作洋画の劇場公開を何としてでもヒットさせたいと、多くの劇場で最速上映を決行。
SNS上ではチケット争奪戦の結果を報告する人たちであふれ、久々に映画ファンの間で「祭り」と化した。
今回最速上映で鑑賞した身としては、何としてでもヒットさせたい気持ちです。
我々がどんな言葉で拡散するかによって、普段足を運ばない人たちが劇場に足を向けるかがかかているといっても過言ではありません。
僕にとって「TENET」は絶望的な2020年の中での「希望」でした。
ずっと暗い闇の中で「TENET」という光を見続けていました。
ようやく手にした今、感無量の気持ちでいっぱいです。
実際見た後の感想。
久々に作品の感想を語る前に、長~い言葉であれこれ語ってしまいましたけども、ほんとに公開してくれて嬉しかったです。
さて、実際鑑賞した直後の僕の感想は、マジで意味が分からない、です。
いったい何が起こっているのか。
なぜに時間の逆行を使ってミッションを繰り広げているのか。
そもそも「名もなき男」はどこに属したエージェントなのか。
物語が進むごとに聞いたことないワードが羅列し、説明や解説が入るごとに思考回路が立ち止まってしまう事態に陥り、気が付けば置いてけぼり。
とにかく何をやっているのか、目で追ってはいるけど頭が追い付かない。
バカってホント苦労しますよね、こういう時・・・。
とはいえ、意味が分からない=つまらない、とは一言も言ってません。
脳が必死で理解しようと頑張っている時点で作品に食らいついているし、普段の日常でこんなに頭をフル回転させてくれる映画と出会えたって、もう最高じゃないですか。
世の中にはいろいろな快楽がありますが、今作はまさに「知的快楽」を刺激するお話だったのではないでしょうか。
そもそもノーラン作品を一発で理解したことなんて一度もないけど、今回はかなり上級者レベルの作品でしたし、アイディアも抜群に面白い。
しかもそれを映像として作り上げたことが、とにかくすごいよなぁと。
やっぱりバカなんでこういう具合の感想になっちゃいますねw
スパイアクションとしてかっこよすぎる。
こういうこと言うと、やっぱり見にかないほうがいいなぁと思わせてしまうので、見どころを語るとしましょう。
今作はノーランがこれまで以上に気合を入れて描いた「スパイアクション」映画だったと思います。
名もなき男とニールという相方が、第三次世界戦を止めるべく様々なミッションに挑んでくというのが大まかなプロット。
金持ちに扮装して敵の所有する金庫室を下見したり、その場所を飛行機突っ込ませて破壊したり、世界各地を優雅に飛び回って真相を追い求める辺りや、高級なスーツを身に纏って黒幕や美女に近づき世界と彼女を救う。
もぉ~まんま「007」ですねw
ノーラン自身「007を撮りたい」のはなく、「007を見ていた時の自分と同じ感覚になってほしい」と願っているそうで、僕自身まんま007とか言いきってますけど、あくまで諜報活動自体が007ぽいだけであって、舞台はもろにノーラン作品といった感じです。
アクションに関しても、向かってくる敵が逆再生しながら技を仕掛けてるのに対し、名もなき男は慣れない身振り手振りで応戦するシーンは斬新で新感覚でした。
床に寝転んでバックしていく敵をまじまじと見るしかない時の名もなき男の戸惑いぶりは、きっと見てるこっちも同じ感覚だったことでしょうw
カーチェイスシーンも「インセプション」の第1階層や、「ダークナイト」での真夜中の輸送シーンを彷彿とさせるシーンで、警察車両をタンクローリーや消防車で四方から挟むという大掛かりなものから、セイターにとらわれているキャットを救おうと、逆走している車と順行している車とが猛スピードで対峙、そこにひっくり返った車が2台の車を割いて突っ込んでくるシーンは、ものすごいことしてて口があんぐりです。
飛行機をフリーポートに突っ込ませるミッションも、金塊をバラまいたのちコックピットをジャックして、近くの駐車場の車を根こそぎ踏みつぶすなど、ありとあらゆる障害物をペシャンコにしていく様は最高です。
セーリングのシーンも、空撮をはさみながら大きな波しぶきをあげてガチで運航している姿が映し出され、ロケーションの美しさも相まってスケール的にも見ていて眼福です。
さらにクライマックスでは「時間挟撃作戦」と題した、順行と逆行のチームが敵を挟み撃ちにして銃撃戦を繰り広げるという訳わかんない描写に加え、大爆発のオンパレード。
予告でも映ってますが、ビルの下の部分は爆発から元に戻る逆再生をしたのち、上野っ分が純再生で爆発するという奇妙なシーンは度肝を抜きます。
難解な物語ではありますが、描写のみで見ていけばいかにも純粋なスパイアクションであり、娯楽作品としてよくできているなぁと感心するシーンばかりです。
じっくりあらすじ。
はい、ここからは作品の解説を頑張って語ろうと思います。
まず一体どういうあらすじなのかを細かく。
- キエフ国立オペラ劇場にて。
突如現れた武装集団に占拠されたのを受け、名もなき男は特殊部隊に紛れ込み同志を救出する作戦を決行。
彼の任務は「プルトニウム241」を回収すること。
同志の助言により回収に成功するが、観客を救うために相棒と協力して爆弾の回収を試みる。
見事成功するも、敵に捕らえられてしまい拷問を受けてしまう。
名もなき男は、隙を見て相棒の持っていた自決用のカプセルを飲み込む。
- トロンヘイム海上にて。
死んだと思っていた名もなき男だったが、彼が飲んだ薬はすり替えられていた。
意識を取り戻した彼は、命の危険を顧みず行動したことを評価され、第三次世界大戦を止めるミッションを依頼される。
それは未来からの大規模な攻撃を仕掛ける謎の組織の仕業で、時間を逆行してやってくるという。
とある施設で、逆行する弾丸を見せられた名もなき男。
未来から送られてきた弾丸が埋め込まれた壁と、逆行する弾丸。
初めて見る光景に疑問だらけだったが、弾丸の薬莢がインド製であったことから、名もなき男はムンバイにいる武器商人サンジェイ・シンの居場所に向かう。
- ムンバイ
彼の相棒を担当することになるニールの協力により、サンジェイのアジトに逆バンジーで侵入。
彼の妻であるプリヤから、未来人のエージェントとみられるロシアの武器商人セイターの名を聞かされた名もなき男は、さらに彼を知るクロズビーから彼に近づく方法を助言される。
セイターの妻キャットは鑑定士であり夫婦仲は冷え切っていた。
名もなき男はセイターとの接点を作るために、クロズビーのアドバイス通りゴヤの贋作をオークションに出品することで近づくことに。
この贋作を作ったアレポという男とキャットは親密な関係にあったそうで、その弱みに付け込む算段だ。
しかしアレポが作ったもう一つの贋作を夫のセイターが900万ドルで競り落としており、既に贋作であることを見抜いているセイターは、美術品詐欺をした罪をダシに、キャットの弱みを握っていた。
すぐにでも息子と離れたいキャットはセイターから逃れる術を失っていた。
- オスロ空港にて。
セイターに接触する機会を与える代わりに、キャットを解放すると約束する名もなき男。
贋作を盗んでほしいと依頼された彼は、彼女の情報をもとにオスロ空港にあるタックスヘイブンを訪ねる。
絵画や古美術品が保管されている金庫室に侵入した名もなき男とニールは、マヒアの協力のもと、フリーポートに飛行機を突っ込ませることで消火ガスを噴出させ、その隙に絵画を盗もうとする。
奥に進むとセイターの所有する会社ロータス社が見えてくる。
赤い模様の扉と青い模様の扉を開けると、部屋がガラスで仕切られたそれぞれの部屋があり、奥には回転ドアが。
ガラスには銃で撃たれた跡があり、危険を感じる二人。
すると両部屋の回転ドアから軍服の男が飛び出してきて対峙する羽目に。
ニールは追いかけていた敵のマスクをかぶると、何を見たのかすぐさま引き返し名もなき男のもとへ。
名もなき男は、逆再生しながら向かってくる敵から情報を仕入れようとマウントで抑えるも、彼は急にシャッターの向こう側へと消えていてしまった。
- アマルフィ海岸にて
結局贋作はセイターが事前に別の場所へ隠していたことが判明。
セイターとの接触に成功した名もなき男は、彼にプルトニウム強奪を持ち掛けて親密になっていく。
セーリングに招待された名もなき男は、最中に素性を明かすよう詰められるが、運転を切り返した隙に、キャットが贋作を隠していた怒りからセイターを海へ突き落すのだった。
名もなき男の救出によって命を取り留めたセイターは、警察によってタリンへ輸送されるプルトニウムの強奪を実行を共にすることに合意するが、名もなき男は夜中に運ばれてきた金塊をのぞき見していたことがばれ、セイターからの信頼を失う。
- タリンにて
ニールと再び合流した名もなき男は、セイターより先にプルトニウム強奪をしようと実行部隊とともに行動開始。
警察車両を大型トラックなどで四方から固め身動きさせない状態を作り、消防士に扮した名もなき男が飛び移って強奪は成功。
しかし中身はプルトニウムではなく、しかも真相を知ったことで車を逆走してやってきたセイターはキャットを人質にしてプルトニウムの入ったバッグと交換するよう強要する。
そこへ横転していた車が元の状態に戻って二つの車の間を割って入ってくる。
名もなき男は、とっさの判断でプルトニウムを割って入ってきた車に投げ、カバンだけセイターに投げ渡す。
- 時間を逆行する作戦
プルトニウムよりもキャットの救出を優先した名もなき男は、セイターらに捕らえられてしまう。
ガラスの向こう側でキャットを銃で脅すセイター。
セイターの行動を必死で止めるも、話がかみ合わない。
何とガラスの向こう側は時間が逆行した世界だった。
セイターは順行世界で逆行世界から情報を得て行動しており、名もなき男を挟み撃ちにする作戦だった。
脇腹に銃弾を撃たれたキャットは、逆行世界での被弾(逆行弾)のせいで瀕死の重傷を負っており、このままでは助かる見込みがない。
そこで名もなき男は、時間を反転する回転ドアをくぐり時間を逆行し、さらにもう一つの回転ドアがあるオスロ空港にある反転ドアを潜って巡行世界に戻ることで、キャットの命が助かるだろうと見込み行動に移す。
- 順行の中での逆行
逆行の世界は外気を吸えないことから、酸素マスクを着けて行動しなければならない逆行の世界。
自分以外は時間が順行するが、自分自身は逆行している。
水たまりを踏む直前で水が戻れば、風向きも逆。車を走行すれば車輪の摩擦も逆と、すべてが逆行している中でセイターが探し続けているプルトニウムを探す名もなき男。
すると、セイターの車を発見。
しかしどこかで見た光景。
それは先ほど自分がセイターとカーチェイスをしていた時の時間だった。
横転して車に割って入った車は自分が運転していたのだった。
しかもプルトニウムは自分が運転していた後部座席にあり、逆行したことで奪われてしまう。
セイターに見破られた名もなき男は横転した車から抜け出せず、セイターによって火をつけられる。
ニールらによって救出された名もなき男は低体温症になりかけていた。逆行するから火は熱くなるのではなく冷たくなっていくのだった。
オスロ空港で自分たちが起こした事故現場まで逆行した一行は、セイターの生い立ちをキャットから知ることになる。
彼はソ連のスタルスク12という町で生まれ育ったが、爆発事故によって町全体がなかったことにされていた。
そんな中で彼はプルトニウムを探す仕事に従事していた。
そこで彼は未来の自分から送られてきた金塊と契約書を見て驚愕。
未来の地球はとても人間が住めるような環境になっていないことから、過去を変えてほしいと書かれていた。
それには逆行する世界を反転させる役目を持つアルゴリズム(正確には9つのプルトニウム)という9つのパーツでできたものを集めることが必要と記されており、金塊に目がくらんだセイターは野心に火が付き、未来人に加担することを決意するのだった。
またセイターはプルトニウムを探す仕事のせいか、末期のすい臓がんを患っており、自分の死とともに世界を終わらせようと画策。
それを知った名もなき男は、物語の出発地点で起きたテロと同時に起きた爆発事故の時間まで遡り、順行世界を滅ぼすアルゴリズムの奪取に挑む。
プリヤの実行部隊であるアイブスを筆頭に、爆心地とされている場所を順行世界からと逆行世界から攻めるという「時間挟撃作戦」に出る。
名もなき男とアイブスで構成されたチームは、赤い腕章をつけ順行世界から。
ニールと副リーダー率いるチームは逆行世界から爆心地で起こる爆発事故を挟み撃ちして攻めていく。
内容は、順行チームは爆心地の入り口まで向かいながら、逆行チームの逃げ道を作り、逆行チームは、爆心地の中心から敵の情報取集と現状説明を順行チームに伝えるというもの。
時を同じくしてキャットは、セイターが死ぬ場所を「キャットと最後に愛しあった」時間であると想定。
いち早くセイターに復讐したいキャットだったが、彼の腕についている「デッドマンスイッチ」(脈を図る時計のようなもの)が止まると、「秘密のポスト」と連動しているため、名もなき男たちの作戦が完了しないと、とどめを刺せない。
やきもきした思いを抱きながらも、人類の消滅と共に自決するつもりのセイターを止める役目を担い、二人が口論したベトナムの船上へマヒアと共に向かう。
果たして名もなき男は、無事「秘密のポスト」の場所を突き止め、アルゴリズムを回収し、セイターの陰謀を阻止することができるのか。
・・・すんません4分の3くらい語っちゃいました。
さらに解説
よくわからないワードが散見されてたので、いろいろ調べつつ解説を。
第三次世界大戦
今回のミッションは「第三次世界大戦」を止めること。
第二次世界大戦後、ずっと冷戦状態にあった世界情勢でしたが、その続きが再び起きてしまうってことで止めなくてはいけないと。
敵国はどこか?
ロシア?中国?それとも水面下から復活してきたナチス?
相手はなんと未来の人たちでした。
未来の人たちは地球が何らかの原因でもう住めないと割り切ります。
アルゴリズムなるものを生み出し、時間を逆行させて未来から過去へ向かうことをし始めるんですね。
そのためには過去にいる人物に協力を仰がなければいけない。
白羽の矢がたったのが野心家であるセイターだったわけです。
そりゃ金塊と一緒に贈呈されたら心揺れ動くし、プルトニウム探す仕事なんて命削るようなもんですからね、魂売るのも理解できますw
また、未来の地球が住めない原因は過去の人間のせいだと未来の人たちは考えており、その責任は過去の人たちにあると。
だったらこのまま順行すれば未来はないから、過去に戻ったほうがいいよねと。
アルゴリズムとは。
昔アルゴリズム体操なんてありましたけど、それとは関係ないってことでw
過去の順行世界に存在する9つのパーツで構成されるアルゴリズム。
未来で完成させた科学者はアルゴリズムを使うことを恐れて、バラバラにして過去に送っていました。
物語ではすでに8つ集めているセイターを阻止するために、アルゴリズムの一つであるプルトニウムを名もなき男が奪取にいそしむ姿が描かれてます。
そもそも未来から過去にやってくる場合、未来人は時間が順行している中、逆行しながら時間が進んでいるので非常に生活しづらいわけです。
そこで時間を反転させる兵器としてアルゴリズムが必要だと物語では明かされています。
見ていてもわかるように逆行の世界ではすべてが逆。
歩くと後ろから風が吹くし、高温のものは冷たく低温のものは熱い。
呼吸だって吸うのも吐くのも逆なので呼吸器官がうまく機能できない。
だから酸素マスクしないといけないくらい順行世界はしんどいのです。
これが反転すれば、順行世界の人間は逆行世界になり、逆行世界の人間は順行世界になりますよ!ってことで、未来人にとってはアルゴリズムが大事ってことです。
エントロピーとは
劇中でエントロピーの減少がどうとか語ってましたが、エントロピーっていったい何ですか?って解説。
一応「乱雑さ」という意味合いの言葉だそうで、整理されている部屋をほおっておくと、散らかった部屋になるとか、あったかいお茶を放置しておくと冷めてしまうというように、「秩序のある状態から無秩序になる状態」のことを言うそうです。
物理とか科学的なことはちんぷんかんぷんなので、かしこぶらないようにしたいと思いますが、よくあることわざで「覆水盆に返らず」という言葉があります。
読んで字のごとく、お盆から溢れた水は元には戻らないってことですね。当たり前です。
これがエントロピー増大の法則でよく例えられる言葉だそうで、劇中でも水たまりに足を入れれば水しぶきができるのはまさにエントロピー増大の法則であり、これが逆になることは不自然ですよね。
もしそうなっていたら、時間が逆行しているってことです。
だからエントロピーが減少しているということは、逆行が始まっているという意味だと思います。
タイムトラベルじゃない
劇中でも名もなき男とニールが語ってましたが、現在から過去や未来へ一瞬で移動する「タイムトラベル」とは違い、今作は「時間の逆行」です。
例えば今から昨日の朝に戻るとしたら、普段過ごしている時間と同様の時が刻まれていくので、昨日の朝に戻るのには約1日かかるということです。
後半で時間反転システムである回転ドアを潜ってから物語を追うと、名もなき男が過ごした時間がそのまま逆再生されるように物語は進んでいきます。
だから、まず横転する車でのシーンを経て、オスロ空港での飛行機事故へと進んでくのです
また、回転ドアを潜ると自分が2人存在する世界になります。
逆行している自分と順行している自分。
しかも逆行から順行に戻ることで3人にも。
フリーポートで襲ってきた軍服の男は名もなき男本人で、順行世界の自分の前に現れる。
さらにそこからもう一度回転ドアを潜って順行に戻るためにニールの前に現れる。
ニールがいた部屋は逆行の世界から過去の順行の世界へ戻るためのドアなので、結果あの時名もなき男は3人いるということに。
クライマックスの爆心地で行動したニールも同じようなことになってますね。
ちなみに、赤い部屋は順行、青い部屋は逆行する部屋と区別されているのが分かりと思いますが、オープニングのワーナーのロゴが赤い時は音楽が順行しており、そのあと表示される「SYNCOPY」のロゴは青いため、音楽が逆再生しています。
ニールって実は・・・?
これは僕のふとした疑問です。
今回名もなき男の相方として任務に就くニール。
出会って早々、彼が任務中は酒を飲まないことを知っていたり、過去に物理学を専攻していたりと、いくつかの謎がありそうな予感のニール。
結果ニールは未来の名もなき男に依頼され、逆行してやってきた男でした。
特にクライマックスでのミッションは、順行世界でミッションを遂行する名もなき男に対し、逆行世界から攻める任務を行うニールでして、逆行世界から名もなき男をサポートするんですよね。
鉄格子で通れず、タイムカプセルを阻止できずにいた名もなき男だったんですが、目の前に転がっていた死体が急に覚醒し、銃弾を止め、鉄格子のドアを開け、名もなき男を助けるんです。
ここで見覚えのあるバッグが目に入るんですよ。
あれ?どっかで見たことある、と。
そのあと、脱出できずにいる名もなき男とアイブスは、上から落ちてきた紐で引っ張ってもらうんですけど、それが逆行世界から急遽順行世界にやってきたニールだったと。
で、この後、彼は「これが美しい友情の終わりだよ」と言い残し、去っていくんですが…。
「起こったことは仕方ない」と終始語っていたニールでしたが、その言葉の意味の重さがラストでジワリと来るとは思いませんでしたね。
どういう意味かは劇場でご覧いただくとして、ニールの役目がそういうこととは思いもしませんでした。
さて、僕の疑問ですが、ニールってもしかしたらキャットの息子のマックス君だったりしない?ってことです。
スパイの任務をする心得として、相手の情報はインプットしておくというのは常識ですが、名もなき男は任務の際はソーダ水を飲むといってるんですけど、ニールはダイエットコークを注文するんですね。(ここでソーダ水といったのはジョークでしたw)
とにかく、そこをクローズアップして描いていることに妙だなと。
また、瀕死の重傷であるキャットを献身的にサポートしていたり、キャットもまたニールにもう一度会いたかったと別れ際に名もなき男に話したし、何かと「これはもしや・・・?」みたいな空気になるんですよね。
そして明かされるニールの本性。
未来からニールを送ったのは何年後かの名もなき男で、それがいつかは明かされてません。
もしかしたらかなり先の未来なのかも。
そうすると、登場人物であまりフィーチャーされてないのって、キャットの息子じゃね?と。
僕の大好きなお母さんをいじめていたお父さんは、すごく悪い人だった。
いつしか名もなき男と近しい間柄になったマックスは、彼から過去に行って自分とお母さんを助けてほしいといわれて、一生懸命物理の勉強したり逆行世界のイロハを学んで、名もなき男からエージェントの修行を受けて・・・やってくる。
逆行してやってくるということは、あの時代に辿り着くまで相当の年月を隠れて過ごしたはず。
死ぬことは、きっと依頼した名もなき男から聞いていたにもかかわらず、助けに行く。
…刹那の極み。
みたいなw
あくまで妄想ですw。
それこそ「ダークナイトライジング」のロビンの登場のさせ方とかしてるノーランですから、こういう感動しちゃうような人物設定とか実はわからないようにしてるんじゃね?と。
とりあえず、マックス君の背負っているカバンに何かついてないか確かめたいと思いますw(2度目の観賞ではバッグの紐は確認できませんでした…)
最後に
ずいぶんダラダラと書きなぐってしまいましたが、中盤のニールの行動を見て、何となくオチが読めてしまったんですね。
多分そういうことだろうな、と。
あとはもうニールのセリフ「起こったことは仕方ない」ですね。
物語の流れとしては、行って帰ってくることで冷戦を防ぐということ。
順行世界と逆行世界の壮大な挟み撃ちだったわけです。
ラストのオチもお見事ではありましたが、名もなき男の名前が一体何だったのか気になります。
あまり重要じゃないのかな?
90%くらいネタバレしてしまったので、未鑑賞の方、もし全部読んでしまったらすみません…。
難解でしたけど、何度も見て理解したいと思わせてくれるノーラン作品。
ずっと追いかけてきたクリエイターですし、コロナの影響が未だ根強く残る今、こうして新作を堪能させてもらったことは、僕にとってうれしい記憶に残る出来事。
意味が分からないといってますけど、めっちゃ面白いので是非ご鑑賞いただいて、みんなでノーランのパズルを共に解いていきたいですね。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10