モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「バイス」感想ネタバレあり解説 笑えるようで笑えない副大統領の怪物ぶり。

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今回鑑賞する映画は、ブッシュ政権時に副大統領だったディック・チェイニーさんという方のお話。

 

どうやら影の大統領とか、アメリカの首相なんてあだ名があったほど影響力のあったお方だそうで、僕らがよく知る当時のアメリカのあんなことやそんなことを、実は大統領でなくこの人が指揮していた、らしいです。

その出来事をコメディ映画で名を馳せた監督が、笑いでコーティングして風刺的に描いたそうです。

 

なんかアメリカの凄いところって、こういう実在した、というかまだ存命の政治家を茶化すようなことを映画にしても寛容的なのがいいですよね。

 

アメリカエンタテインメントの奥深さとでもいいましょうか。

日本もこれくらいやってほしいですよね~。

てなワケで早速鑑賞してまいりました!!

 

作品情報

副大統領の主な仕事、それは大統領が死亡したり、辞任といった場合、代わりに役職を務めること。

 

要するにリーダーがいなくならないと仕事がないといっても過言ではない。

しかし今回の映画の主人公は、その目立たないポストを利用して大統領を巧みに操り、戦争を仕掛けアメリカを世界を変えてしまったのである。

 

今作はその影の支配者として実在した、アメリカ政治史において最も謎に包まれた男・ディック・チェイニーに焦点を当てた作品。

 

この作品を、リーマンショックの裏側で大博打を仕掛けた男たちを描いた「マネー・ショート 華麗なる大逆転」を手がけた監督が綿密にリサーチし、そのやり口の恐ろしさをユーモア満載に描いた。

 

そして本人そっくりに姿形を変えた役者陣が評価され、見事アカデミー賞メイクアップ&スタイリンング賞を獲得。

リアルな物語をよりリアルにさせた。

 

世界をめちゃくちゃにさせた副大統領の知られざる真実をご堪能あれ。

 

 

あらすじ

 

1960年代半ば、酒癖の悪い青年チェイニー(クリスチャン・ベイル)はがのちに妻となる恋人リン(エイミー・アダムス)に尻を叩かれ、政界への道を志す。

 

型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルド(スティーブ・カレル)の下で政治の表と裏を学んだチェイニーは、次第に魔力的な権力の虜になっていく。

大統領首席補佐官、国防長官の職を経て、ジョージ・W・ブッシュ(サム・ロックウェル)政権の副大統領に就任した彼は、いよいよ入念な準備のもとに“影の大統領”として振舞い始める。

 

2001年9月11日の同時多発テロ事件ではブッシュを差し置いて危機対応にあたり、あの悪名高きイラク戦争へと国を導いていく。

 

法を捻じ曲げることも、国民への情報操作も全て意のままに。

 

こうしてチェイニーは幽霊のように自らの存在感を消したまま、その後のアメリカと世界の歴史を根こそぎ塗り替えてしまったのだ。(HPより抜粋)

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監督

今作を手がけるのはアダム・マッケイ

 

僕は彼の作品は、「俺たちニュースキャスター」とか「俺たちステップ・ブラザーズ」、「アザーガイズ」、「マネーショート」と半分くらいの作品を鑑賞してます。

初期の作品はホントバカバカしいコメディ色の強い映画なんですけど、マネーショートから扱う題材ががらりと変わって結構驚きだったのを覚えています。

 

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元々「サタデーナイトライブ」で政治色の強いコントみたいなことをやっていたそうで、それを今映画でやっているってことなんでしょうかね。

 今も変わらずバカバカしさは相変わらずで、ちゃんと監督の根っこである笑いの要素も忘れていない。

なので今作もきっとたくさんのユーモア描写が織り込まれていることでしょう。

ただ僕個人が政治に疎いので、風刺的な笑いに理解できるのか・・・w

 

登場人物紹介

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左上より。

  • ディック・チェイニー(クリスチャン・ベイル)・・・ニクソン政権から始まり、ジェラルド・フォード政権の下、史上最年少の34歳で大統領首席補佐官になり、議員を5期務めた。1989年ジョージ・H・W・ブッシュ(パパブッシュ)の国務長官に選ばれる。ハリバートン社のCEOを2000年に辞し、ジョージ・W・ブッシュの副大統領となる(2001 -2009年)。現在78歳。(HPより)

 

  • リン・チェイニー(エイミー・アダムス)・・・ディック・チェイニーとは高校時代からの付き合いで、後に妻となる。
    チェイニーがイェール大学を退学した時も、飲酒運転を起こした時も、リンの励ましと野心が、彼を立ち直らせた。チェイニーとの間に、娘のメアリーとリズをもうけた。1986年から1993年まで全米人文科学基金の会長を務めた。(HPより)

 

  • ドナルド・ラムズフェルド(スティーブ・カレル)・・・ジェラルド・R・フォード大統領のもと、国防長官(1975-1977年)、ジョージ・W・ブッシュ大統領政権では、国防長官(2001-2006年)を務めた。数十年にわたってチェイニーの指導役、同僚、そして部下まで務めた人物である。(HPより)

 

  • ジョージ・W・ブッシュ(サム・ロックウェル)・・・第43代アメリカ大統領(2001—2009年)。大統領の就任以前は、テキサス州知事を6年間務めた(1995-2000年)。父親は、第41代アメリカ大統領ジョージ・H・W・ブッシュ。大統領を務めた8年間には、9.11、イラク戦争、サブプライムローンに端をはっした金融危機など、重大な出来事が起こった時代であった。(HPより)

 

  • コリン・パウエル(タイラー・ペリー)・・・パパブッシュの政権では、統合参謀本部議長を務め(1989-1993年)、パナマ侵略や、湾岸戦争の指揮をとった。ジョージ・W・ブッシュ大統領のもとで、国務長官を務めた(2001-2005年)。パウエルはブッシュ政権のイラク政策には同意していなかったが、2003年の国際連合安全保障理事会で、イラクが大量破壊兵器を密かに所持しているという証拠を示した。(HPより)

 

 

 

 

 

 

 

芸達者が集って繰り広げられるアメリカ黒歴史の内幕は果たしてどんなものなのか、そしてチェイニーはどこまで政権を握っていたのでしょうか。

とはいえ、、僕は笑わせてくれりゃそれでいいスタンスで見ますのでご容赦を・・・。

ここから鑑賞後の感想です!!!

 

感想

正直得意でない近代史をコメディ映画に落とし込んだ監督はすごい!

権力をほしいままにしたチェイニーを深く学べた良作でした。

それにしてもベールのボソボソ声が耳に残る・・・。

以下、核心に触れずネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よくここまで調べたものだ。

後の妻になるリンに尻を叩かれたことで、政治家への階段を着々と登っていくチェイニーの半生を、徹底的に調べ上げた事実を基に監督ならではのコメディ演出で彩ることで、実験的でもあり自由度の高さを感じる皮肉的な笑いと、あらゆる手段で権力を振りかざした手腕に、身の毛がよだつ気分にさいなまれる、ビール飲んでる時の爽快感と飲み終えた後の苦味を感じた良作でございいました。

 

冒頭でこの映画がなるべく事実の物語になるように調査した、みたいな文言が出た後、今世界は賃金低下による長期労働で、休日は小難しいことなど考えたくなくなり、目の前のことに目を向けがちだ、みたいなオープニングから入るんだけど、これを最後にリピートするかのように締めくくられるラストは、この映画の中で一番笑えた部分であり、いや俺笑ってるけど、誰のこと言ってるかわかる?自分の姿観て笑ってんだぞ?おい!と鈍器で殴られるかのような感覚をもって映画館を後にしました。

 

途中でも書きましたが、アダムマッケイ作品はやはり初期のコメディが好きで、近年のマネーショートとか今作は何度も観たいとは思えない。

大きな理由に今の社会や政治や自国の出来事に関心が無い楽天的思考のせいで、それゆえの勉強不足理解力不足みたいなものが挙げられ、映画はあくまで娯楽なのだという考えを歪曲して捉えているせいか、こういう時事ネタをぶっこまれたり専門外のテーマを描いた映画はどうしても…ってのはあります。

 

と、簡単な言い訳を前置きにこの映画を語りたいと思いますが、秘密主義として知られるチェイニーの裏工作とでも言いましょうか、権力を使ってありとあらゆる組織に自分の駒を置いて徹底的に大統領がやる職務を自分主体であれこれやっちゃう姿や気迫はぶっちゃけやってることはダメだけどその姿勢は見習いたい部分ではあります

カラダを何度も壊してまで誇示したい原動力って一体何なんでしょうね。妻のため?家族のため?国のため?全く彼の腹の中が読めません。

とはいえ、やはり妻を愛する一心で心臓に爆弾抱えてもあyリ遂げたかったんだろう、のし上がりたかったんだろうってのが彼の行動原理、原動力なのかなぁと。

出会った当時の時代では女性が台頭することは容易ではなかったろうから、リンはチェイニーを鼓舞したわけだし、彼に賭けた。そしてチェイニーは動き出したんだなぁと。

 

一応彼がやったことってことで一番フォーカスされたのがイラク戦争に関して。

これも正直全然詳しくないのだけど、テロでやられた復讐ということで組織でなく国を報復するって強引で過大解釈してそれを世間にわからせるまでの流れがまぁある意味キレイで賢くてそれでいて怖すぎて。

一元的行政府論でしたっけ?国が進めるあらゆる事業や政策を一元化して進めていくやり方。

あれをどうしてもしたいためには、大統領でなく大統領が死んだ時の代わりくらいしか意味がない副大統領のポストを利用してやろうとする辺りの策士な考え。

そのポストを得たことで、とにかく自分はやりたいように息のかかった人材を重要なポストにつかせる徹底ぶり。

この映画見るまでイラク戦争の全てはブッシュの一人で推し進められたように思ってたけど、そうじゃねえってことを学ばせてもらったなぁと。

 

演出が素晴らしい。

こういう題材を真正面から描くと、そのウェイトにやられてしまいがちですけど、ユーモア描写を織り交ぜて描くとまぁステキ、ちゃんとエンタメチックで笑いのある見やすい映画になってるではありませんか、頭に入ってくるではありませんかってことを言いたくて。

今作はコメディ映画出身監督ならではの巧みな演出が随所に表れていましたね。

 

例えば、ティーカップ。

序盤でブッシュから副大統領就任を打診された時に洗面所で歯を磨きながら考え事をしているチェイニーのシーンがありましたけど、その時に彼はこんなことを考えていたのではないか、というシーンが登場します。

それがティーカップとお皿が塔のようにどんどん重なっていく映像。

ティーカップの口が歪んでいることから積めば積むほど傾いていってるのが見て取れます。

チェイニーは副大統領時代、様々な事実を隠蔽したり解釈を捻じ曲げたりして国民を戦争賛成へと導いてきたわけで、ティーカップは彼の「嘘」の積み重ねを現したメタファーとして描かれていたように思えます。

結果彼が心臓発作で倒れた(辞任を要求された時だっけ?)と同時に塔は崩れていくわけで、うまい演出の一つだったなぁと。

 

他にも全編でストーリーテラーをしてきた人物がいます。

カールという男性で、一体なぜ彼が物語を語っているのかよくわからないまま進んでいくんですね。時には子供をあやしたり時にはイラク戦争で兵士として派遣されてたり。

彼は単なる共和党支持者で、チェイニーの家族でもなければチェイニーによる被害者でもない。

第四の壁を突破して語られる様はマネーショートでのマーゴットロビーが連想されますが、あれはほんの数シーンだけだったのに対し、こっちは全編でやってるという出演量。

この彼が最後に辿る顛末がなんとも切ないというか怖いというか。

あまりにも意外過ぎて開いた口がふさがりませんでしたね。

 

まだまだありますよ、チェイニーの趣味は釣りということで、あらゆるシーンで彼が釣りをしている映像が流れます。

これをうまく演出したのがブッシュから副大統領を打診された2度目の場面。

ブッシュは経験が浅いためどうしても補佐官や国防長官という華麗なキャリアを積んだチェイニーを副大統領にしたかった。でもチェイニーは特に意味のないポストに就くには条件があることをブッシュに告げるんですね。

これも突き付けるのではなく、あくまで相互理解させるために例えば…みたいな言い方でブッシュに詰め寄る。

ここで話してる最中フライフィッシングの映像がフラッシュバックされるんですね。

獲物をおびき寄せるためにゆらゆらと揺れている疑似餌と、チェイニーの話がシンクロしているんです。

要はチェイニーの話はブッシュを納得させる=釣りあげるための餌だという映像だったわけです。

 

あとは大統領選辞退後の映像。

国防長官に就任した後、大統領選立候補を目論んでいたわけですが、次女がレズビアンであることを告白。

同棲婚などを認めない共和党から大統領に立候補したらどうしたって次女が矢面にされる、それを想定したチェイニーは辞退するんですね。

そしたら急に犬が出てきて大きな庭と湖のある映画出てきて、チェイニーは企業のCEOになって家族とともに幸せに暮らしました、とさ。

と、なって急にエンドロールが流れ出すという演出。

その後かかってくる電話が無ければチェイニーは家族を優先し残りの人生を謳歌していたのに、っていう映像でした。

 

こんなのをガンガン途中で入れてくるわけですよ。

副大統領になる決心をしたチェイニーに対し、戸惑いを隠せないリンとのやりとりを、急にシェイクスピア風にやってみました、って戯曲チックなシーンを入れたり、ブッシュ大統領が軍事作戦を開始したという放送をしている時にブッシュはビンボーゆすりしてました、って映像を映した後に、イラクで爆撃に怯えて机の下に隠れてる家族が足を震わせてる映像にスライドさせたり、FOXニュースのキャスターを使って代弁させたり、当時の映像に今の役者を入れて再現させたりと、沢山の場面で監督ならではのニクイ演出が施されておりました。

 

結局チェイニーは悪いやつなのか

副大統領という目立たないポストを利用して大統領や他の役職がすべきことを公にせずやりたい放題やってきたチェイニーですが、果たして彼がやったことは悪いことなのか、完全なる悪だったのか。

結論から言えば完全に悪ではない、と思える場面が多々あったように思えます

もちろん大量破壊兵器を持ってないイラク攻撃や、「ゼロ・ダーク・サーティ」で描かれたような拷問を容認していたとか、国民を監視していたとか、目に余ることをやっていたのは映画の中でも実際の報道でも明らかですが、最後の彼の口から語られたことは強いアメリカであるためにやったことの何が悪いのか、みたいなことをいってるわけです。

確かに批判されてることも耳に入るし謝罪しろとも言われている。しかし俺は謝らないと。

やらなければいけないことをやったまでで、それもこれもアメリカ国民の安全を願ってなったことだと。

やり方がやり方だけに指示はできませんが根っこの部分では愛国心をもつ市民と何ら変わりはないわけで。

 

それと妻に対しての愛情も見え隠れしている描写が多いです。

妻もきっと政界でバリバリやりたかったに違いありません。しかし時代が時代だったからそれができなかった。その思いを汲んでクソ野郎だった当時の自分が改心し上り詰めていったわけで、妻が描く理想の夫として努めたかったのだろうと。

また大統領選を辞退したのだって、娘を思ってのこと。

もちろん信念だけを貫くのであれば娘の事を隠し続ければいいけれど国のリーダーともなればプライベートまで見られてしまうわけでそうなった時に娘はいったいどうなってしまうのか、ということに対しての答えが辞退だったわけで、チェイニーもちゃんと心をもった娘たちのパパだったよなぁと。

 

最後に

演者たちの激似っぷりも見事で、チェイニーの人相はよく把握してないけど、パウエル長官もブッシュもそっくりで、特にブッシュはしゃべり方もどことなく寄せて声色作ってましたよね。

サムロックウェル芸達者だなぁと。

あとライスさんもそっくりでしたよね。あれライスさんだよね?

途中クリスチャンベールがいつも以上にボソボソしゃべるシーンがあって、しかもその声に薄くエフェクトかかってて、その声が完全にバットマンの声にしか聞こえなかったのは僕だけでしょうかw

 

結局のことろ僕はエンドクレジットの後で流れる映像で、政治の話よりも今度公開されるワイルドスピードの映画の方に興味があるその他大勢の一人にすぎず、この映画をすべて把握できる知能と知識がないということを今回改めて痛感したわけですが、本当に自分含めみんながもっと国の事に目を向けなければいけないんだなぁと。

じゃないと日本もチェイニーのような奴が目立たないところで何を画策しているかわかりませんからね。

決して対岸の火事ではないんですよホント。

 

とにかく映画的にも大変うまい演出が冴えわたっていて満足した映画ございまいました。

というわけで以上!あざっした!!

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満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10