ワイルドライフ/WILDLIFE
うちの両親は父が仕事をし母が家を守る、というごくごく普通の夫婦で、この映画で描かれるであろう「夫婦の崩壊」の予感なんて、リビングにも台所にも両親の寝室の隅っこにも存在しない、とても平凡でありながら絆で結ばれた関係だと、息子目線でありますが感じていました。
だから僕はこの映画に登場する夫婦が、様々な変化によって衝突してしまうってのがもしかしたら理解できないかもしれない。
でもきっとこの映画は夫婦が崩れていく様だけを描くんじゃ無いってのは予想できて、この変化によって3人がどんな道を進みどう成長していくか、って流れになるんだろうなと。
おっと、いきなり自分で何この映画への想いとか予想とかしてんだよ、一体どういう映画なのか説明せいっ!
って思ってる方すんません。
ハリウッド映画でナヨナヨした役やらせたら天下一品である(失礼w)ポール・ダノが初めて映画監督をした作品で、内容は夫婦仲が険悪になっていくのを息子の視点で描くってお話です。
予告を見る限り、暗そうな話だけど透明感とまばゆい光を含んだ映像が凄く印象的で、どこか吸い込まれそうな感覚です。
早速鑑賞してまいりました!!!
作品情報
様々なインディペンデント映画や、優れた映画監督の作品に出演する度に、唯一無二の存在感を放つ個性派俳優ポール・ダノが、ピューリッァー賞作家リチャード・フォードが1990年に発表した同名小説を映画化。
1960年代の田舎町を舞台に、仲睦まじい夫婦と息子の3人家族が、ある変化によって関係が壊れバラバラになっていく姿を、息子の視点で綴っていく。
今回映画監督デビューしたポール・ダノを公私共に支えるゾーイ・カザンが製作と脚本で参加。
原作者から背中を押され勇気をもらったことで、作品と撮影に誠実に向き合いながら取り組むことができたと語る監督が、ある家族の肖像を丹精込めて作り出していく。
繊細さと優しさを兼ね備えた監督が生み出す温かな余韻に涙してください。
あらすじ
1960年代、カナダとの国境近くにあるモンタナ州の田舎町。
14歳の少年ジョー(エド・オクセンボールド)は、ゴルフ場で働く父ジェリー(ジェイク・ギレンホール),専業主婦の母ジャネット(キャリー・マリガン)と、家族3人で暮らしていた。
新天地での生活がようやく軌道に乗り、仲睦まじい両親の姿を心安らかに眺めていたある日、ジェリーが突然、職場を解雇されてしまう。
やむなく、命の危険も顧みず、山火事を食い止める出稼ぎの仕事に旅立つジェリー。
残されたジョーとジャネットは、働くことを余儀なくされ、ジョーは写真館、ジャネットはスイミングプールでの職を見つける。
だが、それだけでは生活は安定しなかった。やがてジョーは、優しかった母が不安と孤独に苛まれ、生きるためにもがく姿を目の当たりにするようになる……。(Movie Walkerより抜粋)
監督
今作を手掛けるのは、ポール・ダノ。
はい、僕の大好きな俳優さんです。
多分最初に見たのは「ルビー・スパークス」。
なんだこのなよっちい男は!なんて思いながらも、気づけば彼に魅了されてました。
それ以前の作品もあとから見るようになり、「リトル・ミス・サンシャイン」や「ゼア・ウィルビー・ブラッド」などの良作でも演技や存在感はピカイチ。
「プリズナーズ」での君の悪い役柄とボコボコにされるシーンは特に印象的だったし、「LOOPER/ルーパー」での脅えっぷりや、最近話題となった「スイスアーミーマン」でのラドクリフ君とのユニークなやり取りと、抱えた絶望感とそこから見つけ出す希望を見出す姿は彼しか表現できないお芝居で圧巻でした。
今回初監督ということでどんな演出や撮影、芝居の組み立て方をしたのか非常に楽しみです。
彼の過去作はこちら。
キャスト
専業主婦の母ジャネットを演じるのはキャリー・マリガン。
一件物腰柔らかく包み込んでくれそうな、ステキな笑みを浮かべてくれる彼女ですが、実は気象の荒い役柄を演じさせたらすんごい演技力を見せてくれるんですよね。
僕の中で強く印象に残ってるのは「SHAME/シェイム」や「インサイド・ルーウィン・ディヴィス~名もなき男のうた~」。
シェイムは体当たりで臨んだメンヘラ妹の役を見事に熱演していたし、ルーウィンディヴィスでは、すました顔で毒舌全開、でもやることやってる計算高い女をこれまた熱演していて、こういう清楚で可憐な顔つきでありながら、性格は全然違うっていうギャップのある役柄は最近の女優さんの中ではずば抜けていると思います。
そして父・ジェリーを演じるのは、ジェイク・ギレンホール。
実は彼、この1週間の間で今作を含め3作も日本で公開されてるんですね~。
1週前に公開された「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」では謎のヒーロー・ミステリオ役として登場し、金塊に目がくらんだ男たちのサスペンス映画「ゴールデン・リバー」も今作と同日公開。
もっといえば、今年はNetflixで「ベルベット・バズソー」が配信されてるし、とにかくインディペンデント系とスタジオ作品にいい塩梅で出演してるせいでマジ出ずっぱり。
僕のブログでも彼の作品は何度も書いてるので、これ以上書くことねえ!
多分今作でも目ん玉飛び出るくらい怒るシーンがあるんだろうなぁ。
彼の過去作はこちら。
他のキャストはこんな感じ。
息子・ジョー役に、「ヴィジット」でジジババに散々怯えながらも華麗なラップを披露してくれた男の子役が記憶に新しい、エド・オクセンボールド。
ウォーレン・ミラー役に、「聖なる鹿殺し」、「モリーズ・ゲーム」などに出演する名バイプレイヤー、ビル・キャンプなどが出演しています。
演技派俳優2人を夫婦役に、どんな家族の肖像を描いたのか。
そしてごく普通の両親に育てられた僕は、すれ違いによって崩れていく夫婦と家族の末路に何を思うか(いい歳して息子目線でみるのかよ!w)。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
家族がどうなったとしても、それは僕にとって家族。
息子の視点で崩壊していく家族を捉えるも、監督の優しさが溢れていた映画でした。
以下、核心に触れずネタバレします。
終始戸惑う顔。
父の天邪鬼にコロコロと職を変える関係で転々と引っ越しを繰り返す家族。
ようやく腰を据えて落ち着いたかと思ったら、クビ。
ポジティブシンキングで乗り切ろうとする母だったが、命の危険が高い山火事の仕事を選んだ夫に愛想をつかし、浮気に走る。
父のいない間にどんどん母が女に変化していく姿に戸惑う息子。
そして父が帰ると、もはや家族は家族というコミュニティとして成り立っていなかった。
はい、今回も時間の都合上あっさりな感想になりますが、描かれていることが子供にとっては中々つらい体験が続くんですが、それでもどこか優しさに溢れていると感じたのは監督が徹底して被写体、特に息子にフォーカスをあてて、風景と共に収めることで、息子の家族との思い出的な感覚で描いたからなんではないでしょうか。
ええ、いつも通り何を言ってるのかわかりません。
結構ゆったり話が進むから意識が遠のいてしまいまして…。
実際長回しでカメラ固定で役者任せなところがかなりありまして。
とはいえ、ジェイクもキャリーも圧倒的演技力で、父の葛藤母の葛藤ってのを表現していたと思います。
そもそもこの両親、息子に対してどう考えてるか家族に対してどう考えてるかってのがセリフでなんとなく理解できるかと。
父としてはクラスで一番くらいでいい、という考えに対し、元教師の母親はクラスを上げたほうがいいと。
こういう場合母親はやはり教育に力を入れてるってのが相場ですが、元教師ってのも手伝って、その辺はわかりやすい設定。
また父が失職して今後の家族をどうするかを考えた時に、自分が働くと率先する姿は、自分のことよりも家族の事を考えている証拠だよなぁと。
○○でいい、的な考えの父は、息子にアメフトプレーヤーとして育ってほしいと言いますが、実際息子はアメフトが好きじゃない。
それに対して反対しないのがどこか楽天的。
実際家族が引っ越ししてばかりなのは、父親がコロコロ職を変えてることが原因であり、その辺を見ても父親の体たらくぶりは明らか。
母は家族を最優先に、父は自分のプライドを最優先に考えてるのが序盤ではっきりと示されてるのではないかと。
なんか正直家族が破綻していくのが目に見えてるのがわかりやすい。
とはいえ、この関係で、この3人でここまで暮らしてきたのはうまくバランスが取れていたからなんでしょうね。これまで何度もこういうことがあったわけですから。
しかし父親が家族の元を離れ遠い地で単身働きに出ることが、家族という船を路頭に迷わせるわけです。
母親はパートに出ることで家族のために頑張るんだけど、あまりにも身勝手な夫を見て、やるせなくなっちゃったのかなぁ。
ハゲデブの金持ちのおっちゃんに近づいていくのも、心にぽっかり空いた穴を埋めるための情事って表面的には見えるけど、表情は決して穏やかじゃないのがもっとほかに理由があるってのが見て取れる。
夫がいないことへの淋しさではないよなぁ。もっと大きな喪失感がそこにはあったと思う。後悔とか自分の今後の人生とか。積もり積もったものがでてしまったというか。
真面目な人ほどはみ出したら止まらないというか。
父は父で今まで自分の身勝手で家族を巻き込んだとしても壊れることはないと安心しきってたと、心のどこかで思ってましたよね。
帰ってきてもニッコリだし、おい、おかえりのキスは?とか、明らかに家の空気が違うのにサラッと言っちゃう辺り。鈍感。
この後ブチ切れ、とんでもない行動に出るんですが、まぁ見切り発車もいいところで。
てかね、この夫婦、息子に何を見せてるの?って。
醜態さらし過ぎですよ。
そういう意味で言うと、この映画のタイトル「ワイルドライフ」ってわかるなぁ。
息子にとってはワイルドすぎるよこの体験。
で、今作は3人の表情にフォーカスをあててる分顔が近いんですけど、じっと見ていて一番動揺していたのは息子くんで。
ずっと表情が戸惑ってたましたね。
どんどん家族の心が離れていってしまう中で、そこまで喜怒哀楽をはっきりさせない表情なのにもかかわらず、細かな変化で心境の度合いを示す顔。
そしてあまり主張をしないのもまたせつない。
終盤だけですよ、しっかりモノ言ったの。
家族はどうなっちゃうの?って。
もっと彼が家族を繋ぎ留めれば関係は修復できたかもしれないって僕は思ってしまった。
こういう時こそ君の出番なんじゃないのか?って。
この映画はラストでそれでもあなたたちは僕の両親で父で母で家族だっていう、一番幸せな瞬間を収める行為で幕を閉じるんだけど、実はこの距離感がこの家族にとっては個としても集合体としても一番いい状態なんだな、って。
あの狭い家で色々傷つけあって罵りあってしまったことは残ってしまうけど、3人が成長することで、離れていても家族になれるのなら、これは家族の幸せの在り方の一つとして、肯定できるラストだったんじゃないかなと。
本当ならこんな両親に対してひねくれてもいい年齢だと思うんですよ、息子は。
でも最後にとった行動が、二人を許す行為にも取れて、君はなんていい子なんだと。そんな君を育てたのはこの2人なんだよなぁと思ったら、家族って色々な形があるよなぁと。
最後に
なんかぶつ切りになってすいません、めっちゃ眠い…
監督のデビュー作はだいぶ他力本願があったように感じましたけど、この映像を撮れる力があるのならば何作か撮っていけば良作が生まれる気がします。
息子のクラスメートとのエピソードが何も活きてないので、もっとドラマを構築させていく方にも意識していけば面白いものが作れるのかなぁと。
めっちゃ自分目線で語ってますが、荒々しい家族の肖像をこんなにも静かに物語る空気にした力量は素晴らしいかなと。
今回短めですいません、この辺で。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10