たかが世界の終わり
世界の終わりだというのに、「たかが」と言い切ってしまうタイトルのインパクトさ。何をもってこんな表現をしたのか。
めちゃめちゃ気になるということで見に行ったわけですが。
もちろんそれだけじゃない、世界が嫉妬する才能の持ち主グザヴィエドランの新作とあっちゃあ見逃すわけにはいかないわけです。
しかも今作では、ヨーロッパを代表する著名な俳優陣が、家族という小さなコミュニティで演技合戦するのですから楽しみで仕方ない。
というわけで、さっそく見に行ってまいりました。
作品情報
世界のカルチャーシーンに眩しい光を放ち続ける若き天才、グザヴィエ・ドラン待望の最新作は、ジャン=リュック・ラガルスの舞台劇「まさに世界の終わり」をベースに、愛してるのに傷つけあう「ある家族の一日」を、世界で活躍する豪華キャストが渾身の演技で魅せる、ドラン流の愛の物語です。
今作でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞しています。
まさに世界の終り/忘却の前の最後の後悔 (コレクション現代フランス語圏演劇)
- 作者: ジャン=リュックラガルス,日仏演劇協会,Jean‐Luc Lagarce,齋藤公一,八木雅子
- 出版社/メーカー: れんが書房新社
- 発売日: 2012/03
- メディア: 単行本
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あらすじ
「もうすぐ死ぬ」と家族に伝えるために、12年ぶりに帰郷する人気作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)。
母のマルティーヌ(ナタリー・バイ)は息子の好きだった料理を用意し、幼い頃に別れた兄を覚えていない妹のシュザンヌ(レア・セドゥ)は慣れないオシャレをして待っていた。
浮足立つ二人と違って、素っ気なく迎える兄のアントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)、彼の妻のカトリーヌ(マリオン・コティヤール)はルイとは初対面だ。
オードブルにメインと、まるでルイが何かを告白するのを恐れるかのように、ひたすら続く意味のない会話。
戸惑いながらも、デザートの頃には打ち明けようと決意するルイ。だが、過熱していく兄の激しい言葉が頂点に達した時、それぞれが隠していた思わぬ感情がほとばしる――――。(HPより抜粋)
監督
監督はグザヴィエ・ドラン。
「Mommy/マミー」で初めて監督の作品を見て感激したのを覚えてます。
過去作も見なきゃ!なんて思ってたら、あっちゅうーまに新作ですか。
もっと早く見とくんだった。
監督は過去の自身の影響からか、今作では家族を、前作では母と子、その前は恋人などの様々な愛を描いた作品が多い傾向にあります。
そして、もう一つの特徴はLGBTやADHDといった人物が必ず登場していること。
これは、自身もゲイである監督が、いわゆる「普通とは違う誰か」でも同じ普通なんだということを主張したもの、なのかなと思ってます。
そんな監督の作品がどんなものか簡単にご紹介。
実は子役としてちょこちょこ出演していたドラン。
現在でも、その美しい顔立ちから、監督業の傍ら演者もこなす才能の持ち主。
監督としてデビューしたのはなんと19歳。1
7歳の青年が母親への嫌悪に戸惑いながらも苛立ちを抑えられずに葛藤していく様を描いた「マイ・マザー」で鮮烈デビュー。
その後も、心と体の性の不一致に悩む男性と、その事実を打ち明けられた恋人との10年に及ぶ愛を描いた「私はロランス」、未亡人の女性が、ADHDを持つ息子の行動に頭を悩ませるも、ある女性と出会い3人で助けあうことで道が開かれていく「Mommy/マミー」などがあります。
最近の作品の感想はこちら。
キャスト
12年ぶりに帰郷する34歳の作家ルイを演じるのは、ギャスパー・ウリエル。
すいません初めて知る方です。
フランスの方だそうです。
調べてみたらどれも見てない作品ばかり出演してました。
今回兄役で出演しているヴァンサン・カッセルも出演していた「ジェヴォーダンの獣」で映画デビュー。
第一次世界戦下、戦死の知らせがありながらも、一途に生存を信じた女性の物語「ロング・エンゲージメント」で、フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞で新人賞を獲得しました。
その後も、あのレクター博士の幼少期から青年期を軸に、冷酷な殺人鬼へと変貌を遂げていく姿を描いた「ハンニバル・ライジング」、フランスのファッションデザイナー、イヴ・サン=ローランの壮年期を描いた「SAINT LAURENT/サンローラン」などで主演として出演しています。
主人公ルイの兄嫁カトリーヌを演じるのはマリオン・コティヤール。
「マリアンヌ」、「アサシンクリード」と立て続けに公開作品がかぶってるマリオン。
今作の製作のきっかけになったのは彼女だ、と監督は語っています。
「Mommy/マミー」を引っさげてカンヌ映画祭を訪れた監督。
彼女と出会ったことで、以前から彼女の作品を好んで見ていたこともあり、ぜひ仕事をしたいとアプローチしたとのこと。
彼女に関してはこちらでどうぞ。
ルイの妹シュザンヌを演じるのは、レア・セドゥ。
「アデル、ブルーは熱い色」での世界的評価を皮切りに、「ロブスター」や「007/スペクター」などで活躍する彼女。
「007」シリーズ最新作「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」にも出演します。
彼女に関してはこちらをどうぞ。
他のキャストに、兄アントワーヌ役を、昨年「ジェイソン・ボーン」でアクションを見せつけたヴァンサン・カッセル、
母マルティーヌ役を、フランスの大女優であり「私はロランス」に続いての監督作に出演の、ナタリー・バイが出演します。
この5人がどんな家族の愛を見せてくれるのか、監督がどんなマジックをかけるのか、話も演技も楽しみですね。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
退屈で美しい、理解しあえない家族の物語。
以下、核心に触れずネタバレします。
全くもって。
まずは率直な感想を。
とにかく退屈で苦痛な映画でした。
何が退屈って緩急の全くない会話会話会話。
口論の絶えない家族が、顔ドアップであーだこーだいうわけです。
あとあと思うと意味のある口論だったわけですが、鑑賞最中はそんなことも考える暇もないほど、兄や妹がワンワンキャンキャン吠えるわけです。
そういう意味では黙ってしまうルイの気持ちもわかります。
やりとりを見てるこちら側は、ドアップの顔や仕草から色々読み取っていくわけですが、個人としてはそれを追うのが大変でいっぱいいっぱいだったなぁと。
ルイが家族に話したいことをなかなか言わないし言えない状態を作る家族。
この久しぶりのひと時を、そんな悲しいことで壊さないように繕う女性陣に対し、何かあれば怒鳴る兄。
はっきり言って終始これです。疲れます。苦痛です。見てられない。
みんなそれぞれの思いが強く、結果それが愛ゆえにだったわけですが、ひとりくらい「まぁまぁまぁ~」みたいなやつは出てこんのか、と。
ルイに腹が立つ。
そもそも論として、ルイは自分で勝手に家を出て、順風満帆に仕事で有名になり、家族のの誰かが記念日ならば絵葉書を送って家族孝行していたつもりかもしれない。
だからといって、12年も顔を出さずじまいで、自分の死期が近いことを伝えるだけのために帰ってくるのは、虫が良すぎやしないだろうか。
ということは、自分の死期が近くなかったら帰る理由なんかルイにはなかったわけだ。
というかまずお前は帰ってきたらただいまの前に、長い間帰ってこれなくてごめん!が先だろうが。
お土産も忘れるな。
こう考えると、出て行ってしまい残った男は自分だけ、家のことは俺がなんとかしなきゃ!なんて思いながら、色々と犠牲にしてきたアントワーヌ兄ちゃんが怒ってばかりなのもわかるなぁと。
そりゃあルイの性的嗜好に難色を示したり、勝手に家を出てそれなりに成功をおさめてることに腹を立ててしまう気持ちが感情となって、ルイに本心を語らせないよういじわるするわけだけど、この主人公の虫が良すぎる面を考えてしまうと、自分も長男故にそう簡単に許すわけにはいかないよなぁ。
お前は他人だ!
好きに生きてきたんだから今更災いを持ち込むな!
みたいにはなるよなぁ。
とはいえ兄ちゃん、やはり昔は男同士仲良く暮らしていた日々もあったわけで、この辺のジレンマがちょこちょこ垣間見えるのもまた監督のうまい演出、いやヴァンサンカッセルの演技の成せる業とでもいいましょうか。
素晴らしかったですね。
これに対抗するのは妹のシュザンヌ。
幼くしていなくなってしまった兄に会えるということで、普段しない化粧をし待ち構えるわけです。
もう憧れの眼差しです。
そりゃあそうだ。
え?私にもう一人お兄ちゃんがいたの?
どんなお兄ちゃん?
へ~作家なんだすご~い!
こんな何もない田舎から都会へ飛び出し成功したお兄ちゃん、
きっといろんなお友達がいて、いろんな人と付き合って、美味しいものや素敵なお店とかがいっぱい並んでる街で優雅に過ごしてるんだろな~、
え?お兄ちゃんが帰ってくるの?
うそ!?やだ!?
こんな格好じゃ嫌われちゃう!
おめかししなきゃ!
え?お兄ちゃんタクシーで来たの!?
お母さんもうお兄ちゃん来たよ~何やってるのネイルなんか乾かしてないでほらこっちこっち!
・・・こんな描写は一切ありませんww私の妄想ですww
まぁこんな感じで羨望を抱き待っていたのでしょう。
にもかかわらず、ルイに執拗につっかかるアントワーヌと激しいバトルを繰り返します。
この構図も面白く口げんかになると男はやっぱり勝てないなというのは、万国共通なのかな、と。
兄ちゃんヤケクソ感半端なかったしw
てか兄ちゃん、いくら何を言ってもいいからって、妹に向かって売春婦呼ばわりはアカン。
お母さんもまた監督作品によく出てくる感じのケバイ装いで、ギャンギャンわめいてばかりの兄妹をなだめながら明るく振る舞う立場。
何とか仲を取り持とうと昔話で花咲かそうと機転を利かし、しまいにはノマノマイェ~♪がラジオから流れ、踊り出す。
そこへまたもやギラギラ兄貴登場。
家族水入らずにノマノマイェなんか聞いてる場合じゃねぇだろうが~!!
はい団らん終了。
お母さんの努力もむなしく、和気あいあいだった時間はあっという間でした。
ルイにとって一番心を許せたのは兄嫁のカトリーヌ。
初めてルイとあったからかどこかよそよそしくぎこちない接し方をするも、キチンと話を聞くことができ、文句も言わないいい女。
じゃなぜ心許せたのか、それはルイの本心を見抜いていたから。
自分の子供の話をしていても、あんたあたしの話聞いてる?と思ってしまうほど上の空のルイを見て、こいつただ帰ってきたわけじゃねぇな、と。
心の中を見透かされてるんですねぇ。
できればもうちょっとアントワーヌの暴走を止めてほしかったなぁ。
で、やっぱりアントワーヌの怒りは収まらないんです。
ルイとドライブするシーンは兄の怒りが沸点まで到達するのと車の速度が比例していく見事な演出だったんですが、そこでも当たり障りなく空港のカフェの話から本題へ切り込んでいこうという作戦を企てるルイでしたが、すでにそういうところがお前腹立つんじゃボケェ!!とアントワーヌ怒りのデスロードが始まるわけです。
正直何言ってるかわかりませんでした。
とにかく本音を言え!と。
そして俺を巻き込むなと。
どうしたいねん。
そんなこんなでクライマックスを迎えるわけですが、ここでの夕日が強烈に素晴らしい。
その夕日をバックに、まだ上辺だけだけどせっかくいい感じにまとまりかけてきた家族の絆が再び壊れていくシーンは、胸をかきむしりました。
その後の鳩時計が何を意味したのか。
切ないし、虚しい。
最後に
今作も監督の腕が随所に光っていて、前作「Mommy」同様、どのショットを切り取っても素敵な画になってしまう。
不満そうな顔、心配そうな顔、怒り狂った顔、顔にフォーカスを充てている分、まわりをぼかしすことで、より輪郭はくっきりに、表情はリアルに映し出され、時折介入する過去のシーンでは、まばゆい光がこれでもかというほど鮮やかで美しく息をのんでしまう。
ここに関しては非常に素晴らしく、グザヴィエすげえじゃん!と。
音楽もまた随所で効果的な演出をもたらしていました。
オープニングでの「Home is where it hurts」「家は救いの港じゃない」なんてルイの心情をうまく歌で表現してたし、途中の「恋のマイアヒ」は日本人だけ笑ってしまう選曲で。
他にもBlink-182やエンディング曲のMOBYの「Natural blues」もまた僕の抱えた問題なんて神様しか知らないという、なんともうまいチョイスで幕を閉じるというニクい演出。
あいかわらず監督のすごさが冴えわたる作品ではありました。
見終わった後、これも愛なのかと、なるほどなぁ、と、そうなのか?がする繰り返交互の押し寄せる映画でありました。
他人の家族のいざこざなど退屈でしかないんですよ所詮。
それをわざとやっている、そんな感じでしょうか。
繰り返してして言います、つまらないのでなく退屈な作品だった、と。
うん、好みでもない。
楽しくもない。
だがつまらなくはない!
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★ 5/10