愚行録
サスペンス映画は1度見たら2度目ってなかなか見ないんですよねぇ。
オチわかってるわけだし。
でもこの映画、3度の衝撃というだけあって、もしかしたら最低3回は楽しめるのかもしれない。
まぁそんなわけないんですが、普通に「悪人」の殺した殺されたコンビが久々の共演というので、楽しみだなぁと。
そんなこんなで早速見てまいりました。
作品情報
貫井徳郎原作のミステリー小説で、第135回直木賞候補作にもなった「愚行録」を豪華キャストで映画化。現代社会に蔓延る様々な愚行の数々に、見る者の人間性が試される、戦慄の群像ミステリー映画です。
あらすじ
エリートサラリーマンの夫、美人で完璧な妻、そして可愛い一人娘の田向一家。絵に描いたように幸せな家族を襲った一家惨殺事件は迷宮入りしたまま一年が過ぎた。週刊誌の記者である田中
(妻夫木 聡)は、改めて事件の真相に迫ろうと取材を開始する。
殺害された夫・田向浩樹 (小出恵介) の会社同僚の渡辺正人
(眞島秀和) 。 妻・友希恵 (松本若菜) の大学同期であった宮村淳子 (臼田あさ美) 。 その淳子の恋人であった尾形孝之 (中村倫也) 。
そして、大学時代の浩樹と付き合っていた稲村恵美 (市川由衣) 。
ところが、関係者たちの証言から浮かび上がってきたのは、
理想的と思われた夫婦の見た目からはかけ離れた実像、そして、
証言者たち自らの思いもよらない姿であった。
その一方で、田中も問題を抱えている。
妹の光子 (満島ひかり) が育児放棄の疑いで逮捕されていたのだ――。(HPより抜粋)
監督
監督は長編映画初となる石川慶。
まったくもって存じ上げません。
それもそのはず今回が長編映画デビュー作。
今作がベネチア映画祭オリゾンティ・コンペディション部門に選出されるとして話題になりましたが、今までどんな活動をしてきたのでしょうか。
大学卒業後にロマン・ポランスキーなどを輩出したポーランド国立映画大学で演出を学び、主に短編映画を手掛けてきたそうです。
数々の国際映画祭に出品し、日本とポーランドの合作長編企画「BABY]は、プチョン国際映画祭企画マーケットでグランプリをとったとのこと。
はっきり言って、よくわかりませんw
要は今回の映画見ろってことで。
監督の最近の作品。
これ、良いです。
キャスト
主人公である週刊誌の記者・田中武志を演じるのは妻夫木聡。
「家族はつらいよ」、「殿、利息でござる!」、そして「怒り」、「ミュージアム」と主演作ではないものの、どれも全く違った演技を見せ楽しませてくれたブッキー。
「怒り」では綾野剛とのカラミにドキドキし、ラストの泣きながら街を歩きさまよう姿はさすがでございました。
「ミュージアム」でも犯人であるカエル男を常軌を逸した演技でゾクゾクさせていただきました。
他にも大根仁監督の最新作「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」、「家族はつらいよ2」などがあります。
こちらもどうぞ。
育児放棄の疑いで逮捕された田中の妹、光子を演じるのは満島ひかり。
「みぞみぞしてきた!!」
ん?と思った人、あなた満島ファンではありませんね??
いやいやそんなことはないですが、TBSで放送されたドラマ「カルテット」でチェリストのすずめちゃんを演じた彼女。
このドラマにめちゃめちゃハマってました。
このセリフ流行んないかなぁって思って日常でちょこちょこ使ってましたww
視聴率悪いんだよなぁ、面白いのに。
そんなTVや映画で活躍してる彼女、めちゃめちゃ苦労してたんですよね。
当時人気ダンスグループ「Folder」の一員として活動、メインボーカルの三浦大知が脱退し、「Folder5」として活動再開し、アニメ「ワンピース」のテーマ曲に抜擢させるなど人気を得ていました。
しかし、その人気も長くは続かず活動休止。女優としての道を選びます。
なかなか芽が出ませんでしたが、カリスマ変態盗撮男の予測不能な純愛の行方を大胆かつ過激なエピソードを取り入れた、園子温監督の代表作「愛のむき出し」が転機となります。
この作品で賞レースに名が挙がり、数々の作品に出演。
オペラ歌手を目指す対照的な二人の欲望と嫉妬が渦巻くドラマ「プライド」や、妥協を重ねた自称❝中の下❞”女が追い詰められ末這い上がっていく姿をユーモラスに描いた「川の底からこんにちは」(これがきっかけで石井裕也監督と結婚!後に離婚!わおっ!)、妻夫木が加害者、満島が被害者として共演した「悪人」、江戸時代のお寺で繰り広げられる離婚をめぐった悲喜こもごもを描いた人情時代劇「駆込み女と駆出し男」など、あらゆる作品で多彩な演技を披露しています。
満島ひかりといえば歌唱力!それを思う存分楽しめる作品がこれ。
「有閑倶楽部」の一条ゆかり先生原作のコミックを映画化したもので、育ちのいいお嬢様と、雑草魂で這い上がろうとするボンビー女がオペラ留学をかけて、意地の張り合い、足の引っ張り合い、果てはドロドロした昼ドラ的展開に加え、演技初挑戦のステファニーを完全に食う満島ひかりの圧倒的存在感!他にもクサい演出のオンパレードに苦笑の連続w
とはいうものの、2人がカメラ固定でデュエットするシーンは素晴らしい歌声とハーモニーを堪能できます!はっきり言っておススメはできませんがw怖いもの見たさに、いやいや、彼女の歌を堪能したい方は是非!
他のキャストはこんな感じ。
一家惨殺事件の被害者で夫の田向浩樹役を、「ハルチカ」の公開が控えている小出恵介、
浩樹の会社同僚の渡辺正人役を、サラリーマン役がよく似合う眞島秀和、
浩樹の妻・友希恵役に松本若菜、
彼女の大学同期だった宮村淳子役を、臼田あさ美、
その淳子の元恋人尾形孝之役を、中村倫也、
そして、浩樹の元カノ・稲村恵美役を市川由衣が演じます。
人間関係がややこしい!!
理想的な家族はなぜ殺されたのか?証言者たちは何を話すのか?そこから浮かび上がる本性とは?田中の妹は事件とどう絡んでくるのか、長編映画初監督の出来栄えやいかに。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
んーーっ!後味悪い!!そして濁した終わり方!愚行が愚行を呼ぶ陰湿なサスペンス映画!!
以下、核心に触れずネタバレします。
3度も衝撃あった?
まずは率直な感想を。
なぜ一家殺害事件なんて残虐な事件が起きたのか、そして犯人は誰なのか?
主人と妻の過去の交友関係から、被害者がどんな人物だったのかを、事件から1年を迎えるにあたって再度取材をしていく田中の視点から描かれたミステリー映画だったわけですが。
どちらかというと犯人が誰なのか?という部分においては後半くらいから察しがついてくるので、そこに対してのインパクトはなかったものの、田中が取材を重ねていくにつれ、被害者の野心的でしたたかで、自分が這い上がっていくためには、他者がどうなろうと関係ない、手段など厭わないといった本性が暴かれていくエピソードは、まぁ心地悪い。
そしてそれを自分も愚行を繰り返していることに気付かず、自分の視点からでしか物事を語らない、関係者たちの証言もまた、見ていて心地悪い。
その心地の悪さを助長させる冷めた映像の質感、冒頭と最後のバスの描写、光子を襲う無数の手、登場人物のほとんどが喫煙してるという設定、ひたすら無音な状態が続く劇中など、監督のこだわりによって生まれた演出が地味に後味を悪くさせてくれます。
また主役の二人の演技が素晴らしかった。
ブッキーのすぐにでも糸が切れそうな常に不満を抱えたような顔と声のトーン、満島ひかりの今にも壊れそうな情緒不安定な演技。
この二人がいつぶっ壊れるのかヒヤヒヤしながら見ることができました。
さすがオフィス北野制作!といった映画です。
とはいえ、宣伝文句でもある3度の衝撃ってのがイマイチぴんと来ず。
おそらくあの部分だろうなぁってのはわかるんですが、衝撃!というよりも、そっと忍び寄ってくるようなジワっとしたものだったというか。
ちょっと想像していたものとは違う印象でした。
愚行者たちの証言
一人目の証言者、田向の会社の同僚である渡辺。
就職時開発に携わりたかったものの配属された部署は外回り。
田向もまた入りたかった部署とは違う販売部門での配属という、似たような境遇から社内で仲の良かった二人。
田向がどんな人物だったのかを語り出すかと思いきや、過去に寝た女を清算したい田向の悩みに相談に乗り、渡辺がその女にハニートラップ(女に仕掛けるときもこういうのかね?)を仕掛け陥れるという話。
はぁ?クズだなぁこいつら。と。
しかもそれを笑い話にしたと思ったら急に泣き出す渡辺。
いい奴だったなぁ~(泣)ってww
そりゃあ君の中では同じ境遇の中サラリーマンとして頑張ってきた仲なんでしょうけど、見てるこっちはそんなことどうでもよくてさw
いきなり最初のエピソードから絵にかいたような理想の夫婦だったとされる田向の本性が暴かれます。
次に訪ねたのは、妻・友希恵の大学時代の友人淳子。
彼女も友希恵も大学では外部者という、付属校からエスカレーターで入学してきたお坊ちゃんお嬢ちゃんたちとは違った存在でありました。
しかし友希恵はその容姿から内部者たちに気に入られ、すぐ仲間に。
内部と外部の人間がつるむことのない中、いとも簡単に打ち解けた友希恵に、いつしか外部者たちは彼女に憧れを抱き、なんとか仲間に入れてもらえないかと取り繕う。
しかしながら、自分のマネするのはいいけど、自分と同じ位置に来たら容赦なく突き落とすといった人物でありました。
それをはたから見ていた淳子は、当時の恋人である孝之に彼女の存在を妬んでいました。
しかし友希恵は淳子を気に入り内部者との集まりに度々誘います。
彼女とつるむにつれて、散々反発していた内部者たちとの交友に、まんざらでもない様子。
それもまた一時のものでした。
とある店での集まりに恋人である孝之も参加していました。
そこでの友希恵に対する孝之の言動や行動にジェラシーを募らせる淳子。
後に孝之は淳子とひと悶着し別れを告げ、友希恵と付き合います。
場面は並行して、その恋人孝之の証言エピソードも描かれます。
淳子はしきりに恨みつらみ妬みを語っていましたが、孝之はそれは羨ましさからくる感情だったに違いない、と語ります。
このように友希恵は自分にいいようになるように、他人を使って器用に振る舞う女を演じていたことが分かります。
取材したものの、芸能人のスキャンダルにより巻頭で掲載されなかったことに苛立ちを募らせる田中に1本の電話。
「私、犯人知ってます。」
それは学生時代に田向と付き合っていた恵美でした。
田向と付き合っていましたが、別の女性と付き合っていたことを知り別れたものの、しばらくして田向から連絡があり、恵美の父が経営している会社を紹介してくれと頼みこみます。
浮気して別れた女の父親が会社を経営してるからといって、よくもまぁ紹介してなんて頼めるなぁこいつ、と思いましたが、彼女もまた彼に復讐の意味も込めて、今彼氏いるけど2番目の彼氏でいいなら紹介してあげる、と彼の頼みを承諾。女って怖い・・・。
結局元サヤになりますが、ある会社で内定をもらった田向に対し、恵美は疑問を抱きます。
「誰に紹介してもらったの?」
田向は恵美のように、父親が会社を経営してる女性と浮気をしていました。
恵美はその女性を呼びつけ田向との関係を問い詰めます。
しかもそこに田向も呼ぶという一触即発の修羅場状態。
ここで仲を取り持つようなことをせず、開き直って淡々と自分の将来を語る田向。
彼もまた友希恵同様、野心的で他人を踏み台にすることなどなんとも思わない人間だったことが描かれています。
結局田向は内定をもらった会社を蹴り、実力で現在の会社へ就職します。
しかも希望していた部署でないという現実。
そんな男と結婚した友希恵。
いきつくとこはそこでしたかw
世の中差別社会じゃなくて階級社会なの、と語る恵美。
まさにこの2人がそうであったように生まれた時からレールは決まっていて、金持ちは金持ち、貧乏は貧乏と、どんなにそのレールから外れようとがむしゃらにあがいたとしても、変わることはできないということを物語ってるように感じました。
で、この事件の犯人は誰なのか?という関係者からの証言とは別に、田中の妹光子のエピソードがちょいちょい描かれます。
光子が育児放棄した原因は、過去に関係があるのではないか、と弁護士は田中に問い詰めます。
田中も光子も父親から虐待を受けていました。
田中は母親が16歳のとき行きずりの男との間に生まれています。
初めての子供とあって母親は愛情を注いだようですが、光子に関しては臨んでいた出産ではなかった。
しかも父親から性的虐待を受けており、悲惨な人生だったことが明かされます。
そんな光子を救ってくれたのは兄でした。
父親が光子に手を出した当時力がなかったことと勇気がなかったことで助けることができませんでしたが、高校生になった田中は、ついに父親に馬乗りになって手を出し光子を救います。
そのおかげもあって兄に絶対的な信頼を寄せている光子。
それまでの散々な人生から解放されることを願い前へ進もうと一歩踏み出すのですが・・・・。
という感じで物語は、思いもよらない後半へと突入します。
一家惨殺事件と光子は何か関係があるのか?
光子の子の父親は誰なのか?
是非ご自身で堪能していただけたらと思います。
最後に
きっと自分も登場人物の誰か一人に当てはまるような行動だったり言動をこれまでの人生でしてきたことでしょう。
そう考えると決して他人ごとではない愚行の数々。
改めたいですね。
冒頭のバスでの田中の行動とラストの田中の行動の対比は見事です。
この後どうなっていくのか気になったなぁ。
とはいえ、友希恵の本性が暴かれるようなもっと明確な答えが欲しかったし、事件から1年もたつのに取材するのは学生時代の友人しかいないわけ?なんて素朴な疑問もあり、もっと証言は簡潔に描いて、ほかの部分も肉付けしてもよかったかなぁという些細な不満も。
なにより後味悪い映画ではありますので、そんな映画が好みの方はぜひ見てもらえればと思います。
まぁ面白かったんだけど好みではなかったかなぁ。
というわけで以上、あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10