9人の翻訳家 囚われたベストセラー
先日、まだ公開前の「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」の脚本を、ジョン・ボイエガのうっかりによって、オークションに出される、というトンデモニュースが報道されましたね。
何とか落札前にスタッフが回収できたのはいいとして、世界中が待ち望んでいる作品なわけですから、公開前にそんなのが流出したらとんでもない事態です。
映画以外でも、まだ世に出ていない作品が、このような誰かの仕業によって発売前に世に出てしまったら、その作品の価値はどうなってしまうのか、損失はどれくらいになってしまうのか。
制作側にとっては悩みの種ですよね。
しかも今はなんでもデータで管理されているから、もしハッキングでもされてしまったら情報は駄々洩れなわけで、実際にハッカーらによって脅迫を受けた制作会社が金を支払った、なんてニュースもあるんだとか。
正しい対処法は果たしてあるのか?ないよなぁ・・・
と思ったら!
とんでもないやり方で情報漏洩を防ぎ、世界同時発売に成功したベストセラーがあったそうな。
それは何と、「ダ・ヴィンチ・コード」でおなじみ、ラングドン教授シリーズの4作目の小説「インフェルノ」。
なんと世界各国の翻訳者たちを地下室に閉じ込めて翻訳作業をさせたという裏話。
確かにこれなら同時に発売も可能だし、関係者を隔離させれば情報も洩れないよね!
もう人権とか関係ないのかw
それくらい徹底しないとダメなんですね~。
今回鑑賞する映画は、この実話をもとに、どんでん返しの連続で送る新感覚ミステリーだそう。
むっちゃ面白そうじゃん!!
てことで、早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
大ベストセラー「インフェルノ」出版の際に驚くべきミッションを遂行した、という実話をもとに作られた新感覚のミステリー映画。
フランスを舞台に、大ベストセラー完結編の世界同時出版をするために集められた9人の翻訳家が、完全に隔離された場所で翻訳作業を開始するが、何故か冒頭10ページが流出し、出版社社長は犯人探しに奔走するというもの。
真犯人の目的や、完全に隔離された状態の中でどうやって情報は漏れてしまったのか、そして犯行の手口まで、誰もが誤訳してしまうほど緻密な物語を、「タイピスト!」で大ヒットさせた監督が、新たな才能で観衆を再び驚かせる。
あなたはきっと間違えた答えにたどり着き、もう一度見たくなるはず!
あらすじ
ドイツのブックフェアの会場で、世界的ベストセラー「デダリュス」三部作の完結編「死にたくなかった男」の出版権を獲得したと、高らかに宣言するアングストローム(ランベール・ウィルソン)。
出版社のオーナーである彼は、多言語の翻訳を同時にスタートし、この話題作を全世界で一斉発売すると確約する。
そのために選ばれた9か国の翻訳者たちが、フランスの豪邸に集められた。
携帯電話もパソコンもすべての通信機器を入り口で没収された彼らが、助手のローズマリー(サラ・ジロドー)の案内で連れていかれたのは、ロシアの富豪が核戦争に備えて作ったという広大な要塞のごとき地下室だ。
小説の流出を防ぐために屈強な警備員が監視する部屋で、毎日20ページだけ渡される原稿を翻訳、1か月で仕上げ次の1か月で推敲するというスケジュールが言い渡される。
食事は豪華で週1日の休日のための娯楽施設も完璧だが、隔離施設には違いなかった。
初日から注目を集めたのは、その若さで英語版を任されたアレックス(アレックス・ロウザー)だ。
慣れない環境で緊張する翻訳者の中で、豪快に居眠りを続けていたのだ。
もう一人ロシア語版のカテリーナ(オルガ・キュリレンコ)も、完全に浮いていた。
「デダリュス」のヒロイン、レベッカに入れ込むあまり、彼女と同じ白いドレスを纏い、ヘアスタイルやメイクも忠実に再現していた。
一方で、金のためだと開き直る、ギリシャ語版のコンスタンティノス(マノリス・マヴロマタキス)のような翻訳者もいる。
毎日顔を合わせ、同じ目的へ向かううちに、打ち解けあった9人の翻訳者たちは、やがて迎えたクリスマスの夜、ローズマリーを招待して聖夜を祝う。
ところが、日付が変わるころ、事件は起きた。
アングストロームの携帯電話に、「冒頭10ページを流出させた。500万ユーロで損失は止められる。24時間以内に払わないと、明日、次の100ページもネットで公開する。」という脅迫メールが届いたのだ。
メッセージの最後には、その夜、皆で合唱した歌のワンフレーズが引用されていた。
原稿にアクセスできる関係者は、本名も素顔も非公開の作者、オスカル・ブラックと、アングストロームだけだ。
翻訳者の犯行だと確信したアングストロームは、次の100ページを配らなければ流出できないはずだと、翻訳作業を中止する。
普段から反抗的なポルトガル語版のテルマ(マリア・レイチ)は、私物の捜査に抵抗するが、暴力も辞さない警備員たちに押さえつけられる。
身の危険を感じた翻訳者たちは、「いつコピーした?」「ネット接続の方法は?」と推理するがすぐ行き詰まり、互いに疑いの目を受け始める。(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのはレジス・ロワンサル。
長編映画デビュー作「タイピスト!」が日本でもヒットしたのが記憶に新しいですが、そういや最近あまり見てないなぁ、最近フランス映画見れてないからなぁ、と思ってたら、それまで制作してなかったようですね。
もしくは日本で公開されなかったか…。
すいません情報が少なくて、彼の履歴がわかりませんw
とりあえずタイピスト!は、秘書が社長の特訓を受けてタイプライター早打ち世界一を目指すって話なんだけど、フレンチポップ感満載なロマコメでありながら、ロッキー顔負けのスパルタ特訓と激戦を描いていて、僕の2010年代ベスト100にも入れた、非常に好きな1本。
そんな彼が、同じような路線でなく、こんな頭こんがらがりそうなミステリーを作れちゃうってのが、すんごい才能ですよね。
とりあえず、僕も騙されてきますw
登場人物紹介
- エリック・アングストローム(ランベール・ウィルソン)・・・無慈悲な出版社社長。「デダリュス」の作者の正体を知るただ一人の人物。かつてない規模での世界同時出版を計画している。
- カテリーナ・アニシノバ:ロシア語(オルガ・キュリレンコ)・・・ミステリアスで情熱的。孤独を好む。人の心をかき乱す誘惑的な人物。「デダリュス」のヒロイン・レベッカに危険なほどに感情移入している。
- ダリオ・ファレッリ:イタリア語(リッカルド・スカマルチョ)・・・少々傲慢なところがあり、SNSのおかげで少しばかりの名声を持つ。夢は、オスカル・ブラックと接触し彼の恩恵にあずかること。
- エレーヌ・トゥクセン:デンマーク語(シセ・バベット・クヌッセン)・・・エレガントかつ野心的。家族を養うために翻訳者になった。いつか自分自身も小説家になることを熱望している。
- ハビエル・カサル:スペイン語(エドゥアルド・ノリエガ)・・・薄汚く、どもり癖があり、大人の体に閉じ込められた子供のよう。意志が弱く、簡単に人に流されやすい。
- アレックス・グッドマン:英語(アレックス・ロウザー)・・・25才だが、永遠の子どものような雰囲気を持ち、ずば抜けて聡明。「デダリュス」海賊版の翻訳でファンの間で注目され、公式翻訳者に抜擢される。
- イングリット・コルベル:ドイツ語(アンナ・マリア・シュトルム)・・・ヒッピーのような見た目と、ダイアン・キートンもどきの雰囲気を持つレズビアン。どんな状況においても冷静沈着だが、浅はかな不安定さもある、傍若無人な性格。
- チェン・ヤオ:中国語(フレデリック・チョー)・・・中国出身だが、パリに20年暮らしている真面目な努力家。9人の中でもコミュニケーション能力が高く、皆の盛り上げ役。
- テルマ・アルヴェス:ポルトガル語(マリア・レイチ)・・・短気で騒々しい。共同生活が苦手。首にピストルの刺青を入れている。より良い生活のため翻訳者とウェイトレスの仕事をこなす。
- コンスタンティノス・ケドリノス:ギリシャ語(マノリス・マヴロマタキス)・・・公務員への給料の支払いもままならない国で、大学からの給料を補うために翻訳者をしている。知識人風だが、本質的な考え方は陳腐でシニカル。
- ローズマリー・ウエクス(サラ・ジロドー)・・・典型的な優等生。エリックからひどい扱いを受けているが、文学への愛だけを糧に仕事に取り組む。いつか自身で出版を手がけたいと思っている。
- ジョルジュ・フォンテーヌ(パトリック・ポーショー)・・・フォンテーヌ書店店主。(以上HPより)
僕は~この時点ではぁ~ローズマリーがぁ~怪しいとぉ~思いますっ!!
って、観る前からあれこれ予想していいことないので、まっさらな気持ちで臨もうと思いますw
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
後半からの畳みかけがすんげぇ~~っ!!
ある意味全てを牛耳る神と、神に復讐する名もなき者たちとの戦いだった!
以下、ネタバレします。
やっぱりこの監督はバトルがお好き。
翻訳家たちを隔離させることで情報漏えいを死守し、さらには世界同時発売することで莫大な利益と知名度を得ようと画策する出版社社長と、原作を愛する者や小説家を目指す者、金のために引き受ける者など、それそれワケありな各言語の翻訳のエキスパートたち。
彼らしか公開していない情報が流出してしまったことに取り乱し、人間の価値や尊厳すらも見失って犯人を捜す血眼な表情と利益を最優先していく社長の失墜までの流れにドキドキしながらも、意外な犯人とどういう経路で情報を入手したかの種明かしから、さらに驚愕の展開へと突き進んでく終盤までの畳みかけが最高にワクワクする作品でございました。
これ核心にまで触れてしまうと見たい欲が失せてしまいそうで怖いんですが、なるべく分かり辛く、まずは感覚で語っていこうかなと。
とりあえず見終わった後の爽快感は、「ユージュアルサスペクツ」や劇中でも引用された「オリエント急行殺人事件」を彷彿とさせる口当たりで、さらに言えば監督の前作「タイピスト!」で感じた、物理的でない格闘でも味わうことができる緊張感と臨場感を体感できる手法が、後半から一気に機能していく辺りはさすがだなぁと思いました。
まずこの「バトル」要素に着目して語りますが、それぞれ言語が違う翻訳家たちは、母国語以外にも話せるというのが、一つの武器になっていくのが見どころです。
例えば中国系のチェンは中国語の担当ですが、パリに長いこと住んでいた経験から英語もフランス語も堪能で、他の翻訳家たちとも積極的にコミュニケーションできたりします。
そんな多言語話せる奴らと、社長の一騎打ちになるシーンが後半に用意されてるんですね。
とうとう3回目の脅迫メールが送られ、会社たたまないといけないくらいの金額を要求されてしまう社長は、堪忍袋の緒が切れたのか警備員の拳銃を奪って、銃口を犯人と思しき人物に向ける事態へと発展してしまいます。
警備員も雇われている以上社長の指示に従って彼らに銃口を向けざるを得ないわけで、翻訳家たちはこの状況をどう打破するか、もしくはいい加減犯人名乗れよ!くらいの切迫してしまうわけです。
ここで皆が危険と判断した犯人が自白するんですが、要求をのまない限りこの状況は止められないと啖呵を切るんです。
それに対しさらに激昂した社長は、全員を壁に追いやるほど迫っていくわけです(それ以外にも理由があるんですが核心に触れるので端折ります)。
ここからどう脱出するか、翻訳家たちは何と社長が分からない言語を使ってコミュニケーションを取るんですね。
なかでもカトリーナはロシア語もフランス語もスペイン語も中国語もイケる歩く翻訳機並みの力を持っており、全部聞き取れない翻訳家たちに別の言語を使って指示し、社長と警備員を制止しようと命令するんですね。
このシーンが非常にスリリングで、武器を持っているから優勢なのに追い込まれていく社長、という構図が僕はたまりませんでした。
またこの映画はミステリーではあるけれど「犯人は誰か」に重きを置いてないところが普通のミステリー映画とは違うところで、寧ろ冒頭から事件の2ヶ月後、本が出版された後、犯人と接見しているシーンの断片を見せることで、犯人はまだ明かされていないものの、事件が終わった後もどうして犯人は情報を流出させたのか、という部分がまだ解明されてない、って所から回想していくって展開になってるんですよ。
だからこれは社長と犯人の戦い、ってことがなんとなく想定できる物語で、これが後半もんのすごい駆け引きと種明かしになっていくんですね。
また見終わった後の爽快感なんですけど、この映画、要は拝金主義というか金の亡者というか、文学という人間が生んだ娯楽であり文化である分野を、金で置き換えることでしか計れない大馬鹿野郎を、ぎゃふんと言わせたい犯人が、どうやってぎゃふんと言わせたか、って所にカタルシスがある映画で。
中盤でまず犯人が明かされるところで「えっ!?」となり、さらにどうやって原稿を入手したかで「えっ!?」となり、さらにはその入手方法は別の意味があったところで「はっ!?」となり、最後の最後には「何それ!?」となるような仕掛けが待っているんですね。
誰もそこまで畳みかけてなんて注文してないくらい、押し寄せる種明かしのテンポがたまらないんですよ。
どっかのメシ屋入ったら頼んでもいない料理が店主の計らいでどんどん出てきて、いやいやこんなにいただけませんよぉ~でも折角だから頂きます!みたいな感じ?
わかんねえかw
だから今作の謳い文句の「あなたはきっと誤訳する」っての、もちろん誤訳するくらいの仕掛けだし、それを知った瞬間もう一度見たいと思える映画でしたね。
ということで、この映画はラストでの種明かしに心つかまされるのと、劇中での社長対犯人のバトルが熱い!ってのが売りの新感覚ミステリーでした。
前半は少々だらけたかな。
いきなり後半が面白えっ!ってのを語りましたけど、この面白さを存分に味わうには、物語の導入部分をしっかり頭に叩き込んでおかないといけないんですけど、これがなかなかテンポが悪い。
その大きな要因として、翻訳家たちが仕切りに原作者のオスカルブラックが書き上げた「デダリュス」の1巻2巻の言葉を引用して語るシーンが何度もあるんですね。
で、見てるこっちは、この本がいったいどういう内容なのか全然わっかんないんですね。
一応カテリーヌが原作に登場する女性の格好をしているってのは説明されてるんで、彼女がどれだけ原作を愛しているかってのは理解できるんですけど、だからってんでとにかく引用しまくり。
亡霊がどうたらとか、あの男は実はどうのこうのとか、本編にこのセリフがどう関わってくるのか、ってのは正直頭空っぽな僕では追いついていけませんでした。
しかしアレックスとカテリーヌの間には、感覚ではありますが何かしらの感情が芽生えていたのも分かりますし、最後にはそれが確かなモノだってのも伝わりました。
それを考えるとなかなか切ない恋模様も用意されてたんだなぁと、見終わって時間を置いたらジワジワと出てきましたね。
また9人もいる翻訳家たちのキャラをしっかり見せていないのにもちょっともったいないなぁと。
大体クローズアップされるのは、思いっきり寝ているアレックスと、原作愛出し過ぎなカテリーヌ、あとはデンマークの翻訳家くらい。
特にデンマークの翻訳家は社長からとんでもねえ仕打ちをされて、しかも現実との狭間に墜ちてしまい悲しい末路を辿ってしまうんですけど、これ別に挿入しなくても話は成立したよなぁと。
ただ彼女の事情から推察するに、如何に翻訳家たちが名声を得られない影の職業なのかってのに通じるし、さらには出版業界は俺のさじ加減でどうにでもなるっていうカーストの一番上にいる奴に潰されることで、売れるモノが良いモノみたいな風潮といつになっても日の目を見ない小説家の辛さを物語ってたって意味では、彼女のストーリーラインによって、さらに犯人が社長に対する憎悪を掻き立てる要素の一つになったかな。
他にもイタリアのやつとかギリシャのやつとかクセのある奴いっぱいいたのに、彼らをもっと巻き込んでのバトルにしたらもっと面白かったと思うんですよね。
やっぱり構図は神VS名もなき者たちになってくるんで。
最後に
何をどうかこうかすごく感想を書きづらい映画でしたが、もしかしたら犯人くらいはすぐわかってしまうだろうし、きっとそれ以外ではないんだろうってところまでは、ミステリー愛好者にはお手の物かもしれません。
しかしこの映画にはさらにその上がある!ってのが面白いところで、そこから見終わった後思い返す作業が楽しいなぁってところまでが今作の醍醐味なんじゃないかなと思います。
翻訳家たちを道具としてしか見ず作品を金の卵としてしか見ない搾取ばかりの社長が、どれだけの仕打ちを受けるか、逆にその社長にどうやって復讐を計画するかや、原作者が誰かの解釈によって違う印象を付けられてしまう辛さなどの気持ちも含んだ作品だったと思います。
だからこそ翻訳家をリスペクトした映画だったし、何より文学を文化として、人間の心にいつまでも宿る素晴らしい産物であることもメッセージとして描かれてたかなと。
次のページをめくれば新しい風が吹く、でしたっけ?すんません本苦手なもんで…
その風を与えるために本はあるのかなと。金儲けだけじゃねえぞと。
しっかしオリガキュリレンコキレイすぎだろ~。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10