AIR/エア
中学生のころ、サッカー少年だったにも拘らず欲しがった「エアマックス'95」。
当時大流行したナイキのシューズは、あまりの人気による値段の高さから、僕のような子供には到底手の出せないスニーカーでした。
それと同じくして登場したマイケル・ジョーダンのバスケットシューズ「エア・ジョーダン11」は、それまでのエアジョーダンとは一線を画した、エナメルが醸し出す洗練されたデザインで、これも欲しいなぁ!!と一瞬で虜になった記憶があります。
当時はスラムダンクにバルセロナオリンピックでのドリームチームという話題も手伝って、とにかく靴といえばナイキ一択!というムードでしたね。
結局全然違うスニーカーを履いてた僕でしたが、今でもあの時のスニーカーブームは忘れられない思い出です。
今回観賞する映画は、そんな一大ブームを舞きおこした「ナイキ」が低迷期から如何にして抜け出したかを描いたサクセスストーリー。
その起爆剤は、なんと「エア・ジョーダン」。
物心ついたころから当たり前のように一流メーカーと思っていたナイキにも低迷期があったのか、しかもそれを救ったのはジョーダンのバッシュだったのか!と、この時点で驚き。
一体どんな物語になるのでしょうか。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
名作「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」を生み出し、瞬く間にハリウッドスターとなったマット・デイモンとベン・アフレックの名コンビ。
幼馴染として知られる二人が、伝説のナイキシューズ“エア ジョーダン”。当時落ちぶれていたバスケットボール部門の負け犬チーム達の、一発逆転の賭けと取引、その誕生までの感動の実話を作り上げた。
1984年を舞台に、当時アディダスとコンバースにバスケ業界を席巻されていたナイキ、その部門の立て直しを命じられた主人公が、一人のバスケ選手と一足のシューズに全てを賭け挑む姿を、奇跡と感動とともに描く。
マットは「オーシャンズ」シリーズや「ジェイソン・ボーン」シリーズなどのヒット作に出演しながら、「インビクタス/負けざる者たち」でアカデミー賞助演男優賞にノミネートするなど、俳優業を中心に活躍。
一方のベンは、「アルマゲドン」や「パール・ハーバー」、「デアデビル」などの大作に出演するも興行不振によって俳優としての評価は厳しいばかりだった。
しかし彼には映画を作る才能を秘めており、デビュー作「ゴーン・ベイビー・ゴーン」での高評価を皮切りにボストン三部作を制作、そして「アルゴ」ではアカデミー賞作品賞を受賞する快挙を成し遂げた。
そんな二人が、「グッド~」以来共同脚本として加わったリドリー・スコット監督の「最後の決闘裁判」は、二人のファンにとってもうれしいニュースであったと共に、改めて二人の映画製作スキルの高さに驚いた作品でもあった。
そして満を持してマット&ベンが再び伝説を作り出す。
共演には「モンスター上司」、「JUNO/ジュノ」のジェイソン・ペイトマンや、「ザ・スーサイド・スクワッド」、「The Woman King」での絶賛が記憶に新しいヴィオラ・ディヴィス、「ラッシュアワー」、「世界にひとつだけのプレイブック」のクリス・タッカーに、「アルゴ」、「パーフェクト・ケア」のクリス・メッシーナなどが物語を盛り上げていく。
スポーツを超え、ファッションとして、カルチャーとして多大な影響を及ぼした「エア・ジョーダン」の知られざる実話。
派手な色を基調としたシューズに罰金制を導入していたNBA、さらに降りかかる数々の問題に、チームはどんな奇策に出るのか!
あらすじ
80年代、人気がなく業績不振のナイキのバスケットボール・シューズ。
ソニー(マット・デイモン)は、CEOのフィル(ベン・アフレック)からバスケットボール部門の立て直しを命じられる。
競合ブランドたちが圧倒的シェアを占める中で苦戦するソニーが目をつけたのは、後に世界的スターとなる選手マイケル・ジョーダン――
当時はまだド新人でNBAの試合に出たこともなく、しかも他社ブランドのファンだった。
そんな不利な状況にもかかわらず、ソニーは驚くべき情熱と独創性である秘策を持ちかける。
負け犬だった男たちが、すべてを賭けて仕掛ける一発逆転の取引とは…!?(HPより抜粋)
感想
最高でした!
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2023年3月28日
如何にエアジョーダンそのものが革命だったのか、人生全てを賭けていくチームの良さ、何よりジョーダンの母ちゃんが良い!
ベンアフは監督業をもっとやってほしい!#AIRエア https://t.co/ov9hetMj37
「靴はただの靴だ 誰かが履くまでは」
ナイキが低迷期だっただけで驚きなのに、エアジョーダンが生まれるまでこんなにも困難な道のりだったとは!
とにかく会話のセンスとテンポ、それを描写したベンアフの優れた仕事ぶりに拍手!
ベンアフ、マットの事好きすぎるだろw
アップ使いすぎw
以下、ネタバレします。
1984年の奇跡
NBAドラフト3位に位置し、シカゴブルズへの入団が決まっていたマイケル・ジョーダンとのバスケットシューズ契約にこぎつけようと奮闘するナイキの社員たちの姿をカラフルな80年代ポップミュージックにのせて描く物語は、掲げられた経営理念に沿って常識を壊しながら、自分の心のままに従って人生の全てを賭ける男たち、そして彼ら以上に自分の息子の将来を信じる母親を描くことで、その後のスポーツビジネスそのものを変化させた歴史的1ページであったと共に、アイデンティティにも通じるお仕事映画でした!!
冒頭でも書いた通り、僕がバルセロナ五輪を見ていた時のドリームチームメンバーの名前がガンガン登場した本作。
彼らがまだ大学生でどこのチームに所属するかっていう大事な時代を舞台にしたお話でした。
全体的に知らないことが多すぎて驚きの連続だったんですが、まず特筆したいのは、今でこそバッシュと言えばナイキというほど代名詞となったシューズ企業が、コンバースやアディダスにシェアを奪われていたこと。
確かにナイキはランニングシューズでも一流だってのは通例ですが、バッシュ業界は当時は全然ダメだったんですね~。
てかアディダスはサッカーのイメージが強かったですが、バッシュも人気だったんですね。
お話はそんなNIKEのCEOフィルにバッシュ部門を任されたソニーの視点で描かれてきます。
高校オールスター戦を作り出したソニーは、高校生や周囲の人たちと人脈を作りながら、スター候補を探し出しいずれはナイキ専属のプレーヤーになってもらうべく、試合会場に足を運んでスカウティングしては、帰りのラスベガスでバスケの試合にBETして金を稼いでいた様子。
もちろんその後別のゲームでしっかりスってましたけどw
かつて大学バスケプレーヤーだったものの、膝を壊したことを機にNIKEに入社したハワード・ホワイト(クリス・タッカー)と仲睦まじく会話するソニーでしたが、その後の部門ミーティングでは頭を悩ませる始末。
ドラフト1~3位まではどこのブランドと契約するかがほぼ決まっており、NIKEは25万ドルを資金に3人と契約する方向で進んでいましたが、バスケットプレーヤーへの千里眼を持つソニーにとってはどれも将来性が乏しく見え、会社の方針には反対でした。
上司に当たるロブ・ストラッサー(ジェイソン・ペイトマン)に不満を漏らしながら、どうにか3位のマイケル・ジョーダン一人に絞って交渉できないか打診。
なかなか首を縦に振ってくれない彼を説得すべく、ソニーは自宅でひたすら試合のビデオを観察していました。
そしてソニーは当時の試合映像を見て、やはりマイケル・ジョーダンで行きたいと決意。
当時話題だったプレーヤーを黒子にしてしまうほどのポテンシャルを秘めていたことや、周囲のプレーヤーもそれを解っていたことを試合映像から見出し、マイケル・ジョーダンが今後とんでもない怪物になることをプレゼン。
熱弁をふるったソニーは、こうしてロブを説得するのでした。
しかし会社としてはソニーが示すプランは到底無理だと、CEOであるフィル(ベン・アフレック)は語ります。
ただでさえ経営不振なのに、全然業績出せてないバスケ部門でそんな冒険できねえよ!役員になって説明すればいいんだ!?とご立腹。
フィル、あんたはここまで数々の冒険や賭けをしてきたはずだ、なのにどうしてここで賭けに出ない。
これまで攻めの経営をしてきたフィルでさえも、なぜか弱小部門での賭けには弱気だったのです。
それでもソニーは諦めることができず、大学バスケの先駆者的指導者でジョーダンとも交流の深いジョージ・ラヴェリングに相談。
選手との交渉は必ず代理人を通してというのが一般常識の中、「会わせてもらえないなら直接アポなしで両親に会いに行って説得したい」と考えるソニーは、ジョージから「薦めない」と言われながらも「心のままに行け」という背中を押され、結果飛行機で会いに行くことに。
マイケル・ジョーダンは、大学でコンバースを履いてたものの根っからのアディダス好きであり、今回の契約にNIKEが付け入る隙は毛頭なかった。
しかし母親であるデロリス(ヴィオラ・デイヴィス)に直接自分が抱くマイケルの思いを告白、さらにはコンバースとアディダスの首脳陣が自分よりも会社の利益優先であるかのような振る舞いをするだろうと忠告することで、デロリス経由でプレゼンに参加できるチャンスを得ていく。
もちろん代理人であるデヴィッド・フォークはご立腹。
電話越しでソニーを罵倒しながらも、このチャンスを逃すなと「友人」としてエールを送る。
プレゼンの期日まで残り3日。
果たしてソニーとその同僚たちは、彼が考えた仰天プランでマイケル・ジョーダンを口説き落とすことができるのか。
・・・というのがあらすじでございます。
会話がとにかく最高
まず自分がベン・アフレック監督に求めていることと、どれだけ評価しているかを語ってから解説したいと思いますが、俳優としてももちろん好きなんですけど、彼が作る作品はもっと好きなんですよね。
それこそ僕は作家主義の監督が描く作品よりも、職人気質な監督の作品の方が好みで、ベンアフはどちらかというと職人気質な側の監督だと思ってます。
もちろん作品ごとにテーマ性はあるんだけど、「ゴ―ン・ベイビー・ゴーン」も「ザ・タウン」も「夜に生きる」も「アルゴ」もどれもドラマミステリーだったりヒューマンドラマとしての演出が抜群に良いんですよね。
だからきっと今回も「お仕事映画」のジャンルに入るけれども、そこ以上に「人を描く」ことに長けた作品になってるだろうと期待していたわけです。
結果、見事にキャラの立った映画でしたし、何より大部分が会話で面白く見せている作品だったなぁと感心しました。
基本ソニーと誰かの1対1の会話でほぼ全編構成。
誰もやってのけたことのない仰天プランで勝手に行動してしまい、みんなを巻き込んでいくんですが、その熱意にみんなが頷き、背水の陣で臨む姿を描いてるんですよね。
しかも会話の中に伏線となるようなものが含まれているんですよね。
例えばCEOのフィルは「仏教」の教えに感化されているようで(創業当時日本との深い関係からはまった様子)、ソニーに「人の話は聞くもんだ」的なことを語るんですけど、劇中で何度か一人ひたすら走るフィルの姿を映し出すんですよ。
実はこれはソニーに言った釈迦の教えを自分にも問いかけるシーンなんですよね。
俺は一丁前に彼に説教して聞く耳持たなかったけど、じゃあ俺は彼の話をちゃんと聞いて受け入れたのか?と。
そもそもフィル・ナイトという男は、常に攻めの姿勢で経営してきた男であり、「走る行為そのものがゴール」という言葉を残すほど、結果よりもプロセスそのものを大事にしている人なんですよね。
だからこそソニーの側に立って「走る」ことが彼にとって必要だったわけです。
そんな自問自答を経て、ソニーがどんどん進めていたプランを認め、自分ができる事だったり、NIKEを立ち上げた時の「常識を壊して作り上げていく」感覚を取り戻していくわけです。
他にもロブとの会話では、当時流行歌だったブルース・スプリングスティーンの「ボーン・イン・ザ・USA」を毎朝車の中で熱唱しながら出勤したけど、あれってベトナム戦争で傷ついた兵士たちの働き先がないっていう嘆きと怒りの歌なんだよなと語り出します。
そんな話をきっかけに、離婚して毎週日曜日の4時間だけしか娘と会えないことや、そんな娘に60足もNIKEの靴をプレゼントしたことを語り、ソニーのプランが巧くいかなければこれら全てが失われてしまうほど、デカい賭けだぞと忠告。
もちろんロブ自身もこの賭けに乗ったわけですが、ボーン・イン・ザ・USAのようにならないことを願っていることがこの会話から窺えるんですよね。
また冒頭で描かれるソニーのラスベガスでのギャンブル狂は、仕事でもそうした「賭け」をしがちな面を捉えており、ここでのロブとの会話は、失うものがないソニーに対し、失うものだらけだから失敗できないロブの心情がしっかり映されたシーンでもありました。
他にも電話越しで痴話げんかをするソニーとデヴィッドの会話は本作での一番笑えるシーンで、ガキの口喧嘩みたいな茶化しと罵りが連打するシーン。
具体的なことは思い出せないんですが、ソニーはデヴィッドを茶化し、デヴィッドはひたすら怒る、これを絶妙なテンポで場面を切り替えて見せるんですね。
確かソニーが「友達だろ?」といったのに対して「俺はリタイアしてから友達を作るんだ!」と言ってたんだけど、最後のその後のシーンで「一人でレストランでご飯を食べている姿を見かけた」という紹介文が出たときは、やはりデヴィッドはこの物語の中ではコメディリリーフなんだと思いましたw
こうして一連のシーンもベンアフだから見せられる楽しませ方であり、物語に没頭しながらも彼のテクニックに惚れ惚れしておりました。
また、マイケルの母デロリスとの電話越しでのシーンも秀逸。
もちろんヴィオラ・デイヴィスの演技が素晴らしすぎるってのが大きいですが、如何に母親が息子の将来を信じているかが伝わるし、逆を言えば息子をビジネスとしてものすごく上手に使った交渉術でもあるなぁと。
自分の息子のはいた靴(エア・ジョーダン)が、一生懸命働いて買った靴を履くことで、履いた人にとってもマイケルにとってもものすごく価値のある事なのだ、「誰かが足を踏み入れなければ、それはただの靴だ」と。
お宅にはそれくらいの覚悟があってこその説得だったんでしょ?と。
常識を壊して突き進みたいNIKEと、枠をはみ出すほどのポテンシャルを持つマイケル側がどう歩み寄るのかという本作一番の盛り上がりを、こうした電話口で役者の演技で魅せるっていう、中々の勝負といいますか、その勝負に見事に勝利したシーンだったと思います。
こうしたクレバーな会話が随所にある分、物語自体は極端な波を作らない些かフラットに近い見せ方になっているので、是非会話に注目していただきたいところ。
ざっくり解説
映画のことはこれくらいにして、当時このエア・ジョーダンがどんな伝説を生んだのかを解説できたらと思います。
エア・ジョーダンの何が凄いのかというと、赤×黒という配色がNBAの規約に違反していたことや、それに対する罰金をNIKEが肩代わりしていたこと。
それらが報道されれば宣伝にもなるし、マイケルが試合で活躍すればさらに売れ行きも伸びる、当時誰もがストリートでNIKEのバッシュを履かないのが通例だったのに、このエア・ジョーダンによって流れが一気に変わったんだとか。
因みにこれらの事実にはいくつかの誤解があるようで、84年当時の試合ではエア・ジョーダンではなく「AIR SHIP」というエアフォース1を改良したシューズの「赤×黒×白」のシューズを履いて試合に出ていたそう。
しかも色が明るすぎる、白が少なすぎる意味での罰金ではなく、ブルズのユニフォームの統一性に関する規約に引っかかったからだそう。
しかしながら85年には、こうした逸話を宣伝として利用しCMを製作。
9月15日、ナイキは革新的なバスケットボールシューズを開発した。
10月18日、NBAはこのシューズをゲームから追放した。
しかし幸いなことに、諸君がAIR JORDANを履くことを、NBAは止めることができない。
こんな反抗的なキャッチコピーとマーケティングによって、エア・ジョーダンはバカ売れしたってことなんですね。
また画期的だったのは、シグニチャーモデルということ。
彼より前にそうした契約はあったようですし劇中でソニーはテニスプレイヤーのCMを見て閃く)、今でこそ当たり前の言葉ですが、マイケルのための靴をNIKEが作り、しかも売り上げの一部をマイケルが受け取るというビジネスモデルは初めてとのこと。
配色もビジネスモデルも、マイケル・ジョーダンの活躍によって、バスケットというスポーツの枠を超えて現代にまで語り継がれてるってわけです。
最後に
マット・デイモンが言う「エア・ジョーダンだ」とか「マイケル・ジョーダン」とか、それこそラストでのおデブ過ぎて走れない姿含め、キメ顔だったりお茶目なマットが多い本作。
僕は本作を見て、ベンアフはマットと久々に一緒に映画を作れることが嬉しすぎてこんな寄りのショットばかり撮ったんだなとw
要はマットへの愛がダダ漏れな映画だったように感じましたw
役柄的に彼を太らせなくてはいけなかった分、ベンは結構シャープな体になってましたよね。
もちろんフィルという男がそういう体格だったからだと思うんですが、バットマンの頃よりだいぶ細かったのは驚き。
そうした苦労も見え隠れした作品でしたね。
もちろんこの映画は、NIKEが如何に素晴らしい会社だったのかとか、マイケル・ジョーダンがどれほどまでの怪物だったのかって話ではなく、スポーツビジネスの歴史上重要な出来事となった裏では、どんな男たちがどういう経緯で規格外のビジネスを構築したかということを、面白く描いた映画だと思います。
結局、色んな事を計算したり計画してやっても、人の心を動かすのはいつだってその熱意だったりするんですよ。
これがジョージが偶然手にしたキング牧師のスピーチ原稿の逸話の伏線になってるってのも本作の面白い所。
もう一度見たい作品でした!!
しかしマットもベンアフも可愛かったなぁw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10