モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「最後の決闘裁判」感想ネタバレあり解説 他者から見た真実は全く違う景色だった。

最後の決闘裁判

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罪を犯した疑いで起訴された人が有罪か無罪か、どのような刑罰を科すかを決める「裁判」。

公平に裁判することで、憲法で保障されている私たち国民の自由と権利を守ります。

 

しかし性犯罪となると「裁判所までたどり着くのはごくわずか」だそう。

 

被害者が泣き寝入り、警察に被害届を出しても「証拠がないから難しい」、犯人が検挙されたとしても「検察が起訴するか」など、裁判に持ち込むまでのハードルが高すぎるんですね。

尚且つ判決は無罪、または重い刑には至らないという…。

 

被害に遭った女性の気持ちを考えると、全面的に法の改正や裁く側の判断も変えなくてはいけない気がします。

 

現代でこれだけおかしなことになってるのに、昔はもっととんでもないことになってたそうで。

なんと判決を「命がけの決闘」で下すんだとか。

 

 

今回観賞する映画は、性犯罪に遭った騎士の妻と、訴えられた騎士の言い分の食い違いから、命をかけた決闘で白黒つける物語。

 

その場にいたにもかかわらず、全く言い分の違う面白さは「羅生門」や、最近で言うと「怪物」にも通じるし、男性主権だった当時の状況に女性の視点を加えることで、女性の地位がなかった時代に、女性が声を上げたという歴史の転換点にもなっている仕組み。

 

巨匠に盟友二人が参加した、映画ファンなら歓喜するタッグの作品

早速鑑賞してまいりました!!

 

作品情報

高齢ながら未だ精力的に映画製作に勤しむ巨匠リドリー・スコットが、世紀のスキャンダルと称された「決闘裁判」を描く。

 

14世紀の中世ヨーロッパを舞台に、夫の友人に強姦されたという妻の訴えが、互いの言い分の食い違いから、判決の行方が命がけの戦いへと強いられていく様を、当時の資料に現代的解釈を加え、真実の在り処を明らかにしていく法廷ミステリー。

 

新進女優を主人公にした本作は、「グッド・ウィル・ハンティング」でアカデミー賞を手にしたベン・アフレックとマット・デイモンが出演と脚本で参加。

巨匠と盟友二人という最高のタッグが実現した。

 

また本作は、主要人物三人の異なる視点を三幕構成で描くことで、名作「羅生門」のように観衆が翻弄されながら真実を求めていくスタイルになっている。

 

今となっては信じられない「決闘裁判」。

「誰が真実を言っているのか」、「裁かれるべきは誰か」という論争が今でも起こっているこの事件。

ただ傍聴するだけでなく、真実を見極めよ。

 

 

あらすじ

 

中世フランス──

騎士の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫の旧友に乱暴されたと訴えるが、彼は無実を主張し、目撃者もいない。​

 

真実の行方は、夫と被告による生死を賭けた“決闘裁判”に委ねられる。

 

それは、神による絶対的な裁き── 勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者はたとえ決闘で命拾いしても罪人として死罪になる。

 

そして、もしも夫が負ければ、マルグリットまでもが偽証の罪で火あぶりの刑を受けるのだ。

果たして、裁かれるべきは誰なのか?

あなたが、 この裁判の証人となる。(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

 

監督

本作を手掛けるのは、リドリー・スコット。

 

ブレードランナー」、「エイリアン」、「グラディエーター」など各時代で革命的作品を世に放ってきた巨匠。

それ以外にも「テルマ&ルイーズ」や「G.I.ジェーン」など女性が主演の作品も手掛けてきたお方。

 

今回共に仕事したマット・デイモンベン・アフレックは、セットや美術などの細部にまで徹底したつくりや、寒空の中での殺伐とした空気感から暗がりの中のろうそくの灯に至るまで、光を巧みに操ることで見せる技術など、監督の仕事ぶりを間近で見れたことに興奮したそう。

 

83才のおいいちゃんですが、「ハウス・オブ・グッチ」や「ナポレオン」など精力的に創作活動を続けています。

元気、わけてくれw

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キャスト

騎士の妻マルグリットを演じるのは、ジョディ・カマー。

 

2021年の彼女は「フリー・ガイ」で大活躍。

ライアン・レイノルズも良かったけど、アバターとチューしちゃったときの表情は最高でしたw

本作では、男性側の視点でしか記されてない資料に、マルグリットの視点を加えるため、女性の脚本家にも参加してもらったそうなんですが、カマーも会議に参加して自身の意見も取り入れてもらったそう。

 

ワールドプレミアでのインタビューでも、役を調べようと資料を探しても、女性の情報が少ないことに驚いたことや、マルグリットを演じることで声を通じて物語を語ることができたことが光栄と語っています。

 

お芝居においても別々の視点で描かれる3幕構成のため、幕ごとにマルグリットがどう見られていたかを表現しなくてはいけない難しさも体感したことでしょう。

演技合戦としても楽しめそうです。

 

 

 

 

 

他のキャストはこんな感じ。

マルグリットの夫アン・ド・カルージュ役に、「オデッセイ」、「フォードVSフェラーリ」のマット・デイモン。

ジャック・ル・グリ役に、「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」、「マリッジ・ストーリー」のアダム・ドライバー

アランソン伯爵ピエール役に、「ジャスティス・リーグ/スナイダー・カット」、「ザ・ウェイバック」のベン・アフレックなどが出演します。

 

 

 

 

 

 

 

今でも論争が起きているというこの裁判。

観賞後に色々意見が飛び交いそうな予感ですね。

ここから観賞後の感想です!!

 

感想

1幕目「うんうん」2幕目「まぁね~」3幕目「!!!」

どの時代も男はプライドだの意地だの・・・

女性は所有物ではございません!映画でした!面白い!

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

同じ場所にいるのに

1836年の百年戦争真っただ中のフランスを舞台に、強姦された騎士の妻の訴えによって命を懸けた決闘裁判の行方を、同じ時間を過ごした主要人物3人の視点で3幕構成にして描く本作は、何が真実で嘘なのか以前に、2人の男の都合のいい視点がとにかく鼻に突く描写、それに対し如何に女性に人権がないかを炙り出していくことで「言わぬが花」な風潮に一石を投じた、現代にも通用するミステリー史劇でございました。

 

男としては非常に辛い映画だったのかもしれません。

時に男は、自分を都合よく美化しカッコよく話を語る癖があります。

そうすることで自身のプライドを守ることができるのです。

 

劇中でも「私は妻のために命を懸けて」だとか「神に誓って否定する」だとか、きれいごとばかりぬかす男二人が映し出されてますが、本作はどちらが本当のことを言っているのかは問題ではありますが、大問題ではありません。

もっと根底に大事なことがあるだろうというメッセージが込められてるように思います。

 

そもそも中世フランスでは、この時イギリスとの百年戦争が行われており、フランスのヴァロワ朝とイギリスのプランタジネット朝がフランス王位の継承権をめぐり争っていました。

序盤はイギリス優勢だったそうですが、ペスト菌の流行もあって長引いたとのこと。

 

劇中でもマット・デイモン演じるカルージュがアダム・ドライバー演じるル・グリから税金の徴収を責められる際、自分の領地内での農作物の収穫が遅れていることや、病による人手不足などにより資金不足であることが語られていました。

 

国は税金を徴収しないと戦争もできないほど財政難であり、王に仕える騎士たちは気持ちはあれどそれとこれとは別や!みたいな気持ちだったんでしょう。

逆らえば刑に処せられるでしょうし、後ろ指を指される時代。

男社会はなんてたってプライドが第一なんですね~。

 

今でもこういう風潮はしっかり残ってますから、例え中世のよその国だからと思わないで今と当てはめてみると面白いと思います。

 

ここを見逃すなかれ

さてさて本作の一番面白いのは3幕構成になってるということ。

1幕目はカルージュの視点。

2幕目はル・グリの視点。

3幕目はカル―ジュの妻マルグリットの視点です。

 

「羅生門」のように同じ時間が別の視点で描かれることで、誰が本当のことを言ってるのか、誰がウソを言ってるのかを我々がジャッジする魂胆だな、よぉし!と頭をフル回転して観ることでしょう。

 

物語は約10年間に及ぶ展開です。

カルージュとル・グリが親友だった頃の戦の風景から、金持ちで女たらしで国王の従兄に当たるピエール伯爵の命により税金の徴収を任されたル・グリと最初の亀裂に。

 

国の裏切り者と称された公爵の娘を嫁にもらい、持参金である金貨と家具そして土地をもらうも、義父の税金の滞納により土地を持っていかれ、手中に収めることができなかったカルージュはピエールとル・グリに訴えを起こす。

さらにはその土地がピエールの命によりル・グリのモノになることで、更なる亀裂。

 

長官である父の死去によってカルージュは後継者になるはずが、カルージュが土地を巡って訴えを起こしたことが原因でピエール伯爵はおかんむり。

次期長官にル・グリを指名したことで、二人の亀裂は決定的なものになってしまいます。

 

自分は現地で汗まみれ泥まみれになって戦ってるのに、お前ら二人は胡坐かいてうまい酒飲んで飯食って金をむしり取ってるだけ。

あまりにも不公平だ!と憤りを見せるカルージュでしたが、騎士の立場を回復させたいマルグリットの知恵により、ル・グリとの仲は普通の間柄に戻ります。

 

しかし!カルージュがパリに給金をもらいにってる間に、マルグリットはル・グリからの強姦に遭ってしまうのでした。

愛する妻を守れなかった自責の念は、自身のプライドと妻のプライド、そして一族のプライドに賭け、国王に直談判し決闘裁判を申し込むのであります。

 

 

基本的には3幕ともこの時系列。

1幕目はカルージュが如何に妻を愛し、家族を愛し、友に裏切られても自分以外のために命を懸ける勇ましい姿が描かれています。

 

戦のシーンでは、ル・グリを助け恩を売ることで、カルージュは戦には負けたものの友の命を救えたことに満足してる様子。

 

マルグリットの告白には留守だった自分を呪うかのような気持ちになり、心を鬼にしてル・グリに罪を償ってもらおうと躍起になるなど、威勢の良さや男前な騎士、そして良き夫として描かれておりました。

 

では、カールジュがいない家でマルグリットを強姦したのは本当なのか?

それが2幕目のル・グリによる視点。

 

 

これ頭から見えてるのが違うんですよね。

 

1幕目では敵にやられそうになったル・グリをカルージュが助けるんですが、その前に敵に馬ごと倒されピンチだったカルージュをル・グリが助けてるんです。

お?え?これもしかして、カルージュってこういうとこ見えてないってこと?と、ひとつの疑念が生まれます。

 

そもそもあらすじの時点で訴えられる側の設定になってるル・グリですから、こちとらはなっからおたくを疑ってんでい!って腹ですよ。

 

いまさら何を見せようってんだい!

お前の犯行の一部始終だろ?

早く見せろよ!って気分だったのに、ド頭からこれかよっていう。

 

もしかしてル・グリにも正当な言い分が出てくるのではないか。

マルグリットにも疑いの目を向けなくてはいけないのかって気持ちがほんのちょっと芽生えてくるんですね。

 

 

とはいえ、こいつの正体は富も名声もないために、読書や勉学に励むことで権力に取り繕う男。

ピエール伯爵のおひざ元で可愛がられることで、乱交パーティーには積極的に参加。

コイツも女たらしなんですね。

 

カルージュとは違い、ぬくぬくと部屋の中で政治の中枢に入っていくル・グリは、友を慕う姿勢は見せるものの、徐々にピエールの言いなりになっていくんです。

口ではカルージュが可哀想だ!とは言うものの、上には逆らえないと言い訳し、長官の座に就くんです。

 

 

そして一番大事なポイント。

マルグリットの計らいでカルージュは旧友の結婚式に向かい、ル・グリと寄りを戻すシーンが1幕目でありました。

2幕目でも同じ光景が映し出されるんですが、仲直りのしるしにカルージュはマルグリットにル・グリに口づけするよう命じます。

 

1幕目では若干躊躇するマルグリットの姿が映りますが、2幕目ではル・グリ側の視点で映ります。

この時口づけが終わるのを名残惜しそうに見つめるル・グリの表情が。

 

 

ここからル・グリはマルグリットの姿をひたすら目で追いかけ始めます。

要は友人の奥さんに「恋しちゃったんだ多分 気づいてないでしょう 星の夜願い込めてCherry ユビサキで送る君へのメッセージ」(って中世にメールなんて機能ねえよ)しちゃったわけです。

 

さりげなく食卓にならんだ食べ物を物色するマルグリットをインザターゲットし、趣味の読書で話題を広げるル・グリ。

ル・グリから見ると、マルグリットはカルージュとの生活に疲れ、癒しを求めているように見えている…みたい。

実際カルージュは本を読まないために「趣味が合わないでしょ、僕の方が君と退屈しないよ」アピールだったわけですが。

 

 

結婚パーティーでは、カルージュと踊っている際もマルグリットは自分を見ていると思い始め、どんどん胸の高鳴りを感じていくル・グリ。

土地を巡ってのいざこざも長官の座に就いたいざこざも、彼にとってはすでにどうでもよく、マルグリットで頭一杯なのです。

 

 

そして事件当日。

家来の乗る馬の蹄鉄が故障したので暖を取らせてほしいと、嘘をついてカルージュ邸で一人留守番をしているマルグリットを訪ねます。

自信家のル・グリは、豊富な経験人数からマルグリットも簡単に落とせるとでも思ったんでしょう。

 

しかし、マルグリットは家に入れるや否や、自分の部屋に逃げ込みます。

 

ここも重要ポイントで、二階の部屋に急いで逃げるときに靴が脱げるんですけど、ル・グリにはわざと靴を脱いで「嫌がってるけど誘ってる」ように見えるんですね。

 

「逃げれば追うだけ」といった後、テーブルを挟んでの追いかけっこになります。

このシーン、実はピエール伯爵主催の乱交パーティーでもゲームとしてやってるんですよね。

これがニクイ。

 

彼にとっては、このテーブルを挟んだ状態は、その時のゲームと同じ状況だと思い込んで、自分はマルグリットに弄ばれてると思ってるんです。

カメラも若干遠い場所から撮影してるとあって、見方によってはマルグリットも楽しんでるように見え…なくない。

ル・グリに担がれた際もどこかはしゃいでるように見えなく…もない。

 

だから事が終わった後ル・グリは彼女に対して「お互い秘密にしよう」、「互いに激情に走った」と言って帰るんです。

 

 

もちろんこの後、カルージュによって訴えられます。

しかしル・グリは教会で「姦淫した」と罪を認めるんですね。

しかも裁判官を務めるのは彼の味方であるピエール伯爵。

彼にとって非常に有利な状況でしたが、カルージュは一歩先を言ってました。

そう、国王に直談判していたのです。

 

こうして、ル・グリは姦淫はしたが強姦ではない、全く持って事実無根であることを強く主張し、自分の保身のため決闘裁判に臨むのであります。

 

 

そして肝心の3幕目。

マルグリットにはどう見えたか。

感想の冒頭でも書きましたが、彼女の視点によって「どちらが真実を言っているか」よりも、2人の男が何を守ろうとしているのかという部分にフォーカスが当たっていきます。

 

マルグリットは夫カルージュをどんな風に見ていたのか、そして本当のカルージュはどんな男なのか。

そしてル・グリをどう見ていたのか、本当のル・グリはどういう男なのか。

 

彼女のパートを見て、如何に男が自分優位な見方をしてるかが手に取るようにわかります。

 

注目する点は、ル・グリと口づけを交わすシーンと、カルージュの妻に対する振る舞いすべてです。

 

互いが女を所有物としか見ていない部分や、後継者を生むための道具としか見ていない部分、全て管理下に置きたい欲求や、立場や地位やプライドが男の宿命と勘違いしてる部分など、とにかくこんな男いなくなってほしい!と、男である自分も痛感する作品でした。

 

最後に

女性の脚本家が加わったこともあり、3幕目からはガラリと印象が変わって見えます。

物語って面白いなと思えた瞬間でした。

 

また、本作は演出上の理由で同じシーンが何度も出てきます。

別に同じシーン必要ないでしょ、と思う方もいると思いますが、3者の表情が微妙に違うので是非そこに注目していただきたい。

 

一番違うのは、カルージュとル・グリの仲直りの際のマルグリットの口づけのシーン。

1幕目も2幕目も3幕目も微妙にマルグリットの表情が違います。

社交辞令のようにも見えれば、ル・グリの本心を悟った表情、何故私の許可なしにこんなことを言うのか?と困惑する表情。

 

あとは強姦されるシーンも2回流れます。

複雑な心境になるし、なぜ2回も見せるのか?と思いますが、いわゆる男性の性的視点で描かれてるのではなく、ル・グリが見るマルグリットのシーンと、ル・グリに抵抗できない辛さが垣間見えるシーンとでもいっておきましょうか。

要はシーンを並べることで、全然見方が違うことを強調したい演出だったと思います。

 

私にはスタートだったの、あなたにはゴールでもなんて歌がありますが、男女間で、または同性同士が同じ場所で同じ状況にあっても、見てる景色や捉え方は全く違うということを、映画的に映し出した物語でした。

 

これ以外にも決闘裁判を筆頭に戦闘描写は凄まじいものがあります。

マット・デイモンが一時期の市原隼人に見えるくらい猪突猛進で攻めていく姿がありますし、血みどろな描写が盛りだくさん。

クライマックスの決闘裁判はものすごい迫力です。

さすがリドリー・スコットといった感じ。

 

この決闘を憂さ晴らしとして見るか、マルグリットの気持ちを汲んで観るかは人それぞれだと思いますが、どちらも間違ってはいないと思います。

そういうバカな時代が昔あったということです。

真実を追求しないで神に委ねるという愚かな決着の仕方が。

 

僕は非常に満足した作品でした。

2時間半あるけど、これは長尺で問題なし!

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10