モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

実写映画「クルエラ」感想ネタバレあり解説 パンクを着た悪魔が魅せる悲哀と復讐のプリクエル

クルエラ

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 ミンク、セーブル、チンチラ、シルバーフォックス。

これらに共通するのは高級な「毛皮」です。

 

防寒具として着用する以外に、コートやマフラー、ストールなどといったファッションの部分でも、毛皮は人間にとって親しまれたものであると同時に、「おしゃれ」といったエゴによって変化を遂げています。

 

この毛皮について「毛皮製品になるために動物が犠牲になっている」という声が、時代が進むと共に強くなっています。

 

中国をはじめとする生産国では、劣悪な動物飼育施設で何千頭もの動物が、毛皮になるために育てられ殺されたり、中には生きたまま皮を剥がされる行為もあるなど、動物愛護団体から疑問視されてきました。

 

こうした批判や倫理的観点から、現在ハイブランド業界では「リアルファー」路線を撤廃し、「エコファー」に路線変更して浸透を図っているとのこと。

 

しかし化学繊維から作られた「エコファー」は、洗濯の際の排水によって海を汚し、生態系や人体に影響を及ぼしかねないとされています。

 

動物の命を犠牲にするか、環境を犠牲にするか。

ファッション業界では問題に真摯に向き合い、どちらにも影響を与えないような研究を続けているそうです。

 

 

今回鑑賞するのは、私利私欲のために動物の毛皮に異常な執着を持つ女のオリジンストーリー。

101匹わんちゃん」に登場し、ディズニーの中でも史上最悪のヴィランと呼ばれた女性が、どのように変貌を遂げたのかを描くんだとか。

 

早速鑑賞してまいりました!!

 

 

 

 

作品情報

ディズニーアニメ「101匹わんちゃん」に登場した悪役の誕生譚を、「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンを迎えて実写化。

 

パンクムーブメント溢れる70年代のロンドンを舞台に、夢と希望を抱き野心燃えるデザイナーの卵がとある人物と出会うことで運命を大きく変えてしまうまでを描く。

 

アイ、トーニャ~史上最大のスキャンダル」でアカデミー賞にノミネートした監督が、熱狂渦巻くかつてのロンドンを見事に創造し、反骨精神あふれるファッション狂を「パンキッシュ」に表現。

ディズニー史上最高のアンチヒーローへと仕上げた。

 

時代を彩った音楽も物語の演出に一役買っている本作。

なぜ「クルエラ」は誕生してしまったのか。

ついにベールが剥がされる!

 

101 (字幕版)

101 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

 

あらすじ

 

 パンクムーブメントが吹き荒れる70年代のロンドン。

 

親を亡くした少女エステラ(エマ・ストーン)は、反骨精神と独創的な才能を活かし、ファッション・デザイナーになることを決意。

ロンドンで最も有名な百貨店リバティに潜り込む。

 

そんなある日、伝説的なカリスマ・デザイナーのバロネス(エマ・トンプソン)との出会いによって、エステラはファッショナブルで破壊的かつ復讐心に満ちた”クルエラ”の姿へ染まっていく──。

 

なぜ少女は悪名高き”ヴィラン”に変貌したのか?(HPより抜粋)

 

 

監督

本作を手掛けるのは、クレイグ・ギレスピー

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ラースと、その彼女」や「アイ、トーニャ/史上最大のスキャンダル」などを手掛けた監督さんです。

 

中でも「アイ、トーニャ」は、母親のスパルタやの人間によって悪女となっていく主人公をユーモアを交えて描いており、本作に抜擢された理由や共通する部分が多い作品だったと思います。

 

また我々が知るクルエラというキャラクターは、ファッション業界にいてダルメシアン好き程度の情報しかない分、監督は自由に描くことが出来たと語っています。

そんな彼女のオリジンストーリーを、パンクロック溢れる70年代のロンドンを舞台設定にし、権力に反抗する主人公に仕立てたことで、よりクルエラが反骨精神によって自分を表現できたとのこと。

 

カッコいいクルエラが見れそうですね。

 

監督に関してはこちらもどうぞ。

 

www.monkey1119.com

 

 

 

キャラクター紹介

  • エステラ/クルエラ(エマ・ストーン/CV:柴咲コウ)・・・ファッション・デザイナーを夢見る少女 エステラ。カリスマ・デザイナーのバロネスと出会い、その運命が大きく変わる。ある日、それまで自ら眠らせていた“クリエイティブな本能”の赴くまま生きようと決心する。

 

  • バロネス(エマ・トンプソン/CV:塩田朋子)・・・世界を代表するブランドのカリスマ的ファッション・デザイナー。エレガントだが、ヒステリックで、目的のためには手段を選ばない。エステラの才能に気づき、彼女に仕事を任せるようになる。

 

  • ジャスパー(ジョエル・フライ/CV:野島裕史)・・・母を亡くした幼少期のエステラと出会い、行動を共にするようになる。エステラにとって家族のような存在であり、ビジネスパートナー。

 

  • ホーレス(ポール・ウォルター・ハウザー/CV:かぬか光明)・・・母を亡くした幼少期のエステラと出会い、行動を共にするようになる。エステラにとって家族のような存在であり、ビジネスパートナー。

 

  • アニータ(カービー・ハウエル=バプティスト)・・・エステラのかつての学友で、後にタブロイド紙のジャーナリストとなる。

 

  • ジョン(マーク・ストロング/CV:広瀬彰勇)・・・ミステリアスで口が堅く、バロネスから信頼される側近。(以上HPより)

 

 

 

 

 

 

果たしてどのようにして「エステラ」から「クルエラ」になっていくのか。

映画「ジョーカー」のようだとも話題の本作。

ここから鑑賞後の感想です!!

 

感想

「良い子ちゃん」を捨て「悪い子ちゃん」になったのには訳があった。

「プラダを着た悪魔」のようなファッショナブルさは眼福だが、物語としては可も不可もない仕上がり。

もっといけたろ。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

 

これが正史になるのかね?

ファッションデザイナーの才能を持つ少女エステラが、なぜ「クルエラ」=「残酷」な女性になってしまったのかを、70年代のロンドンを彩ったパンクファッションやUKロックを惜しみなく多用しながら、「復讐」を経て本来持つ自身の解放を映し出す、ディズニーらしいといえば「らしい」ヴィラン誕生譚でございました。

 

 

本作を鑑賞する前に、さすがに「101匹わんちゃん」は見てから臨もうと思いましたが、結局選んだのはグレン・クローズがクルエラを演じた「101」。

ところ構わずタバコを吸っては灰を床に落とす素行の悪さや、毛皮に執着するあまりダルメシアンを誘拐してしまう残忍性が際立ったキャラでしたが、決してサイコパスではないし、「目的のためならどんな手を使ってでも成し遂げたい」女性なんだなぁと感じました。

 

何故動物を誘拐してまで自分の着る服にしたいのか。

その理由が本作で明かされるのだろうと思っていたんですが、この問いには答えてくれなかった作品だったと思います。

 

 

確かに物語は「101匹わんちゃん」に繋がっているのは見て貰えればわかるかと。

 

何故クルエラの言うことをジャスパーとホーレスは聞くのかや、アニータやロジャーまで登場するわけで、これはれっきとした前日譚なんだろうと。

 

中身は、周囲の流れや常識に捉われない異端児だったエステラが、母の死によってロンドンでジャスパーとホーレスと共に泥棒稼業として生き抜くも、どうしても捨てられない「ファッションデザイナー」になる夢をかなえるために、才能を買ってくれたカリスマデザイナー・バロネスの下で才能を磨く。

 

しかし、バロネスがつけていたネックレスが母の形見であったことから、デザイナーの夢と同時に復讐心が芽生え、バロネスのファッションデザイナーの地位を落とすためにパンクファッションに身を包み、反抗精神を糧に世間を魅了していくという流れ。

 

思いがけない敵の登場と驚くべき事実をしったことで、良心として生きてきた「エステラ」という過去を捨て、自己の欲求のため奔放に生きるために封印していたはずの「クルエラ=残酷」を解放していくってお話だったんですね。

 

 

予告編の段階で「ジョーカー」みたいだ!とか、「プラダを着た悪魔」みたいだ!なんて追われてましたが、「プラダ~」よりも私怨に満ちたお話でしたし、かといって「ジョーカー」ほどの社会性も乏しく、結局は大人も子供も楽しめて、善も悪もどちらにも「理由」があるのだから個人を尊重しようって理念を利用して拝金主義と化した「ディズニー」の枠を壊すような作品にまではいかなかったなぁと。

 

さらに「毛皮に執着する理由」を避けて物語を作っていたというか。

 

確かに劇中でダルメシアンの柄をモチーフにした衣装を着て登場した際に、本当にダルメシアンを殺したのか問われるも「殺してない」と返し、その後誘拐したダルメシアンは生存していたので、彼女にはこの時点で動物を殺してまで自分の衣服にする発想はまだ持ち合わせていなかったのだけど、ファッションに没頭するあまり一線を越えてしまうような残酷さは一切ないんですよ。

 

こう言うと「いやいや誕生譚だから」って言われそうなんですけど、せめて「毛皮への執着心」が芽生える瞬間があっても良かったんじゃないかなって。

 

見落としてるかもしれないけど毛皮なんて全然身に付けてないし、犬飼ってるし。

動物への愛は持ち合わせてるんですよね、この時は。

 

例えばですよ、愛犬を敵に殺害されて、その皮を自分の衣服に加えることで毛皮への欲望が開花するとか、実は犬に噛まれたかなんかで苦手意識が植え付けられて、バットマンで言うコウモリへの恐怖心を自らがコスチュームとして身に付け、敵に「恐怖を植え付ける象徴」として毛皮を身に付けるとか、こうして「毛皮に執着するヴィラン」みたいに展開してもいいのになぁと。

 

 

なんて言うか、お話がキレイ過ぎるんですよ。

 

「どんな悪役にも悲劇がある」風に見せて同情を買おうとさせるようなサッドストーリーにしてるのがちょっとなぁと。

 

そりゃ自分の母親を崖から突き落としたのがバロネスだったわけですから復讐に駆られる流れってのには同情しますし、「そうか…彼女にもこんなつらい出来事が」と思わせる演出は見事だったと思います。

じゃあ悪に落ちても仕方ないよね、と。

 

バロネス自体ファッション業界の玉座に居座るために、保身のために権威を振りかざして見下すようなクソババァですから「崖から落ちてしまえ」となるんですけど、結局クルエラ自身が手を汚さないのがなんかなぁと。

 

何なら、悪に落ちるまでの誕生譚を描くキャラとして、そもそも弱いというか。

企画として案としてダメだったんじゃないかなぁと。

 

寧ろバロネスの方がある意味魅力的に描かれてたなぁ。

 

彼女がどうしてあそこまでナルシシストで、子供を処分しようとしてまで権力に憑りつかれてるのかを描いた方が面白い気がします。

 

 

パンクファッションと70'sロック

しかし、ファッションと音楽は良いチョイスだったんじゃないでしょうか。

 

ファッションに関してはど素人ですけど、エステラが作る服は、明らかにヴィヴィアンウエストウッドを意識したファッションスタイルでしたよね。

 

序盤こそ泥棒稼業をするために変装の衣装をそれっぽく作っていましたけど、デザイン画や仕上がった衣服は、レザージャケットに黒いスカートといったパンクファッションをモチーフにした服でしたし、かと思えば全身赤い色でコーディネートしたタイトなドレス、ゴス感のあるウエストの締まった黒いスカートなど、幼少のころから既成概念にとらわれない大胆な発想を持つエステラだからこそ実現できた衣装でしたね。

 

こういうファッションや男性優位社会だった時代といった背景を加味して、エステラ及びクルエラの「ありのまま」をさらけ出すテーマ性が可視化されていたように思えますし、彼女のロックでパンクな精神がファッションから現れ、権威主義に対抗する反骨精神を押し上げていたのではないでしょうか。

 

 

また音楽も当時の曲がかなり使われてましたね。

ビージーズにQUEEN、ザ・クラッシュ、ザ・ドアーズ、ELOにブロンディ、終盤にかかる「Come Together」はティナ・ターナーがカバーしてる曲でしたし。

 

歌詞の意味まではさすがにわからないんですけど、様々な曲調が物語にノリの良さを際立たせる手伝いをしてましたね。

 

泥棒稼業のシーンではテンポ重視の曲でしたし、ズラをかるシーンでは激しいロックなど、基本的に悲劇ではあるんですけどそれを感じさせない曲ばかりだったように思えます。

 

特に良かったのはバロネスのオフィスの前でファッションショーをしてしまうクルエラが、ストゥージズの「I Wanna Be Your Dog」に乗せてド派手に登場するシーンは最高でした。

 

真っ赤な照明をバックに、ジャスパーがエレキギターを書き流しながら、様々なモデルが颯爽とウォーキングし、最後にクルエラが登場。

「あなたの犬になりたい」からこっち来いよ!ってめちゃめちゃ挑発してるわけですよここ。

バチクソかっこいいって!!

 

 

ただ音楽を雑に扱ってる印象は否めません。

ビージーズが流れた際は、イントロの時点で古城を空撮で見せロンドンの華やかさを演出してましたが、Aメロ2小節いかないくらいで曲はフェードアウトして次の曲が流れてしまうし、どの曲もいいところで終わってしまう、または曲自体が短すぎて乱発し過ぎな面が見受けられました。

 

既存曲はあくまで演出だったり登場人物の内面を映す手助けすることが多いと思うんですけど、全体的にそういった面は弱かったし、時代を象徴するだけの演出でしかなかったというか。

せめて歌詞を出すとかすればよかったのに。

 

どうでもいいですけど、ナンシー・シナトラの「This Boots Are Made For Walking」が流れるんですけど、「うたばん」で使われていた曲って意味で懐かしかったですw

 

 

 

最後に

やっぱりクルエラという女性を使って「自己主張をすること」で逆境や体制や格差といったものに立ち向かっていく姿を映し出すことで、ディズニーは多様性を描きたかったんだろうなと。

 

それが良い役であれ悪役であれ、二元論で片づけることをしない着地に持っていく。

 

 

僕としてはそこに疑問だったりディズニーらしい悪い意味の「ぬるさ」を感じてしまったんですけど、クルエラ以上に憎たらしいキャラがいることで彼女がどうやって権力を崩していくかの過程はいい意味でディズニーらしい巧い運びではあります。

 

 

また監督が「アイ、トーニャ」でも見せたように、主人公のタフな精神やヴィランを作り上げてしまったきっかけの相手を魅力的に描けていたと思います。

主人公が語り部をするというのも同じでしたしね。

 

 

Wエマが好演していたのも印象的ですが、僕としてはエマトンプソンの方に軍配。

実質二重人格を演じたエマストーンが弱かったなぁというのが正しい理由ですが。

 

 

なんにせよディズニーは本作で、色々ぶち壊してほしかったなぁと。

置きに行ってしまったのが残念です。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆★★★★★★4/10