名も無き世界のエンドロール
「ラスト20分の真実」…。
サスペンス映画やどんでん返し系の映画によくある宣伝だ。
こんな謳い文句を見ると、
「そうやって煽っておいて大したことないんでしょ?」
「どうせ途中で読めちゃうパターンなんなじゃいの?」
「ラスト5分ならまだしも、ラスト20分てラストじゃなくね?」
などと、そこそこ映画を見てる人たちならではの「疑い」をかけてしまいがち。
確かに鑑賞中に先読みしてしまう頭のいい人もいれば、僕のように没頭しすぎて伏線見落として大オチで「え?どういう意味?んだよ、わかんねえよ!」とブーブー文句垂れるような人もいたりして。
要するに「サスペンス映画」って評価の分かれ目が「大オチ」だったりするんですよね・・・。
宣伝通りに「衝撃」を食らって「ダマされた!」と思いを吐くか、それとも「粗」を探したり「先読み」できちゃうからつまらないなどの「酷評」を吐くか。
ほげ~っと見るのもダメだし、注意深く見るのもよくない。
「サスペンス映画」はこの塩梅がいつも難しいよね、って話ですw
さて今回鑑賞する映画は、幼馴染の二人が表と裏の世界でのし上がり、壮大な計画を実行するというお話。
青春要素も醸し出している2人の男のドラマですが、彼らの「計画」とは一体何なのでしょうか。
「大オチ」や「結末」に触れないように感想を述べたいですが…。できるかな?w
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
2012年に「小説すばる新人賞」を受賞した、行成薫原作の小説を、「ストロベリーナイト」や「キサラギ」、「累~かさね~」といったサスペンス映画に定評のある監督によって映画化。
幼馴染の二人が10年の歳月をかけ表と裏の世界でのしあがり、まったく住む世界の違う女性にプロポーズを成功させようと計画を練っていく。
しかしそれは実は日本中を巻き込む壮大な計画だった…。
「ラスト20分の真実」と称する本作は、異なる世界に身を置く二人が表裏一体となり、命を懸けた企みとその結末によって、衝撃のエンドロールが用意されている。
若手俳優筆頭株の二人が初共演。
また二人のヒロインも若手女優注目株と、女優業が板についてきたモデルをキャスティング。
今をときめく俳優陣で魅了する。
衝撃の結末。
この世界の終わりに、あなたは心奪われる——。
あらすじ
複雑な家庭環境で育ち、さみしさを抱えて生きてきたキダ(岩田剛典)とマコト(新田真剣佑)は幼馴染み。
そこに同じ境遇の転校生・ヨッチ(山田杏奈)も加わり、3人は支え合いながら家族よりも大切な仲間となった。
しかし20歳の時、訳あってヨッチは2人の元から突然いなくなってしまう。
そんな彼らの元に、政治家令嬢で、芸能界で活躍するトップモデルのリサ(中村アン)が現れる。
リサに異常な興味を持ったマコトは、食事に誘うが、全く相手にされない。
キダは「住む世界が違うから諦めろ」と忠告するが、マコトは仕事を辞めて忽然と姿を消してしまう。
2年後。
マコトを捜すために裏社会にまで潜り込んだキダは、ようやく再会を果たす。
マコトは、リサにふさわしい男になるために、死に物狂いで金を稼いでいた。
マコトの執念とその理由を知ったキダは、親友のため命をかけて協力することを誓う。
以来、キダは〈交渉屋〉として、マコトは〈会社経営者〉として、裏と表の社会でのし上がっていく。
そして、迎えたクリスマス・イブの夜。
マコトはキダの力を借りてプロポーズを決行しようとする。
しかし実はそれは、10年もの歳月を費やして2人が企てた、日本中を巻き込む“ある壮大な計画”だった─。(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、佐藤祐市。
監督の作品はすべて鑑賞しているわけではないのですが、彼のサスペンス映画は観てる方で。
それこそ代表作「キサラギ」やTVドラマの劇場版「ストロベリーナイト」、「累~かさね~」など、引っかかる部分はあるにせよ非常に練られた作品を製作しているなぁという印象があります。
今回も鑑賞使用しようと思った理由の多くは監督が手掛けているからであり、一体どんな結末なのか期待したいところです。
監督に関してはこちらをどうぞ。
登場人物紹介
- キダ(岩田剛典)…両親のいない家庭に育ち、同じ境遇のマコトと支え合って生きてきた。20歳の時に消えたマコトを捜すために裏社会へ潜り込み、穏やかな性格からは想像もつかない、目的のためには冷酷な手段も駆使する交渉屋として暗躍する。幼なじみへの深い想いからマコトの“ある計画”に加担する。
- マコト(新田真剣佑)…“ドッキリ”を仕掛けるのが生き甲斐だが、それは今は亡き母親のために始めたという切ない過去を持つ。20歳の時に起きた“ある事件”で心に闇を抱え、家族同然のキダの前から姿を消す。再会したキダに“ある計画”を持ち掛け、輸入ワイン会社の社長として表社会でのし上がっていく。
- ヨッチ(山田杏奈)…11歳の時、キダとマコトのクラスに転校してくる。その時から、後にヨッチが「2人がいなかったら、あたしは生きてなかったよ」と語る程、強い絆が結ばれていく。ナイフの鋭さとガラスの脆さをあわせ持つ性格。好きなものはナポリタンと映画、怖いのは自分の存在が消されること。
- リサ(中村アン)…有名な政治家の娘で、裕福な家庭で育ち、欲しいものはすベて手に入れてきた一方で、完璧主義の父親にコントロールされるというストレスも受けている。今は人気モデルとして活躍、マコトからアプローチされて付き合い始める。
- 安藤(石丸謙二郎)…リサの父。世に多大な影響力をもつ大物政治家。
- 宮澤社長(大友康平)…自動車修理工場の社長。キダが裏社会に入るきっかけを作る。
- 川畑(柄本明)…裏の世界で暗躍する組織のトップ。キダを〈交渉屋〉へと育てる。(以上HPより)
一見、貧乏な二人による「成り上がり」と一世一代の「プロポーズ大作戦」に見えますが、ものすごい大どんでん返しが待っているのでしょう。
いったいどんなサスペンス要素とエンドロールが待ち受けているのでしょうか。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
期待した通りの結末で、逆に「アリ」!
中村アンのクソ女ぶりが最高でしたっ!!
以下、ネタバレします。
なるほど、名も無き世界か。
親を亡くし育った3人の小さな世界と、住む世界の違う女を射止めるために仕掛ける壮大な「プロポーズ大作戦」の顛末を、過去と現在の世界を行き来しながら真相を描くプロット、ガンちゃんと真剣佑のバディ感、山田杏奈のか弱さと守ってあげたい感、中村アンの完璧主義者の親に苛立ちを募らせるも、強情で傲慢で高慢ちきなクソモデル感など、どの演者も見事に役になり切っていた演技力の高さ、さらには東野圭吾的なミステリーなのに切ない結末も相まって、非常に緊迫感と満足度の高い作品でした。
世の中で「一番怖い」ことは一体何だろうか。
お化け?災害?トラウマのある嫌いな食べ物?
見えないモノに対する恐怖心?
本作で物語っている「一番怖い」ことは、「誰からも忘れ去られること」だという。
想像してみると確かに怖い。
同じ学校の同級生にも、近所のおばちゃんにも、育ててくれた親にまで忘れられてしまったら、自分が住んでいる世界はどれだけつまらないだろう、どれだけ息苦しいだろう。
存在するのに存在しない扱いをされてしまった時、人は「生きている」心地を得ることができるのだろうか。
きっと息をしているのに息をしていないように思うだろう。
ナポリタンを食べているのに、食べていると感じないだろう。
SNSによって自分の存在を世に放つことができる昨今、内容はされど、何かを発言すればここに在る人物として足跡は残せるし、ログも生まれる。
しかし、現実の世界ではどうだろうか。
ここにいると声を発しても受け止めてくれる人がいなければ「生きている」心地などしないのではないだろうか。
能動的に動いたとしても誰かが受けてくれなければ「存在」は成立しないのではないだろうか。
人生とは「他者」である、という結末で幕を閉じた「永い言い訳」で語られる通り、自分の存在は自分だけでは「存在」しない。
誰かがいることで「世界」は生まれ、「生きる」価値が生まれる。
だから大切な人と何気ない会話や日常を送れることが、その人にとっては「世界」なのだ。
・・・なんか自分らしくない語り口になりましたがw
本作はミステリーの表層を辿りながらも、身寄りのない3人という歪な三角形の形が崩れた、世界が変わってしまったことで仕掛ける壮大なドッキリという名の「復讐」にも似た切ない結末でございました。
正直、こうなるだろうなああなるだろうなという予想通りのラストで、謳い文句である「ラスト20分の真実」はあながち間違ってはいないのだけど、もう少しひねりのある謳い文句でもよかったかなぁと。
とはいえ、100分弱という短さの中で大事なセリフをしっかりと伏線として繋ぎつつも、3人が抱えるモヤモヤ感を過去と現在の時間軸で崩さず保ちながら終幕へと向かうプロットはお見事だったのではないでしょうか。
マコトの執念とキダの思い
見終わった後の率直な思いとしては、マコトの長い年月をかけて実行されるプロジェクトと、親友を失うことが何より辛いことだから何とかして彼の役に立ちたいと願うキダの思い。
正直キダはただの良い奴と見えてしまうけれど、マコトとヨッチ以外に心を開ける存在のいない彼にとって、姿を消してしまった二人のいない世界は、もはや「世界から忘れられた存在」でしかないと思うんですよ。
だから裏稼業に身を投じるくらい必死でマコトを探したし、彼の計画を手伝うことが自分の「生きる」指針だったりするわけで、ここに関しては彼の気持ちを痛く感じました。
また、マコトの壮大な計画というのも良く達成できたなぁと。
住む世界の違う、いや、マコトいわく「住む世界を分けられた」女性とお付き合いするために、板金業からたった2~3年で4500万貯めてワインの輸入会社を買収するってどんだけ野心的なんだよ!と。
でも時に人は、何かの目的のためには有無を言わさず突き進むことができるし、言えなかった言葉や気持ちを引きずって生きなくてはいけないことを考えると、マコトもかげがえのない「世界」を奪われたひとりであり、執念とはいえとんでもねえ奴だなぁと。
中村アンの開花。
今回役柄的に一番際立っていたのは中村アンだったのではないでしょうか。
僕の彼女に対するイメージは基本的にはモデル業、もしくはタレント的な方だと思っていたので、正直女優業に精を出したと知った時に、果たして大成するだろうか?と疑問に思っていましたが、本作を見てポスト奈々緒の位置に行けるくらい性悪女を熱演されてました。
役柄的には大物政治家の娘として完璧を求められることに嫌気がありつつも、所詮この親にこの子ありのような、お高くとまった感のある嫌味な女モデルでした。
登場するや否や高圧的に「ねえ、この車直して?」と板金に駆け込むシーンで、あ~こういう女いるなぁ~という嫌な気持ちにさせる空気感をいきなり出す辺りは正直驚きました。
台詞では「親にバレたら大変なの、免許もないし車検証なんて知らない、でもお金は持ってるの、だからやって!」とか、
「あんたみたいな板金業の男とアタシが一緒にご飯でも行けると思うの?」などといった上から目線のセリフがバンバン飛び交うし、
ようやく同じ世界に行けたマコトと付き合い、予約していたフレンチに向かう車中でマコトが予約を間違えたといった時の「はぁ!?何それ!?あたしがどれだけ楽しみにしてたと思うの!?台無しなんだけど!!」と、決して相手を労わらず自分の感情だけズケズケいってボロカス扱いするんですね。
これもしかして、自分と釣り合わない男はいともたやすく排除し、相手のミスによって自分の都合が悪くなった時に恫喝とかしたりするの、もしかしてプライベートでも慣れてるんじゃないか?と思うほどスラスラセリフを言えてたんですよねww
「ラスト20分の真実」でも、反省するかと思いきや「ふざけんじゃないわよ!あたしじゃなくて親が勝手にしたことなの!あたしじゃなくて車が悪いの!!」とまるで他人事のように反論しまくる場面も、清々しいほど性悪女が板についてるというかw
台詞から彼女の演技を紐解いてますが、そもそも啖呵を切った時の発声の仕方がいいんですよ。
聞いていて気持ちいいし、心地いい。
やっぱりただ大声を出してセリフを言うだけではダメなんですよね。
言い回しだったり滑舌だったり、発声方法も変えないと、このラスト20分は特に発揮されないというか。
たぶん彼女ボイストレーニング通ってるんじゃないですかね。
ただのモデル上りがあそこまで上手く発声しながらセリフを言えない気がするんです。
とにかく売れたいと何かの記事で読んだことがあるんでんすが、そのためには努力を惜しまずやってるんだな、ちゃんと成果が出てるなと感じた作品でもありました。
意外といい台詞がありました。
本作は小説からの映画化ということもあって、印象的なセリフが多々あったように思えます。
例えば「押しボタン」。
過去のパートで犬が車に轢かれて死んでしまった場所に遭遇したヨッチが語る台詞なんですが、「ちゃんと押しボタンあるのに押さないから…」、「押しボタンの立場が無いじゃない・・・」というんですね。
こういっておきながらしっかり押しボタンを押したのにもかかわらず悲劇を辿ってしまうヨッチの顛末だったり、この歩道がある種生死の境目になっていたり、マコトが持っている起爆スイッチに繋がったりと伏線になっていたりするんですよね。
押さないと立場が無い押しボタンて、感想の最初でも語った「忘れられる存在」にもつながることだと思うんです。
歩道を渡る際、押しボタンがあるのに押さなくても渡れるくらい交通量の少ない場所なんですよ。
なのにヨッチはちゃんと押すんですよね。
きっと彼女が小学生の時にいじめに遭って「存在するのに忘れられた存在」だったからに繋がると思うんです。
だから彼女はちゃんと存在する「押しボタン」の立場を思って押してたりするんだろうなと。
他には「完璧主義者ってのは、自分が欠陥品だからだ」ってのはなるほどと。
これはマコトの偽IDを作るために高学歴ニートくんが言う言葉で、彼は大手企業に就職したけど入社式で失態を犯してしまったことで、完璧が崩れ堕落していったそう。
完璧でなければいけないというのは、そもそも完璧じゃないから完璧でなければいけないと自分を縛り付けていて、もし取り返しのつかないことをしてしまったら失態を補てんできる、カバーできる力を持ち合わせていないってことなんですよね。
柔軟性が無いというか臨機応変にできないというか。
普段60くらいしかできないことを100でやろうとするから余裕がないというか。
これはちょっと勉強になったセリフですね。
あとは「人は一瞬で世界を変えられてしまう」という言葉も、ヨッチのバックボーンだったり、例えば親が死んでしまっただけで環境が一変してしまった彼らの事を考えると説得力があるなと。
これはマコトとキダが壮大なプロポーズ大作戦を仕掛け成功させたことにも通じる言葉で、1日で世界を変えようとする彼らの行動にもつながるよなぁと。
他にも「さびしい、じゃなくて、さみしい」なんてのもありましたね。
漢字で直すと「寂しい、じゃなくて、淋しい」なのかな?
基本的には意味は同じらしいのですが、「寂しい」は状況や様子に対して使う感じで、「淋しい」はさんずいがついているので、涙が出るくらいにさみしい時に用いるんだとか。
ヨッチがキダに放ったと言葉を、キダがマコトに使うんですが、この意味を理解するとまた場面が変わって聞こえるのかもしれませんね。
最後に
まとまりのない感想と解説になってしまいましたが、きっとご覧になった方も結末を知る前にオチが分かってしうくらい、順序のよく分かりやすい構成になっていたように思えます。
普通、過去と現在が行ったり来たりすると、集中力が途切れたりどこかが気になって思考が止まったりしがちなんですが、ここまでシンプルで丁寧に練られたミステリーは逆にめずらしいというか、優しいというか。
そもそもミステリーというジャンルに重きを置かずに、3人の物語と切ない結末に重きを置いた作品にたかったのかなぁと。
名も無き世界のエンドロールは、きっとキダにとっての事なのかなとも感じたラストだったし、これからキダはどんなエンドロール=人生を歩んでいくのか気になる結末でした。
どうやらドッキリというのは、ダマされた側からすると、相当な屈辱なようで、絶対忘れることができないと本作では語ってます。
もし自分が忘れられた存在だと思ったら、ドッキリを仕掛けてみてはいかがでしょう。
きっと相手にとっては「嫌な意味」で忘れられない存在になるかもしれませんw
いや、酷いのはやっちゃダメだぞw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10