プライベート・ウォー
目を背けてはいけない現実に果敢に挑む黒い眼帯をした女性。
単純にカッコイイと思ってしまう浅はかな僕の価値観を打ち砕くであろう、女性戦場ジャーナリストの半生を描いた作品が公開です。
僕らは世界で起こっている惨状に関して、メディアを通じて知ることが一般的。
それはどれだけ正確でどれだけ生々しくてどれだけ辛いものなのか、またその戦争や紛争や内戦がどれだけ限りある命を奪う残酷なものなのか。
僕たちはただそれを眺めるだけでなくて、考えなくてはならなくて、またその現場で取材をしている人を讃えなくてはいけなくて。
今作は改めてそういった思いを起こさせる絶好の機会だと感じ、身を引き締めて観賞したいと思っています。
・・・と、だいぶ肩に力の入った入れ込み様ですがw、映画ですので、映画だと思わせない演出と撮影を期待したいと思ってます。
それでは早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
英国サンデー・タイムスの特派員、メリー・コルヴィンが、数々の戦地へ赴きジャーナリストとして活動しながらも感性豊かに溢れる姿を、ドキュメンタリー出身監督の手によってリアルに描く。
2012年に戦地で辛くも命を落としてしまった彼女が、戦場で感じた恐怖や葛藤、そして憑りつかれるかのように魅了されてしまった激戦の地での心情など、今作を通じてなぜ彼女は危険を冒してまで活動を続けるのかという謎と、信念のもとに強く逞しく生きる女性の気高さを肌で感じられる作品です。
彼女の行動は見る者をどんな思いにさせるのだろうか。
In Extremis: The Life of War Correspondent Marie Colvin
- 作者: Lindsey Hilsum
- 出版社/メーカー: Chatto & Windus
- 発売日: 2018/11/01
- メディア: ハードカバー
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あらすじ
エール大学を卒業後、UPI通信を経て、英国サンデー・タイムズ紙の特派員として活躍する、アメリカ人ジャーナリスト、メリー・コルヴィン(ロザムンド・パイク)。
2001年、スリランカ。ジャーナリスト入国禁止を無視し、バンニ地域に乗り込んだ彼女は、シンハラ軍とタミル・イーラム“解放のトラ”との銃撃戦に巻き込まれて被弾。その際、左目の視力を失ってしまう。
2003年、イラク。共同墓地の手がかりを追っていた彼女はバグダッドで出会ったフリーのカメラマン、ポール・コンロイ(ジェイミー・ドーナン)を雇い、同行させる。
そして、12年前にサダム・フセイン政権によって殺害されたクウェート人の遺体を見つけるため、地元の作業員を集め、ブルドーザーを使って、塹壕を掘り起こす。
その後、遺体は見つかり、メリーはスクープを手にするものの、悲鳴を上げ、祈り続ける遺族の姿を目の当たりにしたことで、ただならぬ喪失感に襲われる。
このような最前線での体験は、ロンドンに戻ったメリーにPTSD(心的外傷後ストレス障害)として襲い掛かる。
地元の病院で治療を受けることに同意する彼女だったが、入院中でも自分を突き動かしてきた現場に復帰したい思いに駆られていく。
そして、世間の人々の関心を世界の紛争地帯に向けたいという彼女の想いは、さらに強まっていった。
2009年、アフガニスタン。地元市民やアメリカの救援部隊に対するタリバンの攻撃を報じたメリーは、ロンドンに戻り、パーティーで出会った風変わりなビジネスマン、トニー・ショウ(スタンリー・トゥッチ)と出会い、二人は瞬く間に恋に落ちる。
2011年、リビア。メリーにとって、トニーと平凡な日常を送る人生は、紛争地帯に戻ったときには消え去っていた。その後、国内では反政府デモ“アラブの春”が最高潮に達し、カダフィ政権を崩壊させる勢いとなっていく。一方、仲間のジャーナリストが爆撃で死亡し、メリーは自身の死についても深く考えることになる。
深い絶望に立たされながらも、彼女はカダフィ大佐の単独インタビューに成功。だが、精神はさらに蝕まれていくことになる。
2012年、シリア。過酷な状況で包囲されている28,000人の市民の現状を伝えるため、ポールとともに、ホムス地区に乗り込んでいたメリー。
こうして、チャンネル4、BBC、CNNが同時ライブ中継を行うという、彼女の記者人生において、もっとも危険で過酷なレポートが始まった――。(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのは、マシュー・ハイネマン。
すいません、全く存じ上げません…。
今回が初の劇映画である監督は、メキシコ麻薬カルテルと自警団の戦いに密着した「カルテル・ランド」でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートを果たし注目を浴びています。
あ!そうかあの映画の人だったのか、と。これで今回の題材をやる人材だってことが理解できました。
監督は今作について、あくまで自分自身はドキュメンタリーを今後も手掛けていくけど、彼女に関しては劇映画でなければいけなかった、そして戦地での彼女とその場所での経験によって彼女が抱えた心の病がどんなものなのか、また真のジャーナリズムとは何かを伝えたかったとのこと。
初めての劇映画、果たしてその出来栄えやいかに。
キャスト
今作の主人公。メリー・コルヴィンを演じるのは、ロザムンド・パイク。
白い肌にブロンドヘア―がトレードマークの彼女。
彼女の顔と名前をちゃんと認知したのは「アウトロー」でしょうか。
ジャックと行動を共にしていくうちにどんどん露出が上がっていく姿が印象的でしたw
そんな彼女の代表作をサクッとご紹介。
舞台やテレビで活動した後、「007/ダイ・アナザー・デイ」にボンド・ガールとして抜擢され注目されます。
その後も、プライドと偏見が邪魔をして素直になれない男女の恋愛模様を描いた「プライドと偏見」、身代わりロボットが日常生活に欠かせなくなった近未来を舞台に、FBI捜査官が巨大な陰謀に挑むSFアクション「サロゲート」、元エリート軍人の流れ者が、事件の真相暴くために危険な調査に挑むクライムアクション「アウトロー」など、大きな作品で存在感を露わにしていきます。
そして、妻の突然の失踪によって渦中の人物となってしまう夫の秘密と衝撃の顛末を描いたサスペンス「ゴーン・ガール」での圧倒的な演技が評価され、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされます。
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今作も高い評価を得ている彼女。
一体どれだけ素晴らしいお芝居をされているのか楽しみですね。
他のキャストはこんな感じ。
フリーカメラマンのフリー・コンロイ役に、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」から3部作に出演した。ジェイミー・ドーナン。
ショーン・ライアン役に、「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」、「ボヘミアン・ラプソディ」のトム・ホランダー。
トニー・ショウ役に、「プラダを着た悪魔」、「ラブリー・ボーン」のスタンリー・トゥッチなどが出演します。
過酷な現場の今を描くことに定評のあるドキュメンタリー監督が、彼女の半生をどのように生々しく、そしてカッコよく描くのか。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
PTSDが彼女を苦しめ、彼女を強くさせ、彼女を戦地へと向かわせる。
戦場ジャーナリストに深い敬意を送りたくなる映画でした。
以下、核心に触れずネタバレします。
そのパワーはどこからくるのか。
戦場特派員メリー・コルヴィンが、スリランカ、イラク、アフガン、リビア、シリアといった激戦区での取材と、帰国後の奔放な恋模様や上司とのいがみ合い、そして戦場での負傷と惨状を目の当たりにしたことで発症したPTSDによる苦悩の日々を時系列で追った、最後の10年間という構成で描かれた今作。
ただ戦場に行って彼女が見た光景や真実だけを描くのでなく、彼女の内面で起きた葛藤を映像で見せることで、どれだけ戦争が人間を苦しめるのか辛くさせるのかということを、よりリアルにさせた映画だったと思います。
現地へ飛んで銃弾をよけながらも突き進む姿、それによって受けてしまった大きな傷、自分に課せられた使命とばかりに体を患いながらも被害者の声をノートに認める仕事第一な面、武装した検問での機転を利かせた策に成功し雄たけびを上げる姿、死者に敬意をと強く放つ言葉、家に帰ったはずがそこは戦地の屋内で、幸せだったはずの少女が流れ弾を食らいベッドの上で死んでいる姿をまじまじと見ている悪夢、そんな体験をしながらも戦地へ向かってしまうのは、もはや戦地での高揚感欲しさに駆られた中毒なのではないかとも。
これに容赦なく飛んでくる爆撃や銃弾、それに怯える人たちや抜け出せない人たちの姿、血まみれになって担ぎ込まれてる負傷者と手の施しようのない患者の最期を看取る姿、埋没された骸骨、その遺体に泣き叫び死者を悼む歌を歌う女性たち、互いに戦争の最前線へ切り込み取材をしてきた同志の無残な死に様、これまでの怒りをぶつけるかのような眼差しでカダフィ大佐に核心をつくような発言をする姿。
どれもこれも彼女のう強さと脆さを余すことなく描き、さらには轟音ひしめく戦地の悲惨な状況を見事に作り上げ、緊張感が途切れることなく続く。
みたいものは私が見るから、あなたはみなくていい。という言葉。
実際映画という形で現地の惨状を見せてもらっているのんきな自分としては、この言葉が突き刺さる。
遠い場所で繰り広げられていることで、どこか現実的でないように感じてしまう戦争だけど、実際現実で起こっていて伝えてくれることで我々は身近に感じることができる。
その行動と報道に敬意と敬服をささげなくてはいけないし、もっと知らないと目を向けないと、彼女が報われない、そんな気持ちにさせてくれた映画でした。
彼女の取材のやり方は、戦地で犠牲になった人々から話を聞いて、彼女というフィルターから世界へ発信するというもの。
何度戦地へ行っても、なぜこのようなことが続いているのか答えがわからないという言葉は芯をついていたし、場数を踏んだ彼女だからこそなりふり構わず危険地帯へ進んでいく姿は、当初こそどうかしてるんじゃないか、なんて思ってしまいましたが、終盤まで行くと、これ以上無理しないでくれ、でももっと伝えてくれ、という気持ちに。
あとは政府が発表してる事と現地で言われてることは違うということが、彼女を通じて知ることができるってのもある意味怖い。
最後の方で政府はウソをついている、とスカイプを使ってCNNニュースに伝えたことの大きさは計り知れないですよね。
また、いつだったかテロリストに捕獲されてしまった日本人ジャーナリストの解放をめぐっていろんな議論がめぐりましたよね。
勝手に戦地へ行って取材して捕まって助けてくれ、って無責任だろ、みたいな。
この映画を見たらそんなこと思えなくなる気がします。
身体を張って戦地へ赴き、我々に普通では絶対届かないような声を伝えてくれる高尚な仕事なのではないかと。
諸悪の根源を見失ってるんじゃないかと。
最後に
今回だいぶ短めの感想になりますが、これは見てよかったと純粋に思えた映画でした。
ロザムンド・パイクが見事にメリーを体現しており、戦地で見る光景や達成した時の高揚感、常にタバコを吸うといった動揺の現れ、PTSDに悩まされる時の脅え方や異性との恋模様で見せる女性的な仕草、死ぬときもしっかり女としてといった面や、己の信念と使命を全うしたり感情の起伏だったり、とにかく人間臭さが前面に押し出されたメリーという人物を余すことなく見せてくれたと思います。
こういう女性カッコイイよね、だけでは済まされない現実を目に焼き付けることができる、映画でジャーナリズムを伝えてくれた作品でした。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10