プロミシング・ヤング・ウーマン
本作の予告編で使われている楽曲「TOXIC」。
アメリカの歌姫ブリトニー・スピアーズの代表曲としても知られるこの曲は、セクシーな衣装で髪を激しく揺らしながら踊るPVや、甘く囁くような歌声、そして中毒性のあるメロディが特徴的な歌です。
歌詞の中身はというと、相手の男性にメロメロになるあまり愛という名の毒に冒されていく女性をモチーフにした内容です。
この歌が劇中でどんな意味をもたらすのかは見てからの判断ですが、映像の色味のPOPさとキャリー・マリガンの毒づく言葉とが非常にマッチした選曲に感じます。
さて、最近見かけないブリトニー・スピアーズですが、今裁判中とのこと。
どんな裁判かというと、2008年に裁判所がスピアーズが精神衰弱を理由に後見人として父親を指定したんですが、スピアーズ本人がそれを解消したいという裁判。
成年後見制度というモノらしいんですが、彼女の仕事はおろか内々なプライベートまで全てを管理されてるそう。
中でもインパクトがあるのが、子宮内避妊具を強制されており、自分の子供を産みたいのに産むことができないと告白したこと。
結婚も出産の自分の意志で決めたいために、今回訴えたとのこと。
報道以降、裁判所が訴えを却下したり彼女自身が芸能界を引退したいと発したりと、まだ決着はつかないようです。
正に本作のタイトル通り「前途有望な若い女性」だった彼女が、現在自由を奪われている現状に、数々のセレブが彼女に賛同の声を挙げています。
本作と深い関わりのないお話かもですが、楽曲が使われていることから書いてみました。
え~というわけで早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
米アカデミー賞脚本賞を受賞し、作品賞含む5部門にノミネートされた、一人の女性による復讐エンタ―テインメント。
「前途有望な若い女性」だった主人公の身に起きた悲しい事件をきっかけに、スリリングな復讐劇と甘いラブストーリーが並行して描かれてゆく。
酔った女性をお持ち帰りしようとする男に制裁を加えるだけではなく、男女の固定観念=ジェンダーバイアスにも痛烈な批判を浴びせることで、既に公開された国では様々な議論が巻き起こっているほど。
ジェンダーについて後進的な日本において、本作をきっかけに男女の固定観念が如何に不要であるかを浸透することを願いたいものだ。
女優や脚本家としてキャリアを積んだ女性が、本作で監督デビュー。
オリジナルである脚本に魅了されたマーゴット・ロビーが製作に加わり、本作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートしたキャリー・マリガンが、主人公の役を誰にも譲りたくないと豪語するほど熱烈な支持を送っている。
オトコたちに制裁を加えるだけでない本作。
前途有望だった私たちに、どんな痛烈なメッセージをぶつけるのでしょうか。
あらすじ
30歳を目前にしたキャシー(キャリー・マリガン)は、ある事件によって医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。
その一方、夜ごとバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。
ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)がカフェを訪れる。
この偶然の再会こそが、キャシーに恋ごころを目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる……。(HPより抜粋)
監督
本作の監督・脚本を務めるのはエメラルド・フェネル。
初めて聞く方なんですが、女優としても活躍されてるかだそうで、僕が見ている作品にも出演されていた模様。
ドラマシリーズ「ザ・クラウン」のシーズン3や、「リリーのすべて」、「PAN~ネバーランド、夢のはじまり」などに出演されてるそうです。
今回初の長編映画監督作品であり、アカデミー賞で脚本賞を受賞した監督。
猛毒を与える女性でありながら、周囲に散りばめれているのはポップな配色。
相反するイメージを敢えて結びつけたのには、監督なりの理由があるそう。
「女の子が好きなモノを再利用して恐ろしい話を作りたかった」そうで、「女性は上手くいってない時ほど自分をキレイに着飾る」との見方から、POPな配色にされたそう。
主人公がリボンやギンガムチェックを身に付けている根底には、無理して元気を装っているというメタファーが存在しており、その違和感により引きミサを際立たさているんだそう。
また主人公の実家はゴージャスな雰囲気が漂っている装飾が施されているそうなんですが、よく見ると家具が色あせていたり、手入れがされてないんだそう。
これも主人公の心情とリンクする演出が施されてるそうなので、目を凝らしてみてみたいですね。
キャスト
主人公キャシーを演じるのは、キャリー・マリガン。
「17歳の肖像」以降、目覚ましい活躍を見せている彼女。
モンキー的に好きな彼女の作品は、昼はカースタントマン、夜は逃がし屋稼業をする一匹狼を描いた「ドライヴ」での美しい隣人役。
俺だって命かけて守りたくなる美貌でしたよw
他には、セックス依存症の男とその妹との同居生活を描いた「SHAME/シェイム」でのメンヘラチックな妹。
シャワーシーンにドキッとしましたが、何といっても彼女が歌うシーンをドアップ長回しで見せるシーンは美しすぎて眩しいほど。
あとは、売れないミュージシャンの1週間を描いた「インサイド・ルーウィン・ディヴィス/名もなき男の歌」。
オールタイムベストに入れるほど好きな作品なんですが、彼女が演じた役は3人組フォークグループのボーカルで、主人公と訳ありの女性。
主人公をひたすら罵るセリフ回しや、予想だにしていなかった事実に、この女なんなん!と声を挙げたくなるほど理不尽な奴だなぁと思わせてくれる説得力のあるお芝居が印象的でした。
「わたしを離さないで」や「華麗なるギャツビー」、「ワイルドライフ」など、どれも印象に残る役と演技をされているんですが、僕としては上に挙げた作品が好みですね。
今回惜しくも主演女優賞を逃しましたが、そろそろオスカーをあげてもいい年齢だと思うので、今後にも期待の女優さんです。
他のキャストはこんな感じ。
キャシーが恋する男性ライアン役に、「ビックシック ぼくたちの大いなる目ざめ」や「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」で初監督を務めたボー・バーナム。
マディソン役に、「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」、「レゴムービー」のアリソン・ブリ―。
キャシーの父スタンリー役に、「ハイランダー 悪魔の戦士」、「ショーシャンクの空に」のクランシー・ブラウン。
キャシーの母スーザン役に、TVドラマ「フレンズ」、「セックス・アンド・ザ・シティ」、「キューティ・ブロンド」のジェニファー・クーリッジなどが出演します。
ただの女性の復讐劇では済まされない内容の予感。
また煌びやかな配色からは想像できない毒づきにも注目ですね。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
プロミシング・ヤング・ウーマン
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2021年7月9日
毒気強ぇ…
爽快までとはいかないが、これは面白かった!! pic.twitter.com/l0D2XetfMQ
「俺は良い奴だ」?笑わせんな!
ポップでシュガーな映像と中身の毒っ気の塩梅が最高な復讐劇でした!!
以下、ネタバレします。
中々重たいテーマ
冴えない人生を送る元医大生の男たちに対する復讐劇と、過去から抜け出すきっかけとなる恋愛劇を同時進行して見せる本作は、如何に男たちが女性を蔑むのか、保守に走るのか、さらには男性優位社会によって植え付けられた女性像に対しても一石を投じておきながら、決して社会を斬るような大きなものではなく、ごく個人的な理由で正していこうとする女性にフォーカスを当てた、エンタメとしてもテーマ性としても十分に面白い作品でございました。
酔っ払った女性をお持ち帰りして相手の合意なしに行為をする男。
自分も周囲にもそんな男は存在しないが、実際いることは昨今の報道などを見れば一目瞭然。
酔わせてしまえば抵抗されないし、記憶もあいまいだから大丈夫とでも思ってるんでしょうか。
メタボな下半身を揺らす男たちの見苦しい映像をスローモーションで見せながら始まる本作は、そんな馬鹿な男どもにガンガン復讐していく物語。
酔ったふりをしていると、最初は心配そうに声をかけるが、結局「家まで送るよ?」が「うち近くだから寄ってく?」と変化し、ソファーで横なっていると「きみはかわいいね」とキスをせがんでくる。
女は酔っているから思考が停止して何をされているかよくわかってない。
その隙をついてどんどん行為に持っていくのであります。
何してるの?
ねえ?何してるの?
そんな言葉が出るたびに、「大丈夫」の一点張り。
そして女性は下着を脱がされたところで酔ったフリを止め、やや低いトーンで「ねえ、何してるの?」と男に迫る。
ここで面白いのは、酔ってないことが分かると、男はすぐさま行為をやめるんですね。
え?酔ってないの?
なんだ、じゃあいいや、と。
じゃあいいって何。
そして自分がした一連の行動に言い訳を始め、「君が酔ってると思ったから」とか「普段はこんなことしない」とか「俺は良い奴だ」とか、意味の分からない言い訳を始める。
なぜ男たちは酔ってないことが分かると行為をやめるのか。
根底には女性を蔑んでいるのだろうけど、女性を口説くことやそこまで持っていく手順が面倒なんでしょうか。
とにかく酩酊状態で無抵抗な相手でないとダメなんですね。
本作で描かれてるほとんどの男性は、このように酔ってる女性を性の捌け口として扱い、さも自分に非があるような立場になったら、思いっきり自分を守るようなことばかり言うんです。
気持ち悪いですね、男って。
そんな男たちを一掃しようと、主人公キャシーは毎夜毎夜クラブに出没し、自分の誘いに乗ってきた男に制裁を与えるのであります。
まるで巣を張って獲物を狩る毒グモですね。
とはいっても別に相手を殺すわけではなく、弱みを握ったり男に恥をかかせるといった程度です。
行為に持っていってできなかったなんて、男友達にでも知られたら恰好のネタでしょうから、誰にも言ってほしくないんでしょうね。
でも行為に成功したら自慢するんでしょうね。
バカですね男って。
また、バカな男たちは朝帰りしている女性に卑猥な言葉を浴びせたり、文句を言う際に相手が女性だと分かった途端、性的な言葉で罵るのです。
相手が女性だと、何故下に見るんでしょうか。
バカですね男って。
劇中では、決して男性にばかり復讐するわけではありません。
女性にも容赦なく仕掛けを作って嵌めていくのであります。
大学の同級生である女性には、ひたすらワインを飲ませて酔わせ、弱みを握っている男性にホテルに連れてってもらったり、医大の事務長の女性には、彼女の娘を上手く嵌めて脅迫まがいなことをする。
キャシーの過去に起きた悲しい事件の重さを知ってもらうために、または風化させないために復讐するんです。
ただ決して自分で手を下すのでなく、巧妙な罠を張って相手に事件の被害者の気持ちになってもらうというもの。
きっと根底にあるのは、男自身が男性優位社会を取っ払うことができずにいることや、そんな中で育ってしまった女性が、女性としての在り方という考えに縛られていることから歪んだ思考になっているということ。
なぜ女性が酔っ払ってしまったことが「女性の落ち度」なのか。
劇中では、とある事件で訴えられた男性が将来有望であることや、女性が酔っていたことが陪審員の視点から、女性にも原因があると見られ無罪になったことが明かされます。
事務長の女性は、訴えられた男性が前途有望な男性がどうなってもいいのか?とキャシーに言い放ちますが、キャシーは「じゃあ前途有望な女性はどうなってもいいの?」と言い返すんですね。
この会話は正に本作の肝にもなっていたというか、裁判の判決を下す者たちが男女に対する固定観念を持っているということ。
男性はこうで、女性はこうだという考えが、キャシーを苦しめていたわけです。
恋愛劇もよく練られてる
とはいうモノの、僕はこの映画の主人公雄キャシーの個人的な復讐劇で収まっている点が良いなあと感じました。
それは多分に、キャシーという女性が等身大の女性として描かれてるからです。
決して社会に対する憎しみや怒りを言葉に変換していってるわけではなく、あくまで事件に関わった相手を批判するのではなく、本心を引き出そうとしているやり取りが窺えることから、時代がどうだとか社会がどうだみたいなことにはなってない。
また過去の事件から精神的に病んでいるせいで、未だに友人も彼氏も作らず仕事も適当、しかも実家暮らしという、事件当時から時間が止まっているくらい変化をしようとしない、止まったままの状態。
だからメイクもヘアスタイルも服装も年齢の割には、どこかティーン向けの装いなんですよね。
それが本作のPOPさを引き出しているんですけど、ただ着飾ってるわけではなく、実はメンタルがそうさせているわけで。
そんなキャシーに、学生時代の同級生が現れることで、事態が急変していくわけです。
これまで単なる男を小バカにした行為でしたが、彼の登場により恋のはじまりと本気の復讐のはじまりへと物語は加速していきます。
彼の名前はライアン。
キャシーとは同じ医大でしたが、中退したキャシー自身あまり記憶にない感じ。
でもライアンは当時から密かに思いを寄せていたようで、コーヒーショップで出会うや否やデートを申し込んだり、キャシーのつばが入ったコーヒーを飲み干したりと積極的にアピール。
また、これまで狩ってきた男たちとは違い、ライアンは紳士な対応をするんですね。
強引に自分の方へ持っていくのではなく、キチンと相手に承諾を得てから行動に移す。
夕食の誘いも、映画の誘いも。
最初のデートで偶然を装って自分の家の前まで歩く行為も、結果的にキャシーは怒ってしまったものの、しっかり「こういうのやっぱりよくないよね」と反省する態度を示しており、後にキャシーが心を許すのも分かる紳士な青年でした。
彼の本気の思いに応えながら、一方で復讐劇も進めていくキャシー。
正式に付き合うことになってからは、しょっちゅう一緒にいるくらいべったりで、これまで塞ぎ込んでいたキャシーを心配していた両親も、ようやく普通の暮らしができるのだと確信し、喜びを隠せない様子。
ようやく自分も過去の事件から抜け出し前へ進めると思ったのか、事件に対する復讐も完遂する前に断念しようと、気持ちが揺らぎ始めた矢先、とんでもない証拠がぶっ込まれてくるわけで…。
POPな映像の割に毒っ気が強いという対比がメインではあるんですが、POPな映像は一人の人間が幸せそうな毎日を送る演出という点でも効果をもたらしているんですね。
それこそ初めて二人で入ったドラッグストアで、パリスヒルトンの曲を口ずさみながら、声量がどんどん大きくなり、調子こいてお菓子をあけちゃったり、二人で腰を揺らしながら店内でダンスしたりと、本来歩むべき日常を映画的に演出させていましたね。
最後に
一応過去の事件の詳細と、恋愛劇と復讐劇がどう結びついていくのかを伏せて感想を述べてみました。
だいぶ核心に触れるので、是非ご自身で確かめてほしいと思います。
正直クライマックスや結末に関しては、映画としてのオチで考えれば痛快ではあるし、カッコよく決まった感じがするんですが、主人公がもっと報われるような結末であってほしかったなぁという気持ちが強いです。
悪い意味で「試合に負けて勝負に勝った」感じがして、決して気持ちのいいもんではないというか。
まぁ保険がうまく適用されたという着地ですかね。
楽曲の使い方は上手い箇所が多かったものの、使い捨て感とこれ見よがし的な使い方をしていたので、もう少しソフトに持っていったらよかったのになぁと。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10