別れる決心
ファム・ファタール。
元々は運命の女性を指す言葉だそうです。
映画では「男を狂わす魔性の女」の意味合いが強く、シャロン・ストーンが演じた「氷の微笑」や、ビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」、近年でいうと「(500)日のサマー」や「ゴーン・ガール」、個人的に大共感だった「レミニセンス」などが挙げられるるかと思います。
今回鑑賞する映画は、そんなファムファタールに狂わされていく…までは良いんですが、どうも相手側も男性を思ってる様子。
ただ男性が刑事、女性が容疑者という関係性から、ただのロマンスでは終わらない物語のようです。
パク・チャヌク監督の久々の新作。
彼の映画といえばバイオレンスとエロスが特徴ですが、果たして。
いざ、感想です。
作品情報
『オールド・ボーイ』『お嬢さん』など唯一無二のストーリーテリングで世界中の観客を魅了し続けてきた巨匠パク・チャヌク監督の最新作。
刑事と被害者の妻の2人による、疑うほどに惹かれあっていくサスペンスとロマンスが溶け合う珠玉のドラマ。
第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門では監督賞を受賞し、ゴールデングローブ賞では非英語部門で作品賞にノミネートされ、アカデミー賞国際長編映画賞部門の韓国代表に選出された。
あらすじ
男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュン(パク・ヘイル)と、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)は捜査中に出会った。
取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。
いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める。
やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。
しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった・・・・・・。(HPより抜粋)
感想
#別れる決心 試写にて。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) January 31, 2023
一線を越えない愛の表現の仕方をヒッチコックで味付けした、美しくも切ないラブロマン&サスペンス。
息遣いから肌に触れる瞬間、相手を見つめる視線に至るまで全てのやり取りにエロスを漂わせる大人感が印象的。 pic.twitter.com/XX6vrQrxhq
パク・チャヌクの新境地開拓か。
妻帯者の刑事と夫を殺された女性であるが故に、心は通じ合っていても一線を越えられないもどかしさと歯がゆさが蔓延した、品位を見せつけた大人のメロドラマ。
しかしサスペンスとしても映画としても欠点を多く感じる。
以下、ネタバレします。
トリッキーな映像表現は面白い。
夫の自殺とみられた事故を捜査する男性刑事ヘジュンと、被害者の妻ソレの間に潜む恋愛模様を、互いの視線の先を程度よくカットし、まるで霧で視界が見えないような愛の形を、ヒッチコックを思わせるストーリーテリングとトリッキーなカメラワークで表現しながら、ワイダニットなミステリー要素を取り入れた大人のラブロマンスサスペンスでしたが、個人的には「お嬢さん」の時のような爽快感とカタルシス、結末に至るまでの構成に欠点を感じた作品でございました。
この映画、138分も描く必要があったのか。
どうしても無駄にダラダラ描くような長尺映画には嚙みついてしまうモンキーなんですが、簡潔に言えば138分を保てるほどの魅力、要所で興味がわくような新たな提示など、色々な面で構成に問題があるように感じてしまったのであります。
という不満は後回し。
本作の映像表現が非常に面白かったので、そちらから言及していこうと思います。
「夫を殺した犯人」てことは、大方予想がつくと思います。
これで犯人がソレじゃなかったら違う意味で「別れる決心」な映画になるとは思いますがw
事故現場は頂上に上ってもなんもないし直径も狭い岩のような山。
そこから落下したってだけの事件なので、他の誰かが一緒に上った形跡がなければ他殺としてはちょっと不自然な場所。
なので序盤は警察署きってのエースであるヘジュン刑事が、被害者の妻ソレに的を絞ってひたすら監視する描写が映し出されます。
ちなみにヘジュン刑事は、夜眠れないという設定。
なんでも1時間に47回起きてしまうという不眠症ぶり(それって寝てないのと一緒じゃ…)。
なので夜中は張り込みが日課のようになっていて、その成果もあり事件の早期解決にもつながっている様子。
彼女は夫が死んだというのに、悲しみに暮れることなく介護の仕事に精を出します。
その様子を外の車の中から双眼鏡で覗くヘジュン。
すると突然ヘジュンがソレの隣にいるではありませんか。
もちろんこれは現実ではなく、ヘジュンの妄想。
取り調べや監視にのめりこみ、彼女のことで頭がいっぱいになってるんですね~。
夜の張り込みもスマートウォッチにボイスメモを入れながら、彼女の行動を逐一観測。
夜はアイスクリームだけ、韓国ドラマを見ながら韓国語の勉強をしてるけど、そのままソファで寝落ちとメモ。
彼女がたばこを吸ったまま顔を伏せている時は、ヘジュンは再び妄想状態に入り彼女の隣に現れ灰皿を差し出します。
このような具合で、ヘジュンはことある毎に彼女との妄想に更けていくのであります。
おそらく不眠症からくる激しい妄想ともとれますが、誰だってきれいな女性との光景を一瞬でも頭に思い浮かべることあると思うんです。
それを可視化させた面白い表現だったと思います。
他にもトリッキーな映像表現が盛りだくさん。
ヘジュンが妄想モードに入る際、被写体だけが一度引いて戻る(ズームインとアウト)撮影方法を取り入れてるんですが、それによって場面転換するような仕組みになってます。
あとは、シンメトリーで被写体を捉えながらジャンプカットしたかと思えば、犯人を追走する際は上からカットせず回しっぱなし。
かと思えば急な角度で下から撮影し、下にいる人間とカットバック。
とにかく目まぐるしく変わるんですよね。
しかもどれも変則的だったり突然始まるので、結果的に作品に緩急を与える要因になってたのではないでしょうか。
またヘジュンとソレが見ている視点をクローズアップしてるカットも多数登場するんですよね。
スマホのパスワードを入れる瞬間、結婚指輪、寿司を口へ運ぶ姿、スマートウォッチにボイスメモを入れる姿、その他目元口元手指先。
ヘジュンよ…お前いくら惚れたからってジロジロガン見しすぎじゃね!?ってくらいソレを細胞レベルで見てます。
こういう映像表現を取り入れることによって、ヘジュンがソレにどこまで依存してるか、どの程度浸かりきってるのかを感じることができたのかと思います。
物語的には不満
とまぁ、映像表現という面に関しては興味深い部分が多く、男女のプラトニックな恋愛をどう可視化させるかという点においても面白く観賞させてもらったわけですが、どうもお話に関してはパッとしなかったのが僕の一番の不満です。
そもそもソレ自身に僕自体が魅力を感じなかったのが一番の理由でしょうか。
確かに美人だし、未亡人てとこも加わって妙な色香というモノを感じるんですが、どうも男を唆すようなタイプの女性に見えない薄幸感といいますか、ファムファタールという記号的な面も見た目からは感じなかったんですよね。
それって多分僕の思考というかこれまで見てきた色気で男を惑わすようなファムファタール系の映画して見てこなかった、もしくはこうであるべきだ見たいな決めつけ的思考からくるものだとは思うんですが、どうも魅力的に思えない。
そもそもヘジュンは何をきっかけにソレに惚れていったんですかね。
劇中では旦那の遺体の確認を「言葉で聞くか写真で見るか」という問いを後者で選んだことが、ヘジュンと近い価値観だからってことだと思うんですが、それだけで惹かれますかねっていう。
とはいえこれがきっかけでヘジュンは好意を持ったもんだから、取り調べでソレの手や仕草や表情を、一刑事と並行してオスとして観察してるわけですよ。
いい人と思われたいのか、気前よく高いお寿司を頼んでるのもわかりやすいですけど、僕としては、ちょっとずつ相手へのb気持ちが深まっていくようなのではなく、決定的な瞬間を見せてほしかったですね。
後はお話の構成ですかね。
これ最初の事件の犯人がソレだと確信し、ヘジュンがどう行動するかってシーンが、中盤の山場にあたるんですよ。
僕はここで映画が終わりに近づくんだろうなというスイッチが入ってしまったんですね。
でもその後も物語は続く。
ヘジュンは奥さんと週末婚を過ごしていた場所に転勤、ソレは別の男性と結婚。
なぜか偶然再会することで物語が再び動き出すという構成なんですよ。
正直なんでこんなめんどくさい構成にしたんだろうと。
一応解説します。
なぜ彼女が別の男性と結婚しヘジュンのいる場所に来たかというと、再び旦那を殺して事件を起こし重要参考人になれば、またヘジュンが事件の担当をしてくれるから。
そして未解決事件に執着するヘジュンの性格もわかってるので、この事件も未解決になれば、ずっと自分の事を想ってもらえるという理由。
もちろん最初の事件をヘジュンは隠ぺいしてます
よって向こうの思いも分かってる。
刑事と容疑者という肩書の中で精神的に心を通わすことが、ソレにとっては堪らなかったんでしょう。
ですが、なんで事件を二つに分けちゃったんだろうって。
別に一つの殺人事件だけで十分だろうと。
僕は一つ目の事件のアリバイを崩し、ソレを好きなあまり事件を隠ぺいしたところで、キレイに終わって良かった、なんならこれソレの気持ちをこっちで色々膨らませる余韻を作って、気持ちよくヘジュン視点のみでピリオドにした方が見やすい気がしたんですよね。
で、それでも尺が足りないのであれば、今度は「お嬢さん」のように物語の後半にソレの視点を描くことで、互いがどのように意識し、どのように惹かれ、どの部分で精神的な恋愛をしていくのかを見せたら、わかりやすくて面白いのになぁと。
あとは、最初の事件でヘジュンが隠ぺいしてしまったせいで、ソレが付け上がってるように見えてしまったというか。
これ俺がヘジュンだったらですよ、ああいう形で再会して、しかもまた事件起こしたらドン引きなんですよw
恋愛感情なんてとうに越えて恐怖でしかないんですよね・・・。
いや、ヘジュンとしては、向こうの気持ちがこれで確実なものになったんだと思うんですよ。
でもなぁ、俺には理解できなかったですわぁ…。
ヘジュンからしたらソレがいれば、ちゃんと眠れるわけだから日常的には欲しい存在なんだろうなぁ…。
最後に
別にエロやバイオレンスが無くても俺はラブストーリーが作れるんだ!というパク・チャヌクの気概は感じましたが、申し訳ありません、俺は物語として魅力的に感じませんでした。
多分あれでしょうね、サスペンスとかミステリーとしてもっと面白く見せてほしかったんでしょうね。
これがつまらないと感じた一番の理由だなw
とはいえラストは中々予想もつかない展開で、いい意味で僕には全く理解できない愛の示し方だったなぁと。
こっちとしてはね、刑事とか容疑者とか、そんな肩書捨てるくらいの覚悟で二人で誰も知らない土地に逃げたらええやん!と。
ヘジュンなんか、奥さんと形式でしかない愛の営みしてるから眠れなくなんだよ!
ソレもソレでさぁ、そんなんだから変な男しか寄り付かないんだよw
というか、そもそも旦那自体がロクでもなかったけどw
ま、二人にしかわからない恋愛のお話なので、外野の俺がワーキャー言っても仕方ありませんねw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆★★★★★★4/10