さらば愛しきアウトロー
名優ロバート・レッドフォード。
正直ほとんどの作品を見ていないニワカな僕ですが、それでも「明日に向かって撃て!」や「スティング」はお気に入りの1本だし、クライムサスペンスの定番「スニーカーズ」や、共演したブラピと親子か!?と思ってしまった「スパイ・ゲーム」、ポリティカルサスペンスの王道「大統領の陰謀」、無謀な作戦をさせられた「遠すぎた橋」、今作の監督作に出演した「ピートと秘密の友達」、そしてMCUシリーズの中で1、2を争う秀作「キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー」、大統領の疑惑に追求した報道チームの顛末描いた「ニュースの真相」、監督作も恥ずかしながら「クイズ・ショウ」のみではありますが、どれもこれも僕の映画人生を変えた作品ばかりであります。
まだまだ彼の名作を観れていないクソ野郎ではありますが、今回で俳優人生を引退するということで、彼の最後の花道を、映画を愛する一人として極東の片隅から心を込めて鑑賞後の感想なんぞを書き連ねたいと思っております。
そんな世界中の映画ファンから愛される彼が最後に選んだ題材は、いかにも彼らしい脱獄モノと犯罪モノを含ませた映画。
どうやら実在した銀行強盗だそうで、誰一人傷つけなかった犯罪者なんだとか。
紳士でありながら人生を真摯に全うした彼の生き様が、ロバート・レッドフォードにどうリンクしていくのでしょうか。いやするんだよなきっと。
早速鑑賞してまいりました!!!
作品情報
映画史に名を刻む名俳優にして名監督のロバート・レッドフォードの俳優業引退作品。
彼が最後に選んだのは、16回の脱獄と銀行強盗を繰り返した実在のアウトロー。
80年代を舞台に、そのダンディな佇まいとスマイルで紳士的に振る舞い誰一人傷つけず銀行強盗を楽しんだ74歳の主人公の生き様と、彼を追い続けることで魅了されていく刑事をはじめとした周囲の人物たちの心変わりを共に描くことで、彼の本来の姿を浮かび上がらせていく。
レッドフォードがかつて出演した「ピートと秘密の友達」の監督が、彼へのありったけの愛と思いをぶつけ描いた今作。
映画をこよなく愛する彼の映画人としての最後の姿が、ここに刻まれる。

The Old Man and the Gun: And Other Tales of True Crime
- 作者: David Grann
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 2018/09/04
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あらすじ
時は1980年代初頭、アメリカ。ポケットに入れた拳銃をチラリと見せるだけで、微笑みながら誰ひとり傷つけず、目的を遂げる銀行強盗がいた。
彼の名はフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)、74歳。
被害者のはずの銀行の窓口係や支店長は彼のことを、「紳士だった」「礼儀正しかった」と口々に誉めそやす。
事件を担当することになったジョン・ハント刑事(ケイシー・アフレック)も、追いかければ追いかけるほどフォレストの生き方に魅了されていく。
彼が堅気ではないと感じながらも、心を奪われてしまった恋人もいた。
そんな中、フォレストは仲間のテディ(ダニー・グローヴァー)とウォラー(トム・ウェイツ)と共に、かつてない“デカいヤマ”を計画し、まんまと成功させる。
だが、“黄昏ギャング”と大々的に報道されたために、予想もしなかった危機にさらされる─。(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのは、デヴィッド・ロウリー。
昨年、幽霊になった主人公の心の旅路を切なくもファンタジーチックに描いた「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」で、ポテンシャルを発揮し話題をさらった監督。
今回今まで描いたことのない犯罪モノを一体どんな風に作り上げたのか、また監督の過去作「ピートと秘密の友達」に出演したレッドフォードとの縁で抜擢された彼が、「思いのたけを込めたレッドフォードへのラブレター」と放った言葉は、どのように映像の中で綴られているのでしょうか。
監督に関してはこちらをどうぞ。
キャスト
伝説の銀行強盗フォレスト・タッカーを演じるのはロバート・レッドフォード。
もう冒頭で説明しましたが、僕にとっての彼は「明日に向かって撃て!」のサンダンス・キッドが一番好きですね。
ベタではありますが、彼とポール・ニューマン演じるブッチとの掛け合いが大好きなのです。早撃ちの名人で恋人もいる二枚目にもかかわらず泳げないというカッコ悪さがまた堪らない。
何というかこの「隙」があるのが親しみが持てて良いなぁと。強盗ですけどね。
とまぁ、僕の思いはこの辺にして、彼が出演した代表作をサクッとご紹介。
下積み生活を経て大抜擢された「明日に向かって撃て!」で一躍トップススターの座に就いた彼。
その後も再び共演したポールニューマンと一世一代の大博打を仕掛ける「スティング」、移り変わりの激しい時代に生きた男女のラブストーリー「追憶」、1920年代の上流社会を舞台に一人符号を通じて非情な社会を描いたメロドラマ「華麗なるギャツビー」、ウォーターゲート事件の真相を追う二人の記者を描いた「大統領の陰謀」など70年代で華々しい活躍を遂げていきます。
80年代になると監督業にも進み、平穏な家族に起きた様々な出来事によって崩壊していく様を描いた「普通の人々」でアカデミー賞監督賞を受賞する快挙を成し遂げます。
出演作も、20世紀初頭のアフリカで愛と冒険に生きた女性の半生を描いたロマンス「愛と悲しみの果て」や、心に傷を負った少女と母親、馬を愛する男との人間模様を詩的に綴った「モンタナの風に吹かれて」では自身が監督主演に。
ラブロマンスやヒューマンドラマが目立った80,90年代でしたが、00年代以降は自身監督作で主演したブラット・ピットと今度は共演を果たしたスパイアクション「スパイゲーム」、大統領への野望を目論む政治家と女性記者との熾烈な駆け引きを重厚に描いた「大いなる陰謀」、大海原で単独遭難した男の一大サバイバルヒューマンアドベンチャー「オール・イズ・ロスト~最後の手紙~」、所属する組織に疑問を持ったヒーローに恐ろしい陰謀と新たな戦いという壁が立ちはだかる「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」など、様々なジャンルで存在感を見せつけています。
彼の俳優としての生き様が今作にどのようにリンクしていくのか、非常に楽しみですね。
他のキャストはこんな感じ。
タッカーを追跡する刑事、ジョン・ハント役に、「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケイシー・アフレック。
タッカーとロマンスしていくジュエル役に、「キャリー」、「イン・ザ・ベッドルーム」のシシー・スペイセク。
共に強盗計画を立てるテディ役に、「リーサルウェポン」シリーズ、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」のダニー・グローバー。
同じくタッカーの仲間、ウォラー役に、「ダウン・バイ・ロー」、「ショート・カッツ」、そして世界的シンガーソングライターであるトム・ウェイツ。
ジョンの恋人モーリーン役に、「サウスサイドであなたと」で注目されたチカ・サンプターなどが出演します。
観た人誰もがレッドフォードにハートを盗まれたと絶賛の今作。
きっと監督の事だから優しさと愛が詰まった映画になっていることでしょう。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
なぜ銀行強盗するのか、そこに銀行があるからだ!
終始ニンマリしながら老いらくの恋と生き様を見続けられるステキなアメリカンムービーでした!!
以下、核心に触れずネタバレします。
ムードがたまらん!
80年代のテキサスを舞台に、誰一人傷つけずまるで犯罪を楽しんでいるかのように銀行強盗を続ける老人の姿を、小粋でムーディーなジャズをバックに、まるで当時のアメリカ映画を見てるかのようなフィルムの質感とゆったりと流れる時間と行間、徐々にこみ上げるユーモアセンス、主人公の姿勢から溢れる清涼感や紳士的おしゃれ感が随所に漂い、人生どんな時も楽しんでナンボ!という格言を、人生経験豊富で余裕綽々なおじいさまから教わることができたとっても素敵な映画でございました。
率直な感想を申し上げるのであれば、ずっとニヤニヤしながら見ていられる映画でした。
何なんでしょうこの余韻。犯罪を犯してるのに彼を応援したくなる、追われてる姿を見たらどうにかしてうまく逃げ切ってほしいと思ってしまう。
そして出来る事ならジュエルと二人、残りの人生を添い遂げてほしい。
そんな気持ちで最後まで見届けられる映画でした。
ぶっちゃけ余計な演出とかあまりなかったように思えます。
会話も建設的なものにせず、他愛のない話から彼らの関係性を掘り出していたし、それが何か大きなメッセージにもなっていないし、ごくごく普通の強盗生活を送る彼の姿を淡々と見せられている感覚。
いやきっとあったんだろうけど「やっている」感じを見せない、細部まで工夫された作品だったのでしょう。
実際に当時の映画の雰囲気を持たすためにフィルム感を出してるし、会話のシーンではフォレストとジュエルの顔を何度も振りったかと思えば、急にダイナーの客席に振る、とか、計16回の脱獄の回想シーンも当時のレッドフォードを思わせるシーンを見せて彼のキャリアとリンクした演出だったし。(ぶっちゃけどれが何の映画かはわかりません、にわかなもので・・・)
しかしなんですかね、ジュエルと人生について語り合う時の、フォレストの言葉「子供の僕が今の僕を見てどう思うかによって幸せかどうか決まるんじゃないかな」なんてセリフは、正にフォレストから、人生という長い旅路の中で幸せを掴むための心がけとでもいいますか、すごく大事な言葉、メッセージだったように思えます。
銀行強盗だろうが、俳優だろうが、なんだろうが、楽しい時も辛い時も喜びをかみしめる時も困難にぶつかるときも、その時の状況をどれだけ楽しむか、そしてそれでも自分が成し得たいことを掴もうが掴むまいが楽しむことこそ、素晴らしいことなんだってのをあの言葉の中から見出した気がします。
実際僕も辛くて音楽を辞めた身。あの時ぶつかった大きな壁を前に逃げ道を見つけてしまったわけですが、もしあそこでその状態こそ楽しむことが出来たなら人生大きく変わっていたかもしれない。
同年代が未だその道を歩み続けている姿を見ると、周りから見たら生活大変かもしれないけど彼らは彼らなりに周りに振り回されず楽しんでいるに違いないわけで。
また銀行強盗にすり合わせて考えてみると、綿密に打ち合わせをしたりした調べをしたりと準備と計画に相当な時間がかかる、そこから現れるであろうたゆまぬ努力と立ちはだかる壁をいかにクリアするかという辛さと成功し壁を越えた時の喜び、そして訪れる虚無感とあの快感への欲望。
このような感覚全てを楽しむことこそフォレストが求めていた人生なんでしょうし、レッドフォードもまた、下準備と役作りにトライアンドエラーで臨み、封切した作品によって成功をおさめ、また次の作品に臨むという繰り返しの人生をどれだけ楽しんで生きてきたかってのが、この映画から溢れてるように思えます。
楽に生きればいいのにって?そんな人生まっぴらだぜ!と。
この物語を最後に俳優人生の幕を閉じる彼ですが、これを最後にした意味ってのを、あくまで僕の観点ではありますが捉えたつもりですし、未だ観てない彼の作品にお目にかかりたいという気持ちが一層強まったきっかけになった映画でもありました。
紳士ですよ。
銀行強盗といえば、覆面被ってでっかい銃を構え、窓口にかばんを出して、「金出せ!」とデカい声でいきりまくり、警察が来るまでの短い時間どれだけ素早く行動し逃げることができるか、それに対し常に焦りながら怒鳴り散らすってのが相場だと思うんですが、こっちの銀行強盗はそんなイライラしながら人を脅し銃を乱射するようなお行儀の悪い強盗ではございません。
やぁ、口座を作りたいんだけど、と支店長に近づき、どのように?と問われれば、「これで」とジャケットの内ポケットに忍ばせた拳銃を見せつけ、ニコっと笑顔で振る舞う。
見た目こそ「お金をいただけますか?」な感じですが、明らかに銀行員や支店長は「あなたが今大きな声を出して騒いだら、わかってますよね?」と捉えるに違いない。
僕が見たフォレストは明らかにそれを狙ってるように思うんだけど、もしそうなったとしても決して銃はぶっ放さないだろうし、自分の紳士たる姿勢が誠意が足らなかったから、と反省し素直にお縄になるだろうなぁと。
この一連のやり口で、銀行員は皆彼の言うことに素直に応じ、いとも簡単に強盗を成功させてしまうのであります。
初出勤の銀行員なんか泣き出しちゃうんだけど、「大丈夫、君はよくやってる、泣かないで」なんて慰められちゃって。
警察の取り調べに対し、対応した銀行員は皆口をそろえて「紳士でした」とか「誰一人傷つけませんでした」、「銃は見せただけでした」、「幸せそうでした」など、強盗に遭ったのにもかかわらず怯える事すらせず平常心で応答するのです。
なんでしょうこれ、フォレストは金だけじゃなく、銀行員たちのハートまで盗んでしまったのか。
だってみんなあれですよね、普通強盗って言ったら、上で書いた通りの奴らを想像するだろうし、こんな人が強盗に来たらある意味拍子抜けというか、不意を突かれるというか。
その紳士ぶりは強盗以外でも見せます。
車が故障していたのを手伝ったことがきっかけでお近づきになったジュエル。
明らかに警察の追手から逃れるための口実に過ぎなかったその出会いは、彼女と会話を交わすたびにほのかな思いへと変わっていくのであります。
ジュエルもまた素性を明かさない彼の巧みな会話術(僕に会いたくないの?とかずるいわw)と、シワだらけのスマイル、そしてその裏に隠された何か危険な香りに誘われ、徐々に彼に思いを向けていくのであります。
また彼を追い続けるジョン・ハント刑事とのやり取りもステキ。
FBIに仕事を取られてもこのヤマは俺が必ず挙げる!とTVで豪語するハント。
狙おうとしている大銀行での強盗を前に、仲間が煮え切らない態度を取り、実行にうつせないでいる時に流れたこのニュース映像を見たフォレストは、彼のこのやる気に満ち溢れた言葉に感銘を受け、再びやる気をみなぎらせるのであります。
そっちがそうなら俺も男だ、勝負してやろうじゃねえかとばかりに。
結果、見事に強盗は成功。機転をきかせ金塊を盗むというやり方で出し抜いたわけですが、ばらまいた札束の中に1枚の1ドル札が。そこにはフォレストからの「幸運を祈る」という君の挑戦受けて立つよ的なメッセージ。
なんですかこれ。怪盗キッドとかルパン三世みたいな書置き。
それからというもの、彼がかつて愛した女性の娘からの手紙によって、過去の彼の犯罪歴を探し当てるハント刑事。
お前こそ明らかに仕事楽しんでるじゃねえか。いやそれでいいんだよ。確かに彼は犯罪者だし悪いことしてるお爺さんだけど、追う追われるの関係をどちらも出し抜いたりせず正々堂々と行動し、互いが尊敬し、互いが紳士的に動いている。
その心意気に対し、たまたまダイナーで出会ったフォレストはトイレに行ったハントに声をかけ、励ましと応援の意味を込めたであろう「君は優秀な刑事だねぇ(もちろん逆の意味)」と声をかける。
それに対し鼓舞されたハント。「俺は優秀だ」。
対等でなければこのゲームは面白くないと言わんばかりのこのやり取りを見た僕はニヤニヤが止まりません。
もうどうしてこんなにニヤけてしまうのか。
それはやっぱり彼が強盗にもかかわらず紳士であること、そしてそれをやり続けることを楽しんでいること、もっと言うと彼のその心が子供のように好奇心と探求心、挑戦することの面白さを味わっているからなんだろうと。
最後に
今年はおじいちゃんが犯罪しちゃう映画「運び屋」ってのがありましたけど、それとは違う深い余韻に浸れる映画でした。
このおじいちゃん犯罪映画シリーズ、イーストウッド、レッドフォードと来たら、次は誰だ、デニーロか?いやぁ違うな、いっそマイケル・ケインにもう一度「ミニミニ大作戦」でもやってもらうかw
強盗の役で一躍トップスターになった彼が、強盗の役で俳優人生に幕を閉じる。
しかもラストカットは「明日に向かって撃て!」を彷彿させるシーンにも見えて、そりゃあもうニヤケが止まらん。
なんてカッコイイんだレッドフォード。
やっぱり今色々怒ってしまいがちな世の中ですけど、その思いってのは内ポケットに忍ばせチラッと見せるだけでいいんだよな。
でもって常にスマイルなんだよ。そしていかなる時も楽しむ。これだな。
今後は監督業とかするのかな?てか、ひっそり俳優やってくれてもいいんですよ。大歓迎です。
とりあえず僕のようなニワカな映画ファンにこんな素敵な映画を見せてくれてありがとうと言いたいです。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10