モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」感想ネタバレあり解説 ハリウッド映画界で起きた一大事件の内幕とは。

SHE SAID シー・セッド その名を暴け

1976年に製作された「大統領の陰謀」。

ワシントン・ポスト紙に努める新聞記者二人がウォーターゲート事件の真相を追う姿をドキュメンタリータッチで描いた名作です。

 

権力を監視する役目を持つメディアに携わる二人が、意地と執念で取材を敢行する姿は、時に情熱的になりながらも冷静さを忘れない視線が印象的でした。

 

今回鑑賞する映画は、そんな名作の魂を引き継いだかのような記者二人の物語。

映画業界で絶対的権力を持つ男の「性的暴行事件」を明るみにしようと取材する女性記者二人を姿を描く、実話をもとにした作品。

 

そうそう、ハーヴェイ・ワインスタインが犯した罪が#MeToo運動が活発化したんだよなぁとか、アカデミー賞でこぞって女優たちがスピーチしたりと、歴史を変えた事件として刻まれましたよね。

本作はそれを明るみに出すべく奮闘した記者の視点でシリアスに描くことになるんでしょう。

 

スポットライト世紀のスクープ」や「ペンタゴン・ペーパーズ」など、数年おきにこうしたジャーナリズム的傑作が世に生まれることは素晴らしいことだと思う一方で、映画の描写や構成、演出などにも目を配りたいと思います。

早速観賞してまいりました!!

 

 

作品情報

グッドウィル・ハンティング」や「恋に落ちたシェイクスピア」、「ロード・オブ・ザ・リング」、「英国王のスピーチ」など、数々の映画を製作しアカデミー賞でオスカー獲得してきた名プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏。

 

その強引なやり口から外部から嫌悪されてきた人物だが、良質な映画を生み出した手腕は確かなものだった。

しかし、その裏で彼が権力を使ってどんなことをしてきたのか、誰も公にはできなかった。

 

本作は、ワインスタインが数十年にわたって犯したセクハラや性的暴行事件を追いかけるも、ワインスタイン側からの厳しい圧力に屈することなく取材、やがて記事としてスクープし、ピューリッツァー賞を受賞したニューヨークタイムス紙の女性記者たちの奮闘する姿を描いたヒューマンサスペンス。

 

ベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞)を獲得し、女優や脚本家としても活躍するマリア・シュラーダーが監督を務め、原作や調査報道をもとに事実に忠実に沿って物語を組み立てた。

主演には「プロミシング・ヤング・ウーマン」で強烈なインパクトを魅せ、2度目のアカデミー賞主演女優賞にノミネートしたキャリー・マリガンと、「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」やパートナーとともに映画製作にも力を入れるゾーイ・カザン

取材提供者からの拒否やワインスタイン側の圧力にもめげず、真実を懸命に追い求める記者と編集者の姿を繊細に演じた。

 

かつての恋人を守るために自らのキャリアをかけてワインスタインに啖呵を切ったブラド・ピット

そんな彼を代表とする製作会社プランBがかかわっていることにも注目だ。

 

映画業界のみならず、国境を越え世界中の性被害の声を促してきた#MeToo運動のきっかけとなった事件。

 

将来を生きる女性のために、世の中を変えた実話。

彼女たちの信念に心震わそう。

 

 

あらすじ

 

取材を進める中で、ワインスタインは過去に何度も記事をもみ消してきたことが判明する。

さらに、被害にあった女性たちは示談に応じており、証言すれば訴えられるため、声をあげられないままでいた。

 

問題の本質は業界の隠蔽構造だと知った記者たちは、調査を妨害されながらも信念を曲げず、証言を決意した勇気ある女性たちと共に突き進む。

 

そして、遂に数十年にわたる沈黙が破られ、真実が明らかになっていくー。(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

 

感想

映画好きとして非常に興味深い問題が、どのようにして記事となったのかをじっくり腰を据えて見られた。

今日の女性たちが声を上げられるのはこれがきっかけであると共に、一刻も早く改善されることを願う。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

なぜ加害者が守られるのか

数々の作品を世に送り出し、アカデミー賞でも数々の栄誉を手に入れた映画プロデューサーが、その権力を使って次々と性虐待をしてきた事実を公にしようと奮闘する2人の女性記者の姿と、権力者による巧妙な手口に成す術もなく沈黙を貫いてきた被害者たちの悲痛な気持ちを、弦楽器で構成された低音なストリングスと当事者たちの眼差しを逃さず捉えたカメラワークによって、この事実がいかに多くの女性たちの未来や希望、そして日常を奪ったのかを見事に伝えた作品でございました。

 

トゥルーロマンスに、グッドウィルハンティング、恋におちたシェイクスピアに英国王のスピーチ、そしてタランティーノ作品と、彼がプロデュースした作品は数知れず。

その中には個人としても好きなモノばかりだし、映画史としても語り継がれる作品が連なるわけですが、正直そんな映画を世に送り出した人が、2,30年もの間、何十人、いやもしかしたら何百人もの女性を精神的にも肉体的にも傷つけてきた人物だったなんて。

 

当時のニュースでも相当な騒ぎになりましたし、それによって声を上げ続け業界や企業内の構造を改善する余波は今もなお続いてるわけで、今回の作品は非常に興味深く鑑賞できました。

 

 

物語はいきなりワインスタインの記事を書こうという展開ではなく、アメリカ大統領選挙で最後まで残り、後に大統領となったトランプ大統領のセクハラ疑惑をスクープしたミーガン・ジョディ(キャリー・マリガン)の姿をまず映しだします。

彼から直接「記事はデタラメだ!」だの「お前はうそつきだ!」だの罵声を浴びせられ、終いには匿名で脅迫を受けるなどの被害を受けながらも、お腹の中には子を授かっているミーガン。

 

そんな彼女と並行して描かれえるのが、後に共同で取材することになるジョディ・カンタ―の姿も描きだします。

彼女には既に子供が二人おり、子育てに悪戦苦闘しながらも記者としての日々を過ごしていました。

 

そんなジョディが次に選んだ取材は「ワインスタインによる女性問題」。

彼の会社ミラマックスを告訴しながらもなぜかすぐ取り下げられた理由を探りながら、徐々に取材を進めていく中で、無事産休から復帰したミーガンに協力を依頼して、調査は動き出します。

 

 

冒頭でトランプ大統領のセクハラ問題を描いたことで、ワインスタイン含め如何に権力者という存在がその力を使って女性たちを苦しめてきたのかを強調したように感じます。

しかもこれまでの歴史の中でそういった性的搾取を繰り返す加害者ほど、様々な手口を使って守られてきた事実が明るみとなり、こんな法律や構造ではどうやったってマイノリティを救うことは無理だろうとさえ感じてしまうほど強固なモノでした。

 

具体的には弁護士に告訴してもらうよう頼むも、証拠が不十分だから裁判で勝てないと言われたり、そもそも警察に駆け込んでも事件性が薄いとされてしまう。

 

しかもワインスタイン側から示談を持ち掛けられ、示談金をもらう代わりにありとあらゆる証拠を処分され、尚且つ口外してはならないという秘密保持契約を交わされることで、誰にも話すことができないことはおろか、公にすら言えないように仕向けられる。

 

挙句の果てには映画業界で働きたいのに、圧力をかけられ干されてしまうという始末。

ワインスタインほどの業界内での強大な力は、調べれば調べるほど分厚い壁だったのであります。

 

色々な情報を収集していく中で、被害に遭ったとされる元スタッフやハリウッド女優他の証言を手に入れるも、実名を明かすことに後ろ向きだったり拒絶されていくミーガンとジョディ。

ただその中でも彼の手口がほぼ同じものだったことが明かされていくわけです。

 

朝起きてマッサージをお願いし、徐々に服を脱がせシャワールームへ連れていくというもの。

イタリア人モデルのアンブラ・バッティアーナ・グディエレスによると、打ち合わせと称してホテル・ペニンシュラに呼ばれ、身の危険を感じて拒むも「1分でいいから」とせっつかれたり、終いにはキャリアを終わらせるぞなどと脅迫めいたことまでしてことに運ぼうとする彼の姿が明るみになっていきます。

 

劇中ではそんな実際に録音されたテープの音声を使いながらホテルの廊下をゆっくり映すシーンが挿入されており、その生々しいやり取りから男の自分でも身の毛がよだつ気持ちになっていきました。

彼の手口は非常に慣れたものだったり、それでも拒み続ける女優の声がどんどん弱々しくなっていく様、それでも決して引かないワインスタインの強欲さに恐怖でしかありません。

 

また本作ではミラマックスで働いていた女性たちが登場しますが、ハリウッド女優の名もそのまま使う内容になってました。

「プラネット・テラーinグラインド・ハウス」のローズ・マッゴーワンはサンダンス映画祭の時にレイプされ、示談金を受け取ったという旨の内容が描かれてました。

 

他にもMCUのペッパー・ポッツでお馴染み(劇中でもアベンジャーズを見てる子どもたちとローラのシーンがありました)のグウィネス・バルトロウはその姿こそ登場しませんでしたが、彼女は特命を希望しつつも何があったかをジョディに話したり、逆にグウィネスから「ワインスタインが家に来た」という電話をしたりする姿が描かれています。

 

実際に彼女は当時付き合っていたブラッド・ピットに相談しており、ブラピはキャリアを台無しにしてしまう危険をはらんでいてもワインスタインに猛抗議したそう。

その代わり彼女はワインスタインから長時間にわたって電話で怒鳴られ、出演するはずだった作品を降板させられるのではないかと震えたそうな。

 

そんな事実があったからなのか、ブラピが持つ製作会社「プランB」が本作に出資してるって、どこまでかっこいいんだブラピよw

 

また驚きだったのは、「ヒート」や「ダブル・ジョバディー」のアシュレイ・ジャッドが本人役で出演していること。

実名を出せないまま記事にすれば信ぴょう性が薄まるため、中々GOサインの出なかった報道の中、彼女がそれを許諾したことで再び取材が前に動き出したという非常に重要な役どころで、本人が出演したことで本作で描かれたことの重要性が強まったように感じます。

 

実際に彼女はホテルに呼ばれマッサージを迫られたそうで、何度も頑なにNOを突き付けあしらったと自ら語っており、それを断ったせいでキャリアを失ったと語っていました。

 

将来を生きる子供たちのために

そんな女優たちの出せなかった声を拾い上げ取材を進めていく2人にも、家庭があり家族がいることを本作は決して端折らず描くことで、なぜ彼女たちがこの問題に立ち向かっているのかを強めた描写になっていたと思います。

 

実際ミーガンは物語の序盤で妊娠しており、トランプ大統領の件で外部からさんざん揶揄されながらも仕事をこなしている姿が描かれています。

出産後幸せに暮らしているかと思いきや、産後鬱のような状態になり、いっぱいいっぱいになってましたね。

夫からゆっくり休むよう言われますが、彼女は仕事をすることが良い気晴らしになると思い職場に復帰。

 

夫と共に子育てをしながら、ワインスタインの取材をジョディと共に進めていくのであります。

 

またジョディはミーガンと違い2人の子を持つ親。

彼女もまた夫と共に子育てしながらの日々を送っていました。

 

特に上の子は、気を使って下の子の面倒を見たりする非常によくできたお姉ちゃんで、仕事の電話がかかれば部屋を出て行ったり、母親がどんな取材をしてるかよくわかってないながら、非常に大事な仕事をしていると肌で感じているのが印象的でした。

 

出張先でのスカイプでのやり取りも印象的で、今母親がどんなしゅざうぃしているのかに興味津々であることが窺えたり、それに対して「大人になったら話そうね」と諭す母親の姿、こうした親子のやり取りから透けて見えるのは「性被害が当たり前なことと思ってほしくない」ことや「そんなことが横行するような時代になってほしくない」といった願いを持って取材してるように見えてくるんですよね。

 

他にもパブでの打ち合わせの際ナンパしてくる男性に啖呵を切るミーガン、それに対してナンパが失敗してしまった腹いせに「この不感症女」と捨て台詞を吐く男性の姿を描くことで、決して権力者だけでなくこうした些細な被害が日常的にあることを示唆したシーンでもありました。

 

 

そんな日常的なハラスメントを受けながらも、母として女性としてこの記事を世に放つことが、今苦しんでる人を救うことができる、声に出せなかった人の後押しができると信じ、取材を進めるのであります。

 

 

そしてワインスタインの回答でのやり取りは、冒頭で描かれたトランプそのもので、ガキの言い分のようにしか聞こえません。

「そんなのはデタラメだ!」、「このうそつきめ、ワシントンポスト紙に書かせるぞ」といった言い訳ばかりで、根本的に回答になっていません。

 

なんでしょう、トランプもワインスタインも喚いて脅すしか能がないですよねw

そうすれば女は黙るとでも思っているんでしょうか。

相手を非案することでしか自分を守れない愚かな人間だったことが浮き彫りになっていく作品でもありましたね。

 

 

最後に

本作は女性監督ということもあって、母親である記者の私生活にもフォーカスを当てながら描くことにも重きを置いた作品であった、非常に現代的な描写だった一方で、題材だけでひぱっ抵抗という姿勢にも感じ、映画としての満足度はそこまで高いモノになっていなかった印象です。

 

この手の映画で僕が求めてるのは「ジャーナリストとしての骨太な内容」で、それを強調するかのようなヒヤヒヤした演出だったり、こうした世に出にくい問題を世に放つ苦しみや困難な状況を、どうやって打破していくか、そして打破した時の劇的な瞬間を巧みな演出で見せてほしかったという点でしょうか。

 

全体的に劇伴で重厚感を出したり、無音にすることで演者のセリフに注目させるような演出はしているモノの、せっかく貸してもらえたNYタイムス社のオフィスをうまく生かしたカメラワークになっていなかったり(それこそ二人が夜中まで残ってPCとにらめっこしてる姿とか、もっとカッコよく見せられたのに…)といった不満は残ってしまいました。

 

単刀直入に言えば「もっとかっこいい映画にしてほしかった」というのが僕の注文でしょうか。

 

ただ本作は女性的な視点で描かれた数少ないジャーナリスト映画であることは事実であり、こうした映画が今後もっと増えていけばいいとは思います。

 

在ってはならないことが明るみに出た一方で、そんなことが映画業界でもあったなんてという辛さ。

しかしこのことがきっかけで世界が変わり始めているわけで、ほんとに彼女たちがやり遂げた功績は現代史に燦然と輝くものだと思います。

 

それ以上に、声を上げてくれた彼女たちも称えたいですよね。

彼女たちが証言してくれなければ、叶うことのなかった記事ですから。

権力者に脅えながらも戦ってくれた彼女たちに拍手を送ると共に、この世からそうしたことに脅えずに平穏に暮らせる社会が、一刻も早く来ることを願いたいと思います。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10