スターリンの葬送狂騒曲
僕、歴史上の悪い人って括りは変ですが、ヒトラーもスターリンも好きじゃなくて。
だから彼らを題材にした映画って興味が無かったんですね。
いわゆる食わず嫌いってやつなんですけど、Twitterのフォロワーさんからのススメもあり予告編観賞。
そしたらこれが実はブラックジョーク満載のコメディだっていうんで、あれ面白そうじゃん!
しかも実際にあった話なのかい?
あまりの内容にロシアで上映中止!?
あれ久々にブシェミがいる!
て、これソ連なのに英語じゃん!
面白そうじゃん!
というわけで早速観賞してまいりました!!
作品情報
長期にわたってソビエト連邦を指揮してきた独裁者スターリン。
後継者を指名せず亡くなった事でできた最高権力者のイスをめぐって、嘘、裏切り、罠といった、姑息で卑劣で残忍な駆け引きを側近達が繰り広げるブラックコメディ。
国を引っ張っていかなければならない者たちによる何でもアリな行動は、ゲスそのものなんだけど、驚くことにほとんど事実というからたまったもんじゃない。
そんな事実をまとめた原作コミックがベストセラーとなり今回の映画化に至った。
本国ロシアでは上映中止となるが、ヨーロッパやアメリカでスマッシュヒットを連発。批評サイトロッテントマトでも97%を獲得する高評価!
このドス黒い実話をあなたは果たして笑えるか、それとも。
あらすじ
“敵”の名簿を愉しげにチェックするスターリン。
名前の載った者は、問答無用で“粛清”される恐怖のリストだ。
時は1953年、モスクワ。スターリンと彼の秘密警察がこの国を20年にわたって支配していた。
下品なジョークを飛ばし合いながら、スターリンは側近たちと夕食のテーブルを囲む。
道化役の中央委員会第一書記のフルシチョフ(スティーヴ・ブシェミ)の小話に大笑いする秘密警察警備隊長のベリヤ(サイモン・ラッセル・ビール)。
スターリンの腹心のマレンコフ(ジェフリー・タンバー)は空気が読めないタイプで、すぐに場をシラケさせてしまう。
明け方近くまで続いた宴をお開きにし、自室でクラシックをかけるスターリン。
無理を言って録音させたレコードに、ピアニストのマリヤ(オルガ・キュリレンコ)からの「その死を祈り、神の赦しを願う、暴君よ」と書かれた手紙が入っていた。
それを読んでも余裕で笑っていたスターリンは次の瞬間、顔をゆがめて倒れ込む。
お茶を運んできたメイドが、意識不明のスターリンを発見し、すぐに側近たちが呼ばれる。
驚きながらも「代理は私が務める」と、すかさず宣言するマレンコフ。
側近たちで医者を呼ぼうと協議するが、有能な者はすべてスターリンの毒殺を企てた罪で獄中か、死刑に処されていた。
仕方なく集めたヤブ医者たちが、駆け付けたスターリンの娘スヴェトラーナ(アンドレア・ライズブロー)に、スターリンは脳出血で回復は難しいと診断を下す。
その後、スターリンはほんの数分間だけ意識を取り戻すが、後継者を指名することなく、間もなく息を引き取る。
この混乱に乗じて、側近たちは最高権力の座を狙い、互いを出し抜く卑劣な駆け引きを始める。
表向きは厳粛な国葬の準備を進めながら、マレンコフ、フルシチョフ、ベリヤに加え、各大臣、ソビエト軍の最高司令官ジューコフまでもが参戦。
進行する陰謀と罠――果たして、絶対権力のイスに座るのは誰?!(HPより抜粋)
監督
今作を手がけたのはアーマンド・イアヌッチ。
すいません、名前もはじめて知りました・・・。
やっぱり今作のような政治を扱う作品を多く手がけてるのだと思いますが、今回の映画が原因でプーチンに消されるとかないよな・・・。
というわけで監督作品を調べてみました。
スコットランド出身ということもあり、基本は国内映画が中心のようで、ロンドンの地下鉄を舞台に異なる9つのオムニバス映画をまとめた「チューブ・テイルズ」で監督をしています。
他に、アメリカとイギリス両国が中東への軍事介入を始めるまでの経緯を官僚達中心に描いた風刺コメディ「In The Loop(原題)」でアカデミー賞脚色賞にノミネートしています。
それ以外ではTVドラマがほとんど。
英国の高級官僚の実態をリアルにそしてシニカルに描いたポリティカルコメディドラマ「官僚天国~今日もツジツマ合わせます~」や、アメリカ女性副大統領の悪戦苦闘を描いた「Veep/ヴィープ」では企画と製作総指揮で携わっています。
キャスト
中央委員会第一書記フルシチョフを演じるのはスティーヴ・ブシェミ。
いやぁ・・・いくら役作りだからとはいえ、ブシェミさんこんなに老けましたかぁ。
最近はお目にかかることがあまりなくなってきましたが、80年代から90年代にかけてあらゆる作品で存在感を出してきたお方。
それこそタランティーノ(「レザボア・ドッグス」、「パルプ・フィクション」etc)やコーエン兄弟(「ファーゴ」、「バートン・フィンク」、「ビッグ・リボウスキ」etc)の作品はよく出演してましたよね。
「コン・エアー」にも出てたな。
あと忘れちゃいけない「アルマゲドン」ね。
掘削員の一人だったな確か。
久々に彼を観るのが楽しみですね。
登場人物多いんで他のキャストはざっくりこんな感じ。
NKVD警備隊最高責任者ペリヤ役に、シェイクスピア俳優として知られる舞台俳優サイモン・ラッセル・ビール。
スターリンの補佐役マレンコフ役に、「メリーに首ったけ」、「ハングオーバー」シリーズのジェフリー・タンバー。
外務大臣モロトフ役に、モンティパイソンの創設メンバー、マイケル・ペイリン。
貿易大臣ミコヤン役に、「ハリーポッターとアズガバンの囚人」、「アリス・イン・ワンダーランド」のポール・ホワイトハウス。
ソビエト軍最高司令官ジューコフ役に、「ハリーポッター」シリーズでルシウス・マルフォイを演じた、ジェイソン・アイザックス。
スターリンの娘スヴェトラーナ役に、「ノクターナル・アニマルズ」、「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」の主演が記憶に新しい、アンドレア・ライズブロー。
スターリンの息子ワシーリー役に、「プライドと偏見」のルパート・フレンド。
ピアニストのマリヤ役に、「007/慰めの報酬」、「オブリビオン」のオルガ・キュリレンコ。
連邦共産党書記長スターリン役に、舞台やTVで活躍するアドリアン・マクローリン。
労働大臣カガノーヴィチ役に、TVドラマ「刑事ジョン・ルーサー」、「鑑定士と顔のない依頼人」のダーモット・クロウリー。
国防大臣プルガーニン役に、「ノッティングヒルの恋人」、「ハッピーボイスキラー」に出演していたポール・チャヒディなどが出演します。
悲劇とコメディは紙一重なんて聞きますが、喜劇と恐怖も紙一重って思ってしまいそうなブラックコメディになってる気がします。
なんというかソ連だけでなく、他の国とかもしかしたら会社でもこんなことありそうですよね。
果たして。
ここから観賞後の感想です!!!
感想
その空いた席は俺が座る!
絶対的権力欲しさにあの手この手で出し抜く小者たちのしょーもない争い!
大爆笑!・・・とまではいかないが、要所要所で小美味よく笑わせてくれるブラコメでした。
以下、核心に触れずネタバレします。
フフッと笑えるユーモア描写
長きに渡り自分に反するものは処刑!と大粛清を行い恐怖政治で支配してきたスターリン。
彼が亡くなったことで空席を狙うべく、側近たちがあの手この手で画策していく姿を、一歩間違えれば即死という恐怖を下地に敷きながら、欲のために手段を択ばない人間の醜さを滑稽に描いたブラックコメディでございました。
ロシアやソ連の歴史、何もわからない状態で見るのはさすがにきついぞ、ということでサラッと歴史に関する情報をインプットしてしていったおかげで、大まかにではありますが全容をつかみながら鑑賞することができました。
スターリンの死後、誰が代わりに司令官になったのかというとフルシチョフなんですね。
だから彼の視点で見ると物語が分かりやすいのかと思います。
そして彼に対抗するのがぺリヤなので、スターリンのポストを狙うのはこの二人の争いだと。
で、残りの官僚たちはどっちにつくか、みたいな構図で物語は進みます。
歴史に疎い人でもこれだけ抑えていれば、あとは彼らのおかしな行動に集中できるのではないでしょうか。
スターリンを取り巻く連中による後継者争いって、本当なら事前にスターリンが決めておけばよかったんだけど、それをしていなかったために誰がその席に座るかってことで醜い争いが勃発。
どれだけ周りを固めて自分の立場を有利な方向へ持っていくかというのを、相手の弱みだったり恩を売ったりして力を強めていくわけです。
まぁ今の日本でも色々あるんでしょうし、戦国時代なんかでもよくある光景で。
もっと言えばどこの国でもあるだろうと。
そういう駆け引きとかが面白かった「帝一の國」を思い出すかのようなコメディだったなと。
まぁそれとは比べ物にならないほどブラックだったわけですが。
ただ何がブラックてのはぶっちゃけよくわかってなくてw
死んだ人を弔わなきゃいけない、リーダー不在による国民の不安を取り除くのが最優先事項なのに、取り巻きたちそんなの無視してテメェの保身と地位への欲求、邪魔者の足を引っ張る行為がまさにブラックなんだとは思うんですけどね。
彼らのそういう一挙手一投足がこの映画の面白いところで、今まで散々スターリンの前でご機嫌伺いや完全イエスマンだったのが、いざ危篤になったら永遠に寝てろ!とか、うわ!ションベンくせえ!とかコロッと態度を変える姿で笑えるし、重体なのにもかかわらず、みんなで医者を呼ぶかそのままにしておくか決めようとのんきなこと言ってる姿がこれまた痛快。
しかも優秀な医者は以前スターリンに歯向かった者たちばかりでほとんどが収容所送りにされ、残ってるのがヤブ医者しかいないw
苦肉の策でヤブ医者をかき集め、何とかしろ!と脅しつつも、これはもう死んだなと誰もが思ったその時にヤブ医者たちが力を結集して意識を取り戻した時のペリヤのしまったぁ~~クソ~~!!って態度がまた面白い。
そこからフルシチョフVSペリヤの派閥争いに発展。
スターリンの娘や息子に媚売ったり、スターリンの補佐役であるマレンコフがあまりに空気読めない奴で四苦八苦する姿に、あとからじわじわ笑いがこみ上げる作品ではありました。
笑えるのにどこかシリアス。
冒頭からスターリンがどれだけの影響力を持っているのかというのが分かる入り方。
ラジオの生放送でオーケストラの演奏を聞いていたスターリンは演奏を痛く気に入り、音源今から持ってきて~と直接電話で伝えるんですね。
はいかしこまりました同志!
ラジオディレクターは国を仕切る男に逆らうわけにはいきませんから、仰せのままにと一言返し電話を切るんです。
これ演奏終了後のやりとり。
相方に今の録音したよね?お願いだからうん!て言って!!
いやいやこれ生放送よ?録音なんかしてるわけないじゃ~ん。
オー!ジーザス!!おれ死んだ~っ!!
粛清リストにいれられたぁ~~~!!!
やばいやばいどうしよう、こうしよう!
すいません皆さんもう一度着席して!
もう一回演奏してください!
じゃないと私殺されてしまうんですぅ~~!!
なんで私が暴君のためにもう一度弾かなきゃいけないの!
いやよ!と拒絶するピアニスト。
ディレクターの慌てぶりに自分も命の危険を感じたのか気を悪くし意識を失った指揮者と大混乱。
ピアニストには金を積み、指揮者の代わりを急いで探し何とか再演奏してその場を収めたものの、あまりの遅延に警備隊は「遅れたことも報告しとくよん♬さぁ~てどうなることやらぁ~」と言い残し、不安を煽ったまま立ち去る。
同じ時間帯、スターリンが持つ粛清リストから新たな処刑人たちをリストアップし実行に移すペリヤの仕事ぶりを描くことで、どれだけスターリンという男が恐れられているかというのを見せるんですね。
ペリヤが仕切っている警備隊がスターリンの別荘を去る際に、彼の死を漏らさないために全員殺す、もしくは収容所へ送るというのも非常に怖ったですね。
これじゃあペリヤがトップになっても何も変わらねえぞと思わせるシーンだったなと。
だからこの恐怖と不安で渦巻く空気を、取り巻き連中がどう笑いでかき消してくれるのだろうと序盤から期待して見ていたんですが、中々晴れようとはしない流れになっていて。
1個1個の笑い処は確かに面白いです。
だからといって物語が明るい方向へ向かうわけではなく、淡々とペリヤの裏工作だったり、自分の思い通りにいかないフルシチョフの苦しい展開が描かれ、彼がどうやって打破するかという至って真面目な内容になっていました。
ペリヤという男がホントに早い段階で動いていて、危篤状態のスターリンの部屋にいち早く入り、粛清リストからモロトフの奥さんの名前を抜いて、それを貸しにして彼から票をもらおうとするところとか、警備隊を仕切っているからソビエト軍を追い出して自分に何かあったらすぐ対処できるようにスタンバイしておくところとか、委員会でも重要なポストを兼任できるようにマレンコフを使って有利な状態に持っていくところとか、ピアニストが書いた手紙がスターリンへの冒涜で、そのピアニストがフルシチョフの姪のピアノの先生ってことで弱みを握ったりとか、こいつなかなかやるなぁと。
そんなペリヤとは対照的にフルシチョフは自分と同じ考えを持つ仲間がいるにもかかわらず、中々有利な場に持っていけない。
葬式を仕切るという面倒なポストを与えられたり、鉄道を管理しているのはずなのに、ペリヤの強権によって勝手に仕切られてたり、粛清によって捕まった人たちを解放しようという案を考えていたのに、国民からの支持を得ようと画策するペリヤに奪われたりと、どれだけこいつはついてねえんだ、計算弱いんだ、ヘタレなんだと。
で、これだけ不利な状況からペリヤにどうやって一泡吹かせるかってのが後半の肝なんですが、ワクワクするような逆転劇でなく、そんな簡単に逆転しちゃうの?てか結構強引でないかい?と思ってしまい拍子抜けしてしまいました。
もしかしたら史実通りなのかもしれないけど、そこはもうちょっと脚色してエンタメに持っていくこともできたのに、とは思うんですが、監督の意図はそうでなかったんでしょう。
その結末に僕が頷けなかったというだけの事です。
最後に
当時の権力争いの顛末を、クソまじめに描きながらもバカバカしいやり取りで軽妙にみせる反面、それでもこいつらのやってることめちゃめちゃ怖いんですけど!という二つの視点で物語った政治コメディでありました。
半ば独裁的で強硬的な政治のやり方が今世界中で物議をかもしているし、ぶっちゃけ日本だって遅かれ早かれそうなってしまうんじゃないか、と思ってしまう節があるわけですが、今作を見ると、これは昔の話じゃねえぞともとれる不気味さを孕んでいたように思えます。
笑っていられるのも今のうち、ってことですかね。
とまぁ難しいこと言ってしまいましたが、映画的には概ね満足した個所はあったものの、物足りなさの残る作品だったかなというのが僕の感想です。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10