湯を沸かすほどの熱い愛
映画解説者の中井圭さんがとにかくゴリ推しだったこの作品。
彼が面白い!とか、ヒットする!今年のベストに入る!
とかいう作品は条件反射で観たいという欲望が高まり、いざ鑑賞すれば自分もベストに入れてしまうほど期待通りの良作で。
だから私も期待しているんですよこの作品。
どれだけあっちい愛が散りばめられているのか、それに対してどれだけ胸が熱くなるのか。
これ監督の商業映画一発目ですよ?
それでこの豪華キャスト。
高まるぅ〜!!
今回「東京国際映画祭」にて監督のトークショー付ということで、初めてのTIFFにて観に行って参りました!
あらすじ
銭湯「 幸 さち の湯」を営む幸野家。しかし、父が1年前にふらっと出奔し、銭湯は休業状態。母・双葉(宮沢りえ)は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら、娘を育てていた。
そんなある日、突然、「余命わずか」という宣告を受ける。その日から彼女は、「絶対にやっておくべきこと」を決め、実行していく。
○家出した夫を連れ帰り家業の銭湯を再開させる○気が優しすぎる娘を独り立ちさせる
○娘をある人に会わせる
その母の行動は、家族からすべての秘密を取り払うことになり、彼らはぶつかり合いながらもより強い絆で結びついていく。そして家族は、究極の愛を込めて母を 葬 おく ることを決意する。(HPより抜粋)
監督・キャスト
冒頭にも書きましたがこれが商業映画1作目となる中野量太監督。
当時レンタルビデオ屋に勤めていた頃、現在も自主映画を中心に俳優をやっている同僚がこの監督の作品をゴリ推ししていました。それが「チチを撮りに」という作品で。
基本彼が好む作品と自分が好む作品が180度違うため一緒に映画館に作品を見に行っても評価は真っ二つ。
なのに「ドラゴンボール」を見に行ったときは懐かしさでこみ上げた興奮からなのか、「今まで見てきた中で3本のうちに入る傑作だ!」と豪語してたのを覚えてますww
いや決してドラゴンボールがつまらないといってるわけではなくて、こいつどうかしてるなぁ、と。
そんなつかめない奴が薦めた映画の監督していた人ということもあり、今作は気になっていました。
結果「チチを撮りに」は観てないんですけどもww、
監督の出世作ということで簡単な紹介を。
母に頼まれ死期の近い離婚した父に会いに向かう姉妹の戸惑いと家族の絆を、笑いあり涙ありで綴ったコメディドラマだそうです。出演者には「愛のむき出し」「ヒミズ」の渡辺真起子や、「SCOOP!」での好演が記憶に新しい滝藤賢一も出演しています。
元々は自主映画として製作していたそうなんですが、第9回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティアワードと日本人初の監督賞を受賞、同映画祭のプロジェクトによって劇場公開までこぎつけたようで、これをきっかけに数々の海外の映画祭でも上映されるまでになりました。
今作でも死を意識した家族ドラマという共通点があるので、監督の作風が覗けるという意味でも観ておいて損はないかと。もっとも私が観てないのが問題かww
そして今作の主演であり、余命2ヶ月の母幸野双葉を演じる宮沢りえ。
世代的には宮沢りえっつたら「とんねるずのみなおか」とか「ぼくらの七日間戦争」とかサンタフェとか貴乃花と婚約とか激ヤセとかっていうワードしかでてこないという乏しい情報しか持ち合わせておりません。
彼女の言葉を借りるならばぶっとび~!!ですw
その後をよく知らない残念な男でございます。
もちろん舞台を中心に活躍されたり、ちょこちょこ映画にも出ていたようですが完全スルーでしたねぇ・・・。
とりあえず映画での彼女を活躍をまとめてみますと20代からは完全に役者としての人生を歩んでいるようです。
ターニングポイントとなったのは山田洋次監督の時代劇で、幕末に生きた名もない武士とその家族を描いた「たそがれ清兵衛」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞、戦後一人生き残ったことに公開する娘と幽霊として彼女を後押しする父の4日間を描いたヒューマンドラマ「父と暮らせば」でブルーリボン賞主演女優賞を受賞するなど着実女優人生のキャリアを積んでいます。
最近では、吉田大八監督の作品で、平凡な主婦が若い男性との不倫にのめり込み勤務先の銀行で横領していくことで欲望が暴走していくさまを描いた「紙の月」で国内の映画賞を総ナメにし、今年はディズニー映画「ジャングルブック」の吹き替えや、「TOO YOUNG TO DIE 若くして死ぬ」にも出演していました。
娘の幸野安澄を演じるのは「とにかくバクバクうまそうにホイコーローを食べる女!!」杉咲花。
今作では学校でいじめられウジウジしている様子。
私が見た彼女の出演作品やぐっさんと中華料理を食い争う挑発的な感じからは今回の役どころがあまり想像できないですが、宮沢りえとの母娘をどう演じるか楽しみでございます。
さて子役からずっと芸能界で演技をしてきた彼女だそうですが、どんな作品に出ていたのか。
ベテランのスーツアクターが命を賭けた一世一代の大アクションに挑む「インザヒーロー」で主演の唐沢寿明演じる本城渉の娘役として出演、余命3ヶ月のフリーター青年が、偶然であった女子高生と最後の夏を過ごす「トイレのピエタ」でRADWIMPSのボーカル野田洋次郎と共演、妻の死の真相を追う公安部の警察官の最後の姿を、迫力あるスケールで描いた「劇場版 MOZU」では香川照之演じる私立探偵大杉の娘役として大俳優相手に負けない演技の掛け合いを披露していました。
こちらもどうぞ。
他にも、出奔した父幸野一浩役をオダギリジョー、謎の青年向井拓海役を松坂桃李という元仮面ライダーと元スーパー戦隊という特撮出身の2人が脇を固めます。
どんな紹介だww
というわけで今後大いに期待されている中野監督の商業映画第1作目はどんな作品になっているのか!?誰も予想できないとされるラストにどんな感動とドラマが待っているのか。
それでは鑑賞後の感想です!!!
熱い!あちぃよ!!火照りっぱなしだ!!!涙なしでは観ることのできないお母ちゃんの最期を見届けろ!!!!
以下、核心に触れずネタバレします。
泣かせるだけじゃないんだぜ!
まずは率直な感想を。
すごい。
すごいよ。
何がすごいって新人監督が1発目でオリジナル作品でこの満足度。
どうりで業界がザワつくわけです。
どうりで豪華キャストが出演OKするワケです。
この後あれこれ書いちゃうけど、これ観て何となくわかっちゃったから観ないとか絶対もったいないから。
今回ばかりは言い切っちゃうね。
映画館で観ないと損するよ!
泣き笑いをみんなで味わっちゃいなよ!
感動を共有しちゃいなよ!
余命幾ばくもない母が病と闘うという病気モノとしてでなく、残り僅かな命だからこそ残される家族に惜しみなく愛情を注ぐ大きな愛に泣けてしまうヒューマンドラマでした。
「湯気のごとく、店主が蒸発しました。当分の間、お湯は沸きません」
冒頭からかますこのユーモアと、涙なしでは観られないいくつかのエピソードで徐々に体温を上げさせてくれるこの映画は、宣伝で連発している「泣ける」だけの話ではない、泣かせた後に笑わせてくれる、ほっこりさせてくれる映画でした。
だから主人公が死ぬとわかってるのにちっとも悲しくない。
しかもありとあらゆる所に伏線をはっていることで、徐々に明かされていく秘密の数々にハッとされ、気づけばお母ちゃんという存在がどんどん大きくなっていく。
そんなお母ちゃんに叱咤激励され、逞しくなっていく家族。
見ているうちに死んでほしくない、死なせたくないという気持ちも観てる側は芽生えるんだけど、家族がお母ちゃんとの別れを受け入れてどう見送るか、で、あのラストシーン!!はい!タイトルどーーーん!!
ぐわあああぁぁぁっ!!!(涙)
急にざっくり書いちゃいましたが、私はとにかくラストシーンが気に入りました。
なぜ「湯を沸かすほどの熱い愛」なのか、確かに銭湯が舞台の話なんだからとは思うんだろうけどさ!
そうじゃないんだよ!!
とにかく真っ赤な熱い愛が家族に注がれるんだよ!!
すげえいいぜ!!ホント観てるこっちも熱い愛を感じたぜ!!
火照って火照って仕方なかったさ!
お母ちゃんを筆頭に登場人物がきちんと描かれていたのも良かった。
弱さを決して見せないお母ちゃん、優しすぎるのがたまにキズのお父ちゃん、その血を受け継いだせいで立ち向かう勇気がない安澄、孤独を抱えたままの鮎子、どこへ向かったらいいかわからないヒッチハイカーの拓海、妻を亡くし娘に真実を明かさない探偵。
一人一人が抱えているものを丁寧に解決し進んでいくことで絆が深まっていき、その絆をステキなカタチでお母ちゃんへ捧げるクライマックスは涙なしではみられない。
そんないくつもの泣かせるエピソードを泣かせたままで終わらせない工夫も見事でした。
必ずといっていいほどことの終わりに一言添えたり、ひとつ動作を入れることで、湿っぽくさせないし観てるこっちは鼻をすすりながらククッと泣きながら笑わせてくれる、そんな演出が見事でした。
特に笑ったのは蒸発した夫を見つけだし、会って早々カレーを作っていた夫が持っていたおたまを取り上げ、頭を殴るシーン。
すくう方でなく持つ方で殴るとねー血が出るんですねーw
流石にやりすぎだと思ったのか、ポタポタ垂れていく血をおたまですくうというww
こんなユーモアが所々あるからお母ちゃんの言葉が説教くさく感じない、
よくある御涙頂戴ストーリーにならない、音楽で助長させない、だから飽きない、もう一度見ても損はない、そんな気分にさせてくれます。
監督ってもしかして照れ屋なのか?
「永い言い訳」でも描かれていましたが、核家族という形態から多種多様な新しい家族のカタチ、新しいコミュニティができていく現代で、余命わずかな母をきっかけに、人が人を想うという絆で結ばれた家族の物語だったと思います。
役者陣が素晴らしい!
華奢な体で精一杯娘に夫に連れ子にヒッチハイカーにぶつかっていくお母ちゃんを演じた宮沢りえにまたしても当たり役がひとつ増えた印象です。
徐々に病に蝕まれていく体、こけていく頰、愛くるしい笑顔、真剣な眼差し、家族を仕切るといった女義溢れるお母ちゃん。
これを見事に体現していたように思えます。
登校拒否しかける娘に「逃げちゃダメ!」と叱り、連れ子の家出に罰を与えた後の抱擁、消えた夫の家を突き止め頭を取り上げ、おたまのほうでなく取手でひっぱたく加減の無さ、大事な話の時には目を逸らさず語りかける場面などなどどこを切ってもお母ちゃんでした。
これに匹敵するくらいインパクトを残した杉咲花も素晴らしかった!
あれ?この子こんなにか弱い憂いを帯びた顔できんの?ってくらいおどおどしたり、泣きじゃくったり、それを堪えるギリギリの我慢の笑顔だったり、感受性豊かでとにかくいい顔してます!
体を張った演技も良かった。
その行動の直前の武者震いも気持ち入れるの難しかったろうなぁ。
そしてお父ちゃんを演じたオダギリジョー!今回の笑わせ役です。
妙にカッコいい銭湯の店主はやはり素行が悪かったw常にヘラヘラ、常にフラフラ。でもお母ちゃんを誰よりも思ってる。
頭悪いし子供達にちゃんと教育もできないし軽く煙たがられる存在をちゃんと演じてくれていました。
そんなお父ちゃんが妻に捧げる最期のプレゼント!!
あれはズルい!!
「俺が土台になって家族を支えるから!」
振り絞って叫ぶお父ちゃんの心意気がカッコいい!!
他にもオーデイションで勝ち取ったというお父ちゃんの連れ子の鮎子を演じた子役の女の子もうまかった!
最初こそ無口で悲しげな表情をしていたのに、食卓で思いっきり泣いて打ち解けた後はころっとカニ!カニ!とご満悦、と、振り幅が大きい役どころを見事に演じていたし、ヒッチハイカー役の松坂桃李も自然体でフラットな演技を見せてくれました。
監督曰く車中でのお母ちゃんとのシーンはアフレコだったそうですが、非常に上手かったとトークショーで話してくれました。
見事な伏線の数々
ここからは核心をついてる恐れがありますのでご注意を。
この映画は私の嫌いな説明台詞は極力少なく画で説明してくれるシーンが多かったのも印象的でした。
それを伏線として描いています。
まず冒頭から出てくる洗濯物の娘の下着。
娘にはまだ白い下着で十分だというのがわかるシーンでしたが、いじめられていることで悩む安澄を励まそうと好きな色である水色の下着をプレゼントします。
彼氏はいないの?これはここぞって時、勝負する時に付けなさいと娘に話します。
この下着でとんでもない勝負に出る安澄に是非ご注目下さい!
そしてこの後勝負に勝った娘を抱きしめる母親に「お母ちゃんの遺伝子が少しだけあった」と弱い自分でもお母ちゃんのような強い気持ちがあったと話すのですが、さすがにこれはめっちやネタバレなので伏せますがこれも後々の伏線へと繋がっています。
そんな安澄は帰り道、言葉を話せない女性が手話で通りすがりの女性に話しかけている所に出くわしますが、通りすがりの女性には伝わらず言葉を話せない女性は困惑しています。
そこで何故か理解して助けてあげる安澄。
これも伏線になっていました。
なんかさらっとそのシーンが流れるのでなんとも思わず観ていましたが後半でそこへ繋がるか!と。
他にも、お父ちゃんがお母ちゃんへ欲しいものあるか?と聞いてエジプトに旅行に行きたい、人生で一回くらい違う景色を見たいと懇願するが、さすがにそれは無理と断ってしまうお父ちゃんですが、これもラストに大号泣必至のシーンへとつながります。
毎年送られてくるタカアシガニも伏線でした。
親戚にしては苗字が違うことに小さな疑問を抱きながらも、お礼の手紙を何故か書く羽目になる安澄。
お母ちゃんの言う通り、「定型文でお礼の言葉を送る大人よりも自由に書くことができる子供の方が送った方も喜ぶでしょ?」という言い分に納得したままそのシーンは終わるわけですが、これも大きな伏線になっていたとは。
連れ子の鮎子が実の母親に捨てられた時の回想シーンもまさかの伏線でした。
「ごめんね、鮎子の誕生日には帰ってくるから」と言い残し去っていった母親。
これがまさかの後半でオーバーラップ。
なるほどそういうことだったのか、と。
これまた大きなネタバレになるので伏せます。
監督曰く初回で観るのとそのあと観るのとでより深く入り込めると仰っていましたが、ホントその通りでこの伏線が最初からわかっていることで違う見方ができる作品だと思います。
個人的にはロケ地である栃木県足利市が地元に近いこともあり、見たことのある風景が出てきたのもお気に入りである理由の1つでした。
あの国道沿いに当時働いていた職場の支店があったはずだけど、確実に映しちゃいけない店だから映ってるわけねぇかw
原始女は太陽だったなんて言葉がありますが、正にお母ちゃんは太陽のごとく明るく熱く家族を照らし愛情を注いでいました。
そしてその愛はやがて血よりも濃い赤で、残された家族を結んで行きます。
「天国と地獄」を彷彿させる、煙突から込み上がる赤い煙に思いを馳せながら。
かなりのネタバレ記事になってしまいましたが、たとえそこを知ったとしても見れば必ず泣けて笑えてぽっかぽかになって映画館を後にするでしょう。
これを見れば寒さなどヘッチャラなくらい熱い熱い映画でした。
というわけで以上!あざっした!