ANORA アノーラ
本年度アカデミー賞作品賞、主演女優賞、監督賞、脚本賞、編集賞受賞おめでとうございます!!!
「タンジェリン」や「フロリダ・プロジェクト」、「レッド・ロケット」と正直どうしようもない人たちだけど、性に関する商売や仕事をする人たちに対し、時に厳しく時に優しい眼差しを送る作風のショーン・ベイカー監督の作品です。
ぶっちゃけ「フロリダ・プロジェクト」に関してはあまりの毒親なのと、マジカルエンドとかいう無責任な閉じ方をしてかなり腹が立ったんだけど、レッド・ロケットが中々面白く、しかも今回アカデミー賞最有力ときたもんだから、しゃあねえ付き合ってやるかと(何様)。
かつて娼婦と実業家のシンデレラロマンスを描いた「プリティ・ウーマン」てのがありましたけど、あんなようにはいかねえぞと現実を突き付けてくれるそうなので、主人公の女性の心の叫びをしっかり堪能したいと思います。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
アメリカ社会の「声なき声」をすくいあげ、丁寧にかつユーモラスに描いてきたショーン・ベイカー監督による長編8作目。
自らの幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘する、ロシア系アメリカ人の若きストリップダンサー、アノーラの等身大の生きざまと、身分違いの恋という古典的なシンデレラストーリーを21世紀風にリアルに描きなおし、セックス、美、富というパワーゲームの中で利用されならがも、自らの幸せを求める人間たちへの賛歌を、監督らしいユーモアセンスと真摯な眼差しで描く。
本作でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したショーン・ベイカー監督。
ストーリーを決めるのに15年から20年近く費やしたそうで、それまでアメリカンドリームを追いかけながらも掴むことができない末端の人たちを描いてきた監督が、今回身分違いの恋からどう物語を発展させるのかに注目です。
主人公アノーラを演じるのはマイキー・マディソン。
これまで「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」やリブート版「スクリーム」で端役での出演でしたが、これらを見た監督のお眼鏡にかない大抜擢。
彼女が不満を爆発させるシーンに注目です。
他にも、大富豪の息子イヴァン役に、ロシアのティモシー・シャラメと期待される若手俳優マーク・エイデルシュテイン、「コンパ―メントNo.6」のユーリー・ボリソフ、監督作品常連の俳優カレン・カラグリアン、アルメニアのコメディアン、ヴァチェ・トヴマシアンなどが出演する。
また本作は第97回アカデミー賞において、作品賞はじめ6部門にノミネート。
作品賞最有力の声が上がっている。
決してシンデレラストーリーではないという本作。
彼女は全ての女性の代弁者なのか、それとも。
あらすじ
NYでストリップダンサーをしながら暮らす“アニー”ことアノーラ(マイキー・マディソン)は、職場のクラブでロシア人の御曹司、イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と出会う。
彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5千ドルで“契約彼女”になったアニー。
パーティーにショッピング、贅沢三昧の日々を過ごした二人は休暇の締めくくりにラスベガスの教会で衝動的に結婚!
幸せ絶頂の二人だったが、息子が娼婦と結婚したと噂を聞いたロシアの両親は猛反対。
結婚を阻止すべく、屈強な男たちを息子の邸宅へと送り込む。
ほどなくして、イヴァンの両親がロシアから到着。
空から舞い降りてきた厳しい現実を前に、アニーの物語の第二章が幕を開ける 。(HPより抜粋)
感想
#ANORAアノーラ 観賞。古き良きインディペンデント映画を観た気分。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) February 28, 2025
しれっとオーヴァーラッピング・ダイアローグ入れてるし編集からラストショットからどこかニューシネマっぽい。
オスカーはこれが良いと思う。
アニーに光あれ。 pic.twitter.com/KTkkLKMK0z
プアガールミーツリッチマンからのスクリューボールコメディ、そしてニューシネマな終わり方。
古き良きアメリカ映画を詰めに詰めながら見せる「格差社会」。
ラスト泣けるし、彼女に「光あれ」。
以下、ネタバレします。
怒涛の139分。
ロシア語が話せるエスコート嬢が故郷に帰りたくないロシアの大富豪の息子と勢いで結婚するというプリティウーマンやマイフェアレディ級のハッピーエンドな物語かと思ったら、やっぱり両親はふざけんな!ってことでアノーラの人生急上昇からの急転直下なジェットコースタームービー。
いやぁ~素晴らしかった。
ショーン・ベイカーを一度見捨てた身なので複雑な気持ちではあるが、パルムドールを受賞する意義はあった。
EDMをバックに男性にまたがって裸で踊るマイキー・マディソンを青と赤のコントラスト配色で映し出す冒頭がまず最高。
エキゾチックに楽しそうに踊る姿を見てうっとりしていたらすぐさまカットして電子タバコをふかしてターゲットを探すアノーラの姿という潔い切り替え。
そう彼女にとってこれはジョブでしかないぞという注意喚起とも取れるシーンから、同僚との不和や飯を食う暇もないほど多忙を極めるストリッパーたちの姿をドキュメンタリータッチで描く。
それと同様に鼻の下を伸ばしまくる男たちのまぁ~情けない姿よ。
俺は風俗に行きたい気持ちが全くない分、同性だけど結構軽蔑して見てたよw
前半はシンデレラストーリーを思わせるかのようにとんとん拍子でアニーとイヴァンが急速に距離を縮めていく描写がテンポよく進む。
一目で彼女を気に入ったイヴァンが店の仕事とは別にアニーを自宅に呼び出し、セックスに更ける。
なぜそこまでしてアニーに入れ込むのか正直わからないが、アニーはイヴァンのハートを見事に掌握しながら日当よりも高く稼ぐ仕事っぷりを見せる。
イヴァンのアニーに対する依存ぶりはエスカレートし、今度は1週間1万5000ドルでアニーを買うという羽振りの良さ。
カウントダウンパーティーやコニーアイランドでの集団デート、果てはラスベガスのホテルの高級スイートを予約なしで貸し切り、カジノに酒にパーティーにセックスと富豪三昧を満喫していく。
1週間という契約もあとわずか。
そんな時にイヴァンから「ロシアに帰りたくない」という愚痴を聞かされるアニー。
どうもイヴァンは親の仕事をしなくてはならないためにアメリカに留まりたいと呟く。
アメリカの女性と結婚してしまえば変える必要もないという話から、一気に結婚するという話に。
僕は正直金銭的な契約関係からしっかり恋愛に発展するような話を想像していたが、単純に今の世界から抜け出したいアニーと、アメリカに留まりたいイヴァンという利害関係の一致という程度のノリでの結婚という部分に、少々戸惑いを感じた。
というのも、この先勝手に離婚をされそうになるのを阻止するためにアニーが騒ぎまくる展開だってわかっていたので、ただ単純に金持ちから元に戻されるのが嫌だという理由だけでないて以降なんだろうと予測していたから。
別に決して恋愛関係で結婚するってわけでもないからいいんだけど、どうしてもその時は戸惑ったんですよ。多分俺の結婚対する意識が固まってるからなんだろなぁ。
バカ息子イヴァン
とりあえずその辺は置いといて、晴れてラスベガスで結婚してイヴァンとの豪遊三昧暮らしが始まるかと思ったら、事態は急転していくってのが本作の肝。
中盤はスクリューボールコメディの装いで、とにかくアニーが暴れまくる。
イヴァンの世話係と手下相手に、蹴るわ騒ぐわのオンパレードですよ。
勝手に外に飛び出し逃亡するイヴァンを追いかけようとするけど、手下のイゴールがそれを阻止。
蝋燭台を手に取って壁画めがけてブン投げるから、イゴールは何とか避けて彼女を捕まえようとするけど、それでも周りの置物を蹴散らかす暴れん坊アニー。
電話コードで手を縛って羽交い絞めにするけど、あとから戻ってきた別の手下は唖然。
話してあげようと近づくも、アニーは思いっきり彼を蹴り飛ばしてテーブルも破壊。
彼は鼻の骨を折ってしまうほどの怪我をしてしまい、到着した世話係の怒涛の罵倒にアニーはついにブチ切れて「レ~~~~~~~イプ!!」と喚き散らすではありませんか。
もうこの件は最高です。
とにかくFワードが飛び交う飛び交う。一応これオスカー候補作ですよ。
こんなにファックって言っていいのかというほど飛び交う。
しかもアニーだけが不満をまくしたてるのではなく、世話係が脅すかのように離婚、いや結婚無効を遂行してやると怒鳴るわけです。
普通の女性ならあそこまで言われたら慄くんだと思うけど、アニーはそれだけでは決して屈しない強さが滲み出ており、それが笑いへと昇華していくシーンでした。
物語は行方不明となったイヴァンを探すために、世話係の車に乗って手下と共に探す旅へ。
友人が働くジェリービーンズ屋さんに行ったりレストランに行ったり、車をレッカー移動にされそうになったりと珍道中が繰り広げられる中、結局イヴァンはアニーが働いていたお店に出没。
仲の悪い同僚がイヴァンを捕まえてエスコートしていたせいで、彼女と取っ組み合いのけんかになるほどの荒々しい描写が続きます。
本作ではとにかくロシアの富豪家族がバカを極めていて見てられない。
イヴァンは妻を置いて逃亡し、酩酊状態で店を転々とし、とにかく今の状況から逃げ出したい一心であると共に、自分ではどうしようもないことにも直面してる様子。
だから酒を浴びるしかなかったんでしょうね。
両親が到着してもその態度は変わらず、親に泣きながら訴えるし、終いにはこんな大騒動に巻き込んでしまったアニーへの謝罪もない。
最高のクズです。
もっとクズなのは両親。
アニーを娼婦呼ばわりし、妻とも認めない。
飛行機に乗ることを拒否し、離婚申請の前に弁護士を立てて徹底的に戦う態度をとっても、そんなことしたらあなたの人生は終わる、家族も友人も仕事さえもできなくなる、裁判を長引かせて一文無しにしてやるなどと権力で潰す意味にも聞こえる反論で脅します。
アニーが来ていた服も全てイヴァンの母親のものだったので、はぎとるように脱ぎ捨て投げて返すアニーに対しても、決して怯むことなく罵詈雑言で返すイヴァンママ。
親父も親父でアニーがいちいち言う言葉に爆笑してしまうというどうしようもなさ。
一体金持ちの品格って何なんでしょうねと思いたくなるシーンでした。
最後に
なぜ彼女は自分の事をアノーラではなくアニーと呼ばせるのか。
それは多分にミュージカル「アニー」の如く夢見る女性でありたいための呼称なのかと。
いつか王子様がやってきて自分を拾ってくれるというかつてのディズニープリンセスに憧れる女性は多々要るけど、現実ってこういうことだよってのを厳しく描くのが本作。
底辺なんか相手にしてくれないんですよ、だけどもそんな扱いまでされるのかっていう悔しさが終盤溢れてきます。
そんな不当な扱いを受けるアニーの横で真っすぐに見つめる男がイゴール。
彼のキャラクター大好きでしたね。
アニーから男色野郎とかボロカス言われてるのに、彼はイヴァンに謝罪すべきだとか、大丈夫か?とか、終いには世話係に強引に没収された指輪をくすねて彼女に返すほど、彼女の事を気にかけている存在。
ラストシーンはアニーのせめてもの恩返しだったんでしょう。
受け入れようとするイゴールを前になぜか拒絶するアノーラ。
泣き崩れる彼女に僕は思わず「光あれ」という言葉が浮かびました。
アノーラとは光という意味らしいですね。劇中でイゴールが調べていました。
はっきり言って、なぜあれで終わるのかはよく分かっていません。
きっと自分を偽っていたことをあそこで初めて気づかされた、もしくは気づいた、あるいは、性を売ることでしか対象に向き合えない自分の愚かさ、そんなあたりでしょうか。
とはいえ最後までアノーラは涙を浮かべずに戦ったんですよ。
そして負けた、というか現実に気付いた。
無音のエンドロールがまた堪らなくて、なんだかこの苦い後味が僕が大好きなアメリカンニューシネマにも思えて仕方なかった。
さらば冬のかもめを見た時に近い、なんとも言えないほろ苦さが詰まった映画でしたね。
尺が長めの作品でしたし、中盤以降は結構ダラダラな感じがするんですけど、監督の映像に対する美的センスといいますか腕が良かったので、結構時間を忘れて見れましたね自分は。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10