モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「ベルファスト」感想ネタバレあり解説 恐ろしいこともあったけど毎日が輝いていました。

ベルファスト

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北アイルランド問題をご存じでしょうか。

キリスト教の最大教派であるローマ・カトリック教会に反旗を翻し生まれた「プロテスタント」との宗教の違いによる紛争のことです。

 

その昔、アイルランドをイギリス領にするために、カトリック教徒の多かったアイルランドにプロテスタント教徒が入植、次第にカトリック教徒を上回るほどに。

そしてアイルランドがイギリスから独立した際、宗教と立場の違いから北アイルランドはイギリス領に留まりました。

 

しかし1960年代、人口の3分の2に達するプロテスタント系住民とカトリック系住民との間に対立が勃発。

軍や警察が介入するまで泥沼化し、死者3500人を出してしまうほどの「紛争」に発展してしまいました。

 

1998年には「ベルファスト合意」が結ばれたことで30年間に渡った内紛は決着。

イギリスかアイルランドかどちらに帰属するかにおいても選択の自由が与えられたそうです。

 

本作は、北アイルランドの首都「ベルファスト」の激動の時代を背景に、幼少期を過ごした映画監督の自伝的映画。

この紛争が少年にどんな影響を及ぼしたのでしょうか。

恐らく戦争映画の類ではないと思いますが、この歴史を頭に入れて臨もうと思います。

早速観賞してまいりました!

 

 

作品情報

俳優として映画監督として、そして舞台監督としてあらゆる才能で世間を魅了するケネス・ブラナーが、出身地である北アイルランドの首都ベルファストで過ごした幼少期を投影した自伝的作品。

 

1969年のベルファストを舞台に、宗教間紛争が激化することで、それまでの完璧な世界が一変、故郷に留まるか離れるかの決断を迫られていく少年の姿を、彼の視点でモノクロ映像で描く。

 

抗うことのできない時代の変化に戸惑いながらも、決してうつむくことなくユーモアと笑顔で前へ進もうとする家族の姿を、ノスタルジックに見せながらも普遍的な想いにさせる本作は、ブラナー自身が見てきた景色であり街に留まった者、または去っていった者、そして紛争によって命を犠牲にした人たちへリスペクトをしたかのような物語になっている。

 

さらにはアイルランド出身の俳優陣が本作に圧倒的なリアリティを生み出している。

本当の家族そのものに思え、気が付けば彼らの行く末に身を乗り出して見守りたくなるほどだ。

 

また本作は第94回アカデミー賞作品賞を始め7部門にノミネート。

ブラナー初の受賞に期待がかかっている。

 

コロナ禍で見えない明日に脅える私たちに、そっと背中を押してくれるような人生賛歌でありながら、今も尚続く「分断」の中でどう生き抜くかのヒントを教えてくれる作品です。

 

あらすじ

 

ベルファストで生まれ育ったバディ(ジュード・ヒル)は家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごす9歳の少年。

たくさんの笑顔と愛に包まれる日常は彼にとって完璧な世界だった。

 

しかし、1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。

プロテスタントの暴徒が、街のカトリック住民への攻撃を始めたのだ。

 

住民すべてが顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。

 

暴力と隣り合わせの日々のなか、バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断に迫られる――。(HPより抜粋)

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監督

本作を手掛けるのは、ケネス・ブラナー。

 

ヘンリー5世」、「ハムレット」、「シンデレラ」、「マイティ・ソー」、そして名探偵エルキュール・ポアロシリーズである「オリエント急行殺人事件」や「ナイル殺人事件」など、ヒット作を立て続けに連発している監督。

 

これまでアカデミー賞で何度もノミネートしていますが、受賞は逃しております。

本作は、作品賞を受賞するうえで一番重要とされるトロント国際映画祭で観客賞を受賞しており、今回最有力の噂もあるほど。

 

普段は出演もするブラナーですが、今回は監督と脚本、製作として参加。

極めてパーソナルな作品にもかかわらず、ここまで評価が高い要因は、やはり誰しも持っている「故郷」の物語だからでしょうし、今も尚生まれてしまう「分断」を背景にしているからでしょう。

 

モンキー的には監督作品は正直苦手なのですが、出演してないのなら大丈夫、かな?w

一体どんな物語を作られたのか、楽しみですね。

 

登場人物紹介

  • 母さん(カトリーナ・バルフ)・・・バディと兄ウィルの母親だ。彼女はベルファトの労働者階級に属する母親で、よく笑い、すぐカッとなる、愛情あふれる妻。夫に腹を立てた時には皿を1、2枚投げつけることさえためらわない。子煩悩で、自分を支えてくれる親戚や友達が住む地元のことを愛している。派手ではないけれど、周囲とは一線を画す魅力があって、贅沢はできないし流行品もなかなか手に入らないけれど、シンプルでカジュアルだがすてきな着こなしをしていた。

 

  • ばあちゃん(ジュディ・デンチ)・・・バディの祖母で、父さんの母親だ。彼女はバディの世話としつけにおいて重要な役割を担う人物だ。バディは毎日学校が終わると祖父母の家に行き、女の子にまつわる悩みや両親に関する心配事を打ち明ける。ロマンチストな祖父とは反対に、彼女のアドバイスは辛辣だが、知恵にあふれていた。家で主導権を握る現実主義の彼女は、たくましく快活な女性だ。

 

  • 父さん(ジェイミー・ドーナン)・・・バディの父親で建具工をしている。税金のことでちょっとしたトラブルを起こした後、給料が格段にいいイギリスで職を探すことになった。1~2週間に1度、愛する家族の元に戻ると、たちまち2人の息子を持つ子煩悩な父親へと変身し、時間を作っては子供たちと遊び、学校へ送り出し、家族を映画館に連れて行った。近くに住む両親“じいちゃんとばあちゃん”のことも愛していた。ベルファストを襲う危険を正確に理解しているのは父さんだけで、たびたび家を空ける彼は家族の身を案じている。何としてでも家族を守らなくてはと感じていた。

 

  • じいちゃん(キアラン・ハインズ)・・・バディの祖父で、父さんの父親。根っからの‘ベルファストの男’だ。チャーミングでロマンチストな彼は、優しくて穏やかな性格だ。物静かだが皮肉っぽいユーモアがあって、ばあちゃんのことを一目見た時からずっと愛してきた。大好きな孫のバディには、算数のテストでズルを勧めるなど道徳的に疑わしいアドバイスをする。息子と同じように、若い頃はよりよい給料を求めてイギリスで働いていた。炭鉱員だった彼の肺は現在、病に侵されているが、家族と地域の人に愛されながら暮らしている。

 

  • バディ(ジュード・ヒル)・・・兄を持つ9歳の少年だ。両親と祖父母のことが大好きで、ある出来事が起きるまでは完璧といっていい人生を送っていた。近所の誰もが彼のことを知っていて、街は彼にとって安全な遊び場だった。イギリスから父親が持ち帰ってくるミニカーを集め、テレビや地元の映画館で大好きな映画を観るのが家族とのお決まりの行事だった。欲を言うとすれば、チョコレートの量を少し増やして、教会の時間を少し減らしたいということぐらいだ。地元の小学校に通い、成績はいつもクラスで上位をキープしていた。上位2位に入れば、意中の女の子、キャサリンの隣に座れるからだ。キャサリンとは大きくなったら結婚する予定だ。彼女に話しかける勇気が出ればのことだけど。

(以上HPより)

 

 

 

 

 

ケネス・ブラナーの幼少期にどんなことがあったのか。

お堅い話じゃなきゃいいんだけどな…

ここから観賞後の感想です!!

 

感想

暴徒化するシーン以外は、ごく普通の家族の話。

故郷とは家族の姿であり、そこに住む人たちの顔が浮かぶ場所。

ブラナー苦手だけど、これはめっちゃ好きです!!

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

バディが見る世界

1969年のベルファストを舞台に、主人公の少年の前に押し寄せる暴動に日常を奪われながらも、家族と共にかけがえのない日々を過ごす姿を、ほとんどモノクロ映像の中でテンポよくエピソードが綴られながら、一体内が起きているのか理解できないよう主人公の視点で描き、何の気もないショットも空間をうまく使い芸術的に美しく見せながら、ユーモラス且つ愛のある物語に作り上げた、非常に素晴らしい作品でございました。

 

アルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA」という映画がありました。

70年代にメキシコシティで育った監督の幼少期を舞台に、彼の面倒を見た家政婦の視点で描いた半自伝的映画です。

僕はこの作品が大好きでして。

それこそ構図とか映像演出とか技巧的な部分も大きいんですが、何より監督自身が家政婦の事を家族のように思ってたんだなぁという愛が溢れていたのが最高で。

 

監督の半自伝的な面、モノクロ映像、暴動事件、家族など非常にベルファストと似ているんですよね。

観賞してから色々本作への思いを巡らせていたんだけど、あ、ROMAか!とお鳴った時に、なぜ自分がベルファストにこれだけ好意を持っているのか合点がいきました。

 

さて本作ですが、いきなりプロテスタントによる暴動が始まることで、主人公の少年バディの目の前で日常が壊されていくことになります。

だからそれこそ戦争映画ではないけど、この後バディ含めた家族たちが悲惨な目に遭っていくんだろうな…なんて想像しながら見てたんですけど、そういう映画ではなかったのが非常に良かったです。

 

基本的には「家族の物語」なんですね。

暴動は起きてしまった、プロテスタントだけど彼らに加担はしたくない。

それよりもこんな危険な街でこれからどう過ごせばいいのか、街を出るか残るか。

こういう事情はお父さんとお母さんだけで議論を重ねていくんです。

 

でもこの話はバディが中心。

暴動が起きても学校はあるし、学校が終わったらおじいちゃんとおばあちゃんに相手してもらって、お勉強教わったり好きな女の子の相談をしたり、近所のお姉ちゃんとちょっとした悪さを働いたり、それがお母さんに見つかって怒られたりっていうごくごく普通の毎日を描いてるんですね。

 

出稼ぎから帰ってきたお父さんのお土産のミニカーを集めたり、映画に夢中になったり、サンダーバードのコスチュームに喜んだりと、バディ少年の日常はそこまで大きく変わることはなく、楽しそうに過ごしてるんですよ。

 

とはいえ暴動を扇動するプロテスタントのリーダーに幾度か脅され、トラウマ級の恐怖を体験したり、もしこの街を出ることになったらすごく楽しかった毎日が失われるかもしれないことに脅え泣きだしたりと、目の前の危険と新しい環境に対する不安によって9歳の子供ならではの辛さも見せており、それこそ子供の頃引っ越しをした経験のある方なら共感できたのかなぁとも思いました。

 

カトリーヌ・バルフ一強

本作で誰よりも光を放ってたのは、お母さんを演じたカトリーヌ・バルフでしょう。

フォードvsフェラーリ」でクリスチャン・ベイルの奥さんを演じていたのですが、とにかく抜群に美しいのに、決して自分を曲げない。

夫には金ではなく夢を追わせ、しっかり後ろでサポートをする。

なんて理想の奥様なのだと一瞬で虜になったのを覚えています。

 

そんな彼女が今回どんな奥様を演じたのか。

 

お父さんが出稼ぎのため平日はお母さんが子供の面倒を見るんです。

子供が帰宅すれば笑顔でハグをし、彼らの世話をしながらお父さんが滞納してしまった税金の領収書をちゃんと管理するしっかり者。

 

しっかり者だから、ようやく完済したと思った税金の領収書が来なかったら税務署へ一筆認めちゃうんですね。

何で領収書が来ないんですかと。

そのせいでお父さんの通帳を細かく見られてしまい、追徴課税が来てしまうのです。

 

お父さんは余計なことをしてくれたと怒り心頭ですが、お母さんにとっては耐えに耐えて完済したにもかかわらず、また振出しになってしまうことに腹を立て、台所からお皿を何枚も放り投げ、お父さんに八つ当たりしてしまうんですね。

 

このように気性は荒い様子。

これ以外にも暴動によって生活が一変してしまった日常から抜け出すために、お父さんが働いているロンドンへ移住した方がいいというお父さんの提案に、感情むき出しで反発。

赤ん坊のころからお父さんとは一緒にベルファストで過ごし、結婚し、家庭を築いた。

ここで生まれ育った私たちが、よそへ移ったところで身寄りもないし仕事もあるかわからない。

町ですれ違う人皆が知り合いだから安心して暮らせたのに、ロンドンへ行けばよそ者扱いされるに違いない。

言葉が訛っているから何言ってるかわからないと差別を受ける。

それでもいいのかと静かな怒りでお父さんに反発するのです。

 

バディが万引きをしてしまった時も容赦なく怒ります。

チョコバーを盗んだときは激しく怒っていましたし、暴動に駆り出されたバディがつい持ち出してしまった洗剤のシーンでは、バディの言い訳が最高に可愛かったですが、2階から急いでおりてきて追いかけっこするほど怒ります。

まるでサザエさんとカツオみたいに見えますが、しっかり母親として子供にしつけてるんですよね。

 

もちろんいつも怒ってるわけではありません。

この先どうしたらいいか不安でいっぱいですが、家族の前ではそんな顔を見せずに精一杯お母さんとして家族の時間を満喫している姿が見受けられます。

 

バディが楽しみにしていた「チキ・チキ・バン・バン」を見に行ったときは、崖から落ちそうな車にドキドキしながらも、車体から翼が生え空を飛ぶシーンになると満面の笑みで興奮。

おじいちゃんの葬式を済ませ、皆でダンスパーティーをする際は、お父さんが渾身のラブソングでお母さんに愛を伝えると、お母さんは目を潤ませ満面の笑みでお父さんとダンスをします。

 

そしてなんといっても佇まいが美しい。

税金を払うので精一杯な家庭でしたが、ありあわせの服でもモデルさんみたいに着こなすファッションセンス。

そもそもヘアスタイルもうねりの多いクシュクシュヘアですが、それが時に色っぽくも見え、パッと見子持ちのお母さんに見えませんw

家の前で佇んでいる姿の時点でモデル級ですからw

もちろんカトリーヌ・バルフ自体が元モデルという経歴を持ってますが、なぜ彼女を監督が起用したのかを考えると、彼のお母さんもこういう容姿だったのかなぁなんて想像しちゃいますね。

 

正解はひとつではない

好きな女の子の席の隣に座るために、算数の勉強に励むバディ。

おじいちゃんはそんなバディを見て、選択肢を増やせばいいと答えます。

 

要は彼女の隣に座るには別に勉強して成績を上げることだけではないということ。

そこに座るための選択肢を増やすことで確率を上げればチャンスは必ず訪れると話します。

 

なんでもかんでも算数のように答えは一つではないということをサラッと語るのです。

実際目の前で起きている紛争は異なる宗教の対立であり、たまたま少数派のカトリックを悪と見立てたプロテスタントが力でねじ伏せようとしているだけの話。

どちらが悪いのでもなく、どちらが良いのでもない。

互いに正義があり、相手を敬うことをしないから争いが起きてしまう。

 

暴力だけが紛争を解決することなのだろうかと問いかけた映画でもあったと思います。

他の選択肢がきっとあるはずだと。

 

お父さんもカトリックに対しては「憎しみの宗教」を表現する節がありましたが、バディにそんなことを語りながらも、「正解が一つなら紛争は起きない」ことや、暴力では何も生まれないことをしっかり教えるのであります。

 

監督自身この映画を作ろうと思ったのは「ロックダウン」がきっかけだったと語ってます。

日常が一変してしまった中で、多くの犠牲を払うことになったわけですが、かつて両親があの暴動のさなか、どういう経緯で決断をしたのかを当時の自分に戻って作ったとのこと。

 

あの時確かに恐怖と隣り合わせだったけど、決して辛かった思い出だけではない。

街を離れることになったことで喪失が生まれてしまうけど、美しい何かが生まれる瞬間でもある。

こんな時代だからこそ前を向いて進もうではないかと、かつての故郷の出来事を通じて伝えたかったのではないかと。

 

 

最後に

自分も故郷を離れ長い年月が経ちますが、子供の頃ってホントご近所さんが親切に接してくれたんですよね。

というか見張ってくれていた、見守ってくれていた。

コミュニティってそういう良さがある。

その地区全体が家族のような。

 

本作でもバディが外で遊んでると、お母さんがご飯だってと街の誰かが教えてくれる。

その後一変してしまうけど、街の人たちはみな温かいんですよ。

街って人で出来てるよな、故郷ってその人たちで出来てるよな、そんなことを感じた作品でもありました。

 

また劇中では道端で「マイティ・ソー」を読んでたり、クリスマスプレゼントで「アガサ・クリスティ」の本をもらうバディの姿が写ります。

監督の半自伝的映画だけありますから、彼の過去作を知っているとこのシーンでニヤッとすることでしょうw

他にも「真昼の決闘」や「スタートレック」、「クリスマス・キャロル」などを楽しんでる彼の姿も映っており、決して辛い日々だけではなかったのが窺えます。

 

ヴァン・モリソンの音楽も良いし、Love Affairの「Everlasting Love」を熱唱するお父さんも最高です。

現在のベルファストを映すオープニングや、映画、舞台はカラーで映してるのも印象的でした。

構図やカットも時折絵画のようであり、アルバムにずっとしまってあった写真のような美しさでしたし、教会で熱弁する牧師の姿も監督の往年の作品のような舞台調の語り口で圧倒されましたね。

 

もう一度見たくなる面白さでしたし、何よりこの映画を自分の故郷のように愛したい、そんな気分にさせてくれた作品でした。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆☆☆★★8/10