マーウェン
僕は毎月末にこのブログで「来月期待の新作映画」って記事を書いてるんですけど、それを調べる際、気になった作品の情報ってのを調べるんですね。
予告編観たり、作品情報とか公式HPとか覗いたり。
で、先月ですよ、え?ゼメキスの新作やるの!?
オレ何も知らなかったよ!?なんでどこも情報流してないんだよ、しかも公開日しっかり決まってねえじゃんよ!?
公式HPもねえよ!?(6月の段階で)、字幕の予告編もねえよ!?(6月の段階で)
って事態に陥りまして。
普通ですよ、大体ハリウッド映画の大物監督の作品てのは、公開日がだいぶ前から決まっていて、劇場で予告編流して、全国で大々的にスクリーン数確保して公開されるってのが相場だと僕は思うんですね。
でも今回の作品、Twitterでも情報流れてこないし見かけないしで、そりゃあもうびっくりですよ。
そりゃあ最近勢いないですよ。オスカーにもノミネートされないし、日本で公開されてもそこまで大きな話題にならないし。
直近だと「フライト」まで遡るんじゃないか?
一応ですよ、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「フォレスト・ガンプ」の監督作品ですよ。
小規模の劇場でじゃなくさ、なるべく大きなところで公開しましょうや。
世話になったべ?みんな。
とはいえ今回のゼメキス新作、本国アメリカではなかなかの興行失敗作のようで、去年の年末に公開して大惨敗喰らったみたいで、そりゃあ日本での公開も遅れるよなぁ、と。
批評の方も辛口のご様子で、ゼメキス最大の失敗作だなんて言われちゃってる。
でもそこは「百聞は一見にしかず」の精神で臨みたいわけですよ、それが映画ファンてもんでしょう。
「マリアンヌ」の時の客の入ってなさはマジでがっかりしたけど、やっぱり監督の偉大な所は昔からCGを使って素晴らしいドラマを作ってきたことだと思うわけ。
どのジャンルを手掛けてもそCGをうまく使って我々に驚きと興奮を与えてくれるわけですよ。
きっと今作もそうに違いない、と僕は期待に胸膨らませております。
と前置きが長くなりましたが、早速鑑賞してまいりました!!!
作品情報
時に時間旅行を画期的に魅せ、時にあの大統領や伝説の歌手と共演させる演出で驚かせ、時に3DCGアニメーションで魅了し、時に飛行機を逆さにし、時に今は無き超高層ビルの上で綱渡りする姿を描く。
CG合成を多用することで数々のドラマを生み出してきたハリウッドきってのヒットメーカー、ロバート・ゼメキスの最新作。
ヘイトクライムによって後遺症を患ったイラストレーターが、セラピー代わりのミニチュア撮影を始めることで苦しみや葛藤に遭いながらもカメラマンとして活躍する姿を、監督特有の映像表現によって、かつてないファンタジーなエンタテインメントに仕上げた。
2010年にドキュメンタリー映画にもなったことのある実在する男を題材とした今作。
監督の演出と今やオスカー常連のコメディ俳優がもたらす人間味あふれる演技によって、フィギュアの世界と憂鬱な現実での世界を重ね合いながら、シリアスとユーモアをバランスよく描くことで、同じ苦しみを持つ全ての人たちに希望をもたらす映画へと昇華した。
21世紀のフォレストガンプと呼ぶにふさわしい感動作。
その空想は生きる力になる。
- 作者: Mark E. Hogancamp,Chris Shellen
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あらすじ
バーからの帰り道で5人の男に暴行されたマーク・ホーガンキャンプ(スティーブ・カレル)は、瀕死の重傷を負い、9日間の昏睡状態に陥る。
脳に障害を抱え、襲撃の後遺症(PDSD)に苦しむ彼はまともな治療も受けられず、セラピー代わりにフィギュアの撮影を始める。
自宅に作った空想の世界“マーウェン”ではG.Iジョーのホーギー大尉(スティーブ・カレル)と5人のバービー人形が、迫り来るナチス親衛隊と日々戦いを繰り広げていた。
地域の人々の理解と協力でマーウェンの写真は評価され、やがてマークの個展が開かれることになる。
“マーウェン”で戦う勇気を与えられたマークは、避けていた暴行事件の裁判で証言しようと決意するが・・・。(HPより抜粋)
監督
今作を手掛けるのはロバート・ゼメキス。
冒頭でも書きましたが、あの「フォレスト・ガンプ」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を手掛けた巨匠の作品が、な~んでこんなに小規模なのよと、かなりがっかり。
前作「マリアンヌ」は日本ではブラ泣きというキャッチフレーズで集客を見込みましたが興行はあえなく撃沈。
良い映画だったんだけどなぁ。これがいけなかったのかなぁ。
今作について監督は、ヘイトクライムにあったにも拘らずフィギュアの世界を構築し、芸術の才能と想像力で克服したことに感銘を受け、製作に乗り出したそう。
心の闇を芸術に投影することでこれまで苦しんできた自分に見切りをつけ浄化させていくことは、誰でも共感できる部分であり、芸術が持つ癒しの力は世界の共通認識だとインタビューで語っています。
そんな監督が主人公マークを通じてどんなメッセージを発信するのか、また彼独自の映像表現がどんな感動を生み出すのか、非常に楽しみです。
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キャスト
主人公マーク・ホーガンキャンプを演じるのはスティーブ・カレル。
一応今作では一人二役ってことになるんでしょうか。現実世界のマークと、フィギュアの世界でのマーウェンを、どのように使い分けるのか。芸達者な彼だからこそできる演技に期待したいですね。
今年は「バイス」、「ビューティフル・ボーイ」と相変わらずジャンルにとらわれない様々な役柄で魅了してくれています。
他のキャストはこんな感じ。
動物看護士・ニコル役に、「40歳の童貞男」、「フィリップ、きみを愛してる!」のレスリー・マン。
ベルギーの魔女、デジャ・ソリス役に、「イングロリアス・バスターズ」、「女は二度決断する」のダイアン・クルーガー。
アルのホビーハウス従業員、ロバータ役に、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」、NETFLIXドラマ「ゴッドレス/神の消えた町」のメリット・ウェヴァー。
イラク帰りのリハビリ仲間、ジュリー役に、「ムーンライト」、「ドリーム」のジャネール・モネイ。
アバランチ従業員、カラーラ役に、「ベイビー・ドライバー」、TVドラマ「フロム・タスク・ティル・ドーン・ザ・シリーズ」のエイザ・ゴンザレス。
ロシア人介護士・アナ役に、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」、ドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のブライエニー役で一躍人気となった、グェンドリン・クリスティー。
シュゼット役に、「ポーラーエキスプレス」、「ベオウルフ」など監督作品に出演し、監督の妻でもある、レスリー・ゼメキス。
ニコルの元恋人・カート役に、「アレキサンダー」、「007/慰めの報酬」のニール・ジャクソンなどが出演します。
現実世界とフィギュアの世界をどんな風に使い分け面白く仕上げているのか楽しみです。
きっとスティーブ・カレルに泣かされるんだろうなぁ。
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
トイストーリーとエンジェルウォーズを足して2で割ったようなフィギュアの世界が楽しい!
ゼメキスパロディもあるよw
以下、核心に触れずネタバレします。
内面を投影したフィギュアの世界。
ヘイトクライムによってPTSDに悩まされた元イラストレーター現フィギュア写真家の主人公が、フィギュアの世界に自身を投影しながら、激しい葛藤に苦しみながらも、少しづつ現実の世界と折り合いをつけ前へと進んでいく姿を、現実と虚構をうまく組み合わせ描かれていくヒューマンファンタジードラマでございました。
率直な感想を先にいうのであれば、アメリカでコケてしまったという前評判によってだいぶ期待値を下げて臨んだものの、割と楽しめた映画だったなと。
もちろん色々ツッコミどころは結構あって、実際どうだかわからないけど多様性を入れる必要があったのか、ホーギー(マークの分身のフィギュアね)に従う部下は別に男性がいてもいいんじゃないのか、とか、向かいに住むニコルからしたらなかなか恐怖の体験だったんじゃないのか、とか、その元カレがフィギュアとして出てきたのに現実世界ではマークを脅しただけで後はお役御免になってるとことか、デジャの存在が現実世界でそこまで影響してない点とか、せっかくフィギュアの世界がマーク自身の内面や環境、過去によって生まれた世界なのにもっと掘り下げて描かれても良かったのになぁ、と。
と、いきなりあれこれ疑問や不満やツッコミが出ては来るんですが、楽しかったんですってw
冒頭から没入できる映像がまず巧い。
第二次大戦下のベルギー上空で、ナチスの爆撃に遭う飛行機ノリのホーギー。
あれ?この映画って戦争映画だっけ?と思ったけど、よ~く見てみるとホーギーの身体が普通の人間とはちょいと違う。
髪はべったりくっついてるし、お肌はやけにつるつる。
被弾により不時着した飛行機から降りようとすると、足が燃えてるんだけど表情がそこまで熱そうじゃない。水分を含んだ泥の中に飛び込んで消火した後靴を脱ぐと、なんと足もつるっつる。しかも人形の足じゃねえか!
あ、なるほど、これフィギュアの世界ねってのが分かるオープニング。
この後彼は止まっていた車からハイヒールを履いて歩きだし、落ち着くなこれ、と。
これも後々明かされるんですが、彼がクィアであることの伏線になってるし、ナチの集団に捕まり集団リンチされるってのも、彼がPTSDになった経緯を投影しているわけです。
このように冒頭の数分間で、このフィギュアの世界がマークの過去や現実に大いに関わっていることがわかり、この世界が戦時下のベルギーが舞台になってることなど色々な部分が手に取るようにわかる仕組みなっているのが非常に入りやすく、あ、これ、面白いかも!とさせてくれる映像になってるんですね。
フィギュアの世界ではホーギーを慕う女性陣がいます。
ロバータは、マークが足しげく通うホビーハウスの店員、カラーラは彼がちょいちょい働くダイナー・アバランチの従業員、ロシア訛りのきつい強気な女性アナは、マークの世話係として薬や日用品を買ってきてくれる人、ジュリーはマークがリハビリをしていた時に心の支えになってくれた人。
もう一人彼が暴行された時に最初に助けてくれたアバランチの従業員ウェンディという女性がいて、フィギュアの世界では彼女がホーギーにとってのヒロインとして登場するんですが、実際の彼女はカリフォルニアに引っ越してしまうことが後に明かされます。
マーウェンという名前も、マークとウェンディを合体させて作った名称で、マークが如何に彼女が好きだったかが読み取れるかと。
そしてフィギュアのウェンディはR.I.P.と書かれた箱にしまわれてしまうんですね。せつない。
この代わりとなってやってくるのが、向かいに越してきた赤毛の女性、ニコル。
最初こそマークはコソコソ双眼鏡などでのぞき見したり、夢にうなされ大きな声を出したマークを心配し、声をかけてきても顔を出さないくらい引っ込み思案な姿が見えましたが、いざ面と向かって挨拶すると、彼女の美しさ、そして何よりハイヒールを履いている姿に見惚れてしまうんですね。
ロバータの店で赤毛のフィギュアを購入し、ニコルそっくりにカスタマイズしてマーウェンの世界に登場させたマーク。
そこから彼を執拗に襲うナチの軍団と彼の恋路を邪魔するデジャの陰謀に悩まされるホーギーという流れになっていくんですね。
現実逃避って時に必要。
ナチの軍団は明らかに、マークの後遺症の原因になった暴行集団だってのが分かります。
現実の世界でマークにとって不都合な事態や関わりたくない事象、人物が現れると彼はフィギュアの世界と現実の世界を混同させ、パニックに陥ってしまいます。
このことが一番如実に出ていたのが、暴行した集団を量刑するために出廷しなければいけない裁判でのシーン。
これまでずっと避けていたマークでしたが、彼をある種の催眠にかけていたデジャを小屋に封印し、一念発起で裁判に臨むことを決心。ニコルといい仲になったのも理由の一つでしょう。
しかしいざ裁判が始まると足の震えは止まらないし、ホーギーを椅子の隣に座らせないと、居ても立っても居られない状況。
ようやく裁判が始まり、検事が事件の概要を話し出すと、マークは向こう側に座っている犯人たちを見るなり、急にフィギュアの世界でのナチ集団に見立て怯えてしまいます。
激しい銃弾をうまくかわしながら等身大のホーギーに守ってもらい匍匐前進で、その場から逃れることに成功するマーク。
もちろん実際にはナチがそこにいるわけでもなく、銃弾が飛び交っているわけでもなく、マークがそこにいられずパニックを起こして逃げた、ってだけの話。
あくまでちょっとユーモラスに描いてはいるこのシーンですけど、マークからしたらかなり壮絶な体験だったことでしょう。
あれを他者の視点だけで見たら本気でパニックになって床這いつくばって逃げてるだけですから。
このように劇中では楽しくフィギュアの世界や風景を撮影するマークの姿と共に、何か事ある度にフィギュアの世界へ逃げ込んでしまうマークの姿が描かれています。
もちろん自分の世界を構築し、自分こそがルールという超都合がよく、誰にも邪魔されることのないこの遊びは子供の頃よくやったこともあるし、大人になっても実は楽しくて、大袈裟に言えば現実逃避できる場所で、現実に疲れたらそこへ逃げて気分転換しても良いとは思います。
ちなみに「アメトーーク」でナイツ土屋が昔よくやっていた「消しゴムサッカー」は、闇が深いとか言われてますけど、あれ実際やってみたらなかなか楽しいと思うのよw
話が逸れましたが、僕が思うこのフィギュア遊びと、マークのフィギュア世界の撮影は生きていく上での比重が違う。
きっとこの世界を誰かに壊されたらマークは本当にヤバイ状況になるんだろうなと。
そしてこの世界は彼にとって生きる上での希望そのものなんだよなぁ。
これがあるから今の自分が保てる、他者とうまく関わっていける、あの事件以降ここまで回復できたわけで。
映画を見てマークの内面に潜む苦しみが、監督の演出によってずっしりではなく気持ち柔らかく描かれてるのが、ある種の優しさにも見て取れた部分だったなぁと。
最後に
監督の紹介でも書きましたが、芸術を生み出すのって、その人の内面にある心の闇が投影され、それによって主は救われることがあるってことがよく伝わった映画でもあったと思います。
当時歌を作っていた僕も、心の闇ではないけども体験談やら失敗談を絡めたワードってよく使っていたし、それがエンタテインメントになってることがある種の救いにもなっていたというか、ちゃんと受け取ってくれたりそれに共感してくれるお客さんてのがいたことで成立してたわけで。
ロバータとの件が良いですね。
何とかしてマークとご飯を食べたい=彼が好きってのがすぐわかる最初の二人のシーン。
スシ食べない?食べたことない?実は私も。
試してみる価値あると思うんだけど、っていうロバータの問いかけに対して聞く耳持たないマークが、ニコルとのすれ違いの恋愛感情に完敗し、自分を思ってくれるロバータの存在に気付き最後にスシ食べない?試してみようか!って返すロバータの切ない片思いが実った瞬間ね!
これある意味ではマークのPTSDがちょっと緩和されたようにも捉えることができるラストだったかなと。
まぁ後はマークのニコルに対する思いがなかなか怖い…。
ニコルのフィギュアを作り、自分の分身であるホーギーと恋仲になっていくって筋書きを写真に収めニコルに見せるって…。
どこかでニコルは彼が抱く想いにブレーキをかけなきゃいけなかったよなぁ。
フィギュア作った時点で気づくべき。引っ越し手伝ってとか頼むんじゃないw
てかニコルってそもそも相手を勘違いさせやすいキャラだったのかも。
元カレが引っ越し先にやってきて迷惑だって言ってるのに彼氏ヅラして二度もやってくるくらいだからw
きっとカリフォルニアへ引っ越したウェンディにもマークは同じアプローチをしたのかもしれない。
とにかく監督が近年手掛ける「精神が弱っている男の救済映画」に新たなページを刻んだ作品であることにかわりはないし、CG描写で遊び心が詰まった演出にするのも観客を楽しませる方法の一つとして本当に素晴らしい。
しかし今作はどうもアクセントに欠ける点や、感想の冒頭でもボソボソ書いた辺りが気になり、決して一言で巧い!って感覚にはならなかったのは残念だったように思えます。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10