パール Pearl
新進映画スタジオ「A24」の拠点がハリウッドでなくニューヨークだということをつい最近知ったモンキーです。
道理で俺、合わねえわけだ…。
A24としては初の三部作になるといわれているこの「パール」は、2022年に公開された「X/エックス」の前日譚だそうで、合わないといいながらも前作見ちゃったもんだから行くしかないよね、くらいの期待度ですw
前作「X」で、ポルノ映画を撮影する若者たちの姿を覗き、若かりし頃の自分を思い出し欲情した老婆が、彼らに憎悪を抱き殺戮を繰り返すという物語でしたが、本作はそのシリアルキラーと化したおばあちゃん「パール」が、なぜそんなことをしてしまう女性になったのかを描くとのこと。
私も結構な年齢になったせいか、若い人たちが楽しくしている姿を見ると、心のどこかで嫉妬のような感情が芽生えてくることはありますw
今もあんな風に輝けたらとか、なぜ年齢を重ねるとこう鬱屈になってしまうのかとか。
そんなこと言ったらキリがないんですけど、憧れちゃうわけですw
おそらく彼女はそんな思いを抱き、若かりし頃にできなかったモヤモヤがあるのでしょう。
それを覗くことになる本作。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が第95回アカデミー賞で7部門を受賞し話題の映画スタジオA24製作の最新作『Pearl パール』。
本作は『X エックス』の前日譚であり、完結編として現在製作中の『MaXXXine(原題)』とあわせA24初の三部作としても注目され、世界の国際映画祭を席巻した。
人里離れた農場を舞台に、厳格な母と体が不自由な父のもとで育った主人公が、華やかな世界にあこがれを抱きながらも、抑圧された環境によってその夢を腐らせ、内に秘めた無邪気さと残酷さが爆発する姿を描く。
前作「X」の撮影期間中にアイディアをひらめいたというタイ・ウェスト監督が、前作の主人公マキシーンと老婆の二役を演じたミア・ゴスを起用。
再び彼らが日本の夏を席巻する。
また本作はベネチア国際映画祭で上映され、これを見たマーティン・スコセッシ監督はミア・ゴスが演じたパールのワイルドで魅力的なキャラに魅了されたそう。
ホラー映画初のオスカー候補になるのではとまで言われたシリアルキラー”パール”。
彼女にとってそれは絶望なのか、希望なのか。
あらすじ
1918年、テキサス。
スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパール(ミア・ゴス)は、敬虔で厳しい母親と病気の父親と人里離れた農場に暮らす。
若くして結婚した夫は戦争へ出征中、父親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの日々に鬱屈としながら、農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事を行うのが、パールの束の間の幸せだった。
ある日、父親の薬を買いに町へ出かけ、母に内緒で映画を見たパールは、そこで映写技師に出会ったことから、いっそう外の世界への憧れが募っていく。
そんな中、町で、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生農場から出られない」といさめられる。
生まれてからずっと“籠の中”で育てられ、抑圧されてきたパールの狂気は暴発し、体を動かせない病気の父が見る前で、母親に火をつけるのだが……。 (HPより抜粋)
キャラクター紹介
- パール(ミア・ゴス)…若くして結婚した夫・ハワードが第一次世界大戦に出征したことで、実家に一人残され、農場の家畜の 世話と、父の世話をする日々を送りながら、世界一のスターになることを夢見ている。
- 映写技師(デヴィッド・コレンスウェット)…パールが、こっそり見に行った町の映画館で働く映写技師。パールの魅力を見出す。
- ルース(タンディ・ライト)…ドイツからの移民で、生真面目で敬虔なパールの母親。
- パールの父(マシュー・サンダーランド)…病気のため体を動かすことができず、車椅子で生活しているパールの父親。
- ミッツィー(エマ・ジェンキンス=プーロ)…パールの夫であるハワードの妹。髪は、美しいブロンド。
(以上HPより)
Xファクター=未知の才能を持っていると強く思っていたマキシーンを描いた前作。
きっと本作を見たら「X」も違う視点で楽しめるかもしれませんね。
ここから観賞後の感想です!!
感想
#パール 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) July 7, 2023
夢見る人妻じゃいられない。
往年のハリウッドロマンス調な夢の世界から一気に農家での閉塞感漂う現実へ叩き落とす。
抑圧された環境故に彼女の苦しみに同情はするが、彼女の中に渦巻く狂気はどこで芽生えたのか何見えて来ず物語が些か強引に感じた。というか全体的に話が薄い。 pic.twitter.com/oLOY3ydzIg
俺も早く実家を出て夢を追いかけたいと思ってたよ、だからパールには同情する。
だけどそれと潜在していた暴力は関係ねえし、他人を言い訳にすんなよ。
未知の才能ってのは、サイコキラーってことなのかい?
以下、ネタバレします。
なんだこの程度か…
前作「X」に登場した老婆パールの若かりし頃を描いた前日譚は、スターになる夢と実現できる自信を抱いていたものの、父の介護や規律を重んじる母の教え、そして裕福な家庭環境にありながら、田舎への憧れと戦争に出兵し実家に置き去りにした夫への不満に対する怒りや苦しみによって、サイコキラーへと変貌を遂げていく姿を、テクニカラー調の色彩を始めとした往年のハリウッド映画を思わせる映像と、容赦なく見せる残虐性のコントラストに脱帽したが、暴力性という潜在意識が一体どこから生まれたのかや、閉塞感ある環境下での苦しみの積み重ねの弱さ、また肝心の物語自体が薄く感じ、前作での悪魔的な振る舞いと直結するには、様々な要素が足りないと感じてしまった作品でございました。
前作「X」を本作鑑賞の前に自宅で見返した際、主人公マキシーン同様パールにも「未知の才能」を持っていた時代があったことが判り、それゆえに嫉妬した末の殺戮的行動だったことがより理解できたのと、本作の後に製作される「マキシーン」の中身はきっと、いつの時代も「未知の才能」を持ちながらも周囲の環境や人々によって活かすことができないル―ザーな女性たちを描くのだろう、そしてマキシーンもまたパールのような道を辿っていくのだろう、そんな妄想を膨らませながら今回観賞したわけです。
蓋を開けてみると、確かにパールの環境は親のせいで身動きの取れない辛い場所であったことが窺える作品でした。
スペイン風邪が流行した1918年、まるで現在のパンデミックのように皆が感染を恐れ、人を避け、マスクをしながら生活を余儀なくされていた時代の中で、戦争も同時に勃発。
ドイツ系の家計故に自分たちも表に出れば迫害されるに違いないと覚えながら過ごす母親の考えも加わって、パールはとにかく外界との交流を禁じられ、やりたいこともできない許してもらえないという苦しい時を過ごしていたわけです。
それでも夢を捨て切れることはできず、母が来ていたドレスをこっそり着飾って自分の部屋でスターになった時の妄想を膨らませていく。
この時の三面鏡を使った演出は、既に彼女の中に潜んでいた別人格を表現していたのでしょう。
別のパールがいつ出てきてもおかしくない中、彼女は厳しい母の教えに耐えながら父の介護と家畜の世話をこなし、今か今かとチャンスを待っていたのであます。
自分も十代の頃バンドマンという夢を抱き、高校を卒業すれば東京で好きなことをやりたいだけできる、そんな空想をしていたわけです。
というのは今を想えば言い訳だったのかもしれません。
実際は、友達と遊んでいても「早く帰ってこい」の連絡を受けたり、何をするにも親という壁のせいで自由に遊ぶこともできなかった。
もちろん未成年だからってのはありましたが、他の友達の家と比べるとうちの母親はそういう部分に対して過剰だったよなぁと今でも思ってます。
パールとは比べ物にはなりませんが、僕もまた当時はそういう海底環境の中で自由を制限されていたという意味においては苦しかったんですよね。
でも結局のところは、自分で金稼いで好きな事やるんでほっておいてくださいと言いきり、何とかひとりで生計を立ててやりくりしていたわけで、時代が今とは違うし置かれた環境は僕よりも大変だったとは思うけど、どうしても夢を叶えたいなら周りとか他人を言い訳なんかせずに死ぬ気でやれや!と言いたいわけです。
物語の終盤、オーディションに落選し落胆していたパールを、義理の妹であるミッツィが家まで送り届け、テーブルを挟んだ状態でパールは本心を吐露するシーンがあります。
その内容は、「両親が悪い、戦争に行ったきり帰ってこない旦那が悪い、ヨーロッパへ連れてくといったけど自分を怖がって避けようとした映写技師の男が悪い、田舎の農家が悪い、私を誰も都会へ連れてってくれない」などと、オーディションに落選した理由を他人のせいにして言い訳するわけです。
かぁ~ぬるい!
ぬるいわ~。
所詮あなたが抱いた夢ってのはその程度の事なんすね、と腹が立ってきたわけですw
そりゃ100年も前の女性って今みたいに中々一人でどうこうってのは難しかったんでしょう。
しかも親が大好きでお父さんの体も心配だという健気な娘でもあり、自分の夢ばかりを優先したら他の誰かが悲しむかもしれない、そんな思いもどこかにあったんでしょう。
だからと言って何の努力もせず、ダンスのレッスンもせず、あの程度の踊りでオーディションに合格できるっていう自信やら保証っていったいどこから湧いてくるのかと。
確かにあの頃の俺も自身に満ち溢れていて1000%売れるべ!なんてナメた考え持ってたけど、もっと練習してたぜおい。
とまぁ、パールに対してそんな苛立ちを募らせながら見てしまったわけでございます、はい。
まぁあれだ、彼女の環境も考えに影響してた部分は大きいですよ。
誰も応援してくれないし、スペイン風邪が感染するから他者との接触もできず相談する相手もいない。
そうなってくると自分の内面と向き合うことしかできないわけです。
自分の心に「わたしはできる」と鼓舞することもできる反面、閉塞された環境や、旦那が裕福な家庭ってことから「なぜ私だけこんな目に」みたいな負の感情も増幅してしまうというか。
パールがなぜあんな簡単に動物や人を殺せるのかを考えた時、他者とのコミュニケーションが足りなかったからなんじゃねえのかと。
すべて自分で考えて結論出してってのを繰り返したからこそ、自分を拒絶する者は排除すればいいなんて方向になっていったんじゃねえかと。
冒頭納屋に入ってきたガチョウを鍬で突き刺して殺す描写がありましたけど、もうあの時から彼女の中ではそれが悪いことだという自覚がなく、今後起こり得るであろう悲劇を予感させるものだったんですよね。
ぶっちゃけガチョウはパールを小バカになんてしてねえんだけど、勝手にガチョウの思いを過大解釈だか被害妄想が働いたのか知らねえけど、いきなり串刺しにするわけですからまぁ怖い。
でも結局ね、なぜ彼女が平気で暴力で来てしまうのかっていうきっかけだったり明確な理由が描かれてないんですよねこの映画。
もちろんこれまで募った思いが爆発して衝動的に母親だったり映写技師を殺してしまうわけだけだし、終盤の一人語りがおよその原因だったりトリガーになってるわけですけど、ガチョウを平気で串刺しにできてしまってる時点で、側面はあったわけですよ。
結局パールという女性が「X」でなぜあんな風になってしまったのかを知りたい、そのきっかけが何だったのかを知りたいのに、具体的な描写がないんですよ。
そういう意味で本作はX以上にしっくりこない作品だったなぁと。
また全体的に物語の内容が薄いよなぁと。
母ちゃんからの圧力に対しての従順ぶりが足りないというか。
もっと母ちゃんが絶対!みたいなキャラにしないと、パールの反発が活きてこないというか。
要はタメが少ないんですよね。
我慢して我慢してからの爆発!とうとうパールはサイコキラーになってしまった!という単純明快な構造になってない、しかもテンポがずっと単調でドキドキもしない。
5やられて1返すと10やられるみたいな、いじめっこといじめられっこの図式を幾度か繰り返した後に、とうとうブチ切れて開眼て方が、悲しくもあるし怖くもあるというか。
だから母親とパールとのやり取りはもっとないとさ~。
あと、パールにとって頼みの綱だった映写技師の扱いね。
パールがもう少しで夢を掴めるみたいに引っ張っていくけど、パールの本性=相手を怖がらせるほど迫ってくる性格に脅えてしっぽ撒いて逃げ出す、せっかく信頼してたのに!と狂気を露わにするパールって流れを巧く見せられてないというか。
映写技師ももっと彼女を焚きつけないとさぁ。
そこもだからタメが足りないんですよ。
最後に
結局何をするにも何を考えるにも、一人は良くないって話なのかと。
やはり誰かに打ち明けたり相談したりすることで心の中の整理がつくというか。
あとはもう夢を叶えるためには犠牲はつきもので、それとどう折り合いをつけるかってことですよ。
マジで他人のせいにすんな。それが人殺していい理由になんかならねえ。
でもってこの映画はなぜそんな風になってしまったのかっていう理由はあれど、潜在的に暴力性持ってたわけだからそこをほじくっていかねえと「X」の前日譚として機能して無くねえか?と。
ラスト、夫のハワードが帰還して、死体や腐った料理が並ぶダイニングに唖然とするわけだけど、恐らくパールを受け入れるってことですよね、「X」を見る限り。
そこもまた描いてくれないとモヤモヤするっていうか。
あんな状態のパールをどうやって受け入れていくの?と。
ほったらかしにした自分が悪かったと罪悪感に駆られて「死を分かつ」まで添い遂げるの?
またハワードもXでは若者をものすごく嫌ってたけど、その辺もどう変貌したのか知りたかったですね。
やはり俺はA24と肌が合わないなぁというのが露呈してしまった作品だった気がします…。
とりあえず次回作も見ますけど、想像の範疇なんだろうなぁ…。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆★★★★★★4/10