モンキー的2023年上半期映画ベスト10選
今年も私モンキーが超独断と偏見で選んだ、「2023年上半期に公開された新作映画ベスト10作品」を発表したいと思います。
満足度の高かった作品から選出しますが、上半期ということもあり、毎年恒例のとおり順位は付けず公開日順での発表になります。
今年上半期に観賞した新作映画は61本!(配信映画作品含む)
それではどうぞ~!!
ベスト10選
まずは今年公開の作品を全体的に述べていきたいと思います。
2022年は僕にとって洋画も邦画も「不作」だと感じた1年でした。
新作を見るたびに一線を超えるような面白さが見当たらないなぁと苦悩したことが何度もあったんです。
もうこのまま新作映画を追うのをやめてしまおうか、ブログも書くことないなぁ、くらいへこんでたんですが、今年に入るや否や非常に豊作ばかりの6か月だったなと実感しております。
特に2月は話題作目白押しの1か月で、ベスト級だなぁと思ったのは少なかったんだけど、どれも「見てよかった」と思えた、高いレベルの作品連発で非常に楽しかった1か月でした。
もちろんこの辺りは「アカデミー賞」前後ということで、娯楽という部分においても現代的なテーマ性においても感想や批評し甲斐のある作品ばかりで、コロナ明けということもありようやく「ハリウッド映画を楽しめる」時期がやってきたなと。
3月から春休み興行にはいり、GW興行、そしてアメリカの夏の興行に合わせたビッグタイトルと、一般客をも巻き込んだ盛況ぶりだったと同時に、僕自身も楽しめた半年間でした。
各作品について短評
毎度のことながら「洋画派」である僕は、今年の上半期の時点で邦画、しかもアニメーション映画が1本という、かなり偏ったラインナップになりました。
ですが、この「ブルージャイアント」は現時点で僕の今年の1位です。
やっぱり若かりし頃に「音楽で飯食ってく」夢を追いかけてた身としては、主人公の3人の姿にやられっぱなしの2時間だったんですよね。
アニメーションがどうだとか、主人公がまるで成長していないとか、そんな不満をよく見かけました。
確かに物語や映像面においてはそういう側面もあって理解してるんだけど、俺からしたら「若いころの俺に見せてやりたい」ってくらい、彼らの本気にやられたんですよね…。
結局なぜ俺は夢を掴むことができなかったのかを考えたときに、才能がないからとか途中であきらめたからとかいろいろ出ては来るんだけど、本作を見て一番突き付けられたのは「覚悟」なんだなぁと。
あの覚悟があったから、あの3人はあの短期間で夢を成し遂げることができたんだと。
フィクションだけど、もしかしたら現実でも起こりうるかもしれない、と。
もしかしたら、彼らくらい音楽と向き合ってれば夢を達成できたかもしれない。
俺に取っちゃ後の祭りなんだけど、なんだかもうぐしゃぐしゃになっちゃってw
基本的に僕は作り手や演者の巧さが評価軸の柱になってて、他は正直二の次なんですけど、ときたま自分に当てはまりすぎてる内容の物語は、感情的になることが多いんですw
これ以外はもう普通にさっき言った評価軸での採点。
掛け違えたボタンがどんどんずれて後戻りできなくなってく二人を描いた「イニシェリン島の精霊」は、「スリー・ビルボード」ほどのパンチ力はないものの、コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンに笑ったり共感もできるキャラづくりが素晴らしいし、何よりマーティン・マクドナーの脚本の巧さに尽きます。
他、アカデミー賞ノミネート作品からは、「バビロン」と「フェイブルマンズ」と「TAR」を選出。
これは後程書きますけど、若き天才とレジェンドによる「映画を描いた映画」は、全く違う内容になってるんだけど、彼らがなぜこれを作ろうとしたのかという部分を掘り下げていくと、今年のベストに入れないわけにはいかないなぁと。
「100年前のハリウッドのの狂乱」を、30代ならではの若さと勢いと痛さを武器に「やりきった」チャゼルを推さないわけにはいかないと。
またこれとは逆に、映画を作る楽しさと危うさ両方を描きながら自分の両親の姿を映し出した自伝的映画「フェイブルマンズ」も、スピルバーグの巧さに改めて脱帽したし、何より見終わってからもシーン一つ一つが忘れられない、記憶がすぐ蘇るくらい強烈な映像だったんですよね。
そして「TAR」に関しては、もうケイト・ブランシェット無双。
おそらく今年一番の「役者」を堪能できる映画になるんじゃないでしょうか。
正直、予想を超える演技ではないんだけど、明らかにリディア・ターだったというほど全てがナチュラルで、一時狂気で。
何がすごいってあれだけ精神的に追い込まれてたのに、ラストのあの佇まい。
色々な解釈のできる余地を与えてくれる部分や、スリラーとしての鋭さも、長尺のデメリットをうまく回避できた巧さだったかなと。
そしてメジャー大作に関して。
上半期は「マリオ」や「コナン」が興行を引っ張ってくれたわけですが、個人的に春の興行に関しては「ダンジョン&ドラゴンズ」一択。
これまでだと「ナルニア国物語」とか「ライラの冒険」とか「パーシージャクソン」とか、1年に1作くらいはファンタジー大作映画ってあったのに、気が付いたらどこの配給も製作してない。
おそらく需要がないとか興行が見込めないとかの理由なんでしょうけど、何とかファンタジー大作やれないだろうか、そんな白羽の矢が立ったのがこのダンジョン&ドラゴンズだったんじゃないかなと。
厳密にはファンタジーよりもアドベンチャーに属するジャンルなのかもだけど、とにかくパラマウントピクチャーズは、新たな金脈を手に入れたな!と。
負け犬たちの掛け合いが大変面白く、尚且つVFXもしっかりしてて映像面でもすごいことしてる。
これらに加えてキャラを演じる俳優陣がドはまりしてるのも最高。
10数年前なら埋もれちゃいそうなA級映画を、こうやってS級として公開したパラマウントを褒め称えたいですw
残念なことに損益分岐点に未到達で続編の夢は絶たれそうなんですが、そこは配給会社よごり押しで製作GOしてくれ!!
そしてアメコミから「ザ・フラッシュ」を選出。
今年はアントマンにガーディアンズ、DCはシャザム、ソニピクはスパイダーバースと例年通りの並びでしたが、その中でもフラッシュを推したいと。
そもそもMCUは一定のクオリティはあるものの、それを超える要素は見当たらず、可もなく不可もないというのが僕のMCUに対する思い。
今年はそこからさらに拍車にかけてきたなぁという冷めた目線で見てます。
そこにDCがどうやって差を詰めてくるかと思ったら、ゴリゴリ90年代色強めの「笑ってなんぼ」な作品で攻めてくるという。
このフラッシュでDCUはこれまでの路線を一掃し、ジェームズ・ガン指揮のもと新たな路線へと歩んでいくらしいですが、その片鱗はこの「フラッシュ」で見えてきたかなと思ってたんですが、北米での興行が大惨敗な様子。
せっかく路線変更してきたのに、また振出しにならなきゃいいけど…。
他の作品に関して。
まず今年のベスト候補が濃厚な「AIR」。
エアジョーダンが誕生するまでって答えが分かり切った物語なのに、結末までのプロセスがめちゃめちゃ面白い。
バクチ好きな主人公が命がけの大バクチをしかけ、いつしか周りもそれに乗っかっていく。
ベンアフ監督作品は良作揃いという前評判もあり、当時の流行歌にのせた演出に、30歳という若手脚本家が執筆したうま~い会話。
それをしっかり咀嚼して語るマット・デイモンの演技が光った作品でした。
本作に関しても後程書きますが、個人的には2023年に一番重要な作品だと考えます。
そして「サーチ2」。
現代ネット事情を描いた作品は、正直後世に残りにくい。
だからこそ「今」を堪能できる題材なわけで、前作から格段とアップデートされたテクノロジーやサービスを駆使して、女子高生が殺人事件を捜査していくっていう面白さね。
これみたらもう警察とかFBIとか要らないんじゃね?と思ってしまうほどどんどん真相に近づく構成だし、何より見てるこっちを何度も転がしていく脚本ね。
釘付けでしたよ見てる最中w
え?どういうこと?そっちの線じゃないの?と何度も驚かされるわけです。
これはもうサスペンスとしてむっちゃ楽しかったですね。
そして唯一ヨーロッパ映画として演出した「トリとロキタ」。
自分が追いかけている数少ないヨーロッパ系の監督、ダルデンヌ兄弟。
ここ数作は物語として弱さを感じてましたが、本作はダルデンヌかなり怒ってるぞ、と思わされる内容。
移民問題は日本に住む我々にとって中々身近に感じ辛い部分ですが、海の向こうではこんなにもシビアなんだという事実を突きつけられるわけです。
尚且つ本作が面白いのは意外とジャンル映画にもなっている点。
劇中で弟がミッションインポッシブルをやってのける件は、ダルデンヌとしては意外だなと。
また結末がもう「嘘だろ…」と。
前作「その手に触れるまで」でも似たような結末でしたが、明らかにこっちの方が衝撃的。
ハリウッド映画の地殻変動
というわけで、今年の上半期はこんなラインナップになりました。
他にも「ザ・ホエール」とか「非常宣言」とか高い満足度にしたんですけど、今年は「ハリウッド映画」に思うことがあって、それらを抜かして別の作品を挙げました。
普段は作品の中身ばかりを対象に年べスを選考してましたけど、今年は「ハリウッド映画」好き故に、今起きている業界事情を避けて通れねえ、だからそれを取り上げたいという意味を込めて選出しました。
というのも、今ハリウッド映画は窮地に立たされています。
2023年5月に、およそ15年ぶりの「脚本家組合ストライキ」が始まってしまいました。
映画製作協会とWGA(全米脚本家組合)との交渉の概要は、ザックリ言うと「賃上げ」です。
一昔前は、どんな脚本家でもTVで再放送したり、放送されなくても「パイロット版」の製作に関わればお給料がもらえたそう。
しかし、ネットフリックスを始めとする配信プラットフォームが主流となった現在、再放送もなければパイロット版も製作しない、しかも作品制作に関わることができるのはごく少数だそうで、このやり方だと脚本家は食っていけないんだそう。
要するに一昔前のやり方は効率的ではないけれど、雇用も生まれるし経済としても回っていたってこと。
だから組合は、契約の内容を変えてくれ、そして賃金を上げてくれ、でないと俺たち食っていけないと反発してるわけです。
配信が主流になったことで、我々にとってはコンテンツが充実した日々を送れていますが、作り手たちは実はめちゃめちゃ困っていたという現実。
そう、配信て基本DVDにもならない、再放送もされない、尚且つ視聴率も公にならないんですよ。
もっと大変なのがスタジオ側が「AIで脚本書けちゃうよね」とか言ってるわけです。
今回の交渉の中身の一つに、まさに「AIを使わないで」って項目もあるそうで、このままでは脚本家たちは作品を作っても生計を立てられないと嘆いてるわけです。
スタジオ側はかさむ製作費や予算をコストカットしたい、作り手たちはもっとお金をください。
現在も尚ストライキは平行線。
現場で脚本を変更できる役割を担う彼らが、ストライキ中は現場で仕事をしてはいけない決まりによって、撮影がストップしてるとのこと。
「ストレンジャー・シングス」が撮影中止してたり、ディズニー映画がMCUの公開時期の変更を発表してることから、来年以降の作品数に影響が出る恐れがあります。
ちなみに監督組合は5%の賃上げの交渉を成立した様子。
俳優組合も交渉が成立しなければストを起こすことが発表されたので、今後スタジオと組合の交渉から目が離せません。
で、こうした問題が勃発した1ヶ月前に公開されたのが「AIR」。
この映画、ただの「お仕事映画」で留まってません。
企業が独占的に収益を得ることに対する問題提起でもあるんです。
ジョーダンの母ちゃんがソニー・ヴァッカーロに提示した契約条件。
その中身は売り上げの一部をこちらによこせと。
今じゃ当たり前な「シグネチャーモデル」ビジネスですけど、当時は○○モデルの靴が売れても選手に収益は入ってこなかった、むしろ「うちの靴が履けることが名誉」くらい企業が完全に上の立場だった。
本作はソニーらが仕事に悪戦苦闘して成功を収める姿が魅力的ですけど、僕としてはこうした歴史を変える出来事の背景に、企業のトップがどう決断したか、フィル・ナイトという男がどう腹を括ったかという部分に注目した映画だったんですね。
また本作は、ベンアフレックとマットデイモンが立ち上げた製作会社の経営理念が、本作の脚本の内容と合致したことがきっかけ。
本来、一部の人間にしか映画の収益を受け取れないのがハリウッド映画では主流だそうなんですが、彼らが立ち上げた会社は、現場のスタッフにもその権限があるような仕組みを取り入れたんだそうです。
そう、要するに「富の分配」です。
ストライキの話に戻りますが、結局企業の上の人間の給料がどんどん増えていく一方で末端の脚本家にはお金が回ってこない現実があり、組合はそこに不満を挙げているんですよ。
なのに、予算をコストカットとか公開本数を縮小とかふざけんなと。
フィル・ナイトが収益を分配する契約にサインした結果、ナイキはその後どうなったか。
当時シューズ企業で3番手だったナイキは、今どうなってますか?と、ベンアフレックは言いたいわけです。
今ハリウッドメジャースタジオに突きつけられた問題の答えは、正にこの「AIR」の中にあるんだぞと僕は言いたいんです。
もちろんハリウッドだけじゃない世界中すべての企業に対してもですよね。
で、この「AIR」、今のハリウッドメジャースタジオの現状を解消できるかもしれないビジネスフォーマットにも挑戦してるんですよね。
それが「配信プラットフォームが製作する作品を、ハリウッドメジャースタジオが世界で配給する」というやり方。
話が長くなるんでんすけど、10数年前からハリウッド映画は、予算が中級規模の作品が徐々に減ってきている傾向があります。
2002年には140本もの作品がメジャースタジオで製作されていたそうですが、2022年にはその半分になったそう。
もちろん動員数も半分になりました。
現在メジャースタジオが製作するのは、アメコミやシリーズものの続編といったフランチャイズ映画ばかりです。
しかも予算がA級、S級クラスのオリジナル作品がほとんどといっていいほど製作されていないんです。
今パッと思いつく中で、そうした規模のオリジナル作品を作れる監督はノーランやヴィルヌーヴ、去年で言えばジョーダン・ピールくらいでしょうか。
もちろん企画はたくさん挙がってるそうですが、この内容ではヒットしないとか、予算が膨らむから実現できないとかそういう理由から却下されてしまう。
実際ギレルモ・デル・トロはたくさん企画を出しても断られてるみたいです。
結局、名監督や偉大な監督の作品がメジャースタジオで作らせてもらえない現状があるわけです。
スコセッシやデヴィッド・フィンチャー、キュアロンやイニャリトゥといった名だたる名監督が、ちゃんと予算を出してくれるネットフリックスやアマゾン、アップルで製作するのは、そういったメジャースタジオの金儲けファーストな意向によることだったりするんです。
だから今後はS級クラスの映画はメジャースタジオが、A級B級クラスの作品は、配信プラットフォーム製作という住み分けが、より顕著になっていくと思います。
果たしてメジャースタジオはこれでいいのか。
オリジナル脚本で予算規模がA級以上の映画は、もう配信でしか拝めないのか。
そこで「AIR」の興行フォーマットが今後主流になっていくのではと。
この「AIR」、日本ではワーナーが配給してますが、アメリカではアマゾンスタジオが製作と配給を行っています。
そう、海外での宣伝配給をワーナースタジオがやるっていう新たな試みをやってるんです。
他にもスコセッシの新作をAppleが製作と配信するんでんすが、世界配給をパラマウントが担当。
またリドリースコットのApple製作作品も、ソニーピクチャーズが配給するということが発表されました。
これまでメジャースタジオが予算と宣伝と配給していた形が、配信プラットフォーム製作、メジャースタジオが宣伝と配給するというカタチへと変化したわけです。
予算を持ってるけど宣伝と配給ノウハウのない配信プラットフォーム、予算は出せないけど宣伝と配給ノウハウを持ってるハリウッドメジャー。
特にソニーは配信プラットフォームを持ってないし、パラマウントも海外でのプラットフォーム展開が遅れている。
そうした互いの弱い部分を補って芸術としての映画を発信していくことが、今後重要視されていくのかと。
めちゃんこ長くなりましたが、「AIR」の存在はハリウッド映画好きの僕にとって、また現在の問題も踏まえて、避けて取れない作品だと感じたのであります。
最後に
他にも語りたいことがたくさんあるんですよ。
ハリウッドメジャーで自分の作りたい作品をいつまで作れるかわからない、だから今のうちにと、名監督たちは「自伝的作品」を手掛ける。
チャゼルのような若き天才も、いつまで自分の作りたい作品を作れるかわからない、だから今のうちに「バビロン」を手掛け、今後起こるかもしれない「終わり」と「その先の未来」を描いた。
そしてワインスタインによって世界的にムーブメントとなった#MeToo運動は、過去の発言を都合のいいように切り取られ拡散、世間はおろかスポンサーからも拒否されてしまう「キャンセルカルチャー」へと発展。
他の監督や役者らは、自分もウディ・アレンのように干され、ジェームズ・ガンのように降板させられるかもしれないと怯えてるのかもしれません。
#Metoo運動は、監督たちに思いもよらぬ形で「最後の映画」の製作を急がせてるのかもしれません。
「TAR」をベストに入れたのも、まさにキャンセルカルチャーがもたらすことに対する言及を描いたからこそ、今年大事な1本だと思ったからです。
あとは過去作のリメイクだけれどもう一度フランチャイズ作品としてトライした「ダンジョン&ドラゴンズ」を応援したいし、他のメジャースタジオのように配信に逃げないソニピクの「サーチ2」も同様。
下半期はオッペンハイマーやバービーといったオリジナル作品が控えてますし、続編ではあるけれどDUNEもある。
今年はハリウッドメジャー大作がすごく充実してる分、来年はホントに充実してるかわからない状況なので、不安を持ちながら残り半年楽しみたいと思います。
というわけで以上!あざっした!!