非常宣言
「大空港」、「エアポート」シリーズをはじめ、フライトパニックアクションは様々な形を経て現代も作られています。
「ダイハード2」や「エアフォース・ワン」などのテロ系アクション、9.11の悲劇を描いた「ユナイテッド93」や、ニューヨークでの事故を実写化した「ハドソン川の奇跡」などの事故そのものを描いたドラマ、「バルカン超特急」を飛行機内で描いたといわれる「フライトプラン」や、犯行予告に翻弄される捜査官を描いた「フライト・ゲーム」などのサスペンス系、はたまたヘビがジャンボをジャックする「スネーク・フライト」などのB級ものなどが挙げられるかと思います。
今回鑑賞するのは、アクションもサスペンスも、そしてドラマも絶妙な塩梅で描いた、お隣韓国発のフライトパニックアクション。
なんでも、バイオテロによってウィルス輸送機と化した飛行機を着陸させたいけど、着陸させたらパンデミックになっちゃうという救済措置のない状況に、人々はどう決断するのかというハラハラドキドキなお話。
もう詰んでますよこの状況、どうするんですか…。
安定と信頼の韓国映画発パニックアクション、早速観賞してまいりました!!
作品情報
「パラサイト 半地下の家族」、「ベイビーブローカー」のソン・ガンホと、「G,I,ジョー」シリーズ、「ターミネーター:新起動/ジェニシス」などハリウッド映画でも活躍するイ・ビョンホンの韓国2大スターが共演するフライトパニック映画。
飛行機内で起きたバイオテロに巻き込まれた飛行機恐怖症の男と、地上でテロの捜査を行うベテラン刑事、感染者を乗せた飛行機を着陸させるか否かの判断を迫られる大臣を軸に、前代未聞の事態を前に、究極の選択を迫られた人たちの決断と被害にあった人たちの恐怖を描く。
「優雅な世界」、「ザ・キング」のハン・ジェリム監督が、航空パニックと政治スリラー、そして人間ドラマというジャンルの掛け算によって、1秒たりとも見逃せないスリリングな作品に仕上げた。
2大スターのほかにも「シークレット・サンシャイン」、「藁にもすがる獣たち」のチョン・ドヨン、「殺人者の記憶法」のキム・ナムギルなど実力派俳優が集結。
助かる道を模索しながらも、ちらつく死への不安という葛藤を、感情たっぷりに演じていく。
感染を防ぐためには飛行機を墜落すればいい、しかし…
乗客を助けるのか、国を助けるのか。
命の重さを問うパニックアクション映画です。
あらすじ
娘とハワイへ向かう飛行機恐怖症のジェヒョク(イ・ビョンホン)は、空港で執拗にふたりにつきまとう謎の若い男(イム・シワン)が、同じ便に搭乗したことを知り不安がよぎる。
KI501便はハワイに向け飛び立つが、離陸後間もなくして、1人の乗客男性が死亡。
直後に、次々と乗客が原因不明で死亡し、機内は恐怖とパニックの渦に包まれていく。
一方、地上では、妻とのハワイ旅行をキャンセルしたベテラン刑事のク・イノ(ソン・ガンホ)が警察署にいた。
飛行機へのバイオテロの犯行予告動画がアップされ、捜査を開始するが、その飛行機は妻が搭乗した便だったことを知る。
また、テロの知らせを受けた国土交通大臣のスッキ(チョン・ドヨン)は、緊急着陸のために国内外に交渉を開始する。
副操縦士のヒョンス(キム・ナムギル)は、乗客の命を守るため奮闘するが、飛行を続けるタイムリミットが迫り、「非常宣言」を発動。
しかし、機体はついに操縦不能となり、地上へと急降下していく。
見えないウイルスによる恐怖と、墜落の恐怖。高度28,000フィート上空の愛する人を救う方法はあるのか—?!(HPより抜粋)
監督
本作を手掛けるのは、ハン・ジェリム。
本作の主人公を務めるソン・ガンホとは、愛する家族と仕事に葛藤する暴力団員の姿を描いた「優雅な世界」、15世紀中期の朝鮮王朝を舞台に、何でも見抜いてしまう男によって覇権争いにまで発展してしまう歴史ドラマ「観相師」の過去2作でタッグを経験。
今回も抜擢したことから、二人が息の合った作品になっていることでしょう。
10年前に企画されたという本作は、現在も続くパンデミック事態を予言をしたかのような作品として注目を浴び、本国でナンバー1ヒットを記録したり、カンヌ国際映画祭でも出品されるほどの影響を与えたとのこと。
また災害によって自分だけが助かりたいがために愚かな行為をするキャラを描くことで、災害に打ち勝つことの最善策は何かを伝えたかったとのこと。
一体どんな作品になってるか楽しみです。
キャスト
本作の主人公ク・イノを演じるのはソン・ガンホ。
「殺人の追憶」などでも刑事を演じてましたが、今回は妻の安否を心配しながらも捜査しなくてはならないベテラン刑事の役。
旅行をキャンセルしなければ自分も飛行機に乗っていた、むしろ妻を行かせないこともできたわけで、多くの後悔を背負いながらも事件を防がなくてはならない、終いにはウィルスに感染した飛行機を墜落させるか否かという究極の選択を目の当たりにするという、とてもきつい役柄です。
これまで数多くの作品で心揺さぶる役を演じてきた彼ですから、今回も素晴らしいお芝居で我々を楽しませてくれることでしょう。
他のキャストはこんな感じ。
パク・ジェヒョク役に、「KCIA 南山の部長たち」、「白頭山大噴火」のイ・ビョンホン。
キム・スッキ国土交通省大臣役に、「スキャンダル」、「ハウスメイド」のチョン・ドヨン。
ヒョンス副操縦士役に、「殺人者の記憶法」、「感染家族」のキム・ナムギル。
リュ・ジンソク役に、「名もなき野良犬の輪舞」のイム・シワン。
ヒジンチーフパーサー役に、「ザ・キング」、「モガディシュ 脱出までの14日間」のキム・ソジン。
パク・テス大統領府危機管理センター長役に、「探偵なふたり」、「ベイビーブローカー」のパク・ヘジュンなどが出演します。
「新感染」を思わせるウィルスパニックですが、こっちはリアル路線だし着陸もできないわけですからもっと過酷です。
一体どんな物語になっているのでしょうか。
ここから観賞後の感想です!!
感想
#非常宣言 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2023年1月6日
新年1発目に景気の良さげなの選んだわけだが、こんなにも面白いとは!!
空にイ・ビョンホン、地上でソン・ガンホの2大スターが乗客の命を救うために奔走!
押し寄せる絶望と希望の連発でオレ翻弄!
もう飛行機に乗りたくなくなりましたあ!ww pic.twitter.com/EMqXGYUuzp
バイオテロ怖ぇ!
揺れまくる飛行機怖ぇ!
着陸拒否怖ぇ!
誰かの選択がこんなにも恐怖を与えるってホント怖ぇ!
以下、ネタバレします。
高度28000フィートでの感染爆発とか最悪っしょ
航空機内で起こったバイオテロにより命の危険にさらされていく乗客たちと、事件を解決するために奔走する刑事や政府の人間たちの姿を描いたパニックスリラーは、全ての命令を排除できるはずの「非常宣言」が通用しない現実を浮き彫りにさせながら、誰かの選択によって、命を簡単に操作できてしまう空気によって絶望にも希望にも繋がる展開にハラハラドキドキさせると共に、俺もう絶対飛行機とか乗りたくないんですけどぉ!とも思わせるほどリアルな演出に、さすが韓国映画!と唸った作品でございました。
2023年1発目ということでド派手で景気の良い映画を選んだわけですが、実際蓋を開けてみたら、最高に面白かったと同時に胃がキリキリするほどの緊張の連続と、何度ため息をついたかってくらい押し寄せる絶望、そこに一滴の希望を垂らすことで、乗客も俺も延命措置を受けたみたいな安堵が何度も押し寄せ、長尺だったのに中弛みが全然感じない、あっというまの140分でした。
構造としましては、航空機内での出来事と同時に地上での出来事が描かれるカタチ。
機内に乗った怪しげな人物を危険視するイ・ビョンホンの娘の視点から、テロ予告動画と妻の海外旅行が気がかりになり、捜査に乗り出すソン・ガンホの視点を軸に、スリリングな劇伴とタメを使って丁寧に事件の勃発を描いていく序盤が素晴らしい。
そもそも本作は、テロを起こす犯人を最初から見せているので、フーダニット的な犯人探しをするミステリーサスペンス映画ではありません。
動機に関しても明確にわからない設定になっているので、内容としては「テロが起きた時人はどうすればいいのか」に重きを置いた映画でした。
車や電車でウィルスが飛散した場合、誰かが外に出てしまうハプニングによって物語の風呂敷が大きくなって収集できなくなったり回収できない状態になって、散漫な脚本になりがちだと思うんですが、本作は飛行機内という密室、さらに空の上を飛んでるわけですから、誰も外に出ることができない完全な密室となっており、犯人も早々に退出する設定になってるので、ガチで「どうしたらいいのか」判断できないし解決できない最悪の状況を生み出してるんですよね。
この状況を打破するために体張って頑張るのがソン・ガンホ演じるク刑事で、奥さんを助けたい一心ではあるモノの、刑事としての職務を法を犯してでも果たしたい執念を見せるベテランの底力を見せてくれました。
彼を中心にした事件を解決に導こうとする人たちが地上にいることで、身動きの取れない飛行機内の人たちを動かすような展開が面白かったと感じました。
また、機内では最初こそトイレにウィルスをばら撒いただけでしたが、正体がバレたことで機内にもばら撒き始めたことでウィルスが拡散、乗客やCA、パイロットにまで被害が及ぶまでに広がる始末。
飛散した粉末状のウィルスを吸ってしまったり誰かに付着したりすることで、一気に広がっていくわけです。
やがてそれは機長が食べる食事にまで付着し、隔離されてるはずの操縦席もウィルスだらけになり、機長が意識を失うことで機内が一気に傾き急降下。
それによって乗客の髪が横になったり、立っていた人がグルグル回転したりするなど、ウィルスどうこう以前に大パニックと化してしまう怒涛の展開!
しかも着陸予定のホノルルでは着陸拒否まで出されるという、らちがあかない状態にされたり、それによって地上でも落胆の空気となり、次の一手すら探せない状態。
犯人の経歴を調査し、以前勤めていた製薬会社まで突き止めたは良いモノの、礼状を出せずに調査に踏み込むことができず四苦八苦。
製薬会社に勤める社員からのリークによって、抗ウィルス剤への手がかりがつかめると思いきや逃げられたり、そこから再び糸口をつかむも、今度は政府が躊躇しだすなど、一分一秒を争う事態にも拘らず、希望を見出すことができない状態が何度も続くんですね~。
こうした絶望な瞬間が本作では何度も押し寄せては希望を見せていくので、こっちの気持ちも沈んだり浮かんだりと、何度もかきむしられましたw
感染爆発よりも怖いモノ
本作の中盤以降、ある人物の素性が明かされることによって航空機内にも微かな希望が見えてくるしかけを施してるのが、本作の上手い所であったと同時にハリウッドっぽいなぁと懐疑的に思ってしまったわけですが、それよりも本作の一番の肝は、監督が語っていたように「災害から逃れたい、助かりたいと願うあまり愚かな行為をしてしまう人たち」を徹底して描いたことだと思います。
劇中ではまずアメリカ政府が着陸拒否を命じます。
もはや移動する巨大なウィルス兵器といっても過言ではない飛行機と化してしまったわけで、外側の人たちからしたら受け入れられるわけないわけです。
また国としても自国民の安全が最優先であるのは当たり前ですから、国として非情と言われても仕方のない決断をするのはやむを得ないと。
また飛行機は終盤、燃料の問題やパイロットの健康状態を考慮して「非常宣言」を発動します。
これは冒頭でも説明があった通り、機内で問題が起きた場合機長が発動できる措置であり、他の航空機よりも優先して着陸出来たり、あらゆる命令を無視することもできる超法規的措置みたいなものだと。
それを発動して成田空港に着陸しようとしますが、日本もアメリカ同様同じような理由で着陸を拒否。
強硬手段に出るも、領空侵犯と見做されて航空自衛隊を出動させ、威嚇射撃までしてしまうんですね~。
多分現実問題としてこんなことが起きたら外側にいる僕らも「いやいや着陸してほしくないから」と思うんですけど、映画の中の乗客たちの姿を見てるわけですから、気持ちとしてはアメリカも日本も非常宣言に対して非情宣言してんじゃねえよ!って憤るんですよねw
そして何とか韓国まで引き返した飛行機でしたが、更なる問題が勃発。
今度は韓国に住む地上の人たちまでもが「着陸するな!」と拒否するわけです。
実際問題、抗ウィルス剤はこの時点で見つかってはいるものの、ウィルスが変異してる可能性もあり確実性は低いと。
要は着陸してもただウィルスを広げてしまうだけだと。
拒否をしたい気持ちも分かりますが、デモを起こしてまですることかと。
実際コロナが日本に入ってしまった時も、船内で感染した人たちを陸に上げてしまったことがきっかけで拡散したとか言われてますし、そこの水際対策を政府が見誤った体なんて言及してる人もいたわけで、着陸させるかどうかは決断を迫られる政府側としても国民としても非常にデリケートな問題ではあるんですよね。
何が言いたいって、乗客たちの気持ちですよ。
何の罪もない乗客が、何考えてんだかわかんねえテロリストによって感染しちゃって、外部から煙たがられてしまうわけですよ。
ただでさえいつ死ぬかわからない恐怖にさいなまれてるのに、「近寄らないで!」って言われて、どんどん「そうだ、着陸しなきゃいいんだ・・・」って自分を責め過ぎて一番決断しちゃいけない決断をしちゃうっていう。
タイトルの非常宣言てのは、航空業界の専門用語でもあるけれど、違う意味での「非常宣言」を乗客たちはしてしまうわけですよ。
さすがにこのシーンは胸が痛くなりましたね…。
ぶっちゃけさ、映画ってバットエンドってなかなかないわけで、結局助かるんでしょ?って考えが頭の片隅に根付いてると思うんですよ。
でもこの映画は、マジで「あれ…これマジで助からないかも…?」って何度も思わされるんですよ。
もちろん機内でも「感染の疑いがある人」と「そうでない人」で席を隔離するような件があるんですけど、ここで「そうでない人」たちによる「感染の疑いがある人」への扱いだったり、自分が助かりたいがために愚かな行為をしてしまう人をしっかり描くんですよね。
実際コロナ禍になりたての頃は、皆かかりたくない一心でしたし、電車内でマスクをしていない人を非難したり、咳をしただけで過剰に反応して激昂したりする人をニュースで見かけたわけで、パンデミックによって誰かを傷つけるような行為をしがちだったわけです。
そうした状況の中、一体どうすればいいのかってのを見出すための作品だったのではないかと。
答えはもう凄く単純で「希望をすてないこと」なんじゃないかと。
あらゆる可能性を探してすぐ決断することなんじゃないかと。
何でも簡単に切り捨てればいいのではなく、刻一刻と迫るリミットの中で「全員が助かる術」を必死で探し出すことなんじゃないかと。
確かに劇中では自己犠牲に走る人物もいるし、本来ならそうした選択をせずに全員が助かる可能性を見つけ決断するのがベストだけれど、何度も言うようにタイムリミットが迫っている状態でしたから、その人の選択がなかったら歴史上に残る悲劇を招いたわけですから。
最後に
極限状態になると人はどうなってしまうのかという心理描写や、キャラクターの隠された設定や関係性を使ってドラマチックに見せる脚本、また政府の人間たちによる緊迫したやり取り、そして揺れる機内やカーチェイスなどのアクション描写などなど、やはり韓国映画は面白いモノを作って見せたいというエンタメ精神が長けたジャンルだと改めて感じた映画でした。
ラストシーンとエンドロールでかかる曲によって、これまでの悲劇を柔和させてくれる効果があったと同時に、こうした事故事件を二度とおこさないため、また後処理の中で何を教訓とすべきかを考える余地を与えてくれた作品だったとも感じます。
災害が起きた時、我々は何を選択し決断し実行すればいいのか。
1つの選択が大きな過ちを起こさないためにも、災害に打ち勝つための最善策を用意しておかなければいけないのだと。
しかしさぁ、あのテロリスト、脇の下切ってカプセル仕込ませるって芸当はいいとしてさぁ、何で血が白シャツに一滴もついてねえんだよw
ガーゼがにじんでるくらい出血してるんだから普通シャツに着くだろうw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10