密航者
われわれ人間が生息するには到底未来の話である「宇宙」。
環境的に適していないために、あらゆる科学の技術を結集し、相当の訓練を受けなければ宇宙空間で活動するのは困難。
そんな場所で想定外のことが起きてしまった場合、一気に死と隣り合わせと化してしまうのが映画ではよく見受けられます。
「2001年宇宙の旅」を筆頭に、「エイリアン」、「惑星ソラリス」といった名作から、「ゼロ・グラビティ」、「サンシャイン2057」、「月に囚われた男」、「ライフ」などなど、未知との遭遇や閉鎖された空間によって宇宙空間やシャトル内は一気にホラーと化してしまうのが非常に面白いですよね。
今回鑑賞する映画は、3人乗りのシャトルになぜかもう一人紛れ込んでいたことで起きる宇宙スリラー。
そうです、3人分の酸素しかないのに4人でどう生き延びるのかがコンセプト。
早速自宅で鑑賞いたしました!!
作品情報
火星探索宇宙船に乗り込んだ3人以外に生存者が現れたことで生命の危機に瀕してしまうSFスリラー。
北極で遭難した男がサバイブする姿をマッツ・ミケルセン主演で描いた「残された者」で映画監督デビューを果たしたジョー・ペナが、今度はスペースシャトルを舞台に決死のサバイバル劇を描く。
演技に歌に定評のある女優をメインに、「へレディタリー/継承」で脚光を浴びた女優、TVドラマシリーズ「LOST」での活躍が記憶に新しいアジア系俳優らを迎えた本作。
彼らによる密室でのアンサンブル劇を、監督がどのように演出するのか。
トム・ゴドウィン原作の「冷たい方程式」の設定にも似てると、既にSNSで話題の本作。
果たして、4人は無事火星へとたどり着くことができるのか。
監督
本作を手掛けるのは、ジョー・ペナ。
今回初めて名を知った方。
ブラジル出身の監督さんだそうで、音楽とストップモーションを組み合わせたYouTubeチャンネルが人気とのこと。
アヴィーチーの代表曲「You Make Me」のPV監督もされたとか。
デビュー作は「残された者~北の極地~」。
北極で遭難した男が、寒さと飢えと肉食獣に囲まれながら「生」への戦いを余儀なくされる孤独なサバイバルドラマ。
主演したマッツ・ミケルセンもここまで過酷な撮影はないと語るほど、リアルにこだわった作品なんだそうです。
本作も舞台は違えど、限られた空間で「生」への戦いを強いられていく4人を描くので、デビュー作と同じようなリアルな臨場感を堪能できる気がします。
キャスト
医師のゾーイを演じるのは、アナ・ケンドリック。
今回鑑賞しようと思ったのは、大好きな彼女が出演しているからというのが一番の理由。
「マイレージ・マイライフ」以降色んな作品に出演していますが、SFモノは初めてなんじゃないでしょうか。
近年では「ザ・コンサルタント」、「ピッチ・パーフェクト」シリーズ、「シンプル・フェイバー」などでヒロインや主人公として、ユーモアな掛け合いや歌など多彩な顔を見せてますが、本作は久々にシリアスな彼女が堪能でき出そうですね。
彼女に関してはこちらをどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
船長のバーネット役に、「へレディタリー/継承」、「ナイブズ・アウト」のトニ・コレット。
船内で見つかった技術者マイケル役に、「ストレイ・ドッグ」、「栄光のランナー/1936ベルリン」のシャミア・アンダーソン。
生物学者キム役に、TVドラマシリーズ「HAWAII FIVE-O」、「LOST」のダニエル・デイ・キムが出演します。
相当な準備をして臨んだ火星移住への第一歩。
彼らは命を優先するのか任務を優先するのか。
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
Netflix映画「密航者」。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2021年4月22日
火星に向けて3人で旅立った宇宙船に、もう1人の乗組員。
生命維持装置の破損により、残る酸素は3人分。
4人はどんな決断を下すのか。
船内を宇宙船地球号で例えると、今世界が何をすべきかが透けて見える気がする、SFドラマ。 pic.twitter.com/6JBqCJu5lI
潤沢な予算によって宇宙空間をリアルに再現した本作は、安易に他者を切り捨ててしまうような昨今の風潮に一石を投じた内容とも取れる映画でした。
以下、ネタバレします。
大まかなあらすじ
地球人が火星に移住可能にするための壮大なミッション。
船長、研究者、医師の3人が、入念な準備と訓練を経て、宇宙空間へと旅立つところから物語は始まる。
ロケットが発射するや否や、メインエンジンが作動しないアクシデントが発生。
管制塔に太平洋岸に着陸できるよう緊急着陸スイッチを押す準備をする船長のバーネットだったが、管制塔は「メインエンジンが作動しなくても母船にドッキングが可能なため、ミッションを続行せよ」との指示。
無事大気圏を突破した面々は、人口重力を作動すべくロケットを回転。
研究者のキムが嘔吐を繰り返すほどの負担がのしかかる中、バーネットの巧みな技術によって無事ロケットは母船にドッキング成功。
未だ隊長のすぐれないキムであったが、無事母船にたどり着いたことに安堵。
3人は火星に向けて準備と作業に取り掛かる。
地球から飛び立って数時間が立ったあと、管制塔に向けて今の心境を語る面々。
人類が更なる進歩をするための壮大なミッションに参加できたことに、興奮と緊張を隠せない彼らは、火星到着までの2年間という長い期間を見据え、トレーニングや研究に余念がない。
船長のバーネットは、機材チェックの最中、床にこびりついた血痕に目がつく。
真上には二酸化炭素除去装置。
火星到着までの命を保つ重要な装置であるが故に、バーネットは電動ドライバーでパネルを開く。
すると中から大怪我を負った状態で気絶している乗組員が落ちてくる。
とっさの判断で抱えたバーネットは、すぐさまクルーを呼ぶも、左腕を損傷。
医師のゾーイはキムと共に、急いで救護室へ搬送。
応急処置にかかるのであった。
ゾーイの的確な応急処置によって一命をとりとめた男の名はマイケル。
母船の切り離しに重要な作業を請け負っていたサポート技術者だったが、気絶したままパッチ内に閉じ込められ、意識を失ったまま現在に至ってしまったとのこと。
ひとりぼっちの妹を地球に残したまま宇宙へと旅立ってしまう羽目になったマイケルは、何とか地球に帰還できないか船長のバーネットに懇願するが、帰還する燃料もなければ、莫大な費用の掛かった壮大なプロジェクトを今更中止して引き返すわけにはいかない事情もあり、このまま残ってもらうしかないことを告げる。
平静を取り戻したマイケルは、船長やクルーたちに、宇宙空間での訓練は受けていないものの、今自分にできることをさせてほしいと願い出る。
こうして4人で火星へと向かうことになった一行は、宇宙食で乾杯し、着々と研究に取り掛かるのであった。
しかし、マイケルが閉じ込められていた二酸化炭素除去装置は、彼を救助した時に発生してしまったショートが原因で機能しない状態に。
これが起動しなければ、火星到着までに酸素が無くなり、全員が目的を果たすことなく息絶えてしまうことに。
バーネットは管制塔にこちらに技術者を向かわせることができないか訴えるも、あまりにも速い速度で目的地へ向かう母船に、今から技術者を向かわせても追いつくことができないことを筆頭に、お手上げであることを告げる。
窮地に立たされたバーネットは、ゾーイとキムに現状報告。
水産リチウムを使えば一時的に酸素を供給できるものの、その場しのぎであること、技術者をこちらに向かわせることは不可能、さらに装置を復旧させることも不可能という三重苦。
バーネットは取り急ぎ研究者のキムに対し、火星に持っていくために育てている植物を一旦処分し、酸素を生成できる「藻」の培養を最優先に行うことを指示。
しかしキムは、これまで人生の全てを費やしてきた研究を、酸素が足りないという理由で処分するにはあまりにも不服であることや、藻を培養しても供給できる酸素は半分程度であることを指摘。
それでも人命を最優先にしなければ研究どころではないことを強調。
そもそも2人用の宇宙船を改造して3人用にした船に、さらにもう一人加わることになったのであれば、4人でこの危機を乗り越えるしかない。
また管制塔が下した決断は、マイケルを船から降ろすこと。
残りの酸素を計算すると、もって20日。
懸命に4人が生き残る術を見つけることが重要であるゾーイの意見をいったんは保留し、キムの研究を中断して酸素の確保の可能性に賭けることになる。
こうして4人は火星に向かう以前に、酸素の確保に向けて動き出していく。
どうしても「藻」の培養が上手くいかないキムは、秘密裏にしていた内容をマイケルに打ち明け、ゾーイの荷物から盗んだ薬物で自決するようマイケルにほのめかす。
このことを知ったゾーイは憤慨。
やはり4人が生き残る術をやれるだけやってみることが先決であることを促す。
母船に繋がれたキングフィッシャーなる装置に液体酸素が搭載されていることに着目したゾーイは、それを酸素の足しにできると主張。
議論を重ねた結果、4人の人命を確保するためのミッション「液体酸素を取りに行く」作業に取り掛かる。
450m先にあるキングフィッシャーまで足を運ぶには、これまで受けた訓練以上の技術が必要であると同時に、接続された太陽光パネルを損傷すれば、電力の供給もストップしてしまうことから、細心の注意を払って向かわなければならない非常に難易度の高いミッションであることを告げる。
キムとゾーイは宇宙服に着替え、船外作業に取り掛かっていく。
漏れてはいるものの、無事液体酸素の確保に成功した二人だったが、太陽嵐が襲う事態に発生。
このまま太陽嵐に遭遇すれば、大量の放射線を浴びる羽目になり、命の保証はない。
ボンベに酸素を吸入したゾーイは、もう一本のボンベを見捨て、急いで船内に戻ることに。
しかし、ロープを伝って降りるスピードが加速したことで、落ち着いて着地できず、ボンベを手放してしまう。
命綱であった液体酸素は、無残にも宇宙空間を彷徨い、4人は成す術なし。
果たして4人はこのまま息絶えてしまうのか。
それともまだほかに策はあるのか。
孤立無援と化した船内で、彼らは究極の選択を迫られていく。
・・・というのが3分の2程度のあらすじです。
切り捨てることは容易だ。だからこそ。
任務を優先するがあまり起こってしまう不測の事態に、取り残された者たちは何を最優先に決断すればいいのかを、宇宙船内という密室を舞台に描くSFスリラー。
正直色々不可解な点はあります。
その辺はあとで書くとして僕が本作を見て感じたことは、トランプ政権発足以降、自国の利益を最優先に移民やマイノリティといった弱者を切り捨て分断を図ろうとする政府の意向に、果たして切り捨てることは正しい事なのかを問う作品だったように思えます。
保身のために何かを切り捨てること。
確かに理に叶った策です。
これまで歴史の中でそういった決断をしてきたことが多々あったと思います。
しかしそれによって誰かが犠牲にならなければいけない。
多様性を重んじることや、人類みな平等の精神が今こそ必要だと叫ばれる昨今、誰かが犠牲になることが果たして本当に理に叶っているのか。
弱者とはいえ一人の命。
救えることができるのであれば、最善を尽くすことが残された者たちの命題なのではないでしょうか。
本作では白人、黒人、アジア系と様々な人種が一つの船内でコミュニティを形成しています。
たまたま乗り込んでしまったのが黒人であることや、彼を切り捨てて酸素を確保するような安易な方向に流れていくのが、正に今のアメリカの現状とも考えられる設定。
本作から考えさせられることは、保身のためにコミュニティを保つために、誰かを追いやることがどれだけ愚行であるか、また、切り捨てるという選択を安易にしてしまいがちな「最後まで考えようとしない」我々に、最後まであきらめずに救うことの大切さを伝えた作品だったのではないでしょうか。
監督の、そんなメッセージ性が詰まった作品だったように思えます。
リアルな宇宙空間。
冒頭でロケット発射時から、広々とした母船、キングフィッシャーから液体酸素を運ぶミッションなど、細部にわたってリアルを感じさせる宇宙空間を表現していた本作。
きっとネットフリックスだから出せる潤沢な予算によって、ここまで表現できたのだと感じます。
特に序盤では、母船の中を長回しで撮影していました。
ということは、船内は実際にクルーが移動できるような実寸大のセットを組み立てていたんだってことが見えると思います。
また、船外作業でのシーンも無重力を表現できるような撮影技術。
特に終盤の太陽嵐は緑色の波をオーロラのように映し出しており、これまで密室劇のせいでSF作品であることを忘れさせていた内容になっていたものの、本作がしっかり「SF作品」だということを思い出させてくれるシーンだったように思えます。
また劇伴も彼らの身に起きるアクシデントやハプニング、閉鎖された空間で葛藤する彼らの心情を、不協和音や激しく弾く弦楽器を主とした音楽になっており、スリラーらしい演出になっていたと思います。
いくつかの矛盾に対する解釈。
そもそも本作、火星移住に向けて入念な準備とクルーに過酷な訓練を与えるほど壮大なプロジェクトなわけです。
にもかかわらず、母船に一人残したまま進行するってことがあり得ない。
普通ですよ、人間が生存に適していない環境で作業させるわけですから、人命は最優先のはず。
なのに負傷した技術者を残したまま、プロジェクトを進めるのが意味が解らない。
そもそも点呼ってしてたんですかね。
してないってことですよね。
それだけ管理が雑だってのが本作では「大きな矛盾」に感じるんです。
また、管制塔の指示は絶対なのも不可解。
冒頭でメインエンジンが作動しないことに危機感を持った船長が、緊急着陸スイッチをスタンバイしていたにもかかわらず、管制塔の指示は任務の続行。
もうここでこのプロジェクトを推進するお上は、人命などどうでもいいように思えてくるんですね。
恐らく莫大な予算をかけてのプロジェクトであるが故に、今更この状況で引き返すとか中断とか中止とかありえないんでしょうね。
何としてでも強行しなければ内々、のっぴきならない事情が裏であったように感じます。
宇宙プロジェクト以外にも、こういう事例ってありますよね。
大きなことを成し遂げるためには、多少の犠牲はやむを得ないみたいな。
進んでしまった船は、引き返すわけにはいかない。
でもその選択は本当に正しいのか。
トラブルが発生した時は、全員の人命を最優先に物事を見極めなければいけないのではないか。
船長の独断で引き返せばいいのにとも思えるんですが、劇中では引き返すための燃料がない事も告げてるんですけど、いざという時のための備えが無いのも正直矛盾してるんですよね。
でもこのような設定や矛盾が、普段我々が過ごす社会と結びつく例えになっていたような気がします。
変な話、コロナ禍で密集すればパンデミックが起きるかもしれないと言われてる中で、東京オリンピックを何としてでも開催しようとする政府や委員会の利益優先の考えも、本作に当てはまったりするというか。
深読みかもしれませんが、そんな作品だったのではと感じました。
最後に
本作の着地点は「自己犠牲」にたどり着くんですけど、もうちょっと他に選択肢はなかったのかなとは感じます。
ある人物が他の3人を助けるために下した決断は、非常に悲しいものではありますが、僕が感じたことや解釈が正しければ、全員が救われるような出口にしても良かったのになぁと。
実際これが現実なんだよ、と言われると納得はできるのですが、せめて希望を見せるラストにすることで、あらゆる大きな事案に対して問題提起できるのになぁと。
実際問題難しいですよ。
誰かを切り捨てることほど楽な決断はないし、全員が救われる選択をするには相当な時間と苦労が生じてしまう。
しかもダメなら全員が共倒れしてしまう可能性だってあるわけで。
一応最後に自己犠牲を選択した人物は、劇中でやらしてしまった責任を取ろうとしたのかもしれません。
自分があそこでミスしなければ全員が助かった、なのに、と。
こういう場合、ホントは管制塔でふんぞり返りながら支持してるジムが責任取ればいいのになぁなんて思ったりもしましたw
色々思うところがあっての感想になりましたが、緩急が弱いのと、観る前に抱いていた「4人目の乗組員は事故なのかそれとも」みたいな疑心暗鬼に駆られるスリラーだと予想してたのに、がっつりヒューマンドラマだったんで、ちょっと拍子抜けしてしまいましたw
とはいえ、宇宙空間の描写は見て損はないかと。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10