ドールハウス
人形を題材にしたホラー映画といえば真っ先に浮かぶのは「チャイルド・プレイ」。
連続殺人犯の魂がチャッキーという名の人形に憑依し、様々な殺戮を試みるホラー映画として大ヒットし、シリーズ化までされました。
他にも「アナベル」シリーズ、ニコラス・ケイジがアニマトリクスとバトルする「ウィリーズ・ワンダーランド」、AIを駆使した人形で続編が製作される予定の「MEGAN ミーガン」など、どれもホラーアイコンとして有名な作品ばかり。
そんなハリウッド映画に対抗したのかはわかりませんが、日本でも「人形ホラー」が爆誕。
ただひとつ不安なのは、本作が上に挙げたハリウッドホラーのような雰囲気ではないということ。
あくまで「ドールミステリー」なので、ホラー要素は薄いのかもしれません。
というわけで早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の矢口史靖監督が長澤まさみを主演に迎え、亡き娘に似た人形に翻弄される家族の恐怖をオリジナル脚本で描いたミステリー映画。
5歳の娘・亡くした主人公が、骨董市で娘によく似た愛らしい少女人形を手に入れたことが発端となって、一家に奇妙な出来事が起こり、やがて恐怖に見舞われていく姿を、「人形の謎を追う」ミステリーを軸に見せていくスリリング満点の作品。
ギレルモ・デル・トロやアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ジョージ・A・ロメロなど歴史に残る名作を撮ってきたそうそうたる監督たちも受賞したポルト国際映画祭の最優秀作品賞を受賞した本作。
いつかオリジナルでミステリーをやりたいとアイディアを練っていた矢口監督は、本作に多数の「怖い仕掛け」を施したとのこと。
娘を亡くした母親・佳恵役には、監督作「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」以来のタッグとなった長澤まさみが演じる。
脚本にほれ込んで出演を決めたという長澤は、意外にもミステリー映画は初とのこと。
他に看護師の夫・忠彦役を、「コンフィデンスマンJP 英雄編」、「スオミの話をしよう」の瀬戸康史、呪禁師・神田役を「ハッピーフライト」、「正体」の田中哲司が、私服警官・山本役を、「愛しのアイリーン」、「35年目のラブレター」の安田顕、忠彦の母・敏子役を、「愛に乱暴」、「知らないカノジョ」の風吹ジュンが演じる。
コメディ映画を軸に制作してきた監督が、満を持して挑んだミステリー映画。
長澤まさみがくりだす「ムンク顔」はかなり恐ろしいとのことだが、果たして。
あらすじ
5歳の娘・芽衣を亡くした鈴木佳恵(長澤まさみ)と夫の忠彦(瀬戸康史)。
哀しみに暮れる佳恵は、骨董市で見つけた、芽衣によく似た愛らしい人形をかわいがり、元気を取り戻してゆく。
佳恵と忠彦の間に新たな娘・真衣が生まれると、2人は人形に心を向けなくなる。
やがて、5歳に成長した真衣が人形と遊ぶようになると、一家に変な出来事が次々と起きはじめる。
佳恵たちは人形を手放そうとするが、捨てても捨てても、なぜかその人形は戻ってくる…… !
人形に隠された秘密とは?そして解き明かされる衝撃の真実とは―― !?(HPより抜粋)
感想
東宝から招待され #映画ドールハウス 試写。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) May 30, 2025
亡くした娘の代わりとなった人形が、家族をとんでもない目に巻き込む。
物語が転がる転がる!キャラの役割と見せ場がちゃんとあるのも良い!
俺たちの田中哲司が見れたのが最大の収穫!
怖さもあるけど、どんどん楽しくなる展開が最高でした! pic.twitter.com/eIHksnksey
なんだこれむっちゃおもれえ~~!!!
日本人形に翻弄されるだけに留まらず、キャパを拡充し、新たなキャラを投入して物語をガンガン展開させていくテンポの良さよ!!
ホラー好きにはパンチ足りないかもだけど、それ以上に話が面白いんだって!!
以下、ネタバレします。
ホラー映画ではありません。
矢口監督が「面白い脚本見つけたよ~」と言って持ち込んだのは、新人脚本家の「カタギリ」なる男。
これは面白いとほれ込んだプロデューサーがカタギリを検索するも、一向にヒットしない。
なんとフタを開けたらカタギリなる男は、監督本人だったという逸話。
監督は敢えて名を伏せ「物語の面白さ」だけで作品を興行させたい意思があったようだが、残念ながらその目標は果たせず。
とはいえ、その脚本に長澤まさみがほれ込み出演を快諾し、こうして世にでたのだから満足ではないか。
さぁ、その本作の中身についてあれこれ感想をいれつつ解説したいと思いますが、何度も言います「むっちゃ面白かった」です。
いつも僕は映画を見る上で、その尺に合った内容、キャラの使い方や見せ場の有無、物語のテンポなどを基準に満足度を決めているんですが、本作は僕が決めた基準を見事にクリアしていたのです。
まず物語のテンポについてですが、かなり速いスピードで展開されていきます。
というのも、公式のあらすじでは不気味な人形に恐怖を感じ、何度も投棄するが帰ってきてしまうところまでに留まっていますが、これは本当に序盤の序盤。
最愛の娘を失い、精神を病んでしまった主人公佳恵の前に、天の助けと言わんばかりに現れた古びた日本人形。
最初こそ受け入れがたい光景だったが、それに救われていく妻を見て「ドールセラピー」の一環として受け入れていく。
やがて新たな子を授かり、すくすくと成長していくわが子を見て、再び幸せな家庭の風景を取り戻せたかと思いきや、ままごとの相手として物置の奥から引っ張り出した娘によって、不可解な出来事が続発する。
これを体感時間10分~20分くらいのテンポで一気に畳みかけていく描写は、常にジメッとしたなかでジャンプスケアを放り込んでくるJホラーとはまるで違い、どこかB級ハリウッド映画の装いで我々に提示してくるではないかと。
この「いくら捨てても家に帰ってくる人形」が、やがて事件を起こし、他の人まで巻き込み、古くから都市伝説とされてきた人形であることが明かされ、夫婦で供養するためにとある場所へ向かうという、どんどん舞台の幅を広げていくことで、スケール感が増していくのが、テンポの良さも含めてものすごく楽しいんです。
またなぜそんなに面白いのか、その理由のひとつにキャラの使い方があります。
ポスタービジュアルや予告編では、あたかも長澤まさみの単独主演のように見せてますが、とんでもない。
彼女の出番はどちらかというと前半がメインとなっており、後半からは夫役の瀬戸康史がメインとなっていきます。
これはあの人形が怖いと訴える妻に半信半疑だった夫が、とあることがきっかけで「本当にこの人形はヤバい」ということに気付くことから、彼主体の物語へと変化を遂げていくんです。
ただの役立たずの夫なんかではなく、ちゃんと妻を気遣いながらも一家の主としてリードしながらも、妻のしたいことを受け入れていくという重要な役割があるんです。
だからさ、瀬戸康史ファンは怒った方が良いよw
これ普通にW主演よw
スクリーンタイム的にも。
そして!キャラは二人だけではありません。
夫の母親を演じる風吹ジュンにもしっかり役割や見せ場があります。
入院することになった長澤まさみの代わりに孫の世話をすることになるのですが、あの人形に翻弄されていくという役割をしっかり果たしています。
おんぶのシーンは、怖かったですね・・・。
さらに!このあと事件が勃発することで、刑事役の安田顕が登場。
防犯カメラに不審な映像が映っていたことや、人形の中身を知ったことで物語の中心へと割って入ってくる役割を担っており、その後彼の身に在る出来事が起こるところまで用意されており、メインの2人を軸に、ひとつひとつのシーンやエピソードの主役を脇役にスポットライトを当てて作っているのが、僕はすごく気に入りました。
そして!!一番のお気に入りは田中哲司!!!
彼は日本人形を供養する専門家の様なキャラクターとして登場するんですが、いかにも怪しい感じに見えるけど、ものすごく真面目でとにかくスペシャリティの強い職業を彷彿させる言い回しなんですよ。
「SPEC」で演じていた胡散臭い感じではない分好印象で、簡単に言えば一見バカげた大掛かりな除霊をクソまじめに描いた「来る」のような、日本人形相手にお経を唱えてバトルするような展開があり、個人的には彼が登場するや否やワクワクが止まらず、出来れば最後までいてほしいくらい頼もしいキャラクターでした。
他にもちょい役ではあるモノの、物語を次のエピソードへつなげる重要なポストを担った役柄になっているのが、僕としては最高でした。
そしてそして、さらに面白いのは物語がドライブしていくこと。
ツイストしていくと言っても良い表現だと思いますが、上でも書いたようにどんどん物語が転がっていくのがまた面白いんです。
序盤は家の中で起きた出来事を中心に描かれ、中盤からは夫を主役にバトンタッチして外ロケで物語を膨らませながら終盤の怒涛のクライマックスへと向かっていく。
本作がホラー映画ではなくドールミステリーと名乗っているのには、ただ日本人形でたくさん怖い描写を見せるのではなく、なぜこの日本人形はこの家にやってきて、娘を虜にさせたり、佳恵を狂わせるのか、まるで魂でも宿っているかのようなこの人形はどのようにして作られていったのかを追いながら、この人形をどう処分しなくてはいけないのかといった、まるで呪いを断ち切るために冒険をする羽目になる「リング」のような、ホラーからミステリーへとジャンルを横断するような物語になっているんですね。
もちろんちょいちょい怖い描写もあるんだけど、Jホラー特有の怖さはほぼないし、ジャンプスケアも確かにないわけではないけど、僕としては怖さよりも笑いや面白さの方が勝った印象。
そういう見方もできる作品だったと感じています。
でもやっぱり怖いって。
とまぁ、怖くないよ~アピールをすると怖いもの見たさで興味を示している人の脚を遠ざけてしまいそうなので、僕が「怖っ!!」となったシーンをいくつか解説できればと思います。
まず冒頭がもう陰鬱です。
長女のお友達を招くことになった佳恵はおやつとジュースがないことに気付き、娘に「家から出ないで遊んでね」と言い残し、買いだしに出かけます。
道中怪しい人相の男や、不審者の情報を耳にし、不安を高めていく佳恵。
帰宅すると、既にお友達は帰宅しており、娘だけ姿が見えないことに気付きます。
お友達も「かくれんぼの最中、お母さんを探しに外に出た」と思っており、誰もその姿を見ていません。
近所の人たちにも捜索に協力してもらい、やがて警察まで呼ぶ羽目に。
どんどん大ごとになっていく事態に、不安のピークを迎える佳恵。
夫が注いでくれたお茶をこぼしてしまい、テーブルクロスを汚してしまった佳恵は、それをドラム式洗濯機に放り投げます。
するとなぜか違和感を抱く佳恵。
放り投げたテーブルクロスを引っ張り出すと、そこには窒息死した娘の姿が…。
娘の姿は映っていませんが、今まで見たことのないリアクションをする長澤まさみの表情を見るだけでも、とんでもないショックであることが理解できるショットになっており、これはトラウマ級の怖さだなぁと感じました。
無論この後佳恵は洗濯機恐怖症に陥り、洗濯物は全て手洗いするというトラウマぶりを映します。
かくれんぼの最中、蓋を閉めてしまったことによる窒息死だと思うんですが、当初俺はてっきりお友達の誰かがスイッチを押してしまってバラバラになってるもんだとばかり思ってましたw
さすがにそれはキツすぎですねw
こうした陰鬱なシーンから始まり、メンタルがボロボロの長澤まさみ、人形を手に入れて180度メンタルが回復するもどこか狂気じみている長澤まさみ、新しい子を設けて普段の自分を取り戻すも、その人形に翻弄されて再びノイローゼになっていく長澤まさみと、前半は長澤まさみ七変化の如く、さまざまなまさみを堪能できます(やっぱり笑顔が見たい)。
そして他にも「怖っ!!」となった箇所。
人形を捨ててもなぜか戻ってくることで、徐々に苛立ちが募る佳恵。
生地をこねてクッキーでも作ってるんでしょうか、そんな中誰かが帰ってきます。
早番かと思っていた夫ではなく、そこには目の部分をくり抜いた紙袋を頭にかぶった人形の姿が目に飛び込んでくるではありませんか。
恐怖心でいっぱいになった佳恵は、持っていためん棒でひたすら頭部を叩きまくります。
かなり力を入れて殴っているので、さぞボコボコになったことでしょう。
しかし、カメラはそんな殴りまくっている佳恵の奥も捉えており、そこにはいま殴っているはずの人形の姿がチラチラ映っているではありませんか・・・。
ふと我に返った佳恵は奥にある娘の部屋を覗き、人形が座っていることを確認。
え…なんでそこにいるの…じゃあ私がいま殴っているのは・・・・娘!?
ぎゃああああっ!!!!というシーンでした。
これは一応夢だったというオチがつくわけですが、ここまで不穏な動きを見せる人形が招いた出来事だと認識しているせいで、夢だったなんて到底思えない構成になっています。
さすがにこれは「最悪…」ってなりましたね・・・。
他にも人形を連れて夜中に外に飛び出した娘の行方を捜しに、裸足で端まで向かう風吹ジュン演じるお婆ちゃんに、人形が襲い掛かる姿を防犯カメラがとらえた映像や、5人組の都市伝説ユーチューバーの映像になぜか知らない人が映っているシーンが一瞬映っていたり、人形の怒りを鎮めるために除霊を始める一行が、暗がりの中ポラロイドカメラのフラッシュを利用して人形の暴走を捉えるストロボ演出の際立ったシーンなど、意外と怖い箇所もたくさんあった作品でした。
最後に
クライマックスは、呪禁師の手引きによって成仏へと向かう夫婦が、なんとして成功するも、それだけでは終わらない呪いという「え!?そんな終わり方すんの!?」という驚きもあり、最後まで気が抜けない物語になっていたのも楽しかったですね。
おそらくたくさんの方が疑問に思う箇所も感じる作品で、見終わった後も「あそこって結局どういうこと?」などと語りがいのある作品になっていると思います。
実際、なぜ娘と人形が入れ替わっているのかとか、どうやって人形は家に戻ってきたのか、幻想まで見せてしまう底知れないチカラの理由など、得体のしれない人形の部分を大いに語れるのではないか、または考察できるのではないかと思います。
僕はそういう部分よりも、色々説明されてない箇所があったにせよ、今の大衆映画でこれだけドライブ感のあるオリジナル日本映画を見たのはいつ以来だろうという感心の方が強く、ぶっちゃけ全く持って面白くなかった「ダンス・ウィズ・ミー」から、よくぞここまで取り戻してくれた矢口監督に惚れ直しました。
元々コメディ中心の監督が、全く違うジャンルを描く時点で不安要素はあったんですけど、そんなの全然問題ありませんでした。
なんなら、次回作もこういう実験的且つ挑戦的な作品を作ってくれよと願っています。
きっとキャリア的にも折り返し地点なんでしょうか。
これまで惰性で作ってきたわけじゃないんだろうけど、ずっと温めてきたプロットをこうして今解き放つ意味が、きっと彼の中にはあったんだろうなと、勝手にストーリーを作ってしまっているくらい、良い作品を出せたんだなと思っています。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10