ドミノ DOMINO
「全てを信じてはいけない。」
こんな触れ込みのサスペンス映画を観てしまうと、どうしても色々身構えて作品に没頭できないモンキーです。
どんでん返し系の映画で「うわ~やられた~」という映画が果たして質の高い良作なのかどうかは置いてといて、エンタメという意味ではものすごく楽しませてくれるジャンルだと思います。
そういう意味で今回楽しみにしている「ドミノ」。
どうやらヒッチコック愛をふんだんに詰めた「どんでん返し」系の映画だそうですが、ロバート・ロドリゲスってこれまでそんな映画作ってきてないよなぁ…という不安を感じつつ、早速観賞してまいりました!
作品情報
「デスペラード」や「マチェーテ」、「アリータ:バトル・エンジェル」といったアクション映画から、「スパイ・キッズ」といったファミリー映画、近年ではディズニー+配信ドラマ「マンダロリアン」や「ボバ・フェット」の製作にも携わったロバート・ロドリゲス監督が、大ファンであるという巨匠アルレッド・ヒッチコック監督に影響を受け、構想20年という長い年月をかけて制作、挑戦的なスリラーが誕生した。
最愛の娘が行方不明になり心身のバランスが崩れながらも職場復帰した刑事が、決して捕まえることのできない謎の男の追跡により、深みにはまっていく姿を、革新的な映像と多重構造の物語で見る者を揺さぶっていく。
「めまい」を見て着想したという本作。
ロドリゲスは、ヒッチコックだったらどんなタイトルをつけるかや、まるで存在しないような存在となる敵にいくつもの仕掛けを施すことで、何が現実かわからないような仕組みを作り、「間違えられた男」のような物語にしたほど、巨匠の作品から多く影響を受けたとのこと。
主演には、2023年「AIR/エア」を製作し批評家勢から高評価を受けたベン・アフレック。
監督業もこなすアフレックが、本作の脚本に惚れこんで出演を受諾。
ロドリゲスも、かつてのヒッチコック映画に出演していた大スターのような存在と語るだけあり、彼が登場するだけで見映えする映像は、映画ファンならきっとたまらないだろう。
他にも「スーサイド・スクワッド"極”悪党、集結」、「ソウルフル・ワールド」のアリシー・ブラガ、「アルマゲドン」、「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」のウィリアム・フィクナーなどが出演する。
何が現実で何が虚構なのか、そんな線引きのできない多重構造された現実に、我々は主人公演じるベン・アフレック以上に翻弄されるに違いない。
観終わった後に考察しがいのある本作。
果たして、実態のつかめない男は何者なのだろうか。
あらすじ
オースティン警察の刑事ダニー・ローク(ベン・アフレック)は、最愛のひとり娘ミニーを失った悲しみから立ち直れずにいる。
容疑者が逮捕されたにもかかわらず、彼は誘拐したことも、どこに連れて行ったのかもまるで思い出せないというのだ。
そんなある日、ロークと相棒ニックス(JD・パルド)は、特定の貸金庫を狙った強盗が計画されているという匿名の通報を受け、銀行に向かった。
隠れて監視するロークが目を付けたのは、銀行の外にいたひとりの怪しげな男(ウィリアム・フィクナー)。
その男が隣の見知らぬ女性に話しかけると、女性は突然奇怪な行動を取り始める。
そんな様子を見たロークは急いで貸金庫に駆けつけ、男より先に到着。
目的の金庫を開けると、中に入っていたのはなんとミニーの写真だった。
写真には、「レヴ・デルレインを見つけろ」と書かれている。
ロークはふたりの警官を伴って屋上まで男を追い詰めるも、警官は突然暗示をかけられたようになってお互いを撃ち殺し、男は屋上から飛び降りた。
すぐに見下ろしたが、地面に男の姿はない。
いったい、何が起こったのか。
この出来事がミニーの失踪に関係していると信じるロークは、匿名の通報者の居場所をたどりあてる。
そこにはダイアナ・クルス(アリシー・ブラガ)という名の占い師がいた。
人の心を操る能力を持つ彼女は、男の正体を教えてくれる。
彼とクルスはかつて同じ秘密組織に所属していたというのだ。
そこにミニーはどうつながるのか。
次々に危険が降りかかる中で、ロークはその答を探そうとする。(HPより抜粋)
感想
#映画ドミノ 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) October 27, 2023
え?は?なんで?またかよ!?
それまで見ていた物語を鵜呑みにした私の脳内が、ドミノの如く倒れていく。
ぶっちゃけなんでもありっちゃあアリだけど、幾度も繰り出される裏切りがむっちゃ快感!!
あーこういうの好きだわ〜!! pic.twitter.com/INK63i2jlp
まるで午後ローを見ているかのようなサクっと楽しめちゃう快感。
決して主人公のように「穴」を探してはいけない。
ロドリゲスに脳を「支配」されたまま楽しむのが吉。
以下、ネタバレします。
冒頭5秒で騙される…って1秒で騙されますw
誘拐された娘の居所を知っているかもしれない謎の男を追うことになる刑事が、どんどん術中にハマって翻弄されていく姿を描いたサスペンスモノ。
「冒頭5秒で騙される」、そんなキャッチコピーのおよそが、そもそも始まりの時点が「現実で無い」パターンの多い映画ですが、本作もそのパターン。
こういう触れ込みは、きっと映画を見まくってる人なら察しが付くかと思います。
しかし物語は「実はこうでした」という真実が、「いやホントはこっちです」、「へへ~ん残念でした!ホントはこっちだよ」と、ガキの口喧嘩の如く「後出しジャンケン」的な言い訳を見せつつも、その言い訳連発な物語の構成が徐々に快感となっていく。
気づけばその構図こそ「思い込み」という名のピースが一つ倒れると連鎖して全部倒れていく「どんでん返し」であり、我々が組み立てたドミノは、ロドリゲス監督によってキレイに倒されていく、そんな映画だったと思います。
これほどまでに下手くそな表現で感想を述べていますが、決して傑作とかそういう類の作品ではなく、休日にたまたま付けたTVでやっていた映画が、思いの外楽しかった級の佳作であることが、個人的に嬉しいのであります。
それこそ長尺のハリウッド映画が横行してる昨今、この手の「どんでん返し」な90分の短尺映画を求めていたわけで、そのリクエストに見事にこたえてくれたロドリゲスに拍手しかありません。
こんな物語を長い構想をかけて作ったのに、90分で話が片付く。
その潔さも素晴らしい。
またこの手の映画は、粗を探せば幾らでもツッコめるし、正直世界観や設定も厳密に言えばめちゃくちゃ。
それができるならこっちもできるじゃんという「ああ言えばこう言う」人もきっと出てくると思います。
自分もたまに言いますが、「これはこういうものなんだ」と割り切ってみていくと、あら不思議、意外と没頭できちゃう楽しさがあるじゃないか!と発見できたりするもんなんです。
原題は「HYPNOTIC」
邦題は劇中にも登場する「ドミノ」というタイトルですが、本作の原題は「催眠」を意味する「HYPNOTIC」。
もうね、これを邦題にしなくて大正解です。
色々察しがついちゃいますからね。
予告編をご覧になった方ならお分かりかと思いますが、主人公演じるベン・アフレックが銀行の屋上に行くと、とある男が立っていて、味方だった警備員が突如敵側に付いてしまう。
でもって謎の男は屋上緒を飛び降りると姿を消してしまうではありませんか。
一体あいつは何者で、誘拐された娘は一体どこに?あいつが犯人なのか?って予想がつくかと思います。
実際謎の男は、銀行に行く道中、ベンチの横に座った婦人や、輸送車を警護する男たちに話しかけるや否や、すぐさま自分の配下にしてしまう能力を発動しております。
ベンアフ視点で見ると、本人が言っている通り「あいつらはグルだ」って直感が働くかと思いますが、これが正に「HYPNOTIC」なのであります。
催眠というよりかは一種の洗脳とも取れる力だと思いますが、こんな奴相手にいっぱしの刑事がどうやって捕まえることができるのさってのが序盤の見どころ。
調査が進んでいくと、銀行強盗のタレコミを下相手を特定。
どうも場末の霊能力者かららしく、現場へ急行したベンアフは、彼女の力と追っている人物がどれだけ強い能力を持っているかを知らされていくのです。
霊能力者の名はダイアナ。
彼女もまた「HYPNOTIC」の力を持った女性で、後にベンアフと共に謎の男から追われてしまう身となってしまいます。
何とか謎の男が脳を支配した男から逃げ切り、警察署で身を潜めることになりますが、そこでベンアフは初めて彼女の力を見るのであります。
もうあっという間です。
相手を見つめ、命令をするだけで簡単に操れてしまう。
どうやら彼女はそれをある人物から教わって取得したようで、それは「機関」と呼ばれる組織絡みの問題であることが発覚。
銀行の貸金庫にあった娘の写真と、そこに書いてあった名前をを伝えると、「非常に危険」であることが伝えられるわけです。
実際謎の男は、外で一服していたベンアフの相棒に力を発動し、ベンアフとダイアナを襲おうと画策。
相棒故に銃を発砲できず躊躇していたベンアフを前に、「現実を見ろ」と銃をぶっ放すダイアナ。
もう誰も信用できないような事態の中、二人は全国指名手配となり、謎の男はおろか、警察全体から逃げなくてはならない状態となってしまうのであります。
一体どうしたらいいのか!
・・・って思うじゃないですか。
ここまでの話は、全て「構築された世界」でのお話。
本作は、催眠状態にして脳を支配する能力を持つ者たちによる、いわばサイキックバトルのようなお話だったのであります。
脳を支配しちゃえば、あらゆる人をコントロールでき、最悪ロボットのような軍隊を作って世界まで牛耳れちゃうわけです。
そんな「機関」が存在、そこに能力者として属していたベンアフとダイアナの間に生まれた娘が「とんでもない力の持ち主」であり、組織の重要な駒として使われることに嫌悪感を抱いていたベンアフとダイアナは、逃亡するよりも「機関そのものを内側から破壊する」ことを選択。
娘を実家に隠し、ダイアナの記憶をリセット、ベンアフ自身も記憶の鍵をかけた状態で、敢えて「騙される」身となって、機関と対峙するというからくりだったわけです。
序盤で描かれた物語は、機関が構築した世界にベンアフを閉じ込め、「娘の居場所」を吐かせるために、あの手この手で誘導していたってことなんですね。
この時点ではダイアナは、機関側の人間としてベンアフの近くで操作していたわけですが、中々ベンアフが居場所を吐かないので、四苦八苦していたわけです。
それもそのはず、この拷問は実は12回もトライしたものであり、いくらやってもベンアフは記憶=娘の居場所を吐いてくれないし、何なら構築世界というからくりを見破ってしまうほど、ベンアフもなかなかの能力者だったというもの。
この攻防戦が、後半から後出しジャンケンの如く繰り出されることで、現実だと思っていた世界に、さらに現実世界が上塗りされていくややこしさと、その組み立て具合が逆に心地いいのであります。
色んな映画を彷彿とさせる
敢えて騙される身となって内側から破壊していくという作戦の全容を見ることになる本作。
昨今でも「ゲット・アウト」なんかで洗脳するシーンがありましたけど、パッと見はそういった洗脳系映画の類を見せていく物語だったのかなと思います。
それが徐々に「インセプション」的な虚構世界を見せつけたり、ベンアフにも力があることを明かすと韓国映画の「超能力者」のような、力を持つ者と力を打ち消す者同士のバトルになり、やがてそれが「マトリックス」のような虚構と現実を横行する世界観へと突入。
SF要素じみた作品かと思いきや、そうさせない見せ方によって、じっくりサスペンスモノとして見られたのも、ロドリゲスならではだったのではないでしょうか。
インタビューでも語っていた通り、本作は「めまい」や「間違えられた男」などのヒッチコックからインスパイアを受けたそうですが、とあるシーンでは「うわ~ヒッチコックぅ~」と思ってしまう一面もありましたね。
それがダイアナを背後からハサミで刺そうとするベンアフのシーンだったかなと。
赤や青や緑を淡くした照明によって作られた空間で、めまいを意識したかのような配色で、少々怪しげな「何か起こりそう」な空気感が漂っていましたが、そこでハサミを持ったままゆっくりダイアナに近づくベンアフって姿が、妙にヒッチコックっぽいなぁと感心。
その後ダイアナはハサミを持ったベンアフの姿を姿見で確認、洗脳されている彼を解放すべく口づけをかわすという、緊張と緩和を意識した、サスペンスとロマンスが融合した見事なシーンでありました。
また実際の奥さんが機関によって作られたダミーで、実際はダイアナが奥さんだったという替え玉具合も「めまい」からの影響だったりするんでしょうか。
また組織の内側に入って騙そうとする具合も「引き裂かれたカーテン」に感じたり、「白い恐怖」のような疑惑要素もあったように感じます。
色々こじつけで言ってるので「そんなわけないだろ」と言われても仕方ないのですが、ヒッチコックに影響を受けたと公言している以上、こういう妄想はしたくなるものですw
また個人的にはジョン・フランケンハイマーの「影なき狙撃者」にも共通するお話だったようにも思えます。
英雄として帰還した兵士が、実はソ連の実験によって洗脳されていたという政治サスペンス映画で、個人的にも大好きな作品なんですが、こちらも本作同様「洗脳」を扱う以上に、大統領暗殺まで企てていくような東西冷戦の恐ろしさを描いた内容で、本作もミニマムな話から世界征服級のたくらみを持つ機関との対峙という点は、大きく共通するところなのかなと。
また、本作の邦題と同じ作品であるトニー・スコットの「ドミノ」という映画の中で、この「影なき狙撃者」のシーンが流れており、何たる偶然か!と妙なシンパシーすら感じたわけであります。
要はどれも見てくれい!ってことですw
最後に
トンデモなく飛躍した考察、というか妄想ですけど「デスノート」ってあったじゃないですか。
前半のエピソードくらいで、Lを信頼させるためにデスノート使って記憶消して、警察に協力して犯人を捜すっていう月が、最後にデスノート使って記憶を取り戻すって流れがあったじゃないですか。
あの時の爽快感は半端なかったですけど、もしかしてロドリゲス、デスノートからもヒント得てるんじゃね?ってくらい、記憶を消したうえで本陣に乗り込む話だったので、まさかとは思ってるんですが、そのまさかであってほしいという妄想を言っておきますw
アクションとドラマパート、置いてけぼりにさせないための説明調のセリフのバランスが少々よくない感じではあったものの、90年代を席巻した俳優が90年代型の監督と、90年代っぽい作風の90分映画を、この令和の時代で新作として見れたという、ノスタルジックな気持ちにさせてくれたのも非常に嬉しいです。
ホントさ、こういうのがもっと公開してくれたらいいよね。
クライマックスなんか、実家の父ちゃんん母ちゃんが散弾銃構えて待ち伏せるって感じがロドリゲスっぽくてワクワクしたよね~w
そこに更なる仕掛けを用意して待ってるっていう爽快感ね。
いや~とにかく楽しかった。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10