THE GUILTY/ギルティ
最近何かと設定が限定された状態で物語が進む作品が、高い評価を得たりヒットしたりしているのが目立ちます。
音を立てたら即死の「クワイエット・プレイス」や全編PC画面「search/サーチ」、場所が限定されるとなると、箱の中に閉じ込められて窒息死まで後何分みたいなお話でライアン・レイノルズが主演した「リミット」ってのがあります。
いわゆるシチュエーションスリラーってやつですかね。こういうの。
で、今回の映画、誘拐されたって人質からの通報を頼りに電話からの音だけで犯人をつきとめるっていうお話でして。
それ映画でやる意味あるのかよ!?
耳だけ使えばいいんだからラジオで十分だろ!?
って思う人もいると思うんだけど、主人公と同じ目線で見れるっていう距離感がワクワクすんじゃん!てことで。
昔コリン・ファレルが公衆電話取ったら犯人から脅されて離れることができないサスペンス「フォーン・ブース」なんて映画ありましたけど、あれはファレルの視覚も重要だったから、それとはまた違う感じがすると思うんです。
早速鑑賞してまいりました!!
作品情報
電話からの声と音だけで誘拐事件を解決する、というシンプルでありながら予測不能な展開を描く今作は。インディペンデント映画が集う第34回サンダンス映画祭で、全編PC画面で描かれるサスペンス映画「search/サーチ」と並び観客賞を受賞。
それを皮切りに他の映画祭でも話題を掻っ攫っていった。
その勢いから米映画批評サイトとして有名な「ロッテントマト」では、脅威の100%をたたき出すまでになり、アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表にまで選出され、さらにはハリウッド俳優の中で最もカメレオン俳優として名高いジェイク・ギレンホールを主演にハリウッドリメイクまで決定。
何もかもがとんとん拍子でことが運ぶ今作。
我々は主人公と共に、劇中で溢れる様々な音の中から犯人を探す体験を映画ですることになる。
耳に神経を集中させ、想像力を働かせろ。
あらすじ
人間が聴覚から得られる情報は、僅か11%。
あなたの〈想像力〉はその限界を越えられるか――
緊急通報指令室のオペレーターであるアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、些細な事件に応対する日々が続いていた。
そんなある日、一本の通報を受ける。
それは今まさに誘拐されているという女性自身からの通報だった。
彼に与えられた事件解決の手段は”電話”だけ。
車の発車音、女性の怯える声、犯人の息遣い・・・。
微かに聞こえる音だけを手がかりに、“見えない”事件を解決することはできるのか―。(HPより抜粋)
監督
今作を手がけたのは、これが長編デビュー作となるグスタフ・モーラー。
音声というのは、誰一人として同じイメージを思い浮かべることがない、ということにヒントを得た。観客一人ひとりの脳内で、それぞれが異なる人物像を想像するのだ。
こんなことを仰っている監督。
要は音声以外情報とか先入観がない状態が続くから、ってことですかね。
これ結構なストレスになるんじゃねえのかw
でも皆が皆違う人物を想像するからサスペンスとして面白くなってるってことですよね。マジで犯人わかんねー!って声が続出するのかも。
ちなみに誘拐された女性のキャスティングはブラインドオーディションといって、彼女の写真や実像は観ずに、音声ファイルだけで審査して決めたんだとか。
徹底してますね~!!
あのなんですか、「留守番電話サービスセンター」の声の女性いるじゃないですか。あの人は実際にいるんですよ。いるんですけど、多分世に顔出したらみんな色々詮索したり先入観抱いて多分その人の声でメッセージをどうぞって言われても・・・とかになっちゃうと思うんですよ。
そういうことを踏まえて言うと、この映画に関して音声以外一切の情報を省かないと先入観働いて成立しないんでしょうねぇ~色々と。
主人公と観客の目線を合わせ、距離をできるだけ縮めたかったから、と語る監督。
いやだいぶ縮まるだろこれ、マジで耳を研ぎ澄ますんでしょうね、みんな。
キャスト
主人公のアスガー・ホルムを演じるのはヤコブ・セーダーグレン。
デンマーク生まれ、デンマーク育ちという生粋のデンマーク人でございまして、私と致しましては、過去作を並べたところで全然判らないので省きますw
なんかですね、「リハーサルは一切行わなかった。誘拐された女性と初めてセリフを合わせるのは、そのシーンを撮影する時だった。その新鮮さを求めていたから、事前に読み合わせはしなかったんだ」
んですって。
完全にシチュエーションものとして徹底してるんですよ。やはり先入観入っちゃうと取れないんですね。あれだ、ネタバレと一緒だ。知っちゃうと面白くなくなっちゃうっていうあれ。
新鮮さを大事にすることで、主人公から緊張感がほとばしるんでしょうね。
僕は彼が警官を辞めたことが、何かカギになっていそうな気がするんですが気のせいでしょうか。
一応このブログ、ネタバレはするけど核心には触れないように努めますが、この映画は無理かもしれないw全部言わないとw
ここから鑑賞後の感想です!!!
感想
ワンシチュエーションスリラーもここまで来たか!
緊張感フルMAXの中、「耳」で見る初の映像体験を映画館で!!
以下、核心に触れずネタバレします。
ちょうどいい上映時間
ある事件をきっかけに緊急ダイヤルオペレーターとして勤務する主人公アスガーに入電される1本の電話を境に、二転三転する事件の中で主人公の偽りの正義といっても過言ではない身勝手な振る舞い、すぐに暴言や八つ当たりを繰り返す短気な性格が見え隠れし、予想だにしない真相と主人公の過去、それを清算しようと改心していくまでの物語を、ほぼ顔面ドアップでしかない映像を見ながら、聴覚でもう一つの映像を想像するという画期的な作品であると共に、館内で同じ時間を共有する観衆が生む静けさが新た映像体験へと進化していく画期的な映画でございました!!!
上映時間82分。(多分)
この中で一体どんなことが描かれているのか。
答えは簡単、オペレータールームの中でひたすら聴覚によって事件を想像する主人公を見る、これだけでございます。
え?それって映画なの?と思うでしょう。
もう最高の緊張感ですよ。
何なんでしょう、この短い時間の中で主人公の性格が一目瞭然だし、すぐ事件が始まるし、その事件はまさに「事件は会議室で起きている」ことを想像させるし、その部屋の中で解決へと導くんだけど、それだけではなく、自分の判断を最優先する主人公の性格が物語、いや事件をさらに困難にさせていく。
罪を作ってしまうのは一体何なのか、その罪を作ってしまったのは誰なのか、という深い問題へと直結させていく、中々の佳作映画でございました。
これね、何が凄いって、目の前の映像とは別の映像を頭の中で浮かべながら事件の行方を追っていく感覚に陥れるっていう新鮮さがあるんですよね。
まず主人公アスガーが入電で受け、その会話を彼のドアップの顔と共に観ることになります。もちろん視覚は皆スクリーンを向いているので、いつもと変わらない「映画鑑賞」になるんですけど、耳がですね、自然とアスガーがヘッドフォンから聞いている会話に傾けていき、相手が今どこにどんな状況なのかってのを想像していくんですね。
本筋に入る前にアスガーの能力がどれだけ長けているのかってのを理解できるエピソードがあります。
男が少女から財布を盗まれたという通報。
どんどんヒアリングをするアスガーは、この男が風俗店が連なる場所の近くにある倉庫街で買春をしていたことが判明。
自業自得だけど、一応パトカー出動しておくよ、みたいな感じで淡々と事件を解決していくんですね。
しかしどこか横柄にも見える態度。まぁ元警察官ですからそういう人柄なんだろなってのが読み取れます。
基本アスガーは通報を受けた後、PCに表示される電話の持ち主、登録住所、大まかな発信場所を特定でき、別の指令室に電話をかけ、パトカーを向かわせるように出動要請をするのが仕事。
もう本当に机から離れることなく事件を解決してしまうわけです。
そして本筋に入ると共に、アスガーが今置かれている立場が透けて見えてきます。
アスガーは翌日裁判所へ出向き供述書通りに応えれば、晴れて本職に復帰できるという諸事情がありました。
そしてすぐさま事件発生。
ある一人の女性から誘拐された旨の通報が入ります。
最初こそ酔っ払いか何かのいたずらであろうと考えたアスガーでしたが、よく聞いてみると女性が子供に向けて電話をしている様子。
向こうのペースに合わせてヒアリングをしていくと誘拐されていることが分かります。
そして犯人はすぐ近くで運転している、ということは車内から電話をかけていることが分かります。
犯人にバレたら女性に危険が迫る、そう考えたアスガーは子供に電話している設定で話すよう指示し、イエスかノーで応えられるような質問をすることで、少しずつ状況や車の車種、色、場所などを特定してくんですね。
さすが刑事といった感じの手際の良さで、見てるこちら側に緊張感と心地よさを与えてくれます。
ここからアスガーは、現状では細かい場所を特定できないため事件の全容を知るべく、彼女の電話に登録された住所や夫の存在、留守番している子供と、次々と事件に近づいていくんですが、徐々に衝撃の展開へと進んでいくのであります。
アスガーの性格
何とかして助けたい、その気持ちはアスガーの行動や言動からひしひしと伝わるのですが、彼の性格が少々難ありというのがこの映画における大事な部分なんですよね。
冒頭からクソ!といったり八つ当たりしたり、私用電話を勤務中に取ったりと、勤務態度がどこかよろしくない。
そりゃそうです、自分はこんな場所で働くような男ではない、刑事のプライドがそうさせているのでしょう。
ただ彼にも良心がある。隣に座る同僚にこれまでの態度を誤るから許してくれないか?と謝罪する一幕。
感心ですね、謝れる男。僕も見習いたい。
しかし本筋である事件に近づけば近づくほど他の指令室との連携がスムーズにいかず苛立ち、段々と横暴になっていくアスガー。
気持ちはわかります。今目の前で苦しんでる人がいるのに、お前らちゃんと被害者救う気あるのか!
内心そう思っていたに違いありません。
でも別の指令室の女性オペレーターは、自分の持ち場を互いに尊重して任務につきましょうと。そうです、自分だけ躍起になっても他の場所で働いている人の事情ってもんがあります。
それを無視して勝手なことなどできないのです。
アスガーはそれが分かっておらず、別の指令室や、現地の警察官、刑事の時の上司、果ては自分の相棒にまで足を使わせ事件を早急に解決しようと指示するのです。
そして事件の真相にたどり着いたとき、彼の心の奥深くでうずいていた罪の意識が膿となって現れてくるのです。
そんな自己中心的な考えが、ウソをつき、それをかばうために罪を犯し、自分を正当化する、という悪いスパイラル=蛇となって彼を苦しめ、この誘拐事件の顛末によって彼は解放されていくのです。
解放といっても報われるわけではありません。これまでアスガーが犯し積み上げてきた罪を認め、それを清算するために彼はこの緊急ダイヤル指令室を出ていくのです。
事件の顛末もなかなかのものでしたが、それ以上にアスガーの贖罪に繋がってくる脚本に僕は楽しませてもらいました。
最後に
と、ここまで言っておいてなんですが、さすがに彼の表情だけでは画が持ちません。
耳をもっとフル活用して頭を働かせないとこの映画は楽しめないでしょう。
目で追ってばかりが癖になっている僕はそこが難点でした。
しかし静寂という緊張と、会話内を聞き取りどういう状況かを考えていくことで生まれる緊迫感は中々の体感です。
会話があってもなくても緊張するんですよ。
で!で!
これ、映画館で見るともっと堪能できます。
だってみんなシーンとして耳を澄ませるから自然と静かにしなきゃいけない空間を作ってるんですよ。
もう服がすれる音まで立ててはいけない空気です。それだけみんながこの映画に集中して聴覚で映画を見ているんですね。
これは是非映画館で体験していただきたいです。
早くジェイクギレンホールのリメイクが見たいですね~、どこを改変していくんでしょう。全く同じ話にはしないよねきっと。
というわけで以上!あざっした!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10