ナポレオン
ナポレオンという人。
「吾輩の辞書に不可能という文字はない」なんて名言とか、睡眠時間がめっちゃ短いショートスリーパーとかっていう逸話は聞いたことあるし、フランス革命で名を馳せ、その後皇帝まで上り詰め、戦いに身を投じていくくらいは知識としてあるんですが、具体的に何をしたかとかまでとなると、全然知らないことに気づきました。
今回観賞する映画は、そんな歴史上の人物としても知られるナポレオンの半生を、あの巨匠が巨額をかけて制作した一大スペクタクル史劇。
2023年に公開したスコセッシ監督の「キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン」と同様、AppleTV+が製作、映画スタジオが配給という試みによって、配信だけでなく映画館でも観賞できるという嬉しさ。
さらには、後に配信されるディレクターズカット版では、4時間以上もの長尺になっているそうで、モンキー的には劇場と配信、両方で堪能したいほど期待しております。
もうなんせね、最近のリドスコだと「最後の決闘裁判」がね、もう物語の面白さはもちろん、編集の妙もあって2時間30分があっという間だったってのもあって、今回も絶対面白く作ってると思うんですよね~。
主演のホアキン・フェニックスと妻演じるヴァネッサ・カービーとの絡みも面白そうです。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
「エイリアン」、「ブレードランナー」を手掛けた巨匠リドリー・スコット監督と、『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックス。アカデミー賞作品賞受賞の「グラディエーター」以来 23年ぶりの夢の再ダッグが実現した。
革命で混乱するフランスを鎮め、近隣の国から守るために将校から皇帝にまで駆け上がった男ナポレオンの、ヨーロッパ史に名を刻むほどの圧倒的カリスマ性、そして妻ジョセフィーヌとの奇妙な愛憎関係を含めた半生を、撮影カメラ11台、エキストラ8000人という大規模な撮影によって、大迫力なスケールで描く。
リドリー・スコット監督にとって、敬愛するスタンリー・キューブリック監督が企画し、実現に至らなかったナポレオンの映画化は、長年の悲願だったという。
また『ゲティ家の身代金』でもスコット監督とタッグを組んだデヴィッド・スカルパを脚本に従えた本作は、骨太な伝記映画になることは間違いないだろう。
キャストも「グラディエーター」以来のタッグとなるホアキン・フェニックスがナポレオンを務め、妻となるジョセフィーヌを「ミッション・インポッシブル:デッド・レコニングpart1」でも印象を残したヴァネッサ・カービーが担当。
戦略の天才とされた男の才能にも期待だが、後に愛憎関係となっていく2人の絡みにも注目だ。
大量の群衆を用意して描いた「グラディエーター」冒頭でのゲルマニアとの戦では、効果的な編集と血生臭い匂いが充満する映像で観衆の心を掴んだリドリー。
本作はそれを凌駕する映像を見せてくれるに違いない。
英雄と悪魔、両方の側面を持つ男の半生。
濃厚な人間ドラマが今放たれる。
あらすじ
1789年 自由、平等を求めた市民によって始まったフランス革命。
マリー・アントワネットは斬首刑に処され、国内の混乱が続く中、天才的な軍事戦略で諸外国から国を守り 皇帝にまで上り詰めた英雄ナポレオン(ホアキン・フェニックス)。
最愛の妻ジョゼフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)との奇妙な愛憎関係の中で、フランスの最高権力を手に何十万人の命を奪う幾多の戦争を次々と仕掛けていく。
冷酷非道かつ怪物的カリスマ性をもって、ヨーロッパ大陸を勢力下に収めていくが――。
フランスを<守る>ための戦いが、いつしか侵略、そして<征服>へと向かっていく。(HPより抜粋)
感想
#ナポレオン 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) December 1, 2023
フランス版レジェンド&バタフライ。全体的にダイジェスト感はあるものの、戦いのスケールは圧巻であり壮観。なのに愛憎関係は滑稽にも見えることで、飽きのこない工夫を感じた。
ホアキンはいつ観ても、真顔の時が一番おっかねえwww pic.twitter.com/G4Oq3nmwTm
いやぁ~金かけただけある戦争描写!
だけどメインはジョゼフィーヌとの愛憎関係。
ナポレオンがどういう人物なのかよりも、そっちに振ることで、彼女の存在無くては大成しなかったように組み立てているのが面白い。
以下、ネタバレします。
ヘンな奴だよナポレオン
フランス革命によってギロチンの刑に処されることになったマリー・アントワネットの生首を掲げる兵士を見て、高らかに歓喜を上げる民衆たち。
その中で真顔で佇むナポレオン。
イギリス軍に港を制圧されているトゥーロンで戦いを仕掛けることになるナポレオンは、戦いを前に武者震いを見せるも大勝。
恐怖政治の終わりが告げられると、ジョゼフィーヌに一目ぼれし結婚。
そして結婚生活の中で様々な出来事に遭遇しながらも、皇帝にまで上り詰め、順風満帆かに思えたに見えたのもつかの間、国を守ることよりも戦いの場所を外に向けていくことで、その歯車は狂っていくという、正に盛者必衰の物語でありました。
これまでリドリースコットが描いた男女と言えば、近い所で言うと「ハウス・オブ・グッチ」が思い出されますが、本作もそれと似たような切っても切れない男女の間柄をメインに置いた、戦争映画のお面を被った愛の物語だったように思えます。
ナポレオンの歴史、伝記映画として通用はするかと思いますが、あくまでナポレオンの軍師としての才能や野心は見えてくるものの、政治家という面はほとんど描かれておらず、策士というよりかは、一人の女にベタぼれし過ぎて少々変人なんじゃないか?と思わせるほど、変な男だったんだなとw
レジェンド&バタフライじゃんw
しかし本作の構成や流れ、どこかで見たことあるなぁと思ったら「レジェンド&バタフライ」とほぼ一緒なんじゃないかと思いながら楽しみました。
あっちの映画は、帰蝶と政略結婚したってことで、非常に水と油の関係だったんだけど、いざとなると互いが互いを必要としていることに気付いて天下統一に向けて駆けあがっていくという内助の功だけじゃない相対関係が描かれていたわけです。
ただ、ある事をきっかけに帰蝶と離れてしまうと信長の暴君ぶりが加速化。
やがて本能寺の変で焼かれて死ぬわけですが、帰蝶との生活は非常に幸せだったという、彼女無くてはこの野望は成し得なかったという新解釈なお話だったわけであります。
本作もまさにこうした流れのお話だったんですよね。
一方的にジョゼフィーヌに惚れていたナポレオンは、無事彼女と結婚までこぎ付けるんだけど、Hが下手なんだか他の事でうまくいってないのか、彼がエジプト遠征の際に堂々と浮気してるわけですよw
そしたら戦いを放り出して「お前と離婚だ!!」と怒り心頭だったのに、いつのまにか「私なしではあなたは成功しない」と催眠術めいた言葉でイチコロになって、結局「あ~愛しのジョゼフィーヌぅ~」って骨抜きにされてるんですよねw
こうして夫婦の危機を乗り越えた二人。
当初その気のなかったジョゼフィーヌもナポレオンへの愛に気付き、見事に皇帝にまで上り詰めるわけであります。
行列に並んでいた浮気相手の不愛想な表情はウケましたねw
こうした二人の結婚生活の合間に、エジプト遠征やアウステルリッツの戦い、そしてロシア遠征と、革命防衛戦争から侵略戦争へと拡大していくわけです。
要するに、戦争と2人の生活ぶり改めイチャイチャぶりを交互に見せながら、ナポレオンという男がどういう人物だったのかを見せていく手法で作られた物語だったんですね。
で、レジェバタに話し戻しますけど、こっちも同じように帰蝶とのやり取りと戦を交互に見せていく構成だったんですけど、何がダメって肝心の戦を描いてなかったんですよね~。
あくまで戦前、戦後の信長のみを映して終わるっていう。
戦争描写は圧巻!
それじゃ戦国武将の物語としてアカンでしょうというのが僕の当時の感想だったんですけど、こっちはそんなことございません。
全体的に見るとダイジェスト感は否めないんですけど、どの戦いもスケールがでかいし、エキストラは多いし、攻撃の仕方も迫力あるし、何より血生臭さが漂うリアルな戦争描写だったんですよ。
しかも重要な戦い、それこそトゥーロンの戦いやアウステルリッツの戦い、そしてクライマックスのワーテルローの戦いに関しては、壮観でしたよ。
トゥーロンの戦いに関して言えば、少々ビビリだったナポレオンがいざ俺も加勢するぞ!と馬を走らせた途端大砲を被弾して、馬が大怪我するんですね。
この瞬間をしっかり見せたうえ、ナポレオンがそれによって一瞬怖気づくんだけど、気合入ったのかダッシュで現場へ向かうシーンが素晴らしかったですね。
砦に大砲ぶち込んで、制圧していた敵兵を一掃したり、兵士が一気に梯子で登って立場逆転になると、今度は湊を制圧してるイギリス軍の船を大砲で破壊していくっていう、砦だけかと思ったら海まで戦場かい!というスケールの大きさですよ。
もちろんどこか知ら合成を使ってるんでしょうけど、それを感じさせない生々しさが、スクリーンいっぱいに移し打出されていてそりゃもう最高でしたね!
他にもアウステルリッツの戦いでは、これぞ軍師ナポレオンに相応しい、賢い戦術がお披露目。
雪で視界が霞むような極寒の地でどうやって敵を倒すのか。
それは氷の張った場所まで敵をおびき寄せ、大砲で地面を割って水の中に沈めるという、非常に効果的でありながら狡猾なやり口だったわけであります。
それこそ湖の中に置いていく敵兵が赤く染まりながら落ちていくカットは、今にも凍りそうな水の中と赤のコントラストがこれまた美しく、それまで寒色系だった景色を一変させた瞬間でしたね。
そこからは極寒のロシア遠征に移るわけですが、モスクワ制圧を見事に失敗し、一気に何十万人も兵を失うという失態をしてしまったことで、任を解かれてしまうナポレオン。
それでもジョゼフィーヌへの思いを汲みながら、もう一度戦いの前線に戻り、いよいよ運命のワーテルローの戦いへ。
このシーンがものすごかったんです。
一体どれほどのエキストラを用意し演技指導したのか。
それくらい敵も味方も数の多い戦いを圧倒的なスケールで見せていたのであります。
そのスケールをどう例えたらいいだろうか。
ラストサムライよりも壮大で、ダンスウィズウルブスやブレイブハートよりもスペクタクルで、戦争と人間ののモンハンの戦いよりも血生臭い戦争描写だったのではなかったでしょうか。
とにかく当時の戦い方って、歩兵を一列にして前に進ませて闘うんだけど、敵の銃弾の嵐によって結局ただの壁でしかないんですよね。
彼らがどんどん倒れていく中次の列の歩兵が銃剣持って走って向かっていくわけです。
どでかい音でぶっ放す大砲、それとともに揺れる砲台、銃弾を浴びて豪快に倒れ込む馬たち、のろしが上がりまくる戦地の中で、数多の兵士が攻撃し倒れていく姿。
いわゆる戦争映画と呼ばれる作品は、この描写を「もうこんな戦をしてはいけない」というように思いこませる残虐ぶりを敢えて映し出すんだけど、なぜかこの映画はそうしたメッセージ性がこの戦争描写からは感じられないんですよね。
意外とあっさりしたように映し出している。
一体どうやったらそんな風に撮れるのか。そんなことを思いながら壮大なスケールのワーテルローの戦いを堪能しておりました。
やはりスケール感を出すには、人の多さと広大な土地、そして音なんだな、それこそが映画なんだなと感じた部分でもありました。
愛憎関係が面白い。
このように、レジェバタのように、愛すべき人の力によって大成したにもかかわらず、彼女と離れてしまったとたんに衰退していくという構成だったわけですが、レジェバタと違うのは、ダイジェスト感はあるモノのしっかり戦いを映していたという点。
そこが大友監督とリドスコの圧倒的な差なんだなと思った映画でもありましたw
さて、本作のメインはあくまで「ナポレオンとジョゼフィーヌ」の関係。
王政派だった夫を処刑され未亡人となったジョゼフィーヌに一目ぼれしたナポレオン。
気があると悟ったジョゼフィーヌは、夫の形見のサーベルを返して欲しいと、息子を使いに出してナポレオンの気を引くのであります。
もうこの時点でジョゼフィーヌが自分の美貌に自信のある女だってのがわかるんですよね。
逆にナポレオンはというとどこか引っ込み思案というか、自分に自信がないというか、男らしいアプローチをまるでしないのでありますw
とにかくジョゼフィーヌの顔をまじまじと見つめるだけ。
俺は見てない、いや見ていた、ここで名前は言わない!
とか将軍としてのプライドを見せても、女の心は動かねえよwとくすくすしながら見ていたんですが、そんなナポレオンの初心で奥手な姿は印象的でした。
中々行動に移さないナポレオンに業を煮やしたジョゼフィーヌは家に招待し、手を出してこないナポレオンを挑発。
「私の脚の間にある場所を見たくない?」とドレスのスカートを持ち上げ、股を開き、顔しか見つめないナポレオンの視線をずらすことに成功するんですね~。
ここは笑ったなぁw
お前視線ずらすだけかよとw
晴れて結婚したのもつかの間、淡々としたエッチしかしない(その割にはめっちゃ腰の動き早かったなw)ナポレオンとの相性が良くなかったのか、夫の留守を装って他の男と浮気三昧のジョゼフィーヌ。
それを知らされた夫は、戦争という大事な仕事をほっぽり出して帰省するけど、肝心のジョゼフィーヌは夫が帰ってくることを知らされてないという事態。
というか、多分怖くて逃げたんだと思うんですけど、雨の中帰って来たら自分の荷物が外に放り出されていてずぶ濡れ。
これは起こっているに違いないと不安な表情をするジョゼフィーヌは、ナポレオンにとにかく謝るんですね~。
あなたごめんなさい・・・私を捨てないで…
涙目で見つめるジョゼフィーヌにナポレオンは徐々に怒りを収めていくわけですが、気が付くと立場が逆転w
なぜかジョゼフィーヌがナポレオンに対して上から目線で「あなたは私なしでは無理よ」とか言い出すんですよねw
そしたらナポレオンは、子犬のようなじゃれつきで「…うん」みたいな態度をするわけですよw
それもナポレオンはナポレオンで普通に他の女を抱いていて、ジョゼフィーヌよりもキレイな人もいればHが上手な人もいたと。
そんなこと言ったらジョゼフィーヌも負けてらんねえと思ったんでしょうか、何とかコイツを自分のものにしたいとしつけていくわけですw
見事に再び骨抜きにされたナポレオンは、飯食ってる最中も髪を結ってる最中も行為に及びます。
ただナポレオンにとって彼女は愛すべき存在以上に、自分の子を授かるための相手でもあったんですよね。
それが時期が経つにつれ、苛立ちに変わっていくのであります。
国のためにも自分の子供は必要だと語るナポレオン。
次にHした時に子を授かれなければ離婚だと突きつけるのであります。
食い物を投げ合っての喧嘩をみんなの前でしてしまうんだけど、それでもナポレオンはジョゼフィーヌへの思いを捨てきることができないほど愛していたことがその後描かれていきます。
結局子を産めないことが判明したジョゼフィーヌと結婚を解消。
離れで住ませることになり、離れ離れになっていくんだけど、手紙のやり取りはしっかり行っていたナポレオン。
親友という表現になってしまったものの、彼女への思いはそれまでと変わらず、戦地でも思いをはせていたのであります。
ジョゼフィーヌもまた、彼への思いを馳せていることが窺えるシーンがいくつも挟まれることで、相思相愛なんだってことが見えてくるんだけど、ジョゼフィーヌはジフテリアにかかってしまい死んでしまうのであります。
それに比例するかのように、ナポレオンの軍師としての才能も底を尽きてきたのか、戦いも勝てなくなっていくんですね。
よって、本作は如何にしてジョゼフィーヌという存在が、ナポレオンの運命を導いていったのかが理解できるような物語だったのであります。
最後に
非常に楽しい映画だったんですが、どうしてもダイジェスト感に留まった映画でもあったなぁと。
実はナポレオンを主人公にした映画ってあまりなかったせいか、彼がどういう人物かをストレートに描いてほしかった気持ちがあったんですよね。
それこそ伝記映画として、しっかり彼の鬼才ぶりとか英雄ぶりとか、ここぞという場面でどう打開したのか、みたいな彼そのものが理解できるような物語を見たかった。
ホントね、戦いの風景は圧巻だし、一人の女性を愛した姿や、愛する故にちょっと変人気質な姿とか、意外と愛着モテる奴なんじゃないかとか思えた作品だったんだけど、個人的には軍師としての才能が如何ほどだったのかを、リドスコ映画という形で見たかったなぁと。
そこはもうないものねだりではあるんだけど、それを差し引いたとしても全然アリな映画だったなと。
というか、正直ね、なんでナポレオンをホアキンがやるの?と思ってたところがあって。
あんまイメージがわかなかったんですよ、彼がナポレオンをやるってのが。
もっとイケメンでも良かったんじゃないか?って思ってたんだけど、いざ映画を見てみたら、全然彼でアリでしたねw
あのオクテな感じや骨抜きにされてる辺り、情勢を覆す賢さみたいなものを、ホアキンはしっかり備えてたんだなと。
ただ、ジョゼフィーヌは姉さん女房なんで、一回り以上年下のヴァネッサがやるってのはちょっと無理あったなぁとw
あとあれですね、「消えた声が、その名を呼ぶ」のタハール・ラヒムが出演してましたね!
出世したなぁと感慨深くなりましたw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10