モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「名探偵ポアロ/ベネチアの亡霊」感想ネタバレあり解説 幽霊なんて信じない!でも、いるじゃん!!

名探偵ポアロ ベネチアの亡霊

監督主演となるとなぜかかっこつけたクサい芝居しかしてくれないケネス・ブラナー

 

個人的には「オリエント急行殺人事件」も「ナイル殺人事件」も、妙にアクションしたり激高したりと、これまで映画化されたポアロの過去作と差別化を図ったかのようなエンタメ要素やキャラ変が目立つ上に、肝心の内容がパッとしないのが難点。

その上かっこつけのクサい芝居ときたもんだから見てられません。

 

とはいうものの、こうして第3弾が公開されるほどの人気ぶりはあるわけで。

しかも今回の「ベネチアの亡霊」は過去に映画化されたことがないってのもあって興味。

どんどんゲストが豪華でなくなっていくあたりは、予算をあまりもらえなかったのかなぁ…?と妄想してしまいますが、中身が面白ければOKなのでw

早速観賞してまいりました!

 

 

作品情報

ミステリーの女王と呼ばれた推理作家アガサ・クリスティ

彼女が生んだ架空の探偵「エルキュール・ポアロ」を主人公にした小説は、その特徴的なスタイルや細かすぎる性格などのキャラクター性と、容疑者全員を集め彼らへ説明しながら真犯人をその場で指し示すスタイルが好まれ、世界中で人気となった。

 

そんなポアロが主人公の小説シリーズを、戯曲の映画化をはじめ「シンデレラ」や「ベルファスト」を手掛けるケネス・ブラナーが、「オリエント急行殺人事件」、「ナイル殺人事件」に続いて3度目の監督と主演を務める。

 

ベネチアでの降霊会に参加したポアロが、人間では不可能な殺害方法や数々の超常現象を目の当たりにしながらも、真犯人を見つけるべく奔走する姿を描く。

 

原作「ハロウィーン・パーティー」を映画化した本作は、水の都ベネチアを舞台に、超常現象など実在しないと豪語するポアロが自ら恐怖体験を受けるという、これまでとは一風変わった物語。

闇と幻想を表現したベネチアにポアロを閉じ込めたら面白いかも入れないというアイデアをもとに、原作を大胆にアレンジ。

当初はアガサのひ孫も困惑するほどの内容だったが、原作のトーンをしっかり踏襲した出来栄えに納得。

これまでにないポアロの物語が完成した。

 

ケネス・ブラナー以外にも、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」でアカデミー賞主演女優賞を獲得したミシェル・ヨー、監督の過去作「ベルファスト」で主人公の父を演じたジェイミー・ドーナン、「デート&ナイト」のティナ・フェイ、「シャーロック・ホームズ」でワトソンの妻を演じたケリー・ライリーなどが出演する。

 

これまで幾度も不可能な殺人事件を解決したポアロは、超常現象の謎をも解けることができるのか!?

 

 

 

 

 

あらすじ

 

ハロウィンの日に子供の霊が現れるという屋敷での降霊会に参加するポアロ(ケネス・ブラナー)。

悩みや秘密を抱えたような人々が集まる中、やがて天候が悪化。

屋敷から身動きができなくなるなか、様々な超常現象が発生。

人間には不可能な方法で招待客のひとりが殺される。

 

名探偵ポアロにとって、ここまで不可解な殺人事件は初めてだった...

アポロは“超常現象の謎”を解明できるのか?(Fassion Pressより抜粋)

youtu.be

 

キャラクター紹介

  • エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)…世界一の名探偵。隠遁生活を過ごしていたが、旧友オリヴァからの依頼を受けて、霊能力者のトリックを見破るため降霊会に参加する。
  • レイノルズ(ミシェル・ヨー)…「死者の声を話せる」と断言する、謎めいた霊能者。ハロウィーンの夜に降霊会を開催し、超常現象を全否定するポアロと対峙する。
  • アリアドニ・オリヴァ(ティナ・フェイ)…ポアロの旧友のミステリー作家。ベネチアで隠遁生活中のポアロを訪れ、降霊会の参加を持ちかける。
  • ロウィーナ・ドレイク(ケリー・ライリー)…最愛の娘アリシアを亡くした母親。娘の霊と対話するために、降霊会を依頼する。元オペラ歌手。
  • オルガ・セミノフ(カミーユ・コッタン)…ドレイク家に献身的に尽くす家政婦。アリシアの生前、自分の娘のように彼女をかわいがっていた。
  • ドクター・フェリエ(ジェイミー・ドーナン)…悩みを抱えた医師。軍医として従軍して以来、心を病んでいたが、ロウィーナに請われドレイク家の主治医に。

 

  • レオポルド・フェリエ(ジュード・ヒル)…ドクター・フェリエの10歳の息子。とても賢く父思いで、精神的に不安定な父を支える。
  • デズモデーナ・ホランド(エマ・レアード)…弟のニコラスと共に、降霊会のアシスタントを務める。誰にも知られたくない秘密を抱えている。
  • マキシム・ジェラード(カイル・アレン)…降霊会に招かれた若きシェフ。ロウィーナの亡き娘、アリシアと婚約していた過去を持つ。
  • ヴィターレ・ポルトフォリオ(リッカルド・スカマルチョ)…ポアロのボディガード。探偵を引退したポアロの、ベネチアでの静かな生活を守る。

(以上HPより)

 

 

 

 

 

 

 

 

前作で受けた深い悲しみから隠遁生活していると思われるポアロですが、これが彼にとっての最終作になってしまうのでしょうか。

ここから観賞後の感想です!!

 

感想

戦争で受けた悲しみは、時に真実として受け入れなくてはならない。

そんなポアロの過去が今回も事件の真相を惑わせる。

広角レンズで室内を際立たせるカメラワークによって、まるで幽霊がいるかのような空間に見せるのが見事。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

 

幽霊なんていません!!え!?おるやん!!

前作「ナイル殺人事件」では、ポアロの過去に言及したことはシリーズ上重要なポイントだったわけですが、実際の中身はがっつりCG合成のせいで、せっかくのナイル川周辺の風景が嘘くさく見えてしまうことや、急に自分の仕事を思い出したかのようにまくしたてながら真相解明するポアロの姿にがっかりした作品だったわけです。

 

しかし今回は、そんな内容にはしないぞ!というケネス御大の意気込みがはっきりと映像や物語に凝縮された内容だったように思えます。

 

そもそも前作では、カトリーヌという最愛の女性を戦争で失った傷を抱えたポアロの姿が明かされているのです。

まだ癒えてないポアロは探偵業を引退したところから物語は始まり、結局旧友に頼まれて訪れた降霊会で事件が勃発してしまうというのが今回の馴れ初め。

 

亡霊?悪魔?悪霊?

そんなもん信じてねえから!

目に見えるモノこそ真実だから!

そう意気込んでいたポアロでしたが、事件を推理していくうちに、目の前に子供が現れたり、子供の歌が聞こえたりと、不可解な現象が連続して起こるのであります。

 

普段のポアロのなら恐らくこんな不可解な現象も、ガリレオ湯川学の如く「あり得ない」とばっさり切り捨て、己の知識と強要と観察力と推理力を武器に突き進んでいくところなんでしょうが、何せポアロ、先ほども語った通り、癒えない傷のせいで引退していたわけで、メンタル的にどうも本調子でないわけです。

 

洗面所に籠って水道の蛇口をひねった途端、後ろにずぶ濡れの少女が見えたり、人が推理してる最中に「ラ~ラララ~ララ~♪」と少女の歌声が聞こえる始末。

みんなに「今何か聞こえませんでしたか?」と尋ねても、「いやぁ~?」という返答に、ポアロの背中ゾクゾク。

うそ~ん…絶対今聞こえたやん…俺だけぇ~??…と、身のすくむ思いをしながら事件を推理しなくてはいけなくなってしまうのであります。

 

それでもポアロは幽霊なんかに屈しません。

そんなわけない!と己を信じ事件を推理していくわけですが、本作の事件や登場人物の背景にはやはり戦争で受けた悲しみがあり、それが色々な人の前に「亡霊」のように憑りついていた、という流れになっていくのであります。

 

また犯人の動機も、愛するが故に起こしてしまった行動であることから、前作のテーマである「盲目的な愛」が、より歪なモノへと変化した結末だったように思えます。

 

 

前作以上に凝ったカメラワーク

そんな「悲しみ」が渦巻く本作。

今回特に目を見張ったのは、かつて孤児院だったという屋敷を舞台にした、いわば室内劇とも言える設定の中で見せるカメラワークでしょう。

 

外は水の都とも言われるベネチアの優雅な街の風景が映し出されるわけですが、事件が起きるハロウィンの夜は大嵐がやってくるという、いかにも不気味な、何かが起こりそうな天候。

そしてろうそくの火が灯された薄暗い室内で悲劇が起きてしまうという流れになっております。

 

今回、「死んだ娘と交流する」という降霊会で起きた事件から、劇中では「本当に幽霊がいるかもしれない」と思わせる仕掛けが多数施されているんです。

それを如何に真実味を持たせ、劇的に見せるかというのを、広角レンズを使った撮影方法で見せていたように思えます。

 

基本的にはフィックスと呼ばれるカメラを固定した撮影方法で、しかも被写体をアップショットで見せる撮影をしてるんですが、とにかく細かくカットを割って被写体をとっかえひっかえして会話を見せていました。

 

ただ、広角レンズを多用していることから、ただのアップショットで収めることなく、しっかり奥行きのある背景も入れてるんですね。

しかも人だけではなく、小道具を手前に見せて奥行きのある背景を見せているシーンもあり、明らかに意図的に見せている感じがします。

 

そして一番気になったのは、ポアロのアップのショット。

半分近く、彼を少し上から捉えて撮ってるんですよね。

他のキャラは真正面から映してることが多かったのですが、なぜかポアロだけ少し上から捉えてるんですよ。

 

これどういう意図があるんだろうかと自分なりに考えた結果、「幽霊が彼を覗いてる」ように見せているのではないかと思ったんです。

 

というのも、今回のポアロは何度も言ってるように「過去の傷が癒えなくて引退」した身。

これ言いかえれば、「探偵を引退=生きてるように死んでる」と言ってるようなものなんです。

そう、本作の登場人物の中で一番「死」に近い人物と置き換えられるわけです。

 

劇中でも死んだ幽霊の歌声が聞こえると錯覚するポアロに対して、「引退したから死んだようなモノ、だから呼ばれてるんだよ」と、まるでホーンテッドマンションの1000人目みたいな扱いをされるんですけど、正にそう思わざるを得ないような見せ方をしてるってことだと思うんですよ。

 

また、奥行きのある背景をふんだんに見せることで、まるでこの屋敷に「幽霊がいる」かもしれないと思わせるような雰囲気にしてるのが非常に効果的でした。

 

それを短いショットで細かく見せる事でスピード感を生み出し、ジャンプスケア的な演出や、短くショットを繋ぐことで展開を急がせる構成。

こちらの心拍数を上げていく、緊張感のある物語になっていましたね。

 

 

他にも下から見せる構図や、天井から見せる構図、部屋の隅っこから見せる構図など、「女王陛下のお気に入り」でも参考にしたかのような角度からのショットの連続によって、常に「誰かが覗いてる、それが幽霊かもしれない」と思えるような構図やシーンにしていたのが印象的な作品だったように思えます。

 

結局そういうトリックだったのね

ここからは思いっきりネタバレになりますが、結局のところ今回どういうトリックだったのよって話。

 

正直作品が重なるにつれて豪華キャストが小粒になっていく『ポアロ」シリーズの中で唯一豪華なのは、エブエブでアカデミー賞主演女優賞を受賞したミシェル・ヨーただ一人なのです。

 

基本的にサスペンス映画において、こういう著名なキャストは最後まで残すのがセオリーだったりするんですが、今回彼女が演じたレイノルズ夫人は、一番最初に殺される被害者として早々に退場してしまうという、映画的に盛り上がりに欠ける幕開けとなりました。

 

なんだよ~ミシェル・ヨーが犯人だと思ったのに違えのかよ~それならこの後誰を見て楽しんだらいいんだよ~、なんて声も聞こえなくもないです。

ですが、逆に著名なキャストが退場したことで、犯人の目星を付けるには難しく、この後のポアロの推理と共にこちらもしっかり見て考えなくてはならない、という楽しみ方が生まれます。

 

実際僕もどうせミシェル・ヨーが…と思い込んでたクチなので、マジで誰が犯人なんだろうとワクワクしながら見ておりました。

「オリエント急行殺人事件」のように、一人一人取り調べをしてくポアロは、いつもどおり容疑者にあたる全ての人間の一挙手一投足を見逃すことなく観察しており、しかも死んだ娘・アリシアの事件に関わっていたことまで見透かしてしまうから半端ない。

 

当時のアリシアが死んだ事件も取り調べながら、アリシアを殺した人物、そしてレイノルズを殺した動機を探っていくポアロ。

 

娘を失った屋敷の主ロウィーナ、彼女の家政婦として働くオルガ、ロウィーナに淡い恋心を抱くも、戦争によって心が壊れている医者フェリエ、そしてコナンばりに無駄に賢そうな息子、レイノルズの交霊トリックを手伝うデズモデーナとニコラスの怪しい過去、金目当てで近づいたモノの本当にアリシアを愛していたマキシム、そしてポアロに近しい人物であるオリヴァとボディガードのヴィターレにも容疑がかかってくるという、全員がアリシアの死に関わる動機のある人物だということが、ポアロの取り調べで明らかになっていくのであります。

 

 

事の顛末は、幽霊の仕業ではないことが明らかに。

アリシアをマキシムに奪われたくない毒親ロウィーナが、全ての事件の黒幕だったのであります。

 

屋上で育てた花で幻覚性の強い毒物の入ったハチミツを作り、アリシアに紅茶に混ぜて飲ませていたロウィーナ。

実際他の人から「幽霊に呼ばれてるのでは」と思っていたアリシアの急変な様子は、母親が故意に飲ませていた毒物によって幻覚を見ていたからだったことが明かされます。

 

彼女が死んだ当日、眠ってしまったロウィーナの代わりに、何も知らない家政婦がアリシアに紅茶を飲ませていたことが原因でアリシアは心臓発作によって死亡。

それを隠ぺいするために、孤児院で死んでしまった子供たちの呪いと、屋敷からの飛び降り自殺に見せかけるのであります。

 

当時解剖を担当したフェリエは、真実を見落としたものの、賢い息子がロウィーナに匿名で金をゆすっていたことも発覚。

また、レイノルズもロウィーナにアリシアを殺したのはあなただと脅したことも発覚。

財産が底を尽きたのは、それを支払っていたからということも明るみになっていきます。

 

そして今回の降霊会は、そんな事実を知る人を消し去ろうとするために催されたものであり、レイノルズと、脅してると勘違いされたフェリエが殺害されてしまうのでした。

 

ポアロも犯人に溺死されそうになりますが、実はレイノルズが着けていた仮面とマントを着ていたために間違われたというのが真相。

ポアロが見た幼いアリシアや水浸しの少女、微かに聞こえる歌声は、全て紅茶に混ざってたハチミツによる「幻覚」だったのです。

 

他にも、三作立て続けに酷評を受けた自身の小説を挽回するためにポアロを呼び寄せたオリヴァの心の内や、アリシアが死んだ事件に関わっていた元刑事のヴィターレが裏で組んでいたこと、金目当てだったが本気でアリシアを愛していたマキシムの姿、戦争によって苦しい生活を続けていた姉弟がレイノルズに弱みを握られていたことなど、全ての登場人物に事件とつながりのある真相が炙り出されていく作品でした。

 

 

最後に

本作がいいのは、オカルトチックに見せつつしっかりトリックであることを明確にして終わるのではなく、ポアロが実際見たモノは真実であることに変わりはないという、今回の経験でちょっとした発見を見出すポアロの姿を見せ、尚且つ「引退=死」から脱却する彼の姿で幕を下ろすというのが良いなと。

 

幽霊は存在するとかしないとか断定することなく、見たモノが全てを信条にする以上否定はしないみたいな思考の変化を見せるのが良いなと。

 

個人的には全てのシリーズにおいて「取り調べ→再び事件勃発→みんな集めて事件解明」みたいな一連の流れを一度解体してやってほしいってのがあるんですけど、それやったらアガサファンはブチ切れるんだろうな…と。

とはいうものの、殺人を見たことがあるという少女が殺され、両方の事件を追うことになるポアロの原作「ハロウィン・パーティー」とは全然違う内容なのに、これほど楽しい叙述トリックを見せてくれるわけですから、今回のケネス・ブラナー映画は見事な改変だったのではと。

 

とにかく撮影方法が凄く印象に残る上手な見せ方だったミステリー映画でしたね。

前作より良かったというシンプルな点で満足度は高めに。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10