モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「シャイロックの子供たち」感想ネタバレあり解説 池井戸作品でも異例の「スッキリしない」ドラマ。

シャイロックの子供たち

池井戸潤の映像作品を見るたび、銀行ってこんなにも不正とか強欲な奴らいんの!?

と思ってしまっているモンキーですw

 

あくまでフィクションですからこういうお話の創作は無限にきでるんでしょうし、元銀行マンだった池井戸さんだからこそ内側の視点から物語を作れるんでしょう。

 

今回鑑賞する映画は、半沢直樹同様「銀行内での不正」をテーマに、お金に魂を売るのか留まるのかといった大きな問題まで見せていくどんでん返しが楽しみなお話。

 

2022年では「アキラとあきら」が映画化されましたが、この手の映画に向いてない方の作風だったこともあり、青春要素の爽快感はあれど、あまりスカッとする作品には感じなかったんですよね。

それを取り返したいってわけではありませんが、これぞ池井戸映画!と思える内容であってほしいと期待しております。

 

早速観賞してまいりました!!

 

 

作品情報

TVドラマ「半沢直樹」のメガヒット以降、銀行や中小企業を舞台に、不正を暴き悪を正す会社員たちの勧善懲悪的ドラマで視聴者を魅了する小説家・池井戸潤。

そんな彼が「小説の書き方を決定づけた記念碑的一冊」と豪語する作品がこの「シャイロックの子供たち」だ。

 

彼の原点にして最高峰ともいえる原作を、過去にも池井戸潤作品を経験した本木克英監督の手によって映画化。

WOWOWでもドラマ化された本作が、独自のキャラを登場させることで原作ともドラマとも違うオリジナルストーリーとして映像化される。

 

大手銀行の支店内で起きた現金紛失事件を皮切りに、主人公ら営業課の面々が曲者ぞろいの行員たちの裏側を暴き、やがてメガバンクにはびこる悪しき慣習にたどり着く姿を、軽妙なやり取りを見せつつもドラマチックに描く。

 

ベテラン俳優・阿部サダヲを中心に、演技の幅の広いメンツが集結。

行員たちの腹の探り合い合戦と化す本作で存在感をぶつけ合う。

 

タイトルにある「シャイロック」とは、シェイクスピアによる戯曲「ベニスの商人」に登場する強欲な金貸しの名。

金の代わりに求めたものが裁判で認められず、何も得ることがないまま法廷を去る男の名を本作に使った意味とは。

 

人はなぜ働きなぜお金に執着するのか。

人間らしく生きる意味とは。

本作を見ればそれが少し理解できるのかもしれない。

 

 

 

あらすじ

 

東京第一銀行の小さな支店で起きた、現金紛失事件。

お客様係の西木(阿部サダヲ)は、同じ支店の愛理(上戸彩)と田端(玉森裕太)とともに、事件の真相を探る。

 

一見平和に見える支店だが、そこには曲者ぞろいの銀行員が勢ぞろい。

出世コースから外れた支店長・九条(柳葉敏郎)、超パワハラ上司の副支店長・古川(杉本哲太)、エースだが過去の客にたかられている滝野(佐藤隆太)、調査に訪れる嫌われ者の本部検査部・黒田(佐々木蔵之介)。

 

そして一つの真相にたどり着く西木。

それはメガバンクにはびこる、とてつもない不祥事の始まりに過ぎなかった…。(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

監督

本作を手掛けるのは、本木克英

 

松竹の映画といえばこの人。

池井戸潤原作の「空飛ぶタイヤ」を監督した経験からの抜擢だと思われますが、重厚なドラマもできれば、コミカルなドラマ、時代劇もこなせてしまう職人監督です。

 

釣りバカ日誌」や「超高速!参勤交代」シリーズを数作製作してるお方ですから、コメディの何たるかを熟知されてるでしょうし、本作は主人公・西木のユーモラスな面と、徐々に導かれていくメガバンクの不祥事という大きな問題といったシリアスな場面の緩急をテンポよく描いてくれることでしょう。

 

超高速!参勤交代

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  • 佐々木蔵之介
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キャスト

ベテランお客様係の西木雅博を演じるのは、阿部サダヲ。

 

20年前は「大人計画」の一員的わき役として、作品に適度な笑いを運んでくれるバイプレイヤーでしたが、主演になってからは笑いもシリアスも使い分けたベテラン級の役者になりました。

 

近年では大河ドラマの主演にも抜擢されるほど国民的俳優となり、「池袋ウエストゲートパーク」での出演から大好きな僕としては、感慨深いものがあります。

 

2022年には「死刑にいたる病」でシリアルキラーを熱演。

子供たちの信頼を勝ち取り、心を掌握し、後に痛みを与える役どころで、前髪ぱっつんの無表情な姿が、まさにシリアルキラーと思えた見事な演技でした。

 

本作では、そんなシリアルキラーのような役柄とは真逆のキャラですし、お客様係という外面のいい人物ですから、普段TVで見かけるような愛想がよくてチャキチャキな阿部さんを堪能できるかもしれません。

終盤あるであろう「見得を切る」姿にも期待です。

 

 

 

ほかのキャストはこんな感じ。

銀行内で疑われる西木の部下・北川愛理役に、「テルマエ・ロマエ」、「昼顔」の上戸彩。

北川を疑う彼女の後輩・田端洋司役に、「パラレルワールドラブストーリー」、「レインツリーの国」の玉森裕太。

出世にこだわる支店長・九条馨役に、「SPACE BATLLE SHIPヤマト」、「仕掛人・藤枝梅安」の柳葉敏郎。

パワハラ副支店長・古川一夫役に、「アキラとあきら」、「任侠ヘルパー」の杉本哲太。

本部検査部・黒田道春役に、「超高速!参勤交代」、「バスカヴィル家の犬」の佐々木蔵之介。

お客様一課課長代理・滝野真役に、「鋼の錬金術師」、「今日も嫌がらせ弁当」の佐藤隆太などが出演します。

 

 

 

 

 

 

 

 

池井戸原作の醍醐味である不正と陰謀を暴く展開、そしてそれを正す姿のカタルシスに期待したいですね。

ここから観賞後の感想です!!

 

感想

どうして人は金に目がくらんでしまうのだろう。

銀行員の出来心によってシャイロックとなっていく者の不正を、シャイロックに名内容踏みとどまる者が暴く、地味ながらしっかり笑いも混ぜた丁寧な構成の物語でした。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

 

ざっくりあらすじ

検査部の黒田は、妻と共に「ヴェニスの商人」の舞台を鑑賞する。

 

借金返済の担保に1ポンドの肉を求めるシャイロックと、それを払いたくない者との裁判は、「一滴の血を流さずに肉を削ぎ落せば返済と認める」という判決が下され幕が下りる。

それに対し妻は「シャイロックが悪者のように見せてるけど、やっぱりお金を返さない人が悪いよね」と黒田に問う。

「そうだな」と軽く受け流す黒田だったが、彼は「金はただ返せばいいわけじゃない」ことを十分に知っていた。

 

黒田の回想。

以前競馬狂だった黒田は、つい出来心で銀行のATMに補充する現金を持ち出し、競馬につぎ込んでしまう。

大金を投入し見事万馬券をゲットしたことで、無事月曜日の朝に金を元に戻したが、そこに検査部の人間が見回りにやってきてしまう。

 

競馬場の札帯を落としてしまった黒田だったが、検査部の人間はただのゴミと思い、拾って立ち去る。

黒田が生き延びた瞬間だった。

 

 

そして現在。

東京第一銀行に転勤してきた滝野は、業績を上げるための会議で、副支店長から発破をかけられていた。

同僚の遠藤と共に新規開拓班を任されていた滝野は、「江島エステート」の江島という男から電話を受ける。

 

それはかつて赤坂支店での顧客だった石本という男だった。

彼は江島エステートという不動産売買の会社を借金と共に譲り受け幽霊会社となっていた。

石本は20億円をかけた一大プロジェクトをするために、この会社を通じて滝野が働く支店で10億の融資を受けたいと相談したのだった。

 

滝野は既に赤坂支店の人間ではないことや、石本本人が逃げたとされる江島に成りすますこと、揃えた資料が偽物であることから、明らかに不正だと詰め寄るも、結果石本の言う通りにしたのだった。

 

銀行としてもなんとか業績を上げたい一心だったため、滝野が持ってきた江島エステートの案件を薦める。

支店長の九条からも「是非これで進めてくれ」というGOサインをもらうことで、契約までこぎつけたのだった。

 

それから3ヶ月。

石本から、毎月銀行に納めなくてはいけない額が滞ってしまいそうだという連絡を受けた滝野は、10億の融資を受けてそんなことしたら確実に疑われてしまう、大変なことになると苦言を呈すも、そっちで返済額の100万円を用意しておいてくれと一方的に電話を切ってしまう。

 

滝野は用意できない100万円をどうするか悩んでいた。

そんな時、田端が持っていく現金の入った袋にぶつかってしまう。

拾おうとした瞬間、滝野の中の悪魔が囁き、100万円を抜き取ってしまう。

 

滝野は現金を入金した伝票の控えを見ながら苦悩していた。

やってはいけないことに手を染めてしまった、でももう後戻りはできない。

証拠を隠滅するために、彼は伝票を社食のゴミ箱に投げ捨てるのだった。

 

田端が現金をお届けに大田市場の魚屋に向かうと、100万円が足りないことに気付く。

報告を受けた銀行は、総動員で現金を探すことに。

引き出しや机の下、書類ファイルの中やゴミ箱までありとあらゆる場所をくまなく探すも、現金は出てこない。

 

皆が探す中、お客様係で愛想の悪い銀行員・半田は社食で小休憩していた。

すると、床の下に今日の日付の札帯が落ちていた。

彼女は同僚の北川とは相性が悪く、何かと衝突を繰り返してはストレスを溜めていた。

 

そんな彼女のいたずらが思いもよらない展開を生んでいく。

 

一方、ゴミ箱の中を探す西木と部下の北川。

早々にゴミ箱散策を切り上げた北川に、手伝ってと懇願する西木だったが、彼はそこである伝票を発見するのだった。

 

そして個人ロッカーも散策するよう命じられた銀行員。

すると、北川のロッカーのカバンの中から今日の日付の札帯が出てきたことを同僚から告げられる。

 

全く身に覚えのない北川は、上司の西木と共に支店長室に呼ばれ、釈明を促される。

今日一日の行動を全て紙に書け、通帳の明細をチェックした副支店長からは、金遣いが荒い、金に困ってるんだななど、一方的に盗んだ犯人扱いをされ、北川はついに涙を流してしまう。

あまりに一方的な扱いを受ける部下を庇おうと、上司の西木は警察に被害届を出すべきだと語る。

札帯に北川の指紋がなければ違う誰かが犯人になる、そうすれば一件落着だと告げるが、支店長は北川に「今日は帰りなさい」と告げ、残った者たちである相談をするのだった。

 

翌日、朝の会議で「100万円はみつかった」と伝えられる。

見つかったことよりも、自分は疑われた状態なのが納得いかない北川は、西木にあの後何があったんですかと詰め寄る。

実は残った者同士で100万円を肩代わりしたのだった。

 

北川のカバンの中に札帯を入れたのは半田だと確信した西木は、彼女を問い詰め白状させる。

そして銀行員の誰かが札帯を落としたことを確信したのだった。

 

とりあえず今回の盗難事件は表向きは一件落着だったが、今度は江島エステートの件で大変な事態が起こる。

江島エステート充てに送った書類が、住所不明で戻ってきたのだった。

たまたまそこの近くに用があるという田端が、代わりに届けに向かったが、そこは古びたアパートが建っていた。

住所が書いてある301号室に行っても誰もおらず、そもそも会社の雰囲気すらない。

 

銀呼応に戻り、担当の滝野に聞くと「事務所移転のための間借り部屋なんだ」と語る滝野。

とはいえ、明らかにおかしいと詰め寄る田端だったが、簡単にあしらわれてしまう。

 

西木は、以前拾った江島エステートあてに100万円入金された伝票を拾ったことで、今回の件は滝野が100万を盗んだこと、そして江島エステートは架空融資を受けているだろうと推測。

実際アパートに行ってみると誰もおらず、ポストからは石本宛の水道料金の明細が入っていた。

 

そこから西木は、今回の一連の騒動を、北川と田端と共に独自で解明していくのだった。

すると、偽の印鑑証明や、滝野が石本と繋がっていたこと、他にも石本と繋がっている銀行員の存在など、10億円の架空融資が発覚し大揺れの支店内での黒幕を暴いていく。

 

・・・というのがザックリしたあらすじです。

 

地味ながら丁寧な構成の物語

簡潔な感想としては、TBSでの池井戸ドラマへの先入観が強いせいか、スカッとするような勧善懲悪系のドラマではなく、ミステリーを装った銀行員たちの不正を暴くテイストの物語でした。

 

その中で主人公である西木にも金に困っている側面が映し出されることで、金欲しさに魂を売ってしまう人間と、そこで踏みとどまっている者たちが集まってしまった銀行内での物語として作られており、不正に対する認識の甘さ、金を返せばチャラになるわけはないという教訓を突き付けるテーマ性も孕んだ作品だったように思えます。

 

意外だったのは、サブキャラである黒田のエピソードから始まる冒頭。

なぜ彼の回想シーンから始まるのか不思議に思いながら見ていたわけですが、後に検査部の人間としてやってくる黒田の過去を知っているからこそ活きてくるシーンとなってましたね。

 

また滝野に関しても、序盤で既に「架空の不正融資」だというのをこちら側に見せて描かれてるんですよね。

なぜ「ダメな案件」だと分かっているのに滝野は引き受けてしまうのか、という疑問を抱きながら物語を追う構成になってました。

 

そして西木もお調子者の面を見せながらも、実は兄弟の借金の肩代わりをしている設定になっており、彼もシャイロックの子供になろうと思えば簡単に慣れた、不正に手を染めてもおかしくない立場だったわけですが、そこで踏みとどまり、銀行員としてのプライドを胸に、滝野や黒幕の不正を暴こうと奔走する人間として描かれてましたね。

 

 

こうした人間たちによる銀行内での不正事件を、あらかじめいくつか先に見せておいてミステリーっぽく見せていたことで、状況が非常にわかりやすい構造になっていたと感じます。

 

しかし映画となるとどうもしっくりこない。

恐らく冒頭の黒田と滝野のエピソードを後に回すと、種明かしに時間がかかることを予想しての今回の構成と脚本だったような気がします。

 

それが果たして正解だったかどうかは置いといて、それをよりドラマチックに見せるための工夫があまり感じませんでした。

というのも、全編通してトーンが統一されてたんですよね。

要はドラマ的な誇張が一切されてない。

 

そのため、終盤西木による「倍返し」に爽快感だったりカタルシスが生まれてませんでした。

結局滝野も罪を犯したとはいえ、半分は被害者のような存在だったことが判明し、事が運ばれていくんですが、その作戦然り実行然り、序盤や中盤と同じようなトーンで描かれてるんですよね。

そこは例えば、誰かに作戦の概要を説明するシーンを入れることで、我々に手口を教えワクワク感を与えるとか、決戦当日にハプニングやアクシデントが起きないような緊張感を与える演出にするとか、もっと緩急をつける演出並びにカメラワークをしてほしかったですね。

 

とはいえ本作は、そんなシャイロックの子供たちが、「金を返せばそれでいい」だけではだめだということを今回の一連の騒動で身につまされ、正しいことを行う姿勢を見せることで幕を閉じます。

それは一件落着でもあるわけですが、どうも口に苦みの残る、スッキリしない後味を感じる結末になっており、池井戸作品としても異例な終わり方だったように感じます。

 

西木の末路も、正しいことをして手にする金も、銀行員としては決して受け取ってはいけないものだということで、しっかりけじめをつけるというもの。

 

銀行員としてのモラル、果ては人間としての誇りを見せた締め方だったように思えます。

 

 

最後に

原作は読んでませんが、どうやら章ごとに支店が入れ替わる物語になってるそうで、そういう意味では今回の構成もなるほどと腑に落ちるかなとは思います。

 

しかしながら、もう少し映画的な演出は施してほしかったな、見た後に爽快感や清涼感といったスッキリさを欲していた自分としては、色々満足できない部分が多い作品でした。

 

しかし支店長役の柳葉敏郎が、久々に見たこともあって頭髪真っ白でびっくり。

メガネをかけていたこともあって、どこか家の親父にしかみえなかったですw

 

借りた金を働いた金で返すのとはわけが違う不正の横領。

金を返せばいいわけじゃない。

返しても不正は一生残る。

仮に黙っていたとしても罪悪感は残り、その後の人生を罪の意識を抱いたまま過ごすことになる。

 

果たしてそれでいいのかと問うドラマだったのではないでしょうか。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10