モンキー的映画のススメ

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主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「ブルータリスト」感想ネタバレあり解説 アメリカンドリームに犯された人たち。

ブルータリスト

本年度アカデミー賞主演男優賞おめでとうございます。

 

なんと上映時間が215分っ!!

長いっ!俺絶対長さで文句言う!

 

でもどうやらインターミッション(小休憩)が15分入って、前半100分後半100分にして上映してくれるんですって。

しかもIMAXで上映もしてくれるそうじゃないですか。

この手のアカデミー賞作品賞ノミネート作で、こういうフォーマットのあまりなかったので楽しみといえば楽しみです。

 

今回観賞する作品は、ホロコーストを生き延びアメリカへ渡った建築家の物語

ユダヤ系移民の30年に及ぶ数奇な人生とは一体、ということなんですが、イスラエルとパレスチナの事もあるので、色々思うこともありそうな予感ですが、別に世界事情に詳しくもないので、長尺に見合った物語かどうかで評価を定めたいなと思います。

早速鑑賞してまいりました!!

 

 

作品情報

1950年代から出現した建築様式を指し、無骨なデザインとコンクリートなどの資材の特性を強調した特徴を持つ「ブルータリズム」。

ブルータルとは荒々しい、獣のようなという意味を持ち、正に荒波のような人生を送った建築家の物語を、新鋭監督の手によって作られた。

 

第二次大戦下にアメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ人の建築家が、実業家と出会い礼拝堂の設計と建築を依頼されるも、母国とは違う文化やルールの壁にぶつかり、悩みながらもアメリカンドリームを掴もうと奮闘する姿を、家族の問題や移民としての苦悩、さらにはドラッグやパトロンとの関係など、複雑な問題を盛り込んだ壮大なドラマ。

 

完成度の高さが評価され、ベネチア国際映画祭銀獅子賞受賞やゴールデングローブ賞受賞、そして第97回アカデミー賞10部門ノミネートとなった本作。

 

かつて子役として「ファニー・ゲームU.S.A.」や「サンダーバード」の主人公を演じ、監督として「ポップスター」や「シークレット・オブ・モンスター」を手掛けたブラディ・コーベット。

本作を作るきっかけについて「脚本家の祖父や自分の叔父が建築家だったことや、第二次大戦後の国民的心理が戦後建築にどのような影響を及ぼしたかをテーマに製作した」と語る。

 

また本作は、セルロイド・フィルムを使用したパナヴィジョンや、ベータマックスなどの機材を使用した映像や、アーカイブ映像を組み合わせたりするなど、視覚的にも優れた作品となっており、長尺である意味をより一層強くするラストになっているとのこと。

 

そんな数奇な人生を送った主人公の建築家ラースロー・トートを演じるのは、エイドリアン・ブロディ。

かつて「戦場のピアニスト」でアカデミー賞史上最年少の主演男優賞を受賞し、本作でそれ以来のノミネートを果たしたブロディが、自身も経験した過去のトラウマを役作りに反映させた。

 

他にもラースローの妻エルジェーベト役に、「博士と彼女のセオリー」、「ビリーブ未来への大逆転」のフェリシティ・ジョーンズ、アメリカの実業家ハリソン役に、「メメント」、「アイアンマン3」のガイ・ピアース、ハリー役に、「憐みの3章」のジョー・アルウィン、ラースローの姪ジョーフィア役に、「トゥモローランド」、「マリアンヌ」のラフィー・キャシディらが出演する。

 

戦後社会におけるアメリカンドリームへの過酷な道の中で、建築家は何を思って創造したのか。

 

ポップスター(字幕版)

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あらすじ

 

才能に溢れるハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)。

第二次世界大戦下のホロコーストを生き延びた彼だったが、妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)、姪ジョーフィア(ラフィー・キャシディ)と強制的に引き離されてしまう。

 

家族と新しい生活を始めるため、アメリカ・ペンシルベニアへと移住したラースローは、裕福で著名な実業家ハリソン(ガイ・ピアース)と出会う。

ラースローのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンは、その才能を認め、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築をラースローに依頼する。

 

だが母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には多くの障害が立ちはだかる。

ラースローが希望を抱いたアメリカンドリームとはうらはらに、彼を待ち受けていたのは大きな困難と代償だった……。(Movie Walkerより抜粋)

youtu.be

 

 

感想

せっかく第3帝国から逃れてアメリカにやってきたのに。

建築物とはそこに在るからこそ意味がある。

なのに無意味な映像ばかりで腹が立つ。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

ざっくりあらすじ。

序曲と題したプロローグ。

ラースローの姪ジョーフィアがナチスから尋問を受けている姿を見せた後、アップで映されたラースローを手ぶれた映像で捉えるカメラ、それを映しながら妻エルジェーベトからの手紙が読まれていく。

 

 

第1部 到着の謎(1947~1952)

ラースローが外に出るとそこには逆さの状態で映った自由の女神が、高らかなファンファーレと共に浮かび上がる。

 

妻と姪を祖国に残したものの、これから人生の第2章だと言わんばかりに華々しいスタートを夢見たラースロー。

ペンシルバニア州で家具屋を営む従兄弟のアティラの下で世話になるが、ユダヤ教からカトリックに改宗した彼の妻は快く思っていない。

 

実業家ハリソンの息子ハリーから、図書室の改装依頼された二人は、ラースローのアイディアを基に大掛かりな改装を実行する。

しかし主であるハリソンが、あまりの変わり様にラースローに怒号を上げる。

息子のサプライズであることを説明するも、一切耳にしてくれないハリソンは、二人を追い出してしまう。

 

しかも後日、今回の報酬は無しと伝えられたことでアティラは、今回の件と妻に色目を使ったことにも触れ、ラースローを家から追い出してしまう。

 

1年後、教会で寝泊まりしながら、黒人の子持ち男性ゴードンと共に石炭を運ぶ仕事に在りつく。

鼻を折られたことで使用していたドラッグの服用を、ゴードンにたしなめられながらも黙々と仕事をするラースローの前に、かつての実業家ハリソンが現れる。

 

ハリソンは、ラースローが改装した図書室が雑誌で「前衛的」だと高い評判を得たことに驚き、従兄弟のアティラからい場所を突き止め、詫びを入れに来たのだった。

ハリソンはラースローが祖国では著名な建築家だったことを調べ上げ、回想の報酬を与えると同時に、家に招待することを告げる。

 

相変わらずアルコールとドラッグを摂取しまくり荒れた生活を送るラースロー。

その足でハリソンから招かれた食事会では、妻と姪をアメリカに移住できる手配をつけてくれたり、高台にハリソンの母親の名をつけたマーガレット・ヴァン・ビューレン・コミュニティセンター」の設計及び建築をラースローに任せ、その間住居まで提供してくれるなど、とにかく手厚い歓迎を受ける。

 

ラースローは大急ぎで草案を描きハリソンに提案、模型図を作って町の出資者たちにプレゼンテーションをし、ようやく着工にかかる。

 

第2部 美の核芯(1953~1980)

ハリソンの顧問弁護士のおかげで妻と姪はアメリカに移住することができた。

しかし妻エルジェーベトは骨粗しょう症で車いす生活を余儀なくされていた。

 

妻は辛い生活の中でも心の目でラースローを思っていたことを告げ、それまでの浮気は目を瞑ると告げ、二人は愛を重ねていく。

 

エルジェーベトはラースローと違いオックスフォード大学で英語をしっかり習得していたりジャーナリズム専攻だった経験から、ハリソンにNYで新聞記事の執筆の仕事をもらえることに。

片や姪のジョーフィアは一言も発さず、周囲から気を遣われていた。

 

建設は着々と進んでいるかと思いきや、そうはいかなかった。

完璧主義なラースローだけに自分の知らないところで様々な話が進行してるのが許せない。

勝手に設計を上書きされ、予算も削られ、怒るラースロー。

自分の給料を削ってでも、天井の高さを維持したい、そういい張るラースローは、予算の削減を提案する建築家ジムに盾突き、周りを困らせていく。

 

着工式でハリソンの息子ハリーは、姪のジョーフィアの態度がどうにかならぬものかとラースローに指摘。

その後酔っ払ったハリーは、小川で泳いでいたジョーフィアに近づくのだった。

 

災難は続く。

資材を運ぶ列車が事故に遭ってしまい、作業員2人が入院してしまう事態に。

マスコミが騒ぎ立てることや、死人が出た場合の損害などが頭にチラつき我を忘れるハリソン。

それでも建築を続行したいラースローだったが、ハリソンは解散を告げてしまう。

 

数年の時が流れ、ハリソンの顧問弁護士マイケルは、建築事務所で働くラースローを突き止め、もう一度コミュニティセンターの建築を任せたい旨を伝える。

 

夕食時に家族に伝えようとしたラースローだったが、姪ジョーフィアとフィアンセは祖国イスラエルに戻ることを告げる。

それを悲観的に捉え反対するエルジェーベトだったが、一度落ち着き快く送ることを決意。

しかし、ラースローもまた建築作業に戻ることを告げることで、再び塞ぎ込んでしまう。

 

ハリソンと共にローマを訪れたラースローは、コミュニティセンターの台座に使う大理石を選びに、かつての友人を訪ねる。

あまりの美しさに見とれたハリソンは即決でこの大理石を持ち帰ることを決意。

 

その夜現地の人たちとのパーティーで、アルコールとドラッグの摂取によってつぶれてしまったラースロー。

介抱しにやってきたハリソンは、彼を襲ってしまうのだった。

 

それからというもの、建築現場で懸垂チャレンジをしている作業員を罵倒したり、止めに入ったゴードンにまで悪態をついてしまう。

 

やがて妻と共に帰宅したラースローは、夜な夜な痛みで魘されるエルジェーベトのために痛み止めを飲ませようとしたが、残り半分の錠剤しかなかったため、仕方なく自分が使用しているドラッグを与える。

そのせいでエルジェーベトは意識不明に陥ってしまう。

 

時が経ち、エルジェーベトは一人ハリソン邸に向かう。

役人たちとの食事会の最中だったハリソンは、彼女のために椅子を用意しようとするが、エルジェーベトは器具を使って立ちすくんだまま、ハリソンに向かって「強姦魔」と叫ぶ。

 

落ち着かせようとしたハリソンだったが、ハリーとハリソンはそれでも罵倒を辞めないエルジェーベトに激昂。

部屋から追い出してしまう。

 

しかしその食事会をきっかけに、ハリソンは姿をくらませてしまうのだった。

 

エピローグ(1980)

美術展。

車いすで運ばれる老いたラースローと、車いすを押す姪のジョーフィア。

彼女はラースローの代わりに舞台の上で演説をする。

 

美術展のタイトルは「過去の存在」。

ラースローが、あのコミュニティセンターの内装を狭くし天井を高くしたのは「収容所を思い出させるため」だった。

建設する前から彼には明確なビジョンがあったこと、大事なのは旅路ではなく到達点だということ、そして美しいものには救われる可能性があることを、スピーチで告げて物語は幕を閉じる。

 

・・・というのが全容です。

あ、全部書いちゃった。

 

インターミッションに救われた。

上映時間200分。インターミッションを入れると215分というかなりの長丁場。

上映前から先が思いやられましたが、案の定僕の嫌いなタイプの映画でした。

 

内容はまさしくハンガリー系のユダヤ人が海を渡ってアメリカにやってきたものの、芸術性に憧れを抱くくせに合理的を優先して予算を削るスタイルに頭を悩ませ、ユダヤ教よりプロテスタントな宗派の違い、新参者がしゃしゃり出るなという村八分な姿勢、そして極めつけは心だけでなく体まで奪われてしまうという屈辱。

 

アメリカンドリームを求めてやってきたのに、なんて救われない人生なんだと言わんばかりの散々な旅路を送る羽目になってしまったラースロー。

エルジェーベトが常々居場所がないって言っていたのはそういうことだったのかというのが、上映後理解できるかと思います。

 

それでもエピローグで語れた「旅路ではなく到達点が大事」だというスピーチから、プロセスよりも結果が全てであることでラースローの人生は救われたんだと思わせてくれるラストだったのではないでしょうか。

 

とはいうものの、やはり全体的に考えると、この長さでこの物足りなさは一体何だったんだろうと言わざるを得ません。

前半はしっかりラースローにのみ焦点を当てるので、彼がどんな失敗や不遇を得てチャンスを掴んでいくかというサクセスストーリーがしっかり描かれていたので文句はありません。

 

しかし後半になっていくと、明らかに意図的に重要な部分をカットして物語を侵攻するだけでなく、いきなり時代をすっ飛ばしてしまうのはいただけない。

しかもすっ飛ばすのはラースローの人生だけでなく、建築の部分まですっ飛ばしてしまう。

気がついたら柱が立っていて、気がついたら完成間近になっている。

建築家の物語なら結構重要な部分だと思うんですよ、俺は。

 

せめて建築中の現場に佇むラースローが、建物を見て目を霞めるとか言う表情を入れるだけでも、なんとなく彼の心の中が透けて見えるんじゃねえのかと。

そこに重きを置かずに、やれドラッグだ移民問題だ、差別問題だ、イスラエルがどうだと言われても、一体何を描きたいのか散漫になってやしませんかと。

 

一番嫌いだったのは、妻のエルジェーベトが寄せた手紙を朗読するフェリシティ・ジョーンズの間に、ニュースの原稿を読むアナウンサーの声が途中入ってくる演出。

あれ、手紙の内容入ってこねえからマジで。

ただでさえ母国語で読まれてるのに、そこに当時の時事的なニュースを挟まれても二つも追えねえから。

あれ嫌いだわ~。

 

他にも夜のパーティー然り、バー然り下から当事者を煽るカメラワークが延々と続くんですよ。

あの時確かにラースローはラリッてたけど、俺もラリッてしまうのか思うほど酔った。

しかも長い。

そんなところに時間を割くのだったら、そんなとこ端折ってこの上映時間を縮めることを優先しろよと。

大事なところは端折って余計な所は端折らないのとか、俺には理解できません。

 

そういう意味で言うと俺は合理的な考えでハリソン側ってことなんですかね。そりゃラースローの美的感覚とかわかりませんよ、ええ。

建築物には惹かれるんですけどね。

 

 

しかし、エイドリアン・ブロディの芝居を久々に観ましたけど、賞レースで称賛されるほど良かったのか俺にはわかりません。

寧ろ、彼の周りのガイ・ピアースやフェリシティ・ジョーンズの方が彼を食ってたと思います。

 

例えばハリソンがラースローの前で母親の話をするシーンがありましたけど、あのシーンは素晴らしかったですね。

アメリカ的な武勇伝というか、誇りを語ってるのに対し、ラースローは手短にインテリチックな返しをする。

あの辺の差を生み出してるのは、ブロディではなくピアースだと思うんですよね。

 

しかも実業家ってことで佇まいから感情面からいかにも成り上がってきた強みってのが表情に出ていて、さすが助演男優賞にノミネートされるだけあるなと。

 

フェリシティ・ジョーンズに至っても、言語を使い分けながら体を患う妻を熱演してたと思うんですよ。

博士と彼女のセオリーの時は受け身の芝居だったのに今回は攻めの芝居というか。

離れていても心はあなたを思っていたと語るベッドでのシーンは格別でしたし、ハリソンとの会話も、靴磨きのようなラースローとはまるで違うしっかりとした受け答えで、役に溶け込んでたなと。

 

しかもクライマックスでは足の悪い状態を見せながらハリソンをボロクソ言いまくるっていう見せ場もあって、ブロディよりスクリーンタイムが短いにもかかわらず彼より印象に残るのはフェリシティ・ジョーンズだったなと。

 

ブロディも別に下手くそとかって話じゃなく、苦悩に満ちた人生をちゃんと見せてましたけど、どうしても単体だと弱く見えてしまうんですよね。

具体的なことを説明できないんですが、どちらかというと誰かとの掛け合いの方が彼が活きるというか、ラースローである意味が強く見えるというか。

 

 

最後に

愚痴ばっかりですけど、音楽は良かったですね。

不穏な箇所もあれば、冒頭みたいな高揚してしまう音楽もあって、ラストは80年代のダンスミュージックで締めるという多彩な表現。

ラストのせいで一貫性は崩れちゃうんだけど、案外悪くはなかったんだよなぁ。

 

結局のところ、アメリカンドリームってのは何だったんでしょうという皮肉めいたお話なんでしょうかね。

そりゃ搾取する側と搾取される側の資本主義社会ですから仕方のない部分もあるんでしょうけど、新参者にはそういう振る舞いしかできないんですかあなたたちはと言ってる話でもあり。

だからこそラストのスピーチはかなり効果的なセリフなんだけど、セリフで言っていいんですかっていう。

そういう閉じ方で良いんですか、この映画は?と思わざるを得ない。

 

ハリソンは一体どこへ行ったんでしょうね…って映像見ればわかるか。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10