モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「コンクリートユートピア」感想ネタバレあり解説 災害映画でありながら社会派映画でもある巧さ。

コンクリートユートピア

正直あまり得意ではない韓国映画。

それでも邦画の大作よりも予算かかってるし規模もデカい、何よりエンタメとしての役割をしっかり果たしているし機能しているという点では、今回観賞する「コンクリートユートピア」は見逃すわけにはいかないと考えております。

 

去年の1発目も韓国パニックフライト映画「非常宣言」だったわけで、映画初めは韓国映画ってのも景気が良いのかもしれません。

 

ただ元旦に襲った「令和6年能登半島地震」の影響は大きく、震災後の街を描いた本作をどう受け止めていいかってのもありますね・・・。

そこはもう各々の判断で見るか見ないかはしていただきたいですね。

無理はいけません。

僕も元旦はさすがに気持ちがへこみましたし。

 

というわけで早速鑑賞してまいりました。

 

 

作品情報

第48回トロント国際映画祭で「『パラサイト 半地下の家族』に続く傑作」(Screen Daily)と高く評価され、第96回アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表作品にも選出された作品が、いよいよ日本に上陸する。

 

世界を襲った未曾有の大災害により一瞬で廃墟と化したソウルで唯一崩落しなかったマンションを舞台に、生き残りをかけた選択が想像も絶する闘乱を引き起こし、極限状態に陥った人間の末路を見せていく。

 

監督は「隠された時間」のオム・テファ

夏に撮影したにもかかわらず極寒の風景を作り出し、人間の欲望と尊厳が衝突していく様を物語としてスリリングに仕上げた。

 

マンションの臨時住民代表を演じるのは、『非常宣言』『白頭山大噴火』など長きにわたって韓国映画を牽引するイ・ビョンホン。何の取柄もない男が権力を手にしたことで狂気を放ち、豹変していくさまを体現した。

他にも、誠実な公務員役を『マーベルズ』でハリウッドデビューしたパク・ソジュンが、彼の妻役をロマコメの女王と評されるパク・ボヨンが演じる。

 

ラストに待ち受けるのは、光か、闇か。崩壊が人間の本質をあぶり出す衝撃のパニックスリラーが、日本全土を震撼させる。

 

 

 

隠された時間(字幕版)

隠された時間(字幕版)

  • カン・ドンウォン
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あらすじ

 

世界各地で起こった地盤隆起による大災害で一瞬にして壊滅したソウル。

 

唯一崩落を逃れたファングンアパートには、居住者以外の生存者たちが押し寄せていた。

救助隊が現れる気配は一向になく、街中であらゆる犯罪が横行し、マンション内でも不法侵入や殺傷、放火が起こりはじめる。

危機感を抱いた住人たちは、生きるために主導者を決め、住人以外を遮断しマンション内を統制することに。

臨時代表となったのは、902号室のヨンタク。

職業不明で頼りなかったその男は、危険を顧みず放火された一室の消火にあたった姿勢を買われたのだった。

 

安全で平和な“ユートピア”になるにつれ、権勢を振るうヨンタクの狂気が浮かび上がる。

そんなヨンタクに防衛隊長として指名されたのは、602号室のミンソン(パク・ソジュン)だ。

妻のミョンファ(パク・ボヨン)はヨンタクに心服するミンソンに不安を覚え、閉鎖的で異様な環境に安堵しながら暮らす住民たちを傍目でみながら生活をしていた。

 

生存危機が続くなか、ヨンタクの支配力が強まったとき、予期せぬ争いが生じる。

そこで目にしたのは、その男の本当の姿だった………。(HPより抜粋)

youtu.be

 

登場人物紹介

  • ヨンタク(イ・ビョンホン)・・・ファングンアパート902号室の住人。炎に包まれた家にためらうことなく飛び込み消火する、その明快で献身的な姿勢が認められ、住民代表に選ばれる。住民の安全を脅かす外部の人間を排除する過程で、再び危険を顧みない活躍を見せ、厚い信頼を得ると同時に、狂気を放っていく。
  • ミンソン(パク・ソジュン)・・・ファングンアパート602号室の住人。義務警察出身の公務員という職業柄、不本意ながらも注目され、ヨンタクから防犯隊長を任される。献身的でかつ自由奔放なヨンタクに次第に同調しながら、愛する妻ミョンファを守り、共に生き残るために全てが崩壊した世界で奮闘する。

 

  • ミョンファ(パク・ボヨン)・・・ファングンアパート602号室の住人。予期せぬ大災害に襲われたあと、必死に冷静さを保ちつつ、夫のミンソンと共に生き残ろうとする。寒くて行き場のないマンションの住民以外にも迷わず部屋を貸し、看護師として率先してケガした人たちの面倒を見る。時間とともに変化していく住民たちの姿に心配そうな視線を向ける。
  • グメ(キム・ソニョン)・・・ファングンアパート207号室の住人であり、婦人会会長。住民と自分の利益のために誰よりも積極的に率先して行動するタイプ。ヨンタクを新しい住民代表に推薦した張本人であり、最も熱心に住民ルールを守る。

 

  • ヘウォン(パク・ジフ)・・・ファングンアパート903号室の住人。大災害で奇跡的に生き延び、1人でマンションに戻る。新しくできた住民ルールによって、以前とは違う生活に違和感を覚え、地獄のような外の世界を忘れているかのように、楽観的に暮らしている住民たちの姿を見て得体の知れない不安を抱える。
  • ドギュン(キム・ドユン)・・・ファングンアパート809号室の住人。ヨンタクとグメを中心とした住民自治会の決定が気に入らず、ありとあらゆる言い訳を並べて非協力的な態度を貫く。それぞれが生き残ることに躍起になっている住人たちの間で、次第に孤立していく。

(以上HPより)

 

 

 

 

 

 

 

住処を守る者と食料を欲する外の者たち。

現代社会の縮図を描いたという監督は、本作で何を伝えたいのか。

ここから観賞後の感想です!!

 

感想

いやぁよく出来てるんじゃないかな。

偶然所有地が残ってるから「権力者」とか「富裕層」と勘違いしていく住民たちの末路が最高に皮肉めいてて、現代社会の構図そのもの。

やはり「富の分配」を考えなきゃいけない時代が来たのかもしれない。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

ディザスタームービーから社会派映画へ。

未曽有の大災害の中、唯一倒壊しなかったアパート(という表記ですがマンションです)の住民が、排外主義と化し部外者を排除し、正に「ユートピア」を構築していくが、代表である男の狂気が徐々に浮き彫りになり、やがて最悪の結果を招いてしまう「ディストピア」と化してしまう、一見笑えそうで笑えない物語。

 

冒頭、如何に韓国の住宅事情のほとんどをアパートを占めてるかのようなダイジェスト映像。

どうやら韓国では2年間の契約の中で月々家賃と保証金を支払うタイプと、入居時に全額保証金を収めるものの、退去時には全額返金されるというタイプの2種類の借り方があるそうな。

 

都会ではこうしたマンションタイプの物件がひしめくイメージがありますが、どちらかというと単身者用のモノが多く、そこで一生住もうなんて考えの人はそう相違なそうですが、物語のキャラクターらは、皆「ようやくアパートという持ち家を手に入れた」というほど、アパートの1室が「自分の所有物」であることを強く持ってる印象がありました。

 

仮にこれが日本が舞台で、唯一自分の住むマンションだけが残った時に、これほど大事に思うだろうか?と感じたのが本作への最初の印象です。

何が言いたいのかというと、僕自身賃貸物件に住んでるわけで、ここまで意固地になって他人を寄せ付けたくないという気持ちは生まれないだろうということ。

分譲マンションに住んでる人間からしたら、本作のキャラと同じような感情を持つかもしれないですけどねw

 

とにかく、そうした韓国のお家事情を理解したうえで本作を見ると、彼らが絶対に部外者を入れたくない気持ちを受け取れるのではと思うのです。

 

 

さて、物語の中身に触れていきますが、どうもこのアパート、めちゃめちゃいい物件とは言い難い場所にある建物の様子。

部外者にあたる別のアパートの人間がエントランスで群がる姿を、最初は見てみぬふりをしていたけれど、どうも彼らが住んでいたアパートよりも高層アパートで、災害前は散々いびられていた模様。

そうした格差によって「もし逆の立場だったら私たちは必ず排除されるに違いない」という思想を生み、彼らを追い出すという展開になっていたのであります。

 

 

そうした住民同士の諍い以前に目を見張るのは、かなりの予算を使ったであろうディザスター描写。

 

アパートの住民であるミンソンの回想シーンでは、突如隆起した陸が津波のように押し寄せてくる風景を目の当たりにしながらも、車の下敷きになった女性を何としてでも救助しようとするわけですが、とうとう陸の津波は自分のすぐ近くまで押し寄せてきたことで救助を断念。

目の前に遭った車の中に避難するわけですが、とうとう車までも巻き込まれてしまうほどの大災害へと発展。

車内はグルグル回転しますし、押し寄せる隆起の具合もかなりリアル。

例えていうなら「インセプション」であったような、街自体が傾いて迫ってくるようなあの怖さ。

あちらはまだそのままの状態で押し寄せてきますが、こちらは全ての建造物がぐしゃぐしゃになりながら、津波のような勢いで迫ってくるのだから怖い。

正直そういう描写にトラウマのある人は見ないことをおススメするくらい、怖い。

 

こうした背景にしっかり力を入れながらも、崩壊した街並みの冷たさと、真冬という季節設定が加わって、さらに冷たい空気が漂う映像と化しておりました。

 

また、瓦礫の中食糧を探しに出かける一行を映した風景は、一体どこまでがセットでどこまでがCGが区別がつかないほどの力の入れ様。

例えていうならめちゃめちゃ予算が使われた「ドラゴンヘッド」とでもいいましょうか。

どの風景も非常によくできており、そうした意味でも本作はあくまであり得ない設定ではあるものの、リアルな世界観を持ったディザスター映画でありました。

 

「家」って何だろう

代表となったキム・ヨンタクの働きも手伝って、無事部外者の排除に成功したアパートの住民らは、最低限のルールとシステム、組織形態を作って、住民らが快適にすgセル環境を構築。

物資調達に苦戦を強いるも、数か月の間平穏を保つことに成功していく。

 

しかし物語は、内側からも外側からもほころびが生じ、阿鼻叫喚の結末へと向かっていくのであります。

 

本作が一番に面白いのは、誰もが普通の人間であること。

システムが作られる前は、部外者を匿い食糧や住居を分け与える優しさを持ってはいたものの、システムが駆逐されて以降「それが正しいこと」と思い込み、悪気があっても正義と思い込んで実行してしまう愚かさを見事に映し出していました。

 

家を守ることが最優先となった以上、排除は仕方のないこと。

そう思い込むミンソンに対し、看護師である妻ミョンファは「それが本当に大切な事なのか」と問いかけます。

また、住民代表であるキム・ヨンタクは、誰よりも率先して行動に移せる行動力を買われ代表に持ち上げられますが、徐々にそれが快感となり自分の使命と思い込んでいく。

徐々に暴走していく彼の狂気ぶりがまた魅力的なのですが、彼にもまた「家を持つ」ことへの執着ぶりが浮き彫りになっていく背景を挿入することで、何故狂気じみていくのかが理解できる姿を映し出しています。

 

よって本作は、如何に「家」を自らの所有物として固執してるかを見せつつ、人間の中に潜む卑しい面を我々に見せつけるのです。

 

確かに未曽有の大災害が起き自分のアパートだけが残った場合、自分は部外者を匿ったり食糧を与えるほどの気持ちの余裕があるのか、実際体験してみないと分かりません。

ただ、こうなった場合、現金が通貨としての価値もないような事態なわけで、その延長線上にある「家」は自分にとってどれほどの価値があるのかって話です。

 

多分、ないと思うんですけど、韓国が培ってきたこの住宅システムは、こういう状況下でも狂ってしまうほど「所有物」にしてしまってるということなんでしょう。

 

また本作は、独占か分配かの二択を迫る映画でもあったように思えます。

分断や格差がより如実になったことで資本主義社会が揺らぎつつある昨今、一方だけが助かり一方だけが切り捨てられてしまう世界は、果たしてユートピアなのか否かというテーマに行きつく作品だったと思います。

 

既に高層アパートとの格差がある中、突如として「仮想富裕層」となった彼らが起こした分断は、自らを守るという意味では理解できるものの、果たしてそれがその後の未来にどんな影響を及ぼすのか、彼らは見えていないことが結末で明かされていきます。

 

一度できてしまったシステムを中々壊すことができない劇中の組織形態同様、こうした構造を壊すにはどうすればいいのかという点でも色々考えさせられる作品だったように思えます。

 

実際土地を巡る戦争や紛争が未だ起きている現代において、こうした諍いに心当たりがあるわけですが、どうしたらお互いが納得し解決するかも、この映画から考えられることだったりするのかもしれません。

 

個人的には「AIR/エア」で描かれた「富の分配」は素晴らしい発想だなと感銘を受けており、今後の社会がそういう発想によって未来を変えていく世界になってくれればいいなと思っております。

 

 

最後に

さっきからキレイごとばかり言ってますが、実際自分が経験しないとどうなるかわからないことですし、出来る事ならば最後にミョンファがたどり着いた「本当のコンクリートユートピア」のような世界を願っているわけで、決してキレイごとではないことを強調しておきますw

 

しかしそうした社会性を見せておきながら、ディザスター描写や、キム・ヨンタクへの疑惑を向けたミステリー描写、さらには冷笑的なブラックコメディという側面も持っていて、さすが韓国エンタメ映画だなと感心しました。

 

それこそ最初は頼りなさそうなイ・ビョンホンが、徐々に頭角を現していく姿とかすげえ笑えるし、何より彼がカラオケで歌ってる姿とか最高に面白いw

他にも、アパートのルールやシステムを作って皆が快適な暮らしができるようになりました、みたいなCMじみた映像は最高に笑えますw

お前ら一体どこ目線で笑顔振りまいてるんだとww

 

少々欲張りな一面にも見えたものの、2024年の最初に見るにふさわしい娯楽エンタメ社会派映画だったなと。

ただ、「令和6年能登半島地震」が起きてしまったということによる影響もあって、今これを見て楽しいと思えるのも申し訳ない気分になってしまうのも事実。

 

楽しめた一方、現実に戻ればそうした胸を痛める事態がある中、今自分は何をするべきかを見つめてもいいのかもしれません。

ミョンファのような人を救うには、自分は何をすべきか。

 

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10