モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「アイアンクロー」感想ネタバレあり解説 男らしさって一体どんなことだろう。

アイアンクロー

僕は基本的に「格闘技」全般が好みではありません。

流行りでK-1やPRIDEといった総合格闘技を見てはいましたが、さほど熱狂できなかったんですよね。

小学校の頃もクラスメートが学校に「週刊ゴング」を持ってきてて、何度か読ませてもらったこともあるけれど、有名なプロレスラーの顔と名前を認知した程度で、やはり心躍るスポーツではなかったなと。

 

今回観賞する映画は、そんな僕があまり興味のない「プロレス」が題材の物語。

確かに小学校のころ「アイアンクロー!!」とか技かけられてたなぁ、あれ痛かったなぁと嫌な思いでしか浮かびませんが、その技を編み出したプロレスラーが主人公ということで。

 

全く知らない人たちなんですけど、4兄弟なんですね!

しかも親父が始動するってそれもう亀田三兄弟じゃないですか。

これがウケれば亀田三兄弟の映画もできるってことですね!!(ちがうか)

とにかく壮絶な物語みたいなので、あえて事前情報を入れずに観賞してまいりました!!

 

 

作品情報

1960年年代から70年代にかけて活躍し、「鉄の爪」なる必殺技で観衆を魅了をしたプロレスラー・フリッツ・フォン・エリック

そして父と共に同じ道を歩み、才能を開花させた4人の兄弟の「フォン・エリック一家」の栄光と衰退、悲劇、そして再生への道を、「マーサ、あるいはマーシー・メイ」の監督の手によって実写映画化。

 

元ヘビー級王者の父フリッツから指導を受け、“史上最強の一家”になるためトレーニングをするも、あまりの厳しい指導に重圧に押し付けられていく兄弟たち。その努力が実りプロレス一家として絶大な人気を博し、最強への道を歩んでいくが、彼らに大きな不幸が降りかかっていく。

 

監督はカルト教団による洗脳とトラウマを描いたデビュー作『マーサー、あるいはマーシー・メイ』で絶賛を浴びたショーン・ダーキン

子供の頃からプロレスに夢中で、フォン・エリック家の悲劇に衝撃を受けた一人だった監督が、驚きの実話を家族の愛情と葛藤のドラマとして再構築。

プロレスにまつわる栄光と挫折を掘り下げ、植え付けられた「男らしさ」という価値観からの解放という今日的なテーマに踏み込むことで、胸の奥深くに刺さる人間ドラマとなった。

 

キャストには、「グレイテスト・ショーマン」や「テッド・バンディ」など肉体的精神的にも成熟したザック・エフロンが次男ケビンの役を、ドラマシリーズ「シェイムレス 俺たちに恥はない」で数々の賞を受賞したジェレミー・アレン・ホワイトが四男ケリーの役を、「キングスマン:ファースト・エージェント」や「逆転のトライアングル」のハリス・ディキンソンが三男デヴィッドの役を、今後の期待が注目される俳優スタンリー・シモンズが四男マイクの役を担う。

 

また厳格な父フリッツ役を、「ファイト・クラブ」をはじめ数々のコワモテ役を演じてきたホルト・マッキャラニーが、母ドリス役を大人気ドラマ「ER 緊急究明室」のモーラ・ティアニーが、そしてケビンの恋人パム役を、「ベイビー・ドライバー」、「マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー」のリリー・ジェームズが演じる。

 

彼らに立ちはだかった「不幸な運命」とは。

「呪われた一家」と称された彼らが、人生をかけて闘う。

 

 

 

 

あらすじ

 

1980年初頭、プロレス界に歴史を刻んだ“鉄の爪”フォン・エリック家。

父フリッツ(ホルト・マッキャラニー)は元AWA世界ヘビー級王者。

そんな父親に育てられた息子の次男ケビン(ザック・エフロン)、三男デビッド(ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)、五男マイク(スタンリー・シモンズ)ら兄弟は、父の教えに従いレスラーとしてデビュー、“プロレス界の頂点”を目指す。

 

しかし、デビッドが日本でのプロレスツアー中に急死する。

さらにフォン・エリック家はここから悲劇に見舞われる。

 

すでに幼い頃に長男ジャックJr.を亡くしており、いつしか「呪われた一家」と呼ばれるようになったその真実と、ケビンの数奇な運命とは――(HPより抜粋)

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感想

こんなに呪われているなんて驚き。

次々と死を遂げる兄弟、男らしさを植え付ける父。

残されたケビンの葛藤と茫然自失な姿が、悲痛な物語を駆り立てる。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

こんなに呪われているなんて。

テキサス州のチャンプとなったケビンを追いかけると共に、次々と兄弟たちがリングデビューを果たし、成功への道のりを駆け上がっていくスターダムな物語かと思ったら、主人公ケビン以外の兄弟たちが次々と死んでいく。

 

僕は彼らを全く知らなかった状態で見たわけだけど、本作を見なければ、そして彼らを調べなければ、ニュースの切り抜き程度の情報だけで「こいつら呪われてるわ」で済ませたことだろう。

 

冒頭、モノクロ映像から始まる本作。

そこには父フリッツ・フォン・エリックの勇姿が映し出されているが、どこか常軌を逸しているんですよね。

とにかく勝つことに拘りたい執念みたいなもの。

レフェリーが止めても必殺技アイアンクローをやめないフリッツを目に焼き付けることで、この後起きる非劇の根幹が、彼であることを仄めかすオープニングでした。

 

親父フリッツは、子供たちに序列をつけ、勝利への執念を植え付け、自分が成し遂げられられなかった「世界ヘビー級王座」のベルトを家に飾ることを最優先課題として掲げる。

朝食のシーンでは一見やんちゃな男兄弟がひしめく、ごく普通の過程の様子に見えるが、父に返事をする際は皆「イエッサー」なんですよね。

ここは軍隊ですか?

 

フリッツはマイクにあまりに希望を託すもんだから、ケビンはこっそり母に相談をしようとしますが、母も母でどこか他人事。

母も「父の言うことは絶対」だと考えていたのでしょうか。

 

いわゆる典型的な家父長制にみえますが、こうしたさりげないやりとりから、かなり父の教えが厳しいことが透けて見えてきます。

 

試合後のケビンを見る目も鋭い目つきだし、試合後のダメ出しも欠かさない。

とにかくチャンピオンにならないと認めてもらえないような厳しい人。

 

もちろん兄弟たちも父の期待に応えたい。

眠たい朝もちゃんと起きてトレーニングをこなすし、レスラーになってくれとお願いされれば、二つ返事でデビューする。

父の血を引いてるだけあって、みな筋骨隆々で華麗にプロレスをこなす。

兄貴が危なければ弟が助け、兄妹の勝利は家族の勝利だと皆が盛大に喜び、分かち合う。

 

そうした家族の素敵な一面や、兄弟たちの仲睦まじい姿を序盤に見せることで、この後起きる非劇がより辛くなるんですよね。

 

 

本作で印象的なのは試合後のロッカールームでの兄弟たちの姿。

室内は音ひとつない静まり返った状態の中で、汗だくで座ったまま動こうとしない彼らの姿が映し出されます。

激しい動きもするし、体と体をぶつけあう競技ですから、その分痛みも激しい。

頭が真っ白になるほど運動量の多いスポーツだということは承知ですが、ここまで疲弊するスポーツだとは思いもよらず。

 

当初はそうした疲労困憊の姿のみを映しますが、物語が進むと痛み止めであるステロイドを飲んだり、注射を打つ姿までもが映し出されます。

 

ステロイド剤は筋肉量を増やす薬だそうですが、副作用として様々な症状がでるそうな。

劇中では、地方巡業後の打ち上げで暴れまわる兄弟たちの姿が見れますが、その中でドラッグに手を出している姿も映っています。

 

要は、ステロイドを常用することがドラッグの常用にも繋がってくるということを示唆してるんですよね。

 

デビッドは日本で腸が破裂して死んだそうですが、実はドラッグが引き金らしいです。

ケリーも後半で薬物に手を出している姿がありましたし、マイクも精神安定剤を過剰摂取して自殺するというもので、彼らが呪われた大きな要因は、ステロイドだったのかもしれないという説が浮かび上がります。

 

元を辿ってみれば、父から強くなれと強要され、それに応えなくてはときつい体を鞭打った代償が、いつしか自分を苦しめ、呪いになったのではということです。

 

 

父親の言うことは絶対なんていう家庭がまだあるか知りませんが、正直僕自身家族がそれで幸せであるのであれば何も問題ないと思ってます。

ま、他人ん家の話ですし。

実際フォン・フリッツ家の人たちも、パッと見はごく普通の仲睦まじい一家なんですよね。

 

家族みんなで食事もするし、アメフトをみんなでやったりと良い親子だなって見えるんですよ。

でも、恐らく父親の前で「弱音」は吐けなかったんだろうなと。

きっと弱音を吐けば、そんなの男じゃないとか言われたんだろうな。

だから誰一人い父親の前では、痛みも辛さも隠して応えてるんですよ。

 

その姿を見て、果たして本当に良い親子関係だったのかってことですよね。

 

強いことが男らしさだってことを父親自身が体現していて、人前で涙を見せないことが男らしさだってのを自身も「演じてる」んですよね。

弱みを見せないことが男らしいことってのをやってるもんだから、違う男が、まして息子たちがそんな姿をしていたら許せなかったのかもしれない。

 

だからなんていうんだろ、強さを求めるあまり優しさを失ってるんですよ、この父ちゃんは。

 

本当に強いのは弱いモノに手を差し伸べること。

差し伸べずに「兄弟で解決しなさい」とか「それは許さない」とか、突き放してばっかなのよこの父ちゃんは。

散々命令しといて、その言い草はねえよ、責任とれや。

 

 

話が飛躍し過ぎかもしれないけど、この呪われた一家を見て、有害な男らしさを説くこと以上に、かつてのアメリカそのものが見えてくる気がするんですよね。

実際テキサス州って保守的な州だし、色んな映画でも「自分で解決する」如く銃をぶっ放して正義を貫くでしょ。

そういう場所で「強くあれ」って信条を掲げる一家が、どういう末路を辿るのかって、もうそれアメリカの末路とも取れるよねと。

 

メイク・アメリカ・グレート・アゲインとか掲げたトランプが、再び大統領になってしまうかもしれないという未来が現実のものになろうとしている最中、本作のように「強くあれ」とけしかけ、いざ弱音を吐いたら「自分で解決しろ」と突き放す、そんな国に戻ってしまうのでしょうか。

 

映画的にはそこまで

とまぁ、彼らの知られざる物語に色々と驚いたという部分は評価に値しますが、じゃあ実際問題映画として面白かったのかどうかと問われると、素直に首を縦に触れない作品ではありました。

 

家族とと共に過ごすことが何よりの幸せだと語るケビンを演じるザック・エフロンは、その後に次々と降りかかる不幸に茫然自失となり、ある瞬間吹っ切れて親父と同じ反則をしたり、ケリーが亡くなったことでこれまでの怒りを父親にぶつける姿、そして何より成し遂げられなかった「家族と過ごす幸せ」を再び噛みしめるラストの表情は最高でした。

 

もちろんプロレスラーたらしめるための肉体美やリング上でのアクロバティックな技の数々など、いろいろ準備や訓練をしたであろう成果がしっかり現れていたように思えます。

 

他の兄弟たちを演じた俳優陣も、しっかりキャラの差が出るような役作りをしていたし、何より「ザ・家父長」な親父を演じたホルト・マッキャラニーの今にも血管が浮き出そうなステロイドまみれで高血圧な脳筋親父ぶりがホントに見事でした。

あんな親父いたらだれでも逆らえねえだろ!ってくらい、強さが全面に現れた存在でしたよねw

 

そうしたキャラクターたちに一切の不満はないモノの、彼らのドラマの描き方が全体を通して淡泊なんですよね。

4人の兄弟のその後を描く分、どこか端折らないといけなかったのかもしれないけど、せめてケビンはもっと内面を掘るような作業があっても良かったのかな、もしくは全体の核になるようなドラマパートを、変な話誇張するとか大袈裟に見せるなどして、劇的に見せても良かったんじゃないかなと。

 

全体的に起伏がないんですよね、お話にしても、演出にしても。

メリハリがないのでどこか淡々と過ぎていってしまう。

 

デビッドが死んでも衝撃度は少ないんですよ。

結果として他の兄弟も死んでしまうからってのもあるんでしょうけど、フォン・エリック家の中では一番有望だったわけで、そんな男が遠い異国の地で死んでしまった。

ケビンに至っては、彼の体の調子が良くないことを知っていた、さらには「日本に行くのをやめて病院に行くべきだ、休め」とまで制止した。

 

そのシーンを映しているのだから、デビッドの死はケビンにとって「自分で止められたかもしれない」っていう自責の念がめちゃめちゃ強く出るエピソードなんですよ。

結局「男は人前で涙を流してはいけない」ってルールに沿って、ただ喪失感を露わにするだけなので、だったら一人部屋で泣き崩れるとかして、ちょっと盛り立てるようなシーンを描いても良かったと思うんですよね。

 

そういう積み重ねを見せることで劇的になっていくのが僕の思う「ドラマ」だったりするので、その辺を全部同じトーンで描くのって、僕はどうも苦手です。

 

そりゃキャラの心情なり映画の演出を読み解けば理解はできるんだけど、なんかアートっぽく見せるでしょう。

A24作品が合わない理由はそこにあるんですよね。

 

かといって、監督の過去作「マーサ、あるいはマーシー・メイ」も似たような空気感なんで、A24がー!!!ってわけじゃないんでしょうけど。

 

 

最後に

使用されてた曲(Rush懐かしい!)も相まって、当時のアメリカ雰囲気を醸してたのは良かったですね。

 

終盤ケリーが先に亡くなってた兄弟たちと会うシーンは、正直蛇足だなぁと。

先に兄弟に会ってくるって置手紙があった以上必要なシーンにはなってるけど、あそこだけファンタジーになっちゃうんで、可視化することはないかなと。

やはりケビンの視点で残されてしまった者の物語を色々と見せてほしかったなと。

 

なぜ他の兄弟は死を急ぎ、ケビンだけは耐え抜くことができたのか。

次男なのに長男として振る舞わないといけない立ち位置から来るものなのか、唯一家族を作っていたことが救いだったのか、とか。

 

しかしザック・エフロンよ、あんな体まで作って、あんなひどい髪型にして、役作り相当頑張ったね。

ホント見直したよ。

これも当たり役だと思うけど、世界的に当たる作品で当たり役を掴んでほしいな。

余計なお世話かw

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10